全英傑で小話を書いてみた ~双代侍編~



◆ヤト
 
「一列になって穴を作るな! 号令の通りに動けよ! 一! 二!」
 
 月のない夜。
 篝火に照らされた小綺麗な村人たちが横一列に並んで山を一歩ずつ上がっていく。
 それぞれが鎌や刀や棒切れを持ち、まん丸に広げた目で何かを見逃すまいと注意深く見回していた。
 
「悪神は必ず見つけ出して王の前で始末するぞ!」
「王への忠誠心を見せる時だ。みんな気を引き締めてかかれ!」
「何が英傑だ。八百万界を惑わす悪魔どもめ!」
「殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ!」
 
 村人たちの声は一帯に響き渡り、木々を揺らし、大地を振るわせた。
 山中では、黒い獣が赤黒い体液を流しながら走っている。
 
 (やってしまった。やってしまった。やってしまった)
 
 心の中で繰り返す、後悔の言葉。
 
 (あいつらが界帝なんかを崇めるから。ぬし)サマを殺そうとするのが悪いんだ)
 
 痛みを堪え、歯を食いしばって走る。
 己に取り込んでしまった村人たちの残骸が液体となって、獣の身体からぼとぼとと落ちていく。
 痕跡を辿れば容易く獣の場所まで辿り着いてしまうだろう。
 
(手加減なんてするんじゃなかった。こうなったら全員殺さないと)
 
 悪霊に援助している者がいるとの噂が本殿に届き、ヤトがその調査を命じられた。
 噂の村を訪れると、ほんの少しの滞在で尻尾を掴むことが出来た。
 ここでは村ぐるみで悪霊を崇め、支援していたのだ。
 表向きは豊穣の神であるウカノミタマを信仰し、余所者が足を踏み入れない米蔵や地下の洞穴では、界帝を唯一の神と崇めて熱心に信仰していた。
 真実を知られた村人はヤトを襲った。
 ヤトは村人を殺さないよう加減しながら信仰の停止を訴えた。その支援で多くの人々が亡くなるのだと、独神がよく口にする台詞を繰り返した。
 しかし、村人たちにはその声が届かない。
 英傑に勝てないと踏んだ村人たちは悪霊から譲り受けた大砲を撃った。
 ヤトは砲弾は避けたが、砲弾に付随していた術が命中し、負傷した。
 村人たちは”あの”英傑に対抗出来たことで士気を高め、悪霊から与えられた武器をいくつも投入した。
 声の届かぬ村人たちの愚かさに、ヤトが内に秘めていた祟り神の本性が牙を剥いた。
 夜が明ける頃には、生者はヤト一人になっていた。
 山に追い立て、囲い込むつもりだった村人たちは、祟り神ヤトによって縊り殺された。
 
 (ぬし)サマ……帰らないと…………)
 
 村へ派遣してから数日後、ヤトは本殿に戻って来なかった。
 途中経過の報告も一切ない。
 何かあったのではと心配した独神は自らヤトを探しに村へやって来た。
 
「これ……」
 
 強烈な異臭に鼻を袖で抑えた。
 家屋はまるで自然災害にでもあったかのように悲惨な姿をしている。
 甕の水や、つるされた玉ねぎ、綺麗な衣類から、数日前までここで人々が暮らしていたことが判る。
 
「悪霊!?」
「いいや。違う」
 
 怖がるヤマビコに抱き着かれながら独神は近くの山を見上げた。
 
「……ヤマビコ、ここで待機しててくれるか?」
「ええ!? 駄目だよそんなの!」
「ちょっとだけさ」
「わたしお目付け役として来たんだよ……? ………………もー、しょうがないな! 少しだけだよ?」
「悪いね」
「なにかあったら大声で叫んでね! すぐに駆け付けてキミのこと助けちゃうよ!」
 
 拡声器を渡された独神は一人で山を登っていく。
 苔むす地面を踏みつけて、何かが爛れたような痕跡を辿っていく。
 しばらく歩いていると、どこかですすり泣くような声が聞こえた。
 見るとカモシカが生きながらに臓腑を食われていた。
 腹に食いついているのは黒い獣。
 独神に気づいた獣はカモシカを捨て、がばっと襲い掛かってくる。
 独神の懐からまじな)いが込められた札が飛び出し獣の爪を弾いた。
 
「────ヤト」
 
 黒い獣は咆哮をあげ、牙のない口を開けて札に噛み付いた。
 札はパキンッと音を立てて塵になり、続いて二枚の札が懐から飛び出して独神を守った。
 独神は御統珠を持って呪を唱えると、黒い獣は身体を捩って苦しみだした。
 赤黒いヘドロのようなものをげえげえと吐き出す。
 吐く度にその漆黒の身体は小さくなり、次第にいつもの青年の姿へとなった。
 
「ヤト。私が判るか?」
 
 へたりこむヤトを見下ろして言った。
 
「……あるじ)……サマ?」
「思ったより大丈夫そうだな」
 
 顔面蒼白のヤトは周囲を見渡した。
 己の体液に触れた植物たちが枯れ果てている。
 
「……私ですよね」
「そうらしい」
 
 淡々と告げられたヤトは顔を曇らせた。
 
「すみません。全員殺してしまいました」
 
 祟り神に触れるともれなく生気を吸い取られる。
 人間も植物も等しく。
 
「悪霊信仰を暴いたら襲われたので、少し斬ってしまったんです。
 その後色々あって……最終的には村人全員を祟って殺めてしまったんです」
「ここに来るまでに落ちていた黒い塊は?」
「彼らの肉体が変容したもので、まだ生きています。けれど自死は出来ません。その姿のまま半永久的に生きなければいけません」
「全員分の祟りを祓うとなるとそこそこ骨だな」
「すみませんでした」
「まあいいさ。後の処理は私に任せて。ヤトは本殿に帰ると良い」
「行けません」
「なんで」
「村を襲う祟り神なんて、独神様の下にいるべきではありませんので」
「そんな心配今更だろう? うちは、祝福も不幸も加護も呪いも大歓迎なんだから」
 
 ヤトは動かなかった。
 
「ヤトが来てくれないと、幸運の加護が強すぎて今年の富くじで一等取っちゃうぞ」
「当たればいいじゃないですか」
「スネるなよ。それに知ってるだろう。加護は受けすぎると反動が来る」
 
 そのため、本殿は常に陽と陰が釣りあうように英傑を配置にしている。
 調和が崩れれば独神や英傑達にも幸運や不幸が降り注ぐ。それは時に死をもたらす。
 
「そう言えば、私が戻りやすいだろうってことですか」
「正解」
 
 屈託なく笑う独神にヤトは苦笑した。
 
「知りませんよ。祟り神を再び仲間にするなんて」
「大丈夫。災い時に現れる独神もいわば祟り神みたいなもんだ」
 
 死傷者三十四名。
 死因は祟り神ヤトによる呪い。
 生存者がいないのを良いことに事実は全て闇に葬った。
 悪霊に脅され手先にされていた村人たちであったが、機を見て反旗を翻し、悪霊の支配下から逃れようと必死に抵抗した。しかしながら、無念にも全員が死亡した。というのが表向きの真相だ。
 
「噂なら任せて。わたし、お喋り大好きだから」
「我にかかればこの程度の祟り、呑み込むのは容易いこと」
 
 独神の命を受けたヤマビコとマガツヒノカミは虐殺の痕跡を丁寧に消していく。
 こうして八百万界の歴史がまた一つ、独神によって抹消された。
 
 
◆イッスンボウシ
 
「小さくなるにはどうしたらいい?」
 
 独神は棒付きのアメを咥えながら、報告に来ていたオオタケマルに尋ねた。
 
「小さくなるって幼くなるんじゃないよ? 身体の話ね」
手前てめえ)は突飛もねェな」
「悩むのはずっと悩んでましたー。表に出したのが今なだけ!」
「興味ねェなァ……」
 
 そう言いながらもオオタケマルの視線は独神の周囲を注意深く滑らせていた。
 机には紙が散乱し、呑みかけの湯呑と齧り跡のついたまんじゅう。
 何をきっかけに言い出したのかは判らない。
 
「ねえねえ、オオタケマルは結構なオタカラ持ってるでしょー。知ってるんだぁー。私が欲しそうなもの、持ってるんじゃなーいー?」
 
 人受けの良い愛らしい笑みを浮かべ、半ば確信を持って言っている。
 オオタケマルも、独神の狙いにはぴんときた。
 
「確かに俺は手前てめえ)の望みを叶えるオタカラを持ってるかもしれねェ。けど……判るよなァ?」
 
 角と同じ色した黒い爪を光らせ、手を出した。
 
「………これくらい?」
 
 独神は三本の指を立てた。
 
「少ねェ」
「独神だからってお金持ちじゃないんだからね!」
「ああそうだろうよ。手前てめえ)の凄さは金の量なんかじゃァねェ」
「……回りくどいことはいい。さっさと欲しいもの言いなよ」
「話が早くて助かるぜ」
 
 オオタケマルは独神の机に散乱した紙をかき分け、一枚の紙を独神に差し出した。
 
「っく。嫌なモン見てるなぁ…………。だったら、私が欲しがってるブツの効果を私に見せて。本物だって証明して。そのくらい出来なきゃ私も動く気ないね」
「決まりだな」
 
 部屋へと向かうオオタケマルの後ろをとぼとぼと歩いて行く独神。
 時折溜息をつく。
 そうすると、遠くにいる英傑までもがジロリとオオタケマルを睨むのであった。
 
「おい……。あからさまな溜息ついてんじゃねェ。そのせいで俺が警戒されてんだろ」
「目聡い君に仕返しだよ。痛い腹ばっかり探られてお腹いたーい」
「よく言うぜ。本当に痛ェとこなんざ、一度も手前てめえ)は見せやしねェ。よっぽど部下が信用出来ねェようだなァ」
「私ほどみんなを愛しているひとはこの世にいないと思うよ」
 
 大嘘を鼻で笑い飛ばし、オオタケマルは自室の戸を開いた。猫のように隙間からぬるりと入ろうとする独神を抑えた。
 
手前てめえ)はそうやって全て把握する気だろうがそうはいかねェ」
 
 血塗られた布切れで独神の顔を覆った。
 
「ちょっと! やめなさいよ! やだやだ襲われるー」
 
 冗談で駄々を捏ねた。そう、ただの冗談。おふざけだった。
 けれど。
 
あるじ)さま!!!」
 
 どこからか飛び出してきたイッスンボウシが針の刀を構えてオオタケマルの目に飛び込む様子は蜂のようだった。
 しかしオオタケマルは、布に阻まれて何も見えていない独神の頭を鷲掴んで、刀の軌道上に置いた。
 
「え」
 
 針は独神の耳に突き刺さった。
 
「いっっったぁ! 痛っ。ちょっとねぇ、どういうことよねぇ!」
 
 布を掴んで床に叩きつけると、オオタケマルを睨んだ。
 
「肩を見なァ」
「はぁ!? えっ!? イッスン!?」
 
 予想外の相手に驚きながらも手探りで耳に刺さった針を抜き、イッスンボウシに返した。
 刀身は血に濡れ、独神の着物や床にも血の飛沫がかかっている。
 わなわなと震えたイッスンボウシは怒鳴った。
 
「今、貴方、あるじ)さまを盾にしましたね!!」
 
 オオタケマルは鼻で笑った。
 
「そりゃ手前てめえ)の腕が悪ィからだろ。寸止めも出来ねェから独神様を平気でブッ刺せる」
「っ!」
「イッスン、大丈夫だって!」
 
 苦虫を噛み潰すイッスンボウシを宥め、オオタケマルに頭を下げた。
 
「ごめん。床は掃除しとく。さっきの件は後日」
「最初より綺麗にしておきな」
「言われなくても判ってるってば」
「判ってねェ。手前てめえ)に言ってんだ」
 
 オオタケマルの視線はイッスンボウシにあった。
 
手前てめえ)が弱ェから独神を刺したこと忘れんじゃねェぞ」
 
 黙り込んだイッスンボウシを落ちないように支えながら、独神はその場から立ち去った。
 普段執務を行う広間へ戻り、貫かれた耳を自分で治療する。
 その間、イッスンボウシは腹でも斬りそうなほど思い詰めた様子で座り込んでいた。
 
「申し訳ありませんでした」
「大丈夫だって。傷は浅いよ」
 
 土下座をやめろと、手をひらひらと振ったが、イッスンボウシは頭を床に擦りつけた。
 
「さっきのって私を助けてくれようとしたんでしょ。判ってるよ」
「俺は助けるどころか傷をつけてしまいました」
「気にしなくて良いのに」
 
 止血に使った綿がじわじわと赤色に染まる。
 針で作られた刀であるが、対悪霊の為に改良されたこともあって殺傷力が高く、簡単には治らない。
 守るべき主を傷つけたイッスンボウシは独神になんと言われようと謝罪を止めようと思えなかった。
 やれやれと、独神は小さく息を吐いた。
 
「……オオタケマルって身体大きいし、何考えてるか判らないし、不穏すぎるし怖いよね」
 
 ただの悪口を口にした。
 
「私だってこれでも毎回緊張してるよ。身体が大きいってそれだけで結構怖くなる。イッスンは怖いことないの?」
「俺には兄さんがいますから。……けれど正直に申し上げると、恐怖を感じることは時折ありますよ」
「だよね」
「オオタケマル殿は正直怖いです。人が良さそうな顔で話しかけてきますが、いつか足元を掬われそうで気を許せません。
 力も強いですから、俺なんか一度捕まったら……」
 
 平均的な身体の独神にさえ、間違って踏みつぶされそうになることもあるイッスンボウシである。
 巨体なオオタケマルは化物と同じようなものだ。
 
「でもそんな怖い人に真っ先に立ち向かってくれたんだね」
「立ち向かうだなんて……無策で無謀だっただけですよ」
「助けてくれた時、私は凄く嬉しかった。かっこよかった」
「いえ。そんなことありません」
「これに懲りないで、また私のこと助けてくれないかな?」
 
 土下座している上体を無理やり起こして、独神は迫った。
 
「オオタケマルも今は良好だけど、いつ反目しあってもおかしくないからね。
 そうなった時、私のことちゃんと守ってよ。絶対」
 
 主の命令にイッスンボウシは「……勿論です」と応えた。
 
「今日のことは練習ってこと。ね?」
あるじ)さま」
「謝るのはおしまい。いいね」
「……承知しました」
 
 顔は伏せたまま、独神に頭を下げた。肩を落としたまま退室するイッスンボウシから独神は目を背けた。
 
(罪悪感なんてなくなったと思ったのにな。いやだなあ、こういうの)
 
 特大の溜息をついて天井を仰いだ。
 
(私の仕込みだってバレたら、やっぱ嫌われるんだろうな。てか、何もしなくたって好かれないし、八方塞がりでしょ)
 
 自作自演。
 オオタケマルに判るように書類を散らかしたことも。
 独神に恩を売りたいオオタケマルが後生大事にしている宝まで独神を連れて行くことも。
 それをイッスンボウシに見られたことも。
 全てが計画であり、イッスンボウシに助けられる独神、という展開欲しさの自演。
 
(ただ立ってるだけで好かれるような、そんな顔と性格に産まれたかったなあ……)
 
 顔はともかく性格は矯正のしようがない。
 可愛い純粋な女の子になれない独神は、小賢しいことを繰り返して好感度を操作した。
 恋は全力であることが望ましく、もてはやされる。
 独神にとっての全力が小細工の積み重ねで、可愛くない自覚はあった。
 けど、これも仕方がないことなのだ。
 イッスンボウシが好ましい異性の条件として、自分より背が低いこと、優しくて誠実なひとと挙げた時点で、独神は対象外である。
 対象内に入る為の壁は分厚く、嘘で武装して風穴を開けるしかない。
 少なくとも独神はそう思い込んでいた。
 
(次はダイダラボッチを使おう。将来の義兄を操るのはちょっと、と思ったけどもういいよね。使えるものは使おう!)
 
