全英傑で小話を書いてみた ~双代鬼人編~



◆マカミ

別名、大口真神《おおくちのまかみ》。
大きな口をしている狼を意味する。
獣ながら人語を理解し、善悪を嗅ぎ分け悪なる者をその大口で食らう。

……知らんけど。

「長《おさ》! 討伐終わったよ!」

よ~しよしよし。
駆け寄る狼っ娘の狼耳の付け根を揉むように撫でると、とろけるような顔でにまにまと笑う。

可愛い。

山の神だとか、ニホンオオカミだとか、まことの神だとか、そんなんどうでもいい。

「えへへ。長《おさ》、気持ちいい」

可愛い。
それに尽きる。
狼は犬の祖であり、基本的には同じ扱いを好む。
こうやって撫で回すと喜ぶのだ。

「……? どした?」

にこにこしたまま、マカミは頭を撫でていた私の手を取った。
じーっと見て、はぐっ、と噛んだ。

「っ!?」

本気噛みではないが、可愛い顔からは想像出来ない肉食獣の鋭い牙を突き立てられて流石に驚いた。
尻尾はいつも通りぶんぶんと振っているので怒っているわけではないようだ。

「怒ってる……?」
「怒ってないよ?」

がぶがぶ。
結構痛い。だが本当に怒ってないっぽい。
赤子が歯が生える時に歯茎が痒くなるから噛みたくなるって聞くけど、そういう感じなのかな。
と、あまり深くは考えなかった。

「一緒に寝よー」

その夜、マカミが私の部屋にやってきた。
私はまさに寝る所で、蒲団に入って天井を見ていたところだった。
年季の入った天井を背景にマカミがにゅっと出てくる。
近……。
謎の威圧感を受けていると、マカミは私の上で四つん這いになった。

「……へ?」
「長《おさ》。ぼく、長の子、作れるよ」

人を跨いだまま服を脱ぎ始めた。
一枚羽織って帯を結んだだけの簡素な纏いを放り投げる。

「作ろ?」

すっぽんぽんの妖精は微笑んで、今度は私の服を脱がし始めた。

いやいやいやいや。

こちとら恐怖しかない。
長と気持ち良いことしたいな。ではなく、マカミの場合ガチの子作りだ。

「えーっとですねえ、独神っていうのはーひぃやぁ!?」

乳をなめられた。ざらついた舌が獣過ぎて、捕食感が凄い。

「大丈夫。長《おさ》がそういう気持ちになるように、してあげる」

マジか────かくなる上は、

「出合え! 出合え! 男連中は来ないで!」

 一瞬ジライヤと目があった気がするが、すぐに消え、代わりにツナデが現れ、マカミを羽交い絞めにした。

「がるがる」

ナメクジも私をマカミと引き離す手伝いをしてくれた。
ぬめぬめぬめ。
私の蒲団……今夜使えないな。

「ぼく、長《おさ》の子欲しい! 強い長《おさ》はもっと、子供作るべき!」

その主張は判らんでもない。
私みたいなキショーでサイキョーの存在は、さっさと子作りして個体数を増やすのが自然界では当たり前。
いくら強かろうと子を残せなければ絶滅するのが理。
実際、強いとされる狼は個体数を減らし続けている。
だから、マカミが私の子を欲しがるのも当然だ。

「マカミ……。マカミの気持ちは判った。でも私の気持ちも判ってくれないかな」
「長《おさ》…………」

耳が垂れてしゅんとしているが、私の方はしっかり見ている。
聞く体勢が整っていることを確認して、私は言った。

「私は、まだ子供は欲しくない」

悲しそうな顔をされてしまったが、私は続ける。

「マカミとの子なんて絶対可愛いと思う。それに野性的で強そう! でも、今は大事なひとを増やしたくない。子供なんていたらきっと、私は独神としての正常な判断が出来なくなる」
「でも長《おさ》が死んだら困る! 子がいれば、子が長《おさ》の意思を継ぐことができる!」
「継げないよ。子供にこの役目は継がせられない。子供は親の負債を背負わす為にいるんじゃないんだよ」

英傑の血をまぜまぜして次世代の英傑の魂紡いでいるくせして、矛盾した主張だ。
神代の英傑が出来なかったことを桜代に、双代に。
悪霊を倒してくれと逃れられない運命を強いている。

……てのは詭弁で。
実際はこんなにチヤホヤされる状況なんて、人生で多分今だけなのに、恋人とか! 伴侶とか!
この大奥な状況をみすみす捨てるような真似出来るものか。