 ぱあっと笑顔になって、独神は次の策を練り始めた。
 
(最終的に私のこと好きになれば勝ちってもんよ)
 
 意中の相手は、仕える主を傷つけてしまった後悔に苛まれている真っ最中というのに、独神の頭は次の策で満たされていた。
 
 
◆タワラトウタ
 
「俺様すげーモテるからさー」
 
 言って秒で後悔した。
 
「凄い人気者なのね」
「だ、だろ?」
 
 主君はいつものように「凄いね」と相槌を打った。
 それはそれでどうなんだって話だが、この話題が広がらなかったのは正直助かった。
 
 俺様は強いし、なんてったって英雄だし、無尽蔵の米も持ってるし、顔だって結構いいし、外に出れば割とキャーキャー言われるし、なかなかいい男だと思う。
 女に振り向いて貰えなくて困る経験もない。寧ろ相手から寄って来るくらいだ。
 それがどうして、なんでかな。
 今になって、好きなヤツというものが出来てしまった。
 まさかまさかの初恋ってヤツだ。
 しかも相手は、ど偉くてめちゃくちゃ綺麗で超立派で独神で主君だ。
 
 俺様とは月とスッポン。
 かといって、諦める気はない。てか無理!
 一応、主君を諦めようとはしてみた、試しに。
 目で姿を追わないようにして、会話にも出さないようにして、遠征ばっか行って物理的にも距離をとった。
 けどどうしても主君のことばっか考えちまって全然離れられなかった。
 俺様は器用な方じゃない。だったらやれるだけやってみるしかないだろ?
 
「虫!?」
「イシガケチョウを捕まえたわ。あら、トウタどうしたの?」
「いいい、いや!? 別に!? 無臭だなって!」
 
 ──あれは、主君の護衛をしている時だ。
 飛び出したチョウに驚いたところをばっちり見られちまった。
 主君は見た目と違って、肝が据わってるんだよな……。虫程度じゃ驚きもしない。
 
「主君! これ俺様が贔屓にしている農家さんの米でな、今から炊いてやるから食べようぜ!」
「馬鹿! 主さんは儀式の準備断食中なんだよ! いい加減にしろ!」
 
 ──豊穣の儀式だった。
 舞人まいびと)は断食が必要なんだが、担当する者が病で臥せったとかで、主君が代役をかってでたそうだ。
 儀式が始まる少し前、一番腹が減っている時に俺様はめちゃくちゃ美味い米を見せちまった。
 辛そうな主君は今思い出しても胸が痛い。
 
 こんな俺様だが、主君を喜ばせたり、役に立ちたいだけなんだ。
 なのに、みっともない所ばかり見られちまう。
 会話も最近誰かに注意されたな。主君の話も聞いてやれよって。
 聞きたくないわけじゃねぇんだぜ。
 主君を前にすると、ずっと話しちまうだけで。話したいことがあるってより、常に口を動かしてねぇといけない気になるんだよ。
 なんだろうな、あれ。
 よくねぇことは判ってんのにな。
 そして今日もまた、主君に失態を見せちまった。
 
「……主君、悪ぃ」
「気にすることはないわ。子供たちは楽しんでいたでしょう?」
 
 子供でも理解できる演劇をしてくれという依頼で、俺様は演者の一人として参加した。
 みんな熱心に取り組んで作り上げた舞台だ。
 本番、成功させたい気持ちが先行した俺様は熱が入り過ぎて大道具のいくつかを壊してしまった。
 終演後、主君がせっせと直してくれている。
 壊した俺様も当然修理に参加すべきなんだが、被害が拡大するだけで役に立たないからと、主君の助手に降格させられた。
 
「いや本当に主君には悪いと思ってんだ。いつも手間かけさせちまって」
「トウタは手がかからない方だから助かっているわ」
 
 多分気を遣ってそんな言い方をしているだけだ。
 主君は優しい。誰がキレてもおかしくない場面で、いつも笑みを絶やさない。
 激しい感情に呑まれない主君はすげーと思うし、立派過ぎて自分と同じ生き物と見えない時もある。
 責めてくれた方が良い時だってあるんだ。
 面倒をかけた俺様に言う資格なんてないくせ、八つ当たりのようなことを考えてしまう。
 今口を開いたら余計な事を言いそうだ。
 何も言えなくなってきた俺様は黙って主君の作業を見ていた。
 
 主君は可愛いと綺麗の中間にいて、目を惹く容姿をしている。
 着物はいつも神(神族ではなくて界の創造主、らしい)に仕えることを示す神官服を着ていて代わり映えがない。
 顔立ちにばかり目がいくものだからあまり気づかれないんだが、今ちまちまと修理に勤しむ指先はよく荒れていて、筆ダコも出来ている。
 この働き者の手が俺様は好きだったりする。
 可愛いとか、優しいとかなら”良い主”で止まってた。
 
「終わったわよ」
「ああ。お疲れ」
 
 主君が直した大道具を戻しに行く間、俺たちを影から眺めていた子供が今だと群がってきた。
 
「めちゃくちゃ面白かった! また来いよな!」
「おう。次はもっとスゲーことやるだろうから待ってな」
「お前は来ないのかよ」
「俺様は今回壊しまくっちまったしなぁ……」
「だから面白かったんだろ! 絶対来いよ! 約束だぞ!」
 
 守れる自信もないまま、曖昧に約束を交わした。
 帰り道でぽつりと主君がそのことについて話しかけてきた。
 
「またおいでって。良かったね」
「そうだな」
 
 良かったと思い切れてないが、とりえず返事をした。
 すると、べしん、と背中を叩かれた。
 
「いってぇな!」
「うじうじしないの。喜んでもらえたんだから胸張って帰りなさい。貴方は調子に乗ってるくらいで良いの」
「お。おう。……てか、主君、俺様のこと調子に乗ってるって思ってたのか?」
「発言は控えさせて貰うわ」
 
 主君は少し早歩きになって前を歩いた。
 いつも通り胸張って堂々と。
 
「じゃあ、お言葉に甘えて調子に乗らせてもらうけど」
 
 都合よく空いていた主君の手を取った。
 
「頑張った俺様へのご褒美ってことで。良いだろ」
「好きにしなさいな」
 
 ざらっとした手触りが、主君ともっといたいと思わせた。
 これからも。
 出来れば、その先も。
 
 
◆ウラシマタロウ
 
「辛気臭くてあたしまで気が滅入るんですけど」
「独神ちゃぁん……」
「こっち見ないで。はい、場所移動しましょうねー」
 
 勘違いしないで欲しいのは、あたしは決して冷たい独神ではない。
 悪いのはこいつ。ウラシマタロウである。
 
 偶然助けた亀に竜宮城へ連れて行かれ接待され、お土産を持たされ……。
 で、何故か竜宮城へ永久就職することを城の主であるオトヒメサマに勝手に決められたらしい。
 というのがウラシマの言い分。
 オトヒメサマも所属英傑なので、お酒の席で聞いてみたのだ。
 実際どうなの。無理やりしたの。嘘なの。
 そしたらなんと、ウラシマタロウは玉手箱を貰った際に「必ずまた、竜宮城へ戻ってくる」と言ったらしい。
 オトヒメサマも地上の民であるウラシマタロウの言葉を最初は冗談と受け取ったらしい。
 今日の事は夢と思ってくれればいいと、伝えたんだとか。
 そしたらそしたら。
 
「いや、絶対に戻ってくる。だからそんな顔すんなって」
 
 っとキメ顔で言ったそうな。
 その言葉に少しくらっとしたオトヒメサマは、次に来たらもう地上に帰せなくなると冗談めかして言い、それに対してもウラシマタロウが了承したそうなのだ。
 
 な の に
 
 ウラシマタロウはその部分をすっかり忘れているらしい。
 当時酒が入っていたらしいから、多分後先考えずノリで話したのだろう。
 酔っていても約束は約束だからと迫るオトヒメサマと、全く身に覚えもないのに追いかけられてビビり続けるウラシマタロウ。
 ばかよねえ……。
 海はオトヒメサマの主戦場でどの女の子と会ったか全部筒抜けだからって、山へ可愛い子を探しに行って、見事に振られたんだってさ。
 それで落ち込んでるの今。
 
 ね。こんなのまともに相手にしてられないでしょ。
 
「独神ちゃん、オレの何が悪いと思う?」
 
 悪霊退治の礼で貰った村長の銅像に突っ伏しながら、きゃるるると音が聞こえてきそうな顔で尋ねてきた。
 冷たくあしらってもいいのだけれど、可哀想と思わせてくる。
 得な性格してるよね、ウラシマって。
 
「ウラシマって軽いでしょ。遊び相手には良いけど本気にはなれないってことじゃない?」
「てことはオレと遊ぶ気満々ってこと? うわっ、次の約束取り付けるんだった」
「そういうところ」
 
 女好きでフラフラフラフラして。
 独神は私生活に口を出せる立場ではないけれど、もうちょっと改めなよと言いたくもなる。
 遊ぶにしてももっと綺麗に遊べばいいのに。
 ウラシマの厄介なところは、いい加減な態度をとった結果周りに迷惑をかけてくるとこ────
 
 
 どがぁあああああん
 
 
 ほらね。
 
「独神ちゃん。オレが見てくるからここにいろ。危ないから絶対に出てくるなよ!」
 
 顔をきりっと引き締めて、爆発音があった方へと飛び出していった。
 ……ウラシマは、いい加減だけど、全く頼りにならないわけではない。
 オトヒメサマが執着してしまう気持ちも、判る、よ。
 こんなこと判らせてくれて、いい迷惑である。
 
「主! 大変なの! お願い来て!」
 
 執務室に飛び込んできた英傑に案内されると、庭が大きく抉られている光景が広がっていた。
 そして知らない女の子がウラシマタロウの首を掴んで前後にゆすっていた。
 
「わたくしと結婚するんでしょう!? どうして会いに来て下さらないの!?」
 
 あ。これ、ウラシマあるある。
 
「もしもーし。取り込み中の所申し訳御座いませんが、私はここの責任者であり、彼の主です。
 失礼ですがお嬢さん、うちの英傑とはどのようなご関係で」
「彼はわたくしの婚約者なのです! ですわよね!」
「いや違」
「彼は私に言ったのです。そんなに辛い使命なら逃げてしまえばいいって。自分の手をとってくれるならどこまでも連れて行ってやるって。普通初対面の女性にそんなこと言いませんわ。これはわたくしと添い遂げる気があると言うことでしょう!?」
 
 あーあ。
 英傑達も一部を残して退散していった。
 敵襲でなかったのは良いことだけど、これまた厄介なことになった。
 
「……ウラシマ。また結婚の約束?」
「全然覚えてない」
「聞いときなよ!!」
「聞いてるつもりなんだけどなあ」
 
 こいつめ……。
 
「どういうことですの。またとは」
 
 仕方ない。助けてやるか。
 
「申し遅れました。私、独神と申します。耳にしたことがありませんか。悪霊と対抗する勢力が八百万界にいること」
「ええ。まあ。名前くらいは」
「独神の秘術は命を扱います。そのため、術を行使する際には英傑の命を頂いています。
 と言っても、本当に寿命をもらうわけにはいかないので、私に未来を託す契約を結ぶことで回避しています。命の代わりに未来を支払う。そこのウラシマは寿命分の未来を私に支払ってくれました。なので彼は数十年間は誰とも婚姻は結べません。私もまた、特定の者と繋がることを禁止されている為に婚姻は行えません。
 この契約を破棄するには、私の使命である八百万界の救済、つまり悪霊勢力を根絶やしにすることです。私の術は八百万界の危機の間しか使えないものですので、平和になってしまえば契約も消えます。ですので、あなたにその気があるのであれば、婚姻の件は暫くの間待ってもらえませんか。今、彼は全ての民を救う為に命を賭しているのです。どうか彼の意志を汲んでいただけないでしょうか」
 
 ぜ~んぶうそ。
 相手もやはり私の発言を疑っている。
 話してる私自身も途中で何の話だか判らなくなっちゃったもんね。
 さて、どうしたもんかと思っていると、オトヒメサマが前に出た。
 
「嘘じゃないよ。ぬし)様の言っていることは全部本当。私たちのいる八百万界は今危うい所にいるの。平和を取り戻す為に私たち英傑が戦っている。君も突然こんなこと言われて混乱していると思うけど、今日の所は帰ってもらってもいいかな。
 ここ数日、悪霊が本殿を襲っているの。君は早くここから逃げた方が良い。私たちは今、戦の真っ最中で恋とか愛とか言える余裕はないの。それを守るのに必死なの」
 
 オトヒメサマの援護もあって、相手はしぶしぶながらも私たちに頭を下げ、敷地から出ていってくれた。
 そして私たちは、元凶に目を向けた。
 
「独神ちゃん……ありがとな」
「みんなの迷惑になるからってだけ」
 
 手のかかる英傑は数いるが、こんな役は二度とさせないで欲しい。
 
ぬし)様、さっきのことだけど、どこまで本当なの? 本当にウラシマタロウの未来を貰うの?」
 
 さっきまで私を助けてくれたオトヒメサマが怖い笑顔で私を見ていた。
 遠くでヤヲビクニまでも私たちの様子を伺っている。
 私は溜息をついてから話し始めた。
 
「ウラシマはそういう好きじゃないよ。優しいかもだけど軽いだけだし誰にだって優しくする勘違いさせ男でそれに救われる人だっているだろうけれど基本的には思わせぶりばかりで大事なことは全部聞こえてないだの忘れただのひたすら嫌なヤツだもん」
「その長台詞……あやしい……」
「冗談やめてよ」
 
 本当に勘弁して欲しい。
 噂を立てるならもっと他の……。
 いや、どの英傑でも嫌だな。
 
「マジ!? 独神ちゃんオレのことそんなに大事!?」
「主なんだから英傑は全員大事だよ」
「任せときな! 独神ちゃんの不安はオレがなんとかしてやるよ」
「君が言うかあ?」
 
 ウラシマは呑気でいいな。
 
ぬし)様なんて……相手が悪すぎるでしょ…………」
 
 オトヒメサマなんて勘違いをして悔しそうにしている。
 
「いや。オトヒメサマ。だから」
「大丈夫だって。オレは独神ちゃんと同じでみんな大事にするから!」
 
 なにこいつ……。
 私と同じ目をした女が、少なくとも二名、ここにいた。
 
「……ん? なんか……ここだけ冷えてね?」
 
 私は盛大に溜息をついた。溢れ返った呆れをどうにか外に出さないとやってられない。
 
「ねー、ぬし)様。女子会でもどう?」
「わあ、丁度良すぎ。私もそう思ってた。ヤヲビクニも行くよねー?」
 
 遠くで頷いている。うんうん。だよね。
 
「それってオレも行って良いの!?」
「いいわけないでしょ!」
 
 私とオトヒメサマが同時に叫んだ。
 
 
◆キイチホウゲン
 
「おじゃまします」
 
 独神が遠慮がちに放った挨拶が虚空の闇に溶けていった。
 日が長くなって夕方でも明るいものだが邸宅の中は夜の様に暗い。
 
「足元に気を付けるように」
 
 キイチホウゲンがぼそぼそと呟くと邸宅の中で薄明かりが灯った。
 廊下の傷もよく見える。
 
「私が灯りをつけるのが意外か」
 
 何も言っていないのに。
 彼がそんな小さなことを気にすることに、驚く前に少し笑ってしまった。
 むっとしたような彼に慌てて否定する。
 
「ううん。感謝してる。本当よ」
「そうは見えないがな」
 
 そう言いながらも独神が草履を脱ぐ間手荷物を持ってくれた。
 キイチホウゲンは普段、本殿で寝泊まりしているため京の邸宅は使われていない。
 埃が薄く覆っていて良さそうだが、ぱっと見は綺麗に見えた。
 
「案ずるな。貴様が来る前に掃除をさせておいた」
 
 そんな家庭的なことに手を回していたことに独神は再び笑ってしまった。
 今度は流石の彼も表情は変えず、客間へと案内してくれた。
 
「あら、ここなら花火がよく見えそうね」
 
 独神は客間から縁側へ出て京の空を見上げた。
 ここまでの道中で出店が立ち並んで賑わっていた。
 姦しいのが嫌だと彼が言うので人を避けてここへ来た。
 出店で何かを買って祭りの雰囲気を味わいたかったのだが、今日と言う日に彼の機嫌を損ねたくなかったので諦めた。
 
 京の花火は有名で、遠方からも人が集まる。
 事故や諍いが起きるだけでなく、悪霊も引き寄せるかもしれない。
 本殿から英傑を数人派遣することを決定し、花火が見たいと言う英傑達を京に送った。
 その後のこと。
 その日の仕事が終わり、独神が痛む腰を押さえて立ち上がった瞬間にキイチホウゲンが入ってきた。
 ずっと廊下で待っていたのだろう。用意していたであろう言葉を独神に伝えた。
 
「私の邸宅では花火がよく見える。……貴様は、どうする」
 
 不慣れな誘いが独神の心をくすぐった。
 
「連れて行ってくれる?」
「良いだろう」
 
 こうして二人だけは一般客として隠密で京へ入ったのだった。
 
「……警備に回らなくて良かったの?」
 
 キイチホウゲンは戦いを死合と称する。
 お互いに命を懸け死の淵で戦うことを最も良しとし、普段から自分を追い込むかのように討伐に明け暮れている。
 そんな英傑が華やかな催し物に誘うことなどあり得ないことであった。
 それも自宅に招いてまで。
 
「どうせ斬りがいのない奴らだ」
 
 独神の横に腰下ろし、京の空を同じく見上げた。
 そのうちに、花火がまもなく開始するとの知らせが雑踏から聞こえた。
 悲鳴にも似た歓声がどこやかしこで上がって騒がしく、猛烈に夏を感じた。
 また一歩平和に近づいたのだと、日々の行動が報われたような心地になった。
 
「貴様の働きの結果だ」
 
 全てを見透かされたようで独神は少し笑んだ。
 すると合わせたように赤い華が開き、ぱあんと弾けた音が二人の間を通り抜けた。
 
「始まったみたい」
「そのようだ」
 
 悪霊襲来から初めての花火が、立て続けに空に上がった。
 今までの鬱憤を晴らすかのように、大輪が空を埋め尽くす。
 
「こんなの初めて……綺麗だね」
「ああ。綺麗だ」
 
 流石のキイチホウゲンも心を打つものがあったのだろう。
 普段言わない言葉に独神は驚いていた。
 
「花火の時はキイチさんでも綺麗って思うのね」
「そうらしい」
「あ、ほら!」
 
 夜空に浮かんだ花火は円形のものではなかった。
 失敗したのかと勘ぐってしまうような、ばらつきのある星が散らばっていた。
 
「なにかの模様だよね……。なにに見えた?」
「さあな」
「赤色で……。なんだったんだろう」
 
 花火師が描く空の絵画に興奮気味の独神は独り言のようにつぶやいた。
 一つ上がる度に声をあげ、何度も笑った。
 キイチホウゲンは黙っていたが、本殿では見せることのない柔らかな笑みをたたえていた。
 静かになった空からキイチホウゲンへと視線を戻した。
 
「キイチさんも花火を好きみたいで良かった。最初誘われた時、少し怖かったの。
 無理してるんじゃないかって。でも花火が綺麗だって聞いて安心した」
「私がいつ、花火を綺麗だと言った」
「え。だってさっき…………」
 
 逡巡していた独神はみるみる赤くなった。
 にやけそうになる顔を抑えて、なんでもないように振舞う独神にキイチホウゲンはとどめを刺した。
 
「主君、蒲団は一組で構わないな」
 
 少し間を置いて独神は、頷いた。
 
「少し待っていろ」
 
 独神の瞳には最後に向けて激しくなる花火が映るが、いずれもよく見えなかった。
 後ろから聞こえる襖の開閉音やぽすんと柔らかな物が床に落ちた音。
 滑らかな音が耳をざわざわとくすぐって、生唾を飲んだ。
 
「まだ花火はあるのか」
 
 準備を済ませたキイチホウゲンは同じ場所へ腰を下ろした。
 
「貴様が満足するまでは付き合おう」
 
 そう言ってすぐ、花火大会は終わりを迎えた。
 空が夜の色を取り戻し、人々の興奮冷めやらぬ歓声の中、そっと襖を閉めた。
 部屋の灯りが全て消え闇色に染まる。
 視界を奪われたが、キイチホウゲンの手が導となる。
 
「主君。闇も良いものだぞ」
 
 色気のある声が独神を深淵へと落としていった。
 
 
◆キンシロウ
 
 世話になっている庄屋の家宝が盗まれた。
 
「泥棒も運が悪かったな! この俺がきっちり落とし前つけさせてやるよ!」
 
 町人たちに教えられ、その泥棒とやらの足取りを追ってみると、見慣れない奴がいた。
 泥棒のくせに目立つ姿をして、相当に自信があるらしいが、その鼻きっちり折って反省させてやる。
 だが、泥棒は思いのほか身軽で俺はなかなか距離を詰められない。
 まるで風に乗るように地面と屋根を行ったり来たりしている。
 これは一筋縄ではいかないかもしれない。
 
「おい、待ちやがれ! お前、何者だ!!」
「私を捕まえられたなら教えてあげる」
「ふざけやがって」
 
 泥棒女は大笑いを残して消えていった。
 幽霊みたいな奴だ。現場には痕跡一つ残っていない。
 俺は庄屋に頭を下げながら、次は絶対に捕まえてやると息巻いていた。
 
 一週間に一度くらいの割合でそいつは現れた。
 見た目は俊敏に見えないのに、いつも追いつけない。
 大人数で追っても誰一人触れられなかった。
 奴は逃げている間はいつも笑っていた。
 俺たちが追いかけっこをしているようにでも見えたのか、いつのまにか「ふぁん」も増えていた。
 俺の面子は丸潰れ。
 けど、どこか憎めなかった。
 盗む時の鮮やかな手つき。
 別れの時に「またね」とはにかむのも。
 それに、奴は江戸の民を傷つけることがない。
 すれ違いざまに回復の術をかけられた民もいると聞いた。
 根っからの悪人ではない。
 
 けれど奴は、何度目かの盗みで江戸城の刀を盗み出した。
 許せる線を超えた。奴は悪人だ。
 
「いつまで盗む気だ。江戸をどうするつもりだ!」
 
 奴の人気が高まるにつれて模倣犯も増え、江戸の治安は悪化していた。
 どの事件も俺がしっかり捕まえたが、町人たちに不安が広がっていた。
 俺は、奴を許してはならないと思った。
 
「大丈夫。これからは安心して暮らせるわ。町の人には今まですみませんでしたと伝えて」
 
 いつもの笑顔で、奴は追いかけっこの終了を表明した。
 
「もう怪盗ごっこはオシマイ」
「信じられるか」
「こればっかりは実際に時が経たないとね。あなたもお疲れ様」
 
 奴は俺に背を向けた。
 最後の逃亡劇。
 今日は絶対に捕まえる。
 
「もしも、私を捕まえる気があるならオノゴロ島まで来なさい」
 
 俺の覚悟なんて桜の花びらと同じくらい儚いと言うのか、奴は言葉だけを残してあっさりと姿を消した。
 追いかけさせてもくれず、俺は空回りした決意を宥めるのに苦労した。
 その後は宣言通り、奴は江戸に現れなかった。
 これはこれで良かったのだろう。真似ていた奴らもすっかり息を潜めて、また平和な江戸が戻った。
 なのに俺の中ではずっと、魚の小骨のように残っている。
 ずば抜けた移動速度にはとうとう追いつけずじまい。
 術の類だとは思うが、結局なんだったのか解明する事さえ出来なかった。
 奴との勝負は、俺の完敗のまま。
 他の泥棒を捕まえても、今までのような充実感はなく、奴の顔ばかりが浮かんでしまう。
 笑ってばかりのいけすかない奴。
 
「行ってやろうじゃねぇの。オノゴロ島」
 
 休暇をもらい、瀬戸の海に浮かぶオノゴロ島へと向かった。
 内海だというのに、上陸までは嵐に見舞われ、波が高すぎて船が暗礁に乗り上げてと散々だった。
 まるで島に拒まれているような心地。
 そんなわけないと言い切れないくらいには、奴には何かがあると長年の勘が言っている。
 奴が天候まで操れたら、流石の俺でもお手上げだ。
 三日間海に漂ったが、俺は無事オノゴロ島へ上陸した。
 荒天だったはずだが島は緑が多くのどかで、とても数日嵐に見舞われていたとは思えない。
 島には想像したいたよりも住民がいて、その中には俺の知っている者もいた。
 
「ゴエモン!? ネズミコゾウ!?」
 
 二人とも有名な大泥棒だ。
 それがなんでこんな島でどうどうと出歩いているんだ。
 
「ここは泥棒島か!?」
「違いますよ」
 
 胸に鏡なんて付けて怪しい奴。
 だがただ者ではないことは肌で感じている。
 対峙するだけで肌がびりびりと痛むほどの威圧感を与えるなんて普通じゃない。
 
「彼らと同じく扱われるのは心外です」
「誰だよ」
「エンマダイオウと申します」
「エンマ……?」
 
 聞いたことがある。八百万界の裁判官だ。
 厳格な性格で規律を乱す者には容赦がない。
 江戸は自治しているのもあって現れないが、他の町だとちょくちょく出没するとか。
 こいつが噂通りなら、泥棒連中なんていの一番に処分しているはずだが。
 
「裏で泥棒と組んでたってことかよ」
「誤解です。わざとですか」
 
 手に持った笏が俺に目掛けて飛んできたので避けた。
 空気を切り裂く音が耳を斬りつける。避けたから良いが、常人なら気絶する強さだ。
 裁判官は腕っぷしまで強いのか。
 
「……キンシロウ。貴方も随分好き勝手してきたようですね。悪を追うのは罪滅ぼしの一環でしょうか」
「そんなもん、ほいほい話す気にはなれねえな」
 
 俺の過去まで知っている口ぶりだが、ハッタリの可能性も高い。
 振り回されてたまるかと、刀を抜いた時だった。
 
「ちょっと客人に迫らないでよ」
 
 奴だ。服装は違うが、間違いない。
 
「あら。キンシロウ。久しぶりね」
 
 えくぼを伴う笑顔には何度も煮え湯を飲まされた。
 
「わざわざ来てやったんだ。名前くらい名乗ってくれても良いんじゃねぇの」
「そうね。私はここの筆頭で独神というの。英傑を取り仕切って悪霊退治してる」
「ほー、そうかそうか」
 