「判った。長《おさ》の気持ちも大事にする。長《おさ》がぼくを大事にするように」

よっしゃ!
これで私の貞操は守られた。
それに明日からも英傑達に言い寄ってもらえる。

「マカミはイイコだね~」

撫でるといつものように満足そうにしていたので、後腐れはないだろう。

次の夜。
布団を捲るとマカミがいた。

「長《おさ》が気持ちよく寝られるように。きた!」

昨晩と違って襲ってくる感じはなく、身体に腕を回せと催促するので、言われたようにした。
もふもふとふにふにの抱き枕は、夜のお供には丁度いい。

ふに。
ふに。
ふにふに。

この抱き枕、柔らかいのは良いけれど、柔らかすぎる。
そろそろ寝落ちしそう、という時に変なところを触ってしまうと。

「っ。長《おさ》ぁ……」

気高い狼が情けない声を出す。その度に私は眠気が吹っ飛んだ。
このまま夜戦に入ろうとしても。

「長《おさ》、言ってた。子は作らない。だからぼく、長を困らせないように寝るね。他の英傑が長《おさ》にちょっかいかけるから、ぼくがちゃんと守る!」

鬼人の怪力で私の手首を握って、あんなこともこんなことも出来ないように防がれてしまう。
それに他の英傑の侵入を拒む番犬役までしてくれるお陰で誰とも夜戦出来ない。

うーん。

もしかして、戦が終わるまで私は禁欲生活なのだろうか?
私の英傑たちとのどきどきわくわく生活は?
え? もうおしまい?
なんで!?
どうしてこうなった!?




◆イナバ




ちょっとした出来心だった。

最近いたずらだって我慢してた。
なのに、主《ぬし》さんってば、私じゃないこばっかり褒めるから。
ねえ、私だって討伐頑張ったよ。
鎌で切られそうになったけど、華麗に避けたよ。
偉いでしょ。
なのに、主さんってば、怪我したこばっかり心配するから。
鮮やかな身のこなしに自分でもすごっ! って思うくらいなのに。
出来たことは褒めてくれないんだー。

だから、出来心。
主《ぬし》さんの部屋にこっそり入って、中を見ちゃえ!
泥棒するわけじゃないよ。見るだけ。だからちょっとくらい良いよね。
どうせ主《ぬし》さんはやましいことなんて全然ないんだろうし。

こういうのはまず、定番の引き出しから。
筆記用具ばかりで面白みはなかったけど、主《ぬし》さんらしくて笑っちゃった。
でもね、一つだけ。気になる首飾りを見つけた。
つけているところは見たことない。
主《ぬし》さんって耳飾りはよくつけるけれど、首はない。
なんでも襲われた時にそれで首を絞められちゃうのが嫌だからだって。

そんな主《ぬし》さんの日常にないはず首飾りは、先端の飾りが金属製の楕円型をしていて、つつくと上蓋が開いた。
中にあるのは写真だった。タマノオヤがぱしゃぱしゃしてるアレ。
映っているのは、私の恩人。
オオクニヌシさん。

これ見て賢い私は判っちゃった。
主《ぬし》さんはオオクニさんが好きだって。
つけない首飾りの中に写真をしまってるってそういうことでしょ。
でもオオクニさんはいい神《ひと》だから、他の変な酒乱とか、戦闘狂いとか選ぶよりは絶対に良いよ!

────ちくっ

あれ?
今嫌な音がした。気のせい、かな。

私は首飾りを元通りにしまった。
誰にも見られないようにそっと部屋から出る。
折角いたずらしたのに、私は全然わくわくしてない。
調子狂っちゃうな……。

それから私は、主《ぬし》さんを見つける度に、ずっと目で追っている。
オオクニさんと話すところを見ると、胸の中がじわじわ締め付けられるのにやめられない。
幸い、オオクニさんは主《ぬし》さんとは三日に一度くらいしか話さない。
だから私の嫌な感じも一週間に二度の頻度で済んでいる。

誰も隣にいない、一人の主《ぬし》さんを見る間は楽しい。
笑ってることが多くて、たまに出てくる怒り顔はちょっと怖いけど。

「めちゃくちゃ視線感じるんだけどどしたの?」

執務室に入ったら、主《ぬし》さんが怒り顔で迫ってきた。

「ここ最近ず~~~~~と私見てない? 忍の報告じゃないよ。私が自力で判ったんだからね。さすがに注目されるのが仕事の私でもこの熱視線は火傷するよ」

かなり苛々しているのが判る。
溜めて溜めて爆発するのがいつもの流れだが、まさか私の所で爆発させてしまうなんて運がない。

「勘違い、じゃないかな? えへ」

とりあえず誤魔化してみるけれど、冷たい視線に薙ぎ払われた。

「……私、主《ぬし》さんに文句があるとか、そういうのじゃないんだよ?」
「それで?」

詰問をやめてはくれないけれど、少し雰囲気が弛緩した。
なんでも聞いてくれる態度になっている。
でも、言いたくないなあ……。

「オオクニさん、…………知ってるよね?」
「そりゃ勿論」
「オオクニさんって良いひと。だよ?」
「まあ、そうだね。頼りがいあるし、気配りも上手いよね」
「……でも奥さんが多くて、今でもふらふらしてる」
「らしいね。私は奥方に挨拶したことないからよくは知らないけど」

うわああ………。
私、なんでオオクニさんを下げるようなこと言っちゃってるの。
恩人なのに。

「奥さんに会った? 何か言われた?」

今度は心配してくれる。
主《ぬし》さんは優しいな。
今の時間は、私だけを見てくれる。
……でも、こんなの嬉しくないよ。

「主《ぬし》さん、なんでオオクニさんの写真大事にしてるの?」
「……はい?」

とぼけなくたって、私は知ってる。

「首飾りの中! オオクニさんの写真入れてるの知ってるんだからね! なんで入れてるの!!」

私は全部知ってる。
だから、教えて。
オオクニさんを好きだって言って。
痛いのは判ってるけど、皮を剥がされた時よりは絶対痛くないはず。
だから早く、この痛いのは終わらせてしまいたい!