 腕を掴んだ。
 
「泥棒の頭を捕まえたぞ」
「ええ!? 話してる途中なのに失礼じゃない!?」
「お前が言うな。コソ泥が」
 
 すぐにエンマダイオウの笏が俺の腕を叩き落とした。
 こいつ、独神の配下か。
 警戒心を強めた俺に、奴は慌てた様子で説明した。
 
「私が泥棒をしたのは事実だけど、盗品を持ち主に返しただけ。……どれも悪霊との取引で使う為の盗品だったからね」
「そんなはずねぇだろ」
「嘘だと思うなら畳の裏から水甕の底まで一人で調べてみて。それからもう一度ここに来れば私を捕まえても良いよ」
「……良いぜ。けど、次は容赦しないからな」
「いいよー」
 
 言われるがまま江戸に戻って調べてみた。
 あんな奴の言いなりになるなんてと思ったが、独神からは始終悪の匂いがしなかったのもあって、真相を暴きたかった。
 そうしたら梁の裏や竈の中から、悪霊との取引内容が記載された手紙や術で起爆する爆発物の類があった。
 盗まれた連中を問い詰め、この絵図を描いた者を辿っていくと、最後には悪霊に辿り着いた。
 独神の言った事は本当だった。悪霊はきっちりしめて、もう一度オノゴロ島に行った。
 
「どう、私を捕まえる気になった?」
 
 独神は両手を差し出した。
 
「そうだな」
 
 俺は縄でくくった。
 
「お前のやったことは犯罪だ。けど、私腹を肥やすわけでもなく、界の為にやってることは認める」
 
 するっと解いた。
 
「けど、いつお前がやらかしてもおかしくねぇ。今後罪を犯さないか、この目でしっかり見張っておいてやるよ」
「好きなだけ見ていくと良いよ。但しここにいる間は困った人には必ず手を差し伸べて」
「良いぜ。これからよろしくな」
「頼りにしてるから」
 
 俺と独神は手を握った。
 
 
◆カイヒメ
 
 わたしは父に期待されるままに、武を極めていた。
 その期待に応えることで、民の期待にも応えることが出来ると、自ら望んで強くなった。
 実際わたしは民に支持され、どんな期待にも応えてきた。
 
 ある日、優秀な指導者が八百万界に誕生した。
 独神と名乗る娘で、わたしと歳が変わらない見た目だが、実はイザナギとイザナミよりも先に世にいたものという噂だ。
 悪霊を全て屠ると言って旗をあげた独神は多くの戦果をあげた。
 わたしは初めて、期待する側へと回った。
 自分一人で民を守ることに限界を感じたわたしはオノゴロ島を訪ね、配下に加えて欲しいと頭を下げた。
 彼女はわたしを快く受け入れ、配下として働かせてくれた。
 傍で見ていて思ったが、確かに、独神様──わたしは将軍と呼ばせてもらっている──は、誠実で優しいひとだと思う。
 しかし、それだけだ。
 弱虫で、泣き虫で、可愛いものに囲まれて笑っている。
 わたしとは、違う。
 民の為になるものはなんでも習得し、反面必要のないものは削いでいく。
 指導者とはそうあるべきではないのか。
 わたしは、将軍に進言した。
 
「将軍。僭越ながら申させて頂くが、そなたはもっと強くあるべきだ。
 民衆が弱い指導者に命を預けられるか?」
 
 立場を弁えないわたしの訴えに、彼女は嫌な顔ひとつしなかった。
 
「……んーなるほどねー」
 
 腕を組んでうんうんと頷いている。
 わたしはこの進言をするに至った理由を話す事にした。
 
「わたしは指導者とは民よりも強くあるべきと考えている。
 なぜなら外からの脅威にさらされた時、民はまず、指導者に脅威を取り払って欲しいと思う。
 日々税を納めているのだからな。その分を返してもらいたいと思うのはおかしくない。
 ならば、人々の期待に応えるにはまず力から。違うか?」
 
 わたしより弱い将軍はわたし以上の求心力を持ち、人々を動かし、悪霊を退けてきた。
 秀でた者とは判っているが、そのからくりが未だつかめない。
 
「それってさ、腕っぷしが強くなきゃ駄目なの?」
 
 当たり前だ。わざわざ聞くことではあるまい。
 
「私って弱くてどうしようもないでしょ? 周囲が腹を立てたくなるのも理解できる。
 でもね、弱いからこそ守りたくなるって。よく言われるの」
 
 自然と溜息が出た。
 
「軟弱な……。わたしたちが守るべきは個人ではなく全ての民だというのに」
 
 将軍が守られることに喜びを得てどうする。
 大事なのはまず、民を守ること。
 主体は民。民は絶対的存在だ。
 
「弱いから守ろうって思える社会って健全だと思わない?
 自分たちのことでさえ苦しいのに、他人のことを気にかけられるなんて素敵なひとだよね」
 
 言いたいことはなんとなく理解できるようで、出来なかった。
 
「力のある英傑はその思想に至ることもあるだろうが、弱い民にそんなことは出来ない」
「出来るよ。そんなこと言わないで、信じて」
 
 満面の笑みを見せた。これだ。
 彼女はいつも夢見がちで甘いことばかり言う。
 頭が痛くなるが、それが、どうしてか、時折心にじんわりと染みてきて考えるきっかけを与えてくれる。
 
 わたしは民のことを考えているが、断定、決めつけることが多い。
 最悪を想定するが故に、楽観的に物事を見ることを許さず、民を信じることは思考の放棄だと断じる。
 けれど将軍は、民を信じるという。
 好き勝手なことばかり言う民に怒りもせず、見下しもせず、信じる、というのだ。
 
「……信じて民に何かあったらどうする。全員が正しい判断を下せるわけではないのだぞ。指導者なら正解へと導くべきだろう」
「そこまでしなくたって大丈夫だって」
「何故そうも自信を持って言えるのか。わたしには判らない」
 
 確かに今まで将軍の下した判断が間違っていたことはない。
 それは運が良かっただけで楽観視にもほどがある。
 
「いや、まあ、カイヒメの言い分が間違っているなんて思ってないよ。私はいつも私の事を疑ってる。これでもね」
 
 信じがたい話だ。
 
「疑うけれど、信じているの。最後は必ず私の思う未来にしてみせる」
 
 やはり理想主義が過ぎる。
 
「それは将軍の心が強いから良き未来を信じられるのだろう。他人がそなたと同じだと思わない方が良い」
「いやいや。民は自分たちの弱さへの自覚がある。私たちよりも危機には敏感で無謀なことをしない」
「だから強い指導者を求めているのだろう?」
「それはそう。でも、完璧な指導者が民の幸せを百パーセント叶えられるわけではないと思ってる」
「……何故だか聞かせてもらおう」
「私が全部やると、民自身の生きる力を奪う事になる。だから落ち度があるくらいで丁度良いの」
「それは手を抜く、ということか」
「見守るの。雛が巣を発つ手助けを親鳥がしないのと同じように」
 
 将軍の言わんとすることがそれなりに見えてきた。
 だが、賛同は難しい。
 見守っている間に民が次々と死ぬようなことがあれば、それは指導者の采配が悪いと思うのだが。
 
「みんなで悩みましょう。私だっていつまでもいるわけじゃないんだから」
「どういうことだ」
 
 将軍は笑った。
 
「弱い私はこの戦いの最後を見届けるのは無理でしょ」
 
 彼女が消えた八百万界が想像出来た。
 わたしは将軍へ歩み寄り、前のめりになりながら捲し立てた。
 
「将軍は必ず守り抜く! だから死ぬな!」
 
 ふと、将軍が先程言っていたことを思い出した。
 
「うん。じゃあ死なないように守ってちょうだい」
 
 この構図はまさに、将軍が言ったものではないだろうか。
 将軍を守るために強くあろうとするのは、将軍の思う壺なのでは。
 
「カイヒメは頼りになるね」
 
 ならば民もそうやって、彼女を守るために、戦いの支援を惜しまないのか。
 わたしたちはそうやって、彼女の魔性に操られている。
 駄目だ。
 わたしだけは。わたしだけは呑まれてなるものか。
 そう思うのに。
 彼女のいない世界を想像すると、操られざるを得ないのだ。
 
 
◆アマノジャク
 
あるじ)なんて嫌いだ」
 
 と言えば、
 
「私も嫌い」
 
 と返ってくる。
 とても嫌そうには見えない顔で。
 自分も本当に嫌いなわけじゃない。
 ただの軽口。冗談。
 アマノジャクはそう考えていた。
 
「主様だーいすき!」
「私も好き」
 
 他の英傑が溢れんばかりの好意を独神にぶつける姿を羨ましいと思った事はない。
 あれも軽口だ。
 必ずしも言葉通りではない。
 アマノジャクは気にも留めていなかった。
 
 主である独神はいつも、誰にだって、秤で量ったように正確に平等の愛情を英傑一人一人に与えていた。
 そのはずだった。
 
「……え」
 
 アマノジャクは見てしまった。
 物陰で狼狽える独神を。
 瞳を揺らして困惑する中に、一握の熱を見た。
 
「…………時間、貰ってもいい? …………うん。ありがとう」
 
 いつものように廊下を歩く独神であったが、次第に速度を速めていく。
 アマノジャクは機を見計らって独神に話しかけた。
 
「よう。何してんだ。まさかとは思うが、臣下に色恋なんて勘弁してくれよ」
 
 独神はかあっと赤くなった。震える声で答える。
 
「なにそれ。知らないな……。私、ちょっと呼ばれてるから。またね」
 
 方向転換し、アマノジャクに背を向けて逃げ出した。
 下手糞な嘘を鼻で笑った。
 
「知らないわけねぇだろ」
 
 アマノジャクはすぐに追いつき腕を掴んだ。
 
「うるさいな。関係ないでしょ!」
 
 力いっぱいに振り払われた。
 機嫌が悪い独神を見るのは滅多にないことで、少し面食らったが負けじと言い返した。
 
「関係なくはねぇだろ」
「どこが」
「主従だろ。俺とも」
「今まで私が英傑の交際関係に口出したことある? 線引きしてるでしょ」
「だから自分にも口出すなってか」
「少なくとも『関係がある』って言い分を退けるには十分」
 
 初めての拒絶だった。
 独神はいつもアマノジャクが何を言おうと、何をしようと許してきた。
 今回もそうだろうと、アマノジャクは見誤ってしまった。
 状況が悪くなったことで、自身も自覚はないまま焦ってしまったのだろう。
 アマノジャクはとっさに、言った。
 
「関係はあるだろ! 俺はお前のこと好きなんだから!」
「私は嫌い」
 
 それはいつもの軽口とは違った。
 先程掴まれた腕を撫でながら、独神は全速力で去っていった。
 一人になったアマノジャクはぼうっとしながらふらふらと部屋に帰り、普段はしない昼寝をした。
 起きても現実は変わらなかったが、進展があった。
 独神が英傑からの告白を退けたと、その他大勢の英傑たちがざわついていた。
 アマノジャクは興味がない振りをして、独神の周辺が落ち着くのを待った。
 ちょっとした時の雑談や遠征で、何度か独神のことが話題になったが、決して会話には入らず、意見を求められた時も「興味ねぇ」とつまらなさそうに言って回避した。
 
 一ヵ月経つ頃には、それも落ち着いてきた。
 この間に沢山の出来事があった。
 暗黙の不可侵条約が破られたことで、自分もと思いの丈を独神にぶつける者。
 軽率な行動だと件の英傑に苦言を零す者。
 事態が治まるまで本殿から離れる者。
 界を左右する集団が崩壊するのかとも思われたが、やはり独神はしっかり手綱を握ってみせた。
 
「私、ベリアルに手も足も出なかった時のこと、何度も夢に見るんだ。
 あんな悔しい思い二度としたくない。誰にも死んで欲しくないの」
 
 そう言われて、英傑達の行動はぴたりと止んだ。
 独神を苦しめることはしたくなかった。
 独神の願いを叶えようとやる気を出した者もいた。
 件の英傑も自分は独神に振られたのだと受け止め、以前と変わらない態度で討伐に臨んでいる。
 
 けれど、アマノジャクはそうはならなかった。
 彼の洞察力は独神の影をしっかりと見抜いていた。
 
「なあ。あるじ)。あれ、嘘だろ」
 
 誰もいない時間、場所を入念に選んだ。
 そうでなければ独神の化けの皮は剥げない。
 周囲を目だけで確認した独神は静かに反論した。
 
「嘘なわけないでしょ。八傑が負けていくところを見たことがないからそう言えるんだよ」
「まあ、お前の言うことの半分はそうなんだろうな。でも半分は違う」
 
 ふふふと笑う独神。
 
「そうだとして、アマノジャクには関係ないでしょ」
「あるだろ。お前に協力してやってる英傑の一人だぞ」
「だったら猶更ないよ。独神の面だけを見ていればいい」
 
 突き放してくるが、アマノジャクは食い下がる。
 
「お前の描いた独神は、英傑とくっつくようなタマじゃないってか?」
「もういいでしょ。私は忙しいの」
 
 自分の洞察力が憎い。
 
「本当は、お前もあいつが好きだったんだろ」
 
 独神は歯を噛みしめ、怒りを必死に抑えている。
 乱れた呼吸を繰り返し、次第に落ち着きを取り戻す。
 アマノジャクから目線を逸らしながら言った。
 
「私の幸福を求めちゃ駄目なの。少なくとも、世が独神を求める間は」
 
 他人の幸福を願いながら、己を律し、八百万界の希望を追求するのが、独神であると定義した。
 少なくともアマノジャクの仕える主はそうあるべきだと結論付けたようだ。
 
「お前この先ずっと一人かよ」
「これだけ英傑がいれば一人って感じにはならないけどね」
 
 おかしそうに笑う独神は既に吹っ切れたようにも見えた。
 普通の者ならばそれで納得しただろう。
 残念ながら、アマノジャクは判ってしまった。
 独神はまだまだ未練をたっぷり残していること。
 だから自分は、沢山いる英傑の一人でしかないことを。
 
「どうしてもって言うなら、平和になった後に俺が嫁にでも貰ってやるよ」
「嘘でしょ、それ」
「嘘に決まってんだろ」
 
 嘘は嘘だ。
 未練があるのは自分も同じ。
 例え誰かを想っていると判っていても諦められない。
 自分を殺して、他者を優先する独神を放っておけなかった。
 この先ずっと、化けの皮が剥がれないように見ていてやろう。
 飽きるまで。ずっと。
 もしも剥がれた時はどうするか。そんなの、決まっている。
 
 
◆ナマハゲ
 
「な、なんだって!!!
 言葉を奪うことが手っ取り早く敵を支配出来ると知った悪霊が方言を奪っただって!」
「『東京ニ於テ専ラ教育アル人々ノ間ニ行ハルル口語』ってやつ? どこで学んできたの……」
 
 悪霊もなかなか博識だ。
 喋らないくせに言葉に目を付けるとは、余程こちらのことを研究しているとみえる。
 敵ながらあっぱれ。
 
「ねえあるじ)様どうしよう」
 
 ミシャグジサマが不安そうな顔をしてこちらを見上げている。
 弱々しい様はいつもと違う可愛さがあるが、西なまりのない彼女は物足りなく感じる。
 じゃがいもの入っていない肉じゃがのようだ。
 
「これが……呪い……か……?」
「うわっ……。あんたが一番きついんじゃないの?」
「ハゲっち大丈夫?」
「そのあだ名は止めろ」
 
 本来ならばこの子たちはそれぞれのなまりのお陰で個人を判別するのが容易い。
 もし今のこの会話が版画のように文字に起こされていたら、誰だか絶対に判らない。
 
 ちなみに、一番最初から、ナマハゲ、ミシャグジサマ、シーサー、ナマハゲ、である。
 
「台詞だけじゃ誰か判んねぇ……」
 
 と、言ったのはキドウマルである。
 台詞だけで当てた人はいるだろうか。いや、いないだろう。
 方言のない話し方だと、一人称、二人称が独特でない限り判別は難しい。
 例えば、「あるじびと」などと言ってくれると、某陰陽師のことだと誰もが気づく。
 
「言葉を奪った悪霊は一早く討伐しよう! みんな、まずは情報収集からお願い!」
 
 部屋にいた英傑達は私の命令と同時に外へ飛び出した。
 各自情報収集に奔走し、武器を振り回しているはずだ。
 待つだけの私は、他の仕事を処理しながら彼らの帰りを待った。
 一番乗りはナマハゲだった。
 
「ナマハゲ、おかえり。守備はどう?」
 
 首を振った。
 
「そっか。他の子はまだ帰って来てないの。一緒に待とっか?」
 
 頷いて座った。
 借りてきた猫のようにおとなしい。
 元々お喋りというほどではないが、会話はよく続く相手。
 それが無口になってしまって、子供に泣き叫ばれそうなくらい怖い。
 
 方言を直す子は多い。
 というのも、ここには四方八方から英傑が集まって来るので、御国言葉を敢えて使わず意味が通りやすい標準語を用いているのだ。
 もちろん中には御国言葉を貫く者もいる。
 ナマハゲもその一人だ。
 何を言っているのか判らないと周囲に散々言われているが、本人は標準語は気を遣い過ぎて疲れるらしく普段は里の言葉を使い、あまりにも意味が通じない時は標準語と切り替えている。
 
 私に御国言葉はない。八百万界の根源から産まれた私は全ての要素を持つ故に、どの国にも属していない。
 時折みんなを真似をして使ってみることもある。
 みんなはそれを微笑ましく見てくれているが、いくら真似てもしっくりこなくて、いつもの話し方に戻ってしまう。
 逆にナマハゲは自分の御国言葉が一番しっくりくると思っているのだろう。
 そんな彼が言葉を奪われて、彼を構成する根幹がぐらぐらと揺れている。
 不謹慎ながら親近感がわいた。
 
ぬし)。何か言いたいことがあるのか」
 
 と、ナマハゲは言った。
 そうだ、御国言葉だから「ぬし)っこ」と呼んでいたのであって、そうでなければ「ぬし)」になるのか。
 呼び方が変わると聞いている私が気持ち悪くなってくる。
 
「もしもね、このまま言葉が戻らなかったらどうする……?」
 
 意地悪なことを聞いた。
 ナマハゲは犬の様に唸っていた。
 一通り唸って私を見た。
 
「仕方がない。この言葉を話せるよう、努力する」
「ま、それしかないよね。ごめんね、変な事聞いて」
 
 首を振った。
 
「……ぬし)は、おれが普通に話す方がいい?」
 
 言葉のせいか幼く見えるナマハゲが続ける。
 
ぬし)がおれの言葉があまり判らないのは知ってた。けど、会話は成り立っていたから気にしていなかった。
 奥羽で育ったおれは、奥羽の言葉が一番身体に馴染むから、他の言葉を使おうなんて思ったことない」
「うん」
「けど、おれが主の言葉を使えば、主に近づけるかもしれない。いや、そうじゃなくて、近づきたいから、だ」
 
 私がずっと抱いていた気持ちをナマハゲも持っていた。
 言い方一つで、人との距離が近づいたり遠ざかったりする。
 
「ナマハゲには今まで通り、奥羽の言葉を使って欲しいよ。私にとってのナマハゲと御国言葉は切り離せない。
 今だってこうやって面と向かって話してるのに、なんだか違う誰かと話してるとしか思えないもん」
 
 不思議なもので、人は同じなのに、言葉が違うだけで人格さえも異なるような錯覚を起こす。
 例え言葉がよく判らないにしても、ナマハゲはいつもの言葉があってこそ、ナマハゲだ。
 
「……んだ。おれやっぱり奥羽の言葉が一番性さ合ってらな」
 
 私たちは目を見合わせた。
 
「おかえり」
 
 独特な抑揚の付け方に安心感を抱いた。
 ナマハゲはやっぱりこうでないと。
 
「んだなんす」
 
 
◆イヌガミ
 
 世の中には、自分より弱いという理由で動物を殺す者がいる。
 無惨に殺される動物たちの恨みを晴らす代行者がいた。
 
「助けてくれ!!!」
 
 下半身を切り落とされた男の命乞いを、代行者はふふと笑った。
 
「あら、だったら逃げれば良いじゃない。私たちはいつも後手に回ってあげているのだから」
 
 出血が止まらない切断面に刀を突き立てると、ごりっと骨に当たった音がした。
 
「犬ですもの。ちゃんと待てをしてあげたわよ」
 
 男が痛みと恐怖をしっかりと感じたところで、代行者は刀を振り上げた。
 
「イヌガミ!」
 
 新たに現れた女が大声をあげた。
 
「あら遅かったわね。もう死んだわ」
 
 呼びかけとほぼ同時に男は心臓を貫かれ絶命した。
 血だまりの中で肉塊が転がっている。
 
「惨いことを……」
 
 女は苦虫を噛み潰した。イヌガミはそれをおかしそうに軽やかに笑った。
 
「私は恨みを肩代わりしただけよ。斬られたくなければ最初から手を出すべきではないでしょう?」
「理屈は判ってる。でも」
「さようなら。独神様」
 
 逃げる時は祖である狼と同じ。どこまでも全力疾走が出来た。
 人の形をした独神はイヌガミには追いつけないのを判っているのか、追ってこないのが殆どだ。
 一ヵ月くらい前から、イヌガミが敵を処刑する場に独神が現れるようになった。
 こんなことはやめよう、と繰り返すので、何度か刀を振り回して追い払ったのだが、次の現場にも懲りずに現れる。
 しつこく現れるわりには、逃げても追ってこないし、斬る前には現れないのであまり気にせずにいた。
 
 また今晩も、復讐が叶わない者の代わりに恨みを晴らしてやった。
 大きな釜に犬を投げ入れ、熱さに飛び跳ねる様子をケラケラと笑って見ていた者を家屋ごと燃やし、命からがら外に出た瞬間に斬ってやった。
 普段ならそろそろ独神が現れるはずだ。
 
「……今日は遅いわね。まあいいわ」
 
 刀を振って付着した血を払い鞘に収めた。
 するとようやく独神が姿を見せた。
 
「遅かったわね。……なに」
「また先を越されちゃったね」
「怪我、してるじゃない。ドジでも踏んだの」
「まあね」
 
 独神の着物にはべったりと血が付着していた。
 帯が乱れ、胴体には刺傷がいくつもついている。
 死んでもおかしくない姿だ。
 
「……恨みをうけてるわね」
「独神なんてやってるとまあ、そういうものだね」
「じゃあそいつらの代わりに私があなたを殺してあげる」
「どーぞ」
「冗談だと思ったら大間違いよ」
 
 イヌガミは首目掛けて斬りかかる。
 しかし、空を切る。
 独神は刃の届かないギリギリのところに血をどくどくと流しながらも立っていた。
 地面には血で出来る移動の跡がない。
 
「普通なヤツのくせにやるわね。でも……!」
 
 イヌガミの斬撃は止まることを知らない。
 常人ならば細切れになっているところであるが、独神は幽霊のようにするすると避けた。
 
「そこっ!」
 
 イヌガミは何もない所で刀を振ると血しぶきが飛び散った。
 呻き声と同時に何もない空間から独神の身体が現れ、イヌガミはそれを蹴って上に乗りかかった。
 
「小賢しい術。でも遊びはおしまい」
 
 鋭い先端が独神の額を撫でた。
 くぱっと皮膚が開いてじわじわと血が染みだしてくる。
 そんな状況下でも独神は薄く笑みを湛えていた。
 イヌガミが刃を向ければ誰だって恐れで顔を引きつらせ、命乞いをしてくるものなのに。
 イヌガミは独神を面白いと思った。
 
「…………もし。もしもの話よ。あなたが私の恨みを背負うなら、見逃してあげるわ」
「無理だね」
 
 独神はきっぱりと断った。
 
「そう」
 
 興醒めである。用は済んだとイヌガミは刀を振り上げた。
 
「八百万界全土の恨みを受ける予定だもの。犬一匹が持つ恨みなんて小さすぎてあってもなくても変わんないわ」
 
 冗談なのか判らなかった。
 
「背負う前に今死ぬんじゃないかしら」
「死なないよ。全員の恨みが私に向くまで絶対に死ねない」
 
 独神の身体を見た。
 イヌガミがつけた傷よりも、知らない誰かが付けた傷の方がより多く、より深い。
 死に至る量の血は既に流れている。いつまでも独神は恐怖を見せない。狂人か。
 面白い人物である。ここで死んでしまうのは惜しい。
 
「恨みに潰される最期が見てみたいわ」
「じゃあ私たちの下へおいでよ。狗神」
 
 へんなニンゲン。
 着いて行こうと思ったのは、彼女が背負う恨みが心地良かったからだ。
 
「ねえ独神。どちらが多く恨まれるか勝負しましょう」
「いいね。負けないよ」
 
 彼女が背負う恨みは圧倒的で、イヌガミは一度だって勝てなかった。
 そしていつの間にか、イヌガミは彼女を「あるじ)様」と呼ぶようになった。
 恨みと血に塗れた彼女に可愛がられているとゆりかごにゆられている気分になる。
 
「私とあるじ)様は、一緒ね」
 
 狗の姫は今日も恨みの渦中で眠りにつく。
 
 
◆ヨリトモ
 
「ヨリトモ! ただいま!」
 
 襖を開けるなり大きな風呂敷包みをどすんと置いた独神は、その場にへにゃりと座り込んだ。
 
「おかえり。どうだった」
 
 ヨリトモは疲れ切った独神の代わりに襖を閉め、囲炉裏にかけていた鉄瓶でこぽこぽと茶を淹れる。
 
「んー。まあまあ大変だったよ。最終的には私たちの大勝利だったけどね!」
 
 受け取った茶を熱い熱いと言いながら、ずずずと啜った。
 
「はは。茶は逃げやしないのだからゆっくり……主君、怪我をしているのか」
「ああ大丈夫。ダイダラボッチが治してくれた。まだ治りきってないけどすぐだよ」
「そう怪我ばかりでは困るな」
「大丈夫だって。最近は治癒力も上がってて頼もしいよ」
「そうではないんだが」
 
 独神がヨリトモと恋仲になったのは一年くらい前である。
 何度も死地をくぐり抜けていると、お互いに気の置けない相手となり、その先へと関係を深めた。
 以来、独神はヨリトモの部屋で寝起きしていた。
 周囲の英傑達も次第に諦めがついて、今では二人の関係に口を出す者は殆どいない。
 けれど、ヨリトモは一度だって不安が消えたことがない。
 独神が誰かと遠征に行く度に同行する英傑達に嫉妬し、様々な疑いをかけている。
 
「主君。前に紅葉狩りにいきたいと言っていたよね。どうかな一緒に」
「うん行く行く!」
 
 約束を取り付けておけば、少なくともその日は自分だけの独神となり、安心できる。
 独神はヨリトモを裏切るようなことはしない。
 周囲はそう言うし、ヨリトモ自身もそう思っているが、心の底から思った事はない。
 独神もきっと────。きっと裏切る。
 ならばさっさと尻尾を出してくれ。
 
「わあいい天気。澄んでるから遠くまでよく見える」
 
 紅葉狩りに行くと留守番の英傑に伝えて無事に独神を連れ出したヨリトモ。
 急な斜面を恐れず身を乗り出して夢中になる独神を手招いた。
 
「こっちの方がよく見えるよ」
 
 無邪気に駆け寄る独神。
 つるっ。
 足を滑らせた。
 崖下へ真っ逆さま。
 ヨリトモは手を伸ばそうとするが、それよりも速く手を伸ばして救ったのはウシワカマルであった。
 
「またですか」
 
 冷ややかにヨリトモを二つの色の目で見た。
 独神はドキドキと鳴り続ける胸を抑えて息を整えた。
 
あるじ)様にお客様です。天狗と本殿へお帰り下さい」
「え!? 今から!? 今日は休みのつもりだったのに……しょうがない。判った。
 ヨリトモ、誘ってくれたのにごめんね。埋め合わせはまた」
 
 カラステングに抱えられ、独神は本殿へと帰っていく。
 
「……僕の目が黒いうちはあるじ)様を殺させませんよ」
 
 そう言い残し、ウシワカマルはクラマテングに引き上げられて、突風のように消えていった。
 一人残されたヨリトモはじくじくとした感情に飲み込まれていく。
 独神が崖下へ落ちていく時に、一瞬手を伸ばすことを躊躇ったのは認めるが、丁度良く独神を救ったウシワカマルへの疑いと怒りが圧倒的だった。
 きっと独神は裏ではウシワカマルと通じている。
 ヨリトモに命を狙われると勘づいてウシワカマルと天狗を配置した。
 やっぱり裏切っていた。よりによってあの化物と。
 そうに違いない。
 そうかもしれない。
 そうではないかもしれない。
 まさか、独神が自分を裏切るはずがない。今日はたまたまだ。
 たまたまでウシワカマルがこんな山奥に来るはずがない。
 やはり独神が裏切った。
 裏切っていない。
 裏切った。
 裏切っていない。
 裏切った。
 裏切った。
 裏切った。
 裏切っていない。
 
 …………もう、疲れた。
 
 証拠が必要だった。自分が楽になるために。
 確たる証拠を突き付けられれば、延々と疑う生活に終止符を打つことが出来る。
 そうしてヨリトモは考えた末、鏡づくりの女神であるイシコリドメに頭を下げた。
 
「いやです」
 
 すぐに断られた。
 
「多いんですよね。そういう方。ずっと監視してないと不安だって言って。私をなんだと思っているのかしら」
 
 イシコリドメの鏡は万物を映し出す。
 もっぱらタマノオヤと独神を監視していることは本殿の英傑なら誰でも知っている。
 
あるじ)様のことは見せません。……あるじ)様からは見せてやって欲しいとお願いされましたが、私は嫌ですよ」
「待ってくれ。主君が見せるように、君に頼んだというのか」
「うるせぇな! アタシの鏡はタマちゃんとあるじ)様を見るもの。他の奴になんざ貸さねぇよ!!」
 
 追い返されてしまった。
 出来ればここですぐに協力を得たかったのだが、致し方ない。
 ここからは手段を選ばない。
 
 イシコリドメがタマノオヤと仲が良く、時には態度が豹変するほど思い入れている。
 タマノオヤを使えば、イシコリドメはどうとでも動くだろう。
 タマノオヤと独神のみを見ていることを逆手に取り、ヨリトモはその他の者を操っていく。
 ウシワカマルを北へ追いやった時のように。
 毎日顔を合わせる独神にはいつもの笑顔を振りまき、欺き、タマノオヤを悪霊の巣窟へ一人で行くように仕向けることが出来た。
 あとは自分がタマノオヤを救い出せば貸しを作ることができ、鏡を使うことが出来る。
 ヨリトモは誕生日の贈り物を送られる前の時のように、期待に胸を高鳴らせて巣窟へと向かった。
 
「彼女ならいませんよ。残念でしたね」
 
 現場には横笛を優雅に吹く、憎い弟の姿があった。
 
「ウシワカマル……!」
「兄上、参りますよ」
 
 笛の音で自身の速度を上げたウシワカマルは愛刀「薄緑」を振りかぶる。
 ヨリトモは寸前のところでこれを防いだ。
 
「いつまで傷ついた顔を振り撒くつもりですか。情けない。これが僕の兄だとは」
 
 いつもの冷静さはどこへ行ったのか、かっとなってヨリトモは言い返した。
 
「お前のような弟さえいなければ」
 
 首を狙うが、軽やかなウシワカマルは難なく避ける。
 
「僕さえいなければ裏切られなかったと? あれはあなたの猜疑心が生み出したものですよ」
「その態度が昔から気に食わないんだ!」
「そうですね。だから優秀な僕よりも、おおらかで優しく心の広い主様がお好きなんですよね」
「そうだ。おまえなんかとは違う」
「ならば、疑う必要はありませんよね。僕とは違うのですから」
 
 霧のように消えた。妖術か。
 このように妖怪じみた所も気に食わないところの一つである。
 奇襲に備えて神経を張り巡らせていると、遠くから大きな足音が響いてくる。
 
「ヨリトモー! 大丈夫!? 怪我は?」
「主君……?」
 
 刀をすぐさま仕舞い、何もなかったように装った。
 
「悪霊たちがざわついているのにヨリトモが外へ出たって聞いたの。ここは危険だから早く戻りましょう」
 
 手を引く。
 ウシワカマルとの交戦は知らないように見える。
 試すつもりで尋ねた。
 
「主君……心配してくれるのか」
「当たり前でしょ!!!」
 
 余程心外だったのか泣きそうになりながら言った。
 
「最近本殿周りでも強力な悪霊が確認されてるの! 何かあったらどうするの!」
 
 みるみる顔を歪め、手で顔を覆う独神はヨリトモを心底心配していた。
 猜疑心の塊であるヨリトモもこの姿は胸を打った。
 
「主君。……色々すまなかった」
「一生懸命なのはいいけど、命あっての物種だからね。一人で乗り込もうだなんてだめだよ!」
 
 独神が純粋であるほど嫌な後悔が広がっていく。
 自分はいつまで経っても、他人を信じる強さを持たない。
 きっと独神には、信頼し合い寄り添い合える者といるのが良いのだろうが、手放す気など一切起きない。
 自己利益の追求に一生懸命な自分に嫌気がさすが、自分の性格は変えられそうにない。
 
「とにかく早く帰ろ」
 
 迷わず手を引く独神を、ヨリトモはこれからも疑い続ける。
 
 
◆ヤシャ
 
「足の腱が斬られてる。これで戦ってたなんて正気の沙汰じゃないわ」
「当たり前だ。独神サマの護衛なんだからな」
「人を呼びましょう。異論はないわね」
 
 こうして救援の合図を空に放った。
 特殊な香りが英傑達に届き、じきにやってくるだろう。
 
「ここで暫く休みましょう。結界は張っておいたから侵入者がいればすぐに判るわ」
 
 足以外にもヤシャは多くの傷を受けていた。
 
「出来る治療はここでしましょう。服を脱いでもらえるかしら」
「断る。独神サマの頼みでも。それに手当てくらい自分で出来る」
「駄目よ。それとも信用ならない?」
「そうじゃねえ。この傷は俺が不甲斐ないせいだ。なのに独神サマ直々に手当してもらっちゃ、これじゃ褒美だろ」
 
 独神はぽかんとし、そして薄く笑みを浮かべた。
 
「貴方でも冗談を言うのね」
 
 独神は手荷物から薬草や調合済みの薬を取り出した。
 
「……失礼するわね」
 
 ヤシャの目の前に膝立ちをし、怪我に触れないようにそっと着物を脱がせた。
 鍛え抜かれた上半身にはいくつもの刺し傷がある。
 傷口に残った棘を引き抜き、薬を塗って包帯を巻きつけた。
 厚い胸板に包帯を巻きつけるのに、独神は息がかかるくらいの距離まで近づいた。
 
「独神サマ。手が止まってる」
 
 ヤシャに指摘され、独神は治療を再開した。
 
(こんなに近くにいたんじゃ血が滾って、止まるもんも止まらねぇよ)
 
 肌を撫でる女の手に神経を尖らせてしまうが、無心を心掛けて自分を律する。
 この腕で抱きしめたくなる欲を何度も抑えつけた。
 治療が終わるころには、ヤシャは別の意味で疲れ切っていた。
 
「少し寝ていると良いわ。疲れたでしょ」
「眠れねぇよ。アンタの傍でなんか。……これ以上情けねぇ姿見せられねぇ」
「じゃあ見ないようにしてあげる」
 
 そう言って独神はヤシャの隣で横になるとすぐに寝息を立てだした。
 
(いくらなんでも早すぎるだろ)
 
 ヤシャは息を吐いた。
 
(信頼の証なのか。それとも俺なんざ相手にもならないってか)
 
 寝ている独神は無防備で、見ない方が良いのは判っているのに見てしまう。
 
(アンタと二人の任務なんて浮かれてたのかもな。この足さえなけりゃもっといられたのに)
 
 投げ出された手に目が吸い寄せられる。
 ここなら少しくらい良いかと、触りたいと思ってしまう自分に嫌悪する。
 
(アンタといると心地良かったはずなのに、最近は邪なこと考えてばかりでいけねえな)
 
 これも修行の一つだと考え、独神を見るのは止めた。
 このまま見続けていると制御できなくなるような気がして。
 
(アンタを守るのは俺だけでありたいが、こんなことばかり考えてるようじゃまだまだ鍛錬が足りねえな)
 
 暫くして独神は起きた。
 
「……ああ。まだ来てないんだ。ヤシャは少しは休んだ?」
「それなりにな」
「護衛だからってずっと起きてたんじゃないの?」
 
 その通りである。必死に心を殺している最中に、独神が息を漏らしてみたり、身じろぎをするので、むくむくと湧き上がる欲を叩き潰すのに忙しかった。
 
「ヤシャはほんと……真面目よね」
 
 何を思ったのか、独神はずりずりと膝をついてヤシャに近づいた。
 
「それ以上近づくな」
 
 ぴしゃりと言ったが退かない。
 
「おい。アンタに近づかれたら困るだろ」
「大丈夫だって」
 
 大丈夫なわけがないのだ。ぎりぎりの所に立っていたヤシャが踏み外すことは簡単だった。
 押し倒された独神の髪の毛が地面に広がった。
 後頭部の痛みに顔を歪める顔があり、その下へと視線を滑らせていくと、大きく上下する胸部があった。
 それらがヤシャの下にある。
 
「腕一本ありゃ、アンタを抑え込めるんだ。判ったら大人しくしててくれ」
「……判った」
 
 足を庇いながら起き上がる最中もヤシャには自己嫌悪が溢れていた。
 
(非力な独神様を力で抑え込もうとしやがって。この力は私利私欲で使っていいもんじゃねぇんだ)
 
 黙っているヤシャに独神が言った。
 
「ちょっと、いいかしら」
「なんだ」
「救援を呼んだのは、嘘なの」
「突然何言ってんだアンタ」
「どうしてだか判る?」
 
 どことなく真剣に言うので、ヤシャは真面目に考えた。
 
「……俺に、自分の無力さを教え込むため、か」
「全然違うでしょ!! そんなに厳しいっけ私!?」
 
 大きな溜息をついて項垂れた。
 
「あーあ。やっぱりズルイことは出来ないのね」
 
 もう一度、独神は空へ合図を送った。
 
「今度は本当に、すぐに救援が来るから」
 
 膝の上に顔を埋めた独神はその後は何も話さなかった。
 言った通り救援はすぐに駆け付けた。今まで待たせていたのはなんだったのか。
 それよりも救援の英傑達が妙なことを言っていた。
 
「ほら、何もなかったろ。二百界貨出しな」
「えー、そろそろ何かあってもいいでしょ」
 
 不審に思ったヤシャは、何の話か問いただしたが、誰も教えてくれなかった。
 
 
◆トラクマドウジ
 
「きゃああああ!!!! すっごおおい!!!! やったねえ!!!」
 
 飛び跳ねたかしら)がおれに抱きついてきた。
 いつものメンツと違う、筋肉が殆どない柔らかな肉が容赦なく形を変えて襲ってくる。
 これに少しでも触れたら、おれはまずいことになる。
 けど引き離さねえともっとまずいだろう。
 どうして良いのか全然判んねえ……。
 
「やったやった!! トラクマドウジ凄いじゃん!」
 
 ガキみたいに一点の曇りもなく笑って喜ぶかしら)の眩しさにおれは安心感を覚えた。
 独神ってやつは、結構子供っぽいところがあるらしい。
 触れることも剥がすことも出来ない中途半端なおれは、かしら)に身を任せた。
 ────あの時から、おれはあのひとを目で追うようになった。
 
 五千年に一度咲く花の蜜を注ぐと、死んだ森が復活する。
 そんな噂を聞いて、かしら)とおれたちは界力を失って荒廃した大地を復活させようとした。
 おれたちの動きを嗅ぎつけた悪霊に阻まれながらも、最後には蜜を入手し、森も復活した。
 説明すると大したことなさそうだが、いくつもの困難があって、それなりに骨の折れる依頼だった。
 小集団で何日も過ごしたせいか、解決した時には参加した英傑たちとは随分話せるようになったし、遠い存在と思っていたかしら)にも慣れ、かしら)もおれとの接し方が判ったようだった。
 
「トラクマドウジ!」
 
 あの一件以来、かしら)はよく話しかけてくるようになった。
 おれはいつもろくな返事ができないで、よく自己嫌悪に陥る。
 かしら)に気に入られていて羨ましいというヤツもいるがおれは素直に喜べない。
 
 おれは、かしら)のことが、物凄く苦手だから。
 確かに、あのひとはいいひとだ。
 シュテンドウジ様が認めるのも判る。
 えらぶらない。
 自己犠牲をいとわない。
 いつも明るい。
 人に好かれている。
 欠点が見当たらないのが欠点だ。
 
「さっき主人あるじびと)と何話してたんだ」
 
 こいつは確か、陰陽師のアシヤドウマン。
 隙あらばかしら)に言い寄っているがいつも振られている。
 厄介な事に、最近おれとかしら)の仲を怪しんでいるらしい。
 
「ただの確認だ。おれが以前討伐に行った漁村の最近の様子が気になるから何か知らないか、ってな」
「つまらん話だな。その手の話ならオレの主人あるじびと)と話しても構わないぞ」
「おれは別にかしら)と話したいわけじゃないんだが」
「なんだと。貴様羨ま、じゃない。なら貴様はそのままでいろよ。いいな? 絶対だぞ! それ以上仲を深めるんじゃないぞ!」
 
 何度も念を押しながら式神に乗ってどこかへ行った。
 あいつはなんでおれにわざわざ突っかかってくる。
 まさか嫉妬とか言わないでくれよ。
 ……なんて、おれなんかが、そんな対象になるわけないか。
 正直、その方が安心する。
 かしら)は凄いひとだから。手が届かない距離が丁度良い。
 
 
 *
 
 
 今晩はシュテンドウジ様の酒宴だ。
 鬼を集めて朝までぱーっと騒ぐから、他のヤツは結構楽しみにしている。
 おれはいつも通り少し離れた位置で呑む気でいたんだが、今回はなんとかしら)もいるらしい。
 
「呼ばれちゃった!」
 
 かしら)はさっそくシュテンドウジ様の隣に座って楽しそうに過ごしている。
 神代八傑に抜擢されたシュテンドウジ様と、稀代の秘術の使い手の独神の組み合わせは絵になって目を惹く。
 鬼ではないかしら)の参加には批判の声が集まってもおかしくないのだが、実際は鬼たちがいつも以上に浮足立ってかしら)に積極的に話しかけている。
 水を差す気はないが、相手は独神だって判ってんのかあいつらは。
 下世話な話や喧嘩の話なんてやめてくれよ。おれたちと違うんだぞ。
 そんな心配をよそに、かしら)は初めて顔を合わせる鬼たちに酒を注いで回って言葉を交わしている。
 本来なら注がれる立場なのに、かしら)はいつだって低姿勢を崩さない。
 鬼にはいない種類のひとだから珍しいのか、おれは何気なくかしら)のことをずっと目で追っていた。
 一人一人注いでいたかしら)はとうとうおれの所に来て止まった。
 ……しまった。さりげなく逃げれば良かった。
 
「こんばんは。どうして端っこにいるの。みんなあっちにいるのに」
「騒がしいのは苦手なんだ」
「あ。そっか」
 
 目を合わせずに答えるおれの隣にするっと腰を下ろした。
 気まずさに駆られておれは適当な言葉を発した。
 
「シュテンドウジ様は?」
「んー。さっきシュテンがおいたしたからもう知らなーい」
 
 そうだった。酔ったシュテンドウジ様がかしら)の足に触って怒られていた。
 神代八傑とは他の英傑達よりも別格に仲が良いらしいが、二人はそういう関係には至っていないらしい。
 少し、ほっとしている自分がいて、おれは慌てて立ち上がった。
 
「おれ、あっちに行く。シュテンドウジ様にまだ一度も酌してねえし」
「そっかそっか。いってらっしゃい」
 
 かしら)は何も気にしていない様子でおれを見送った。
 言葉通りシュテンドウジ様の酌に来ると、シュテンドウジ様は不思議そうに見回した。
 
かしら)は?」
 
 さっきまでいた所にはいなかった。
 誰かと話している様子もない。
 
「ま、あいつ朝早いからな」
 
 部屋に戻ったのだろうと結論付けたシュテンドウジ様はおれからの酒をぐびぐびと飲み干した。
 白い肌に赤味が差しているのが、手下のおれから見ても色気があって、そりゃ女が黙っちゃいないよなと改めて感じた。
 
「おまえさ、もうちょっとかしら)の相手してやれ。一応おれより偉いんだぞ」
 
 説教がまさか、かしら)のことだったので、おれは答えあぐねた。
 
「相手なら他に適任がいる」
 
 ようやく絞り出した答えだったが、シュテンドウジ様は他のヤツが持ってきた酒を飲むのに忙しくて聞いていないようだった。
 
 
 *
 
 
「トラクマドウジ! 今日は何してるの?」
 
 人気のない所で花の世話をしているというのに、多忙なはずのかしら)が顔を出してきた。
 おれが答えずとも、勝手に花の様子を眺めて、好き勝手な感想を話してくる。
 カネみたいだ。
 そのカネと決定的に違うのは、かしら)は鬼じゃない。
 かしら)が従える神代八傑のそのまた手下の英傑で、遠い遠い関係なはず。
 
かしら)はなんでおれに構うんだ」
 
 面白みのないおれに何度も話しかけてくる行動は理解出来ない。
 
「もっといい相手がいるだろ。カネとか、シュテンドウジ様とか。……人気の独神とおれじゃ合わないだろ」
 
 疑問をそのままぶつけたのは、きっとかしら)はいつものように軽く返してくれると思っていたからだ。
 それが甘えた考えであることは、すぐに判った。
 
「私じゃ、話しかけるのも駄目なんだ……」
 
 引きつった顔をしたかしら)は、目を泳がせて一目散に走りだした。
 すぐさま自分の発言を振りかえるが、おかしなところはないように思える。
 おれよりいい相手がいるのは、そうだろう。
 独神が人気なのも間違いない。
 おれに構う理由が判らないのだって、別におかしくはないだろう。
 
 いや。
 全部言い訳だ。
 悪くないと思いこもうとしている。
 突き放したような言い方がきっと、かしら)を傷つけた。
 おれのせいだ。
 あんなに悲しそうな顔、民が悪霊に殺された時くらいしかないぞ。
 罪悪感と驚きが入り混じったおれが佇んでいると、薬草を取りに来たクマドウジが不思議そうな顔をして尋ねてきた。
 
「さっきかしら)とすれ違ったよ。なにかあった?」
「……おれのせいだ」
「じゃあすぐ謝ってきなよ」
「しない。これで良かったんだ。かしら)もおれに余計な気を使わなくなって楽になる」
 
 おれに構っても良いことがないとこれで判っただろう。
 だから、このまま。このままでいい。
 おれとかしら)じゃ交わらないのが普通のことなんだから。
 
「それ、やらない理由を探してるだけだよ」
 
 いつものように笑いながらも、どこか棘がある言い方だった。
 
「いいから早くいっておいで。でないとみんなに言いふらすよ。トラが独神様を泣かしたぞ、ってね」
 
 クマドウジが背中を押してくれた。
 おれはさっきまでのあれこれを忘れて、かしら)を探し回り、なんとか見つけることが出来た。
 
かしら)
 
 無表情のかしら)はおれを一瞥すると、ふいと視線を逸らした。
 シュテンドウジ様がかしら)を怒らせた時もこんな感じだった。
 
「無理しなくていいよ。気にしなくていい。今後は間にひとを入れるようにする」
 
 帰れと言わんばかりに背中を向けてつっけんどんに言う。
 謝ることさえ拒否している。
 
「すまなかった。でもそうじゃないんだ」
「そういうのいいから」
 
 首を振りながら声を荒げる姿は初めて見るものだった。
 嫌な初めてだ。それもおれが原因でなんて。
 この場の収め方が一切判らず、おれは自棄になった。
 
「違う。眩しすぎるんだ。かしら)は」
 
 意味が判らない。続けて説明を足していく。
 
かしら)のことは尊敬してる。信用も。だからこそ気安く話しかけられて良いのか、落ち着かないんだ。おれなんかが」
 
 その後暫くの沈黙があった。
 引かれたのだろう。空気の重さに足を取られ、おれはどうする事も出来なかった。
 そして、かしら)がぽつりと話し始めた。
 
「……私。シュテンにお酒と可愛い女の子紹介するからって、酒宴に参加させてもらったの」
 
 シュテンドウジ様からの誘いじゃないのか。
 
「イバラキには協力しないとスズカと討伐に行かせるって。他の四天王は独神命令って言った。
 だから、全然尊敬されるひとじゃない。ずるいこと、たくさんしてる」
 
 かしら)はおれを振りかえり、意志の強い目でおれを睨んだ。
 真っ直ぐすぎる視線がおれに訴えている。
 今になって、シュテンドウジ様がした説教だとか、クマの言葉の意味がすっと胸に入ってきた。
 そうまでされて、さすがに卑屈には考えられない。
 
「イバラキはスズカゴゼンなんかに屈しない。四天王には独神命令を嫌がるやつもいない。
 シュテンドウジ様は……その条件なら満足してるだろう。
 嫌な気分になったやつが一人もいないのに、ずるいことも何もねえんじゃねえか……?」
 
 かしら)はぴくりとも反応しない。
 だったらもう降参だ。
 かしら)におれの秘密を打ち明けた。
 
「……かしら)に話しかけられて嬉しい……なんて、そんなこと表に出せるわけねえだろ。おれにとって、かしら)は特別なんだから」
 
 死ぬほどダサくてかしら)の顔がまともに見られない。
 すると、かしら)は、
 
「そうなの!? じゃあ、慣れる為にもっと話そうよ! それなら解決でしょ!?」
 
 そうじゃないと言う前に、本人はその気になってしまった。
 よほどおれと話したかったのか。いやいや、なんでおれは上から目線なんだよ。現実味が全くない。
 
「早速今晩部屋に行くね。逃げるのはなしね。約束だよ」
 
 一方的に約束を取り付けて、仕事に戻ってしまった。
 ……。
 ……。
 ……今、部屋に来るって言ったか?
 警戒心無さ過ぎねえか!?
 こんなことされたら勘違いもしたくなるだろ。
 
 かしら)がおれと仲良くしようとしてくれてるのは、勘違いじゃ、ないんだもんな……。
 おれも、かしら)に感謝するだけじゃなくて、話しても良いんだよな……?
 ……くそっ、顔が熱くなってきやがった!
 とりあえず、今晩は誰も部屋に来てくれるなよ。
 
 
◆イイナオトラ
 
「ちょっとー、遅いわよ。私を待たせてどうするの」
「ごめんね」
 
 大荷物を抱えたナオトラは山道を先に行く独神に謝罪した。
 ナオトラが追い付く頃には、二人とも山の頂上へと到着した。
 
「わあ……綺麗だね」
「そうね。でもこれはあくまでオマケだから」
 
 ナオトラから荷物を受け取り、独神は手早く本日の拠点を作った。
 二人は星を見に来たのだ。夜になり、敷いたゴザの上で空を見ながら寝転んだ。
 
「本当に綺麗ね。あのアマツミカボシが太鼓判を押しただけあるわ」
「そうだね。それにしても途中で悪霊に会わなくて良かったよ」
「まあね。……どうせ事前にアンタがやっちゃったんでしょ?」
「うーん。どうかな」
「嘘吐かなくて良いわよ。私だって褒められないことをしてるわけだし共犯でしょ」
 
 本来ならば危険が高まる今は、独神として本殿にこもらなければいけないところ、口煩い英傑達を言いくるめて遊びに来ている。
 ナオトラも昨日は本殿周りの見回りで、この付近を担当する英傑は別にいたはずだった。
 
「勝手な行動をして申し訳ありません。独神様」
「良いのよ。そもそもアンタじゃなかったら、ここに来れなかったんだから」
 
 放浪癖のある独神にはいつもナオトラがついていた。
 昔は注意ばかりで、強制的に連れ帰る役だったはずが、いつのまにか共に罪を犯す側へと回ってしまった。
 
「ナオトラも馬鹿ね。私なんかに仕えて。アンタはアンタでやることあるんじゃない?」
「そっちは滞りなく進んでいるよ」
「そ。じゃあ、遠慮なく連れ回せるわね」
 
 ナオトラは小さく笑うと独神の手を握った。
 
「僕はどこへでも行くよ。君がいるところが僕の居場所だから」
 
 
 *
 
 
「田舎に帰れってのが聞こえないわけ?」
 
 独神は舌打ち紛れにそう言った。
 
「でも独神さん。僕はずっと君を守るって決めたんだよ!」
「はいはいはいはい。それはもういいから」
「良くないよ!!」
 
 前のめりになる僕に、彼女はため息を吐き捨てた。
 
「ナオトラ、アンタの居場所へ帰りなさい。これは正式な解雇よ」
 
 こうして僕は、一生を捧げると誓った主に捨てられた。
 界帝を倒した後は、独神さんと毎日穏やかな日々を過ごせると思っていたのに。
 主を失い、すごすごと国に帰った僕は今、井伊谷の領主を務めている。
 僕が彼女に入れ込んでいたことをよく思っていなかった者たちに、井伊谷が内部から崩れそうになっていた事、彼女は知っていたのだろう。
 だから彼女は僕を自分から切り離し、一人で国に帰るように仕向けた。
 お陰で僕は反乱者をすぐに処分できたし、そのことで城内の支持も得られた。
 あれがなければ領主にはなれなかった。
 彼女の優しさを無駄にしないよう、僕は少しでも国が良くなるようにと奔走している。
 
 民や家臣を束ねる僕が、誰かに仕えていたことが遠い日のことのよう。
 イザナミ様。独神様。
 
 彼女らに引っ張られた数年、僕は多くの事を学んだ。
 苦手だった政治にも積極的に携わっている。
 上に立つ以上避けては通れない。だから進んで歩いて行く。
 彼女らが教えてくれた。
 自信がないことにも立ち向かう勇気を。
 
 イザナミ様の話はここまで届いている。
 イザナギ様とは相変わらず仲良く喧嘩をしているようで、時折八百万界が揺れることがある。
 冥府六傑の長としてのイザナミ様はいつも鋭さを身にまとっていて、少し触れるだけでも怪我しそうなくらい張り詰めていたが、今は誰でも気軽に話しかけられるくらいになったんだとか。
 先日もイザナミ様と話したと言っていた妖の子どもがいた。
 
 一方独神の話は何もなかった。
 家臣たちがその話題を出さなかっただけと思いきや、城下で尋ねても何も出てこなかった。
 本当になにもない。
 あの人のことだから、きっとどこでだって上手くやっているだろうと思う。
 自分の目で確かめたいが、僕から顔を見せることは出来ない。
 送り出してくれた彼女の為にも、せめて彼女に認められるような立派な領主になってからだ。
 そうして自分の気持ちを抑え込んで、井伊谷を治めていた。
 領主に本腰を入れてからは多忙を極め、彼女の顔を思い出すことも少なくなっていた。
 それがどうして、余裕が出来たのか、最近は寝ても覚めても彼女のことでいっぱいになる。
 ぶっきらぼうだけれど底抜けに優しい彼女。
 ナオトラと呼んでくれるのが好きだった。僕はいつも犬みたいに駆け寄った。
 彼女は。僕にだけ、と信じたいけれど、……唇に指を這わしてくることがあった。
 息を呑んで固まる僕を彼女は笑わない。悲しそうな顔をした。
 僕はそれを見ると胸が苦しくて、両手を掬って握った。
 冷たい指先が少しずつ温まっていくと、独神さんは、やっぱり悲しい顔をしながらも「ありがとう」と言う。
 僕は彼女の特別なのだと思っていたのに。
 平和になった途端に縁を失った。
 会いたい。君に会いたい。せめて一報が聞きたい。元気かどうか知りたい。
 もう一度「ナオトラ」と呼んで欲しい。
 家臣の手前、抑えつけて、隠していたけれど、やっぱり僕は君が好きだ。
 どこにも代わりはいない。僕は君が、良いんだ。
 
「行こう!」
 
 うじうじしていていられない。
 君はきっと自分からは会いに来ない。
 だから会いたいなら、僕が会いに行くべきなんだ。
 
 僕は井伊谷を飛び出した。
 勿論、信頼している家臣に留守は任せておいた。
 もう以前とは違って、僕が少し井伊谷にいないからといって僕の治世が転覆することはない。
 そうできるまでの信頼と実績を僕は積み上げた。
 
 一先ず僕は本殿を目指した。
 オノゴロ島に久しぶりに上陸し、住み慣れた本殿を訪れたが誰もいなかった。
 通りすがりの人に尋ねてみた。
 
「ああ。独神様がいたのなんてずっと昔の話さ。病気になったってね、療養で本土の方にいるはずだ」
「どこに!!!??」
「さあ。そこまでは」
 
 病気ってどういうことだろう。
 不安が渦巻いた。彼女を見て確かめない事には井伊谷にも帰れない。
 走って本土へ向かいたいところだが、僕は自身の感情を整理する為に茶屋に寄った。
 領主になってから、一英傑として動き回っていた頃とは異なり、まずは思考する癖がついた。
 僕の行動が数百人に影響を及ぼすことを常に意識し、感情に流されないように。今回の報は僕の中では大きな衝撃だったので、丁寧に処理する為にあえて場違いな店に入った。
 意識していなかったが、この茶屋は独神さんとよく行ったところだ。
 もっといい時に思い出に浸りたかったな。
 彼女との日々をじわじわと思い出しながら注文を取りにくるのを待った。
 
「いらっしゃいませ、ご注文は」
「じゃあ、これで」
 
 商品一覧から顔をあげた時、その人はいた。
 
「独神さん!」
「ナオトラ……」
 
 彼女は一目散に逃げだすが、僕が腕を掴む方が速い。
 
「待って! どうして僕を避けるの」
「井伊谷に帰りなさい。領主イイナオトラ」
「勿論帰るさ。けど、君と話してからだ」
 
 独神さんは周囲に目をやり、声を落とした。
 
「……で。私に何の用?」
「君に会いたかった。それだけさ」
「じゃあもういいわね」
 
 放すわけがない。
 
「ナオトラ。放しなさいよ」
「君はもう僕の主ではないよ。命令を聞くかどうかは僕が決める」
「生意気ね」
「君もね。昔と同じ、我儘で可愛いよ」
「……アンタのそれ、ほんと変わんないわね」
 
 張り詰めていた空気が苦笑によって解けていくのが判った。
 
「アンタ暇でしょ。あとで面貸しなさい」
 
 元主は真面目に給仕の仕事をこなした。
 彼女は来る客来る客笑顔を振りまいて僕は泣きたくなった。
 君は昔と変わらないんだね。
 君がいなくて、僕は変わったよ。
 
「お仕事お疲れ様」
「ナオトラも。待たせたわね。じゃ、ここからは気合い入れなさい」
 
 昔みたいに彼女の後を黙って着いて行く。
 村の外れにある食料の備蓄用の蔵に、貴重なお宝を隠しているそうだ。
 それを盗賊が狙っているらしいので被害が出る前にこらしめてやるんだとか。
 
「隠れて」
 
 指示の前に彼女を抱き寄せ、物陰に隠れた。
 
「……」
「……っ。ごめん、独神さん」
「別に。敵を見失わなければ良いわよ」
 
 とくとくと心音を響かせているのは僕だけではない。
 彼女も緊張している。
 それが嬉しいような恥ずかしいような気持ちで、僕は少し強く彼女を抱きしめ直した。
 
「ナオトラっ。集中しなさいよ」
「向こうは僕らに気づいてもないよ。距離も遠い。狙うなら盗みを終えた彼らが家屋の外に出てしばらくして、油断が見えてからだよ」
「そこまで考えてるならそういう顔しなさいよ……」
 
 小さく息を吐いて呆れるのも懐かしい。
 昔と同じく可愛いけれど、身体は僕の知るものじゃなかった。
 
「な、ナオトラ。や、いや。変な触り方。するんじゃない」
「独神さん。ちゃんと食べてる? 随分身体を絞ってるけどもっと均等に鍛えないと他の筋肉が支えきれないからね?」
「状況見なさいよ。そういうの後回しにして」
「判ってるけど、独神さんのこともっと知りたいんだよ」
「ばかばか盗人の方に注意を向けなさいよ」
 
 彼女は抱きしめる僕の腕を軽く叩いた。
 
「動き出した。追うわよ。出来るわね」
「勿論」
 
 彼女からの期待が僕の中で眠っていた決意を奮い立たせる。
 
「独神さんはここで待ってて。すぐに終わるから」
「私も行くに決まってるでしょ。アンタにさせるつもりで呼んでないから」
 
 僕は否定せず、飛び出した彼女の動きに合わせた。
 盗賊を前にして呪術で対抗する彼女を援護した。
 知らない間に、彼女は戦う術を身に着けていた。
 会わなかった間も彼女は彼女で生きていたのだなと、少し寂しく思いながらも僕は盗賊を全員気絶させた。
 彼女はすかさず盗品の確認を始めた。
 
「良かった。大丈夫そう。物は蔵に戻すから、ナオトラはこいつら見てて」
「了解」
 
 重い壺もしっかりとした足取りで運んでいく。
 身体を触った時に判ってはいたけれどしっかり筋力をつけたようだ。
 前はこういうの僕の仕事だったんだけどな。
 
「ねえ、君はこういうことを続けていたの? 英傑なしで?」
「当たり前でしょ。あの戦で尽くしてくれた英傑には相応の幸せを。
 もう二度と戦いには巻き込まない」
「でも、僕を巻き込んでくれたんだね」
「……別に。お人よしのアンタなら民の為って言えば聞くでしょ」
 
 民のためだけじゃないんだけど、今は黙っておいた。
 
「これで終わり。礼は言うわ。ありがと。じゃあね」
 
 そっけなく帰ろうとする彼女に僕は投げかけた。
 
「独神さん。君はいつまで八百万界のために続けるの」
「死ぬまで、よ」
 
 ああ、やっぱり君は────。
 
「ちょっと! 放しなさいよ!」
 
 殴られたって僕は彼女を放す気はなかった。
 
「井伊谷にきてくれ」
「いやよ。あんな田舎」
「京に比べれば田舎だけど、僕がいる」
「それの何が良いのよ」
「僕は君を助けたい。手伝いたいんだ!」
「大きなお世話よ」
「よく考えて。君は自己満足で動ければそれで良いの? 求める結果を出してこそだよね? 一人で出来ることなんて少ししかないんだよ? それでいいの?」
 
 イザナミ様も独神さんも常に最善・最速を常に求めていた。
 僕を理想主義者だと言って、呆れたような、嬉しそうな顔して笑ってた。
 今の独神さんの目的が民を助けることなら、全国に散った英傑たちに協力を仰ぐのが最善で最速なはず。
 
「自己満足で結構。次の予定があるから構わないでちょうだい」
「じゃあ僕がそこへついていくよ」
「来ないでよ。気持ち悪いわね」
「気持ち悪くもなるよ。君のことを放っておけないんだから」
「放っておきなさいって。アンタがすべきは井伊谷の人間たちの最大幸福を追求する事でしょ」
「うん。だから今やってる」
「どこが!」
「僕だって井伊谷の民だ。僕にも幸せになる権利がある。判るかい? 統治者だからと言って己を犠牲にしてはいけない。そうだろ? 独神さん」
 
 昔からずっと思ってた。
 君に伝えたかったことがある。
 
「僕の幸せのために井伊谷に来てくれ。君が井伊谷の民になるならば、僕は堂々と君を幸せに出来る」
「お生憎様さま。私、今でも十分幸せなんで」
「……本当に? 僕が知る独神さんは、笑顔に溢れていて、周囲の人も笑顔に溢れていたよ」
「ぼっちだって言いたいの? はいはいぼっちですよどうせ」
「君は僕以外にも、慕ってくれた英傑達を遠ざけたんだね。もう巻き込まないためかい?」
 
 君は、昔からどこか危うかった。
 僕たちへの愛が大きくて、自分より大事になってしまうって。
 そんな英傑への愛情が、君に一人を選ばせた。
 君は君の幸せを蔑ろにした。
 とびっきりの優しさで君は君を殺したんだ。
 
「…………。英傑はね、幸せにならなきゃいけないの。その為には私といるべきじゃないの」
 
 君はひとりだ。
 
「私が何をしようとしても、英傑のみんなはすぐ手伝ってくれちゃうでしょ。
 もうそういうのはいいの。彼らはちゃんと土地に根付いて、しっかり生きて行かないと。
 私なんかに振り回されてちゃ駄目なのよ」
「君らしいね。僕らのこと、ずっと考えてくれてた」
「当たり前でしょ。主なんだから」
 
 君は自分を不幸だと思っていない。
 本気で英傑の幸せを願った。
 それが僕は悲しいんだよ。
 
「あの時君が僕を退けたことで、僕は領主になれた。それなりにしっかりやってるよ。君一人を受け入れるくらい出来るくらいにね」
「本当に? 領主だから領主じゃないのよ。周囲に領主と認められて初めて領主なの」
「じゃあ見に来て。君の目で判断して。僕が尊敬する人を参考にして統治した。君がまだまだだと言うならば、領主として民に認められるよう更に努力するよ」
「…………。井伊谷って、どう行くのか教えなさいよ」
「任せて!」
 
 僕の今までを彼女に見てもらいたい。
 変わったこと、成長したところを知って欲しい。
 
「独神さん」
「ん?」
「君が愛した英傑達は、もう君がいなくても大丈夫だよ」
「……そっか。良かった」
 
 本当に喜んでいた。
 独神さんは僕ら英傑をどういう目で見ていたのか推し測ることしか出来ない。
 自分の秘術で産み出した者達をきっと子供の様に思っていたのだろうか。
 親として僕らの独り立ちを願っていた。
 と、僕は思うけど、違うかな。
 
「井伊谷って、いい所……? って、ナオトラが領主やってんだもんね。いいところに決まってる」
 
 まるで自分に言い聞かせるように独り言を呟いていた。
 晴れやかな笑顔を見ていると、彼女なりにふっきったのだろう。
 
「僕は民を幸せにするよ」
 
 独神さんはふんわりと笑った。
 
「お願いするわ」
 
 僕と彼女は同時に手を握った。
 指一本一本がしっかり絡むように、離れないように。
 
 
 
 ■■□―――――――――――――――――――□■■
 
 
●ヤト
 
 以前短編を書いた事から結構気に入ってるキャラ。
 タタリ神ってのがツボ。
 昔の日本を舞台にしたホラーに物凄く合うと思う。
 
 
●イッスンボウシ
 
 お椀に乗れるようなサイズで想像して書いた。
 がっつり夢路線にするなら、懐にいて独神を守るようなナイト系かなあ。
 なんで今回そうしなかったのかと言うと、今この文を書きながら思いついたからです。
 
 
●タワラトウタ
 
 不器用男にすると可愛いかなって。
 実験作。
 
 
●ウラシマタロウ
 
 オトヒメサマのいるところにウラシマタロウあり。
 だから今回はそうしないつもりだったけど出てきたよ。
 四角関係ラブコメ。
 
 
●キイチホウゲン
 
 人気があるのは判っていたし、担当声優好き。
 だからずっと遠ざかっていたキャラ。
 京都の英傑だから、長編にも出そうとしたんだけど上手くまとめられなかったな。
 
 
●キンシロウ
 
 英傑スカウト編。
 実際に独神やってたら、鶺鴒台・召喚台で出会うばかりじゃないよね、英傑って。
 噂を聞いて会いに行くのもあれば、あっちから本殿に訪れたり
 じわじわとゆっくり、何度も顔を合わせて、ある程度信頼値稼いでからの加入もリアルでいいなあ。
 
 
●カイヒメ
 
 実はわたくし「のぼうの城」好きでやんす。小説の方。
 ぬいぐるみの話ばっかりだから、カッコイイしっかりしたやつを頑張って書いた!
 ……つもりだったけど、どこかで道を間違えたらしい。
 強くあろうとする彼女を否定する話になってしまった。
 でも世の中の強者って、強くあろうとする者ばかりじゃないよねって。
 柔と剛。というか。
 
 
●アマノジャク
 
 よう。魔力1000の男。
 ステータスの上がり方最高だよ、お前。
 あとはゲンシンの卍傑伝承に出るのを覚えている。
 恋愛的なことは考えたことなかったけど、性格的に一般的な少女漫画の方向性で夢作れそう。
 なんだけど自分は捻くれているので、全然違う方向に行きました。まる。
 
 
●ナマハゲ
 
 方言わからんすぎるけん、全然書けんからいっそのこと方言全部なくしてしまやーええじゃんと思ったんよ。
 あとは折角言葉を奪うんじゃけん、ちょっと小難しいこともいれてみたで。
 東京行くと、方言=田舎モンの認識よね。
「かわいい」って言うけど、あれは下に見た方の意味じゃろ絶対。
 そう思うくらいに田舎モンの都会コンプレックスってめちゃくちゃあるんじゃ(ド偏見)
 ナマハゲ自身は自分の言葉が独神にもろくに伝わってないこと、どう思っとんじゃろうな。
 
 
●イヌガミ
 
 狗神自体は民族話でよく出る題材ってのもあって好き。
 でもヤンでデレな性格だから、逆ハー話には向かない。
 今回は独神も暗いタイプにした。
 
 
●ヨリトモ
 
 実は好き。夢的な意味ではなくキャラ設定が。好き。かなり好き。
 ウシワカマルが光る。ぴっかぴかに。
 あの浮世離れした男がヨリトモが出た瞬間に地に足がつくのとってもいい。
 兄弟の共演はヨリトモ的にはNGだろうけれど、書く方としてはお互いが引き立つので大ありなんだな。
 
 
●ヤシャ
 
 いけ~~~~ってヤキモキする感じ。
 己を抑えるタイプだから、心の中ではめちゃくちゃ考えてるくせに行動してこない。
 同意がないから動いてこないけれど、多分偶には同意なしでぐっと攻めてくる。
 無理やり迫ってくる展開って、今の時代NG出す人多いかなと思ったりして、やっていいのか悩む。
 
 
●トラクマドウジ
 
 ちょこちょこ書く機会がある。
 でもまだ表面上しか判っていないから、ちゃんと掘り下げたいわ。
 私の手にかかると暗くなってしまうから、なんかこう……良い感じに出来るようになりたい。
 
 
●イイナオトラ
 
 カイヒメと似ている。
 だからどこで差別化をはかるかだよね。
 領主成分を強くしてみました。




(20231213)