「……ああ! あれか!」

手を打った。
思い出せてすっきりしたのか笑っている。

「オオクニヌシって、スサノヲの酷すぎる嫌がらせから逃げ切って目的を成したでしょ? 私もその幸運にあやかろうと思って持ってるの。私もオオクニヌシみたいに、悪霊にどんな目にあわされても最後には勝つ気だからね!」

大口開けて豪快に笑っている。

「それじゃあ、オオクニさんの事、好きなんじゃないの?」

とうとう、言ってしまった。
これ以上もやもやさせられるのが嫌で、つい。

「大量に奥さんがいるひとは嫌だよ。序列とか面倒くさそうじゃん」

心底嫌そうな顔をして言う。
主《ぬし》さんは普段から他人に揉まれている分、何もない時は気を遣わず静かに過ごしたいと普段零している。
だから、本当に面倒くさいんだと思う。

あれあれ。
身体が勝手にぴょんぴょん跳ねちゃう!
主《ぬし》さん、オオクニさんが好きじゃないんだ!!!
嬉しい!!!
なあんだ。
もう主《ぬし》さんったら、私を振り回すなんて酷いよ!

「……でもなんで知ってるの? おかしいよね。引き出しに入れっぱなしなのに」
「げ」

せっかく鎮火してたのに、主《ぬし》さんは黒い笑みを浮かべた。

「なんだか私ウサギ鍋が食べたくなっちゃった」

じりじりと迫りくる主《ぬし》さん。
ここは逃げるっきゃないよ!

「こら! イナバ!」

へへーんだ。
主《ぬし》さんが追いかけたところでウサギに敵いっこないよ。
それに私、今すっごく良い気分だから。
絶対に捕まらないよ!
 


◆ホウイチ




怪しげな小間物屋。
八百万界には無数にあるので、いわば普通の店とも言える。
だがやっぱり怪しいのは怪しいので、不穏な噂がある時には英傑達がしらみつぶしに調査する。

最近アベノセイメイが報告した事案は、表向きは剥製屋のいかにも怪しげな店で、調査の結果白だった。
ところが不信を拭えない忍が独断で調査を続けると、剥製屋が取引する剥製の中に新型の悪霊が入っており、剥製屋は知らず知らずのうちに新型悪霊を剥製を買う富裕層の下へ配ってしまったのだ。

これには対処に難儀した。
取引先を剥製屋が帳簿にまとめていたとはいえ、上は蝦夷、下は琉球と広範囲に渡っていて、英傑達が全国に分散して独神の警備が薄くなると零していた。

八百万界側は独神をとられたら終わりである。
英傑の一人であるホウイチは自主的に見回りをした。
怪しいと思う場所には迷わず足を踏み入れた。

そのひとつが、都のはずれにぽつんと営業している古道具屋だった。店主は女一人で、中は所狭しと古い道具が並んでいる匂いがした。
ホウイチがじろじろと商品の雰囲気を感じ取っていると、女主人が話しかけてきた。

「盲の者ですね。……その両目、わたくしなら見えるようにしてさしあげますよ」
「馬鹿を言うな」

ホウイチは先天盲である。
機能をしたことがない視覚が取り戻せるはずがないと突っぱねた。

「出来ますよ。わたくしは奇跡を起こせる魔術を使います。夢物語でさえ現実に」

今までのホウイチならば一蹴して琵琶をかき鳴らしていたことだろう。
だが独神陣営についたことで、己が不可能と思っていることを可能にする術者たちがごろごろといる現実を知った。
恵まれた環境を得た弊害で、与太話を信じる隙が生じた。

「対価はなんだ。強い呪術にはつきものだろう」
「話が早くて助かります。この術は、あなたの今までの人生を取り戻すに等しいことです。よって、あなたが命と同等と考える、そのお手元の琵琶を捧げる必要があります」
「……琵琶、だけか?」
「物質的な話ではありません。琵琶を二度と奏でられなくなります」

予想通り、ホウイチにとって大きすぎる対価である。

仮に目が見えたところで、琵琶のない自分に何の価値があるだろう。
琵琶は己の人生の集大成。
それを投げうって視覚の入手を迷うのは、独神が関係していた。

周囲から独神の形を聞かされる度に頭の中で形を練り上げた。
だが「美しい」の形は判らない。
「色」を知らない。髪も瞳も色は想像だ。
先天盲の限界だった。
いくらでも独神を想像出来たが、答え合わせの機会はない。
そこにあるのに、幻のようなものだ。

すぐには決められないと言って本殿に戻った。
英傑達の馬鹿騒ぎを聞きながら、想像していた。

「おや、どうかなさいました」
「セイメイさんか」

本殿随一の陰陽師である。
というともう一人の陰陽師がうるさいがそれは置いておく。

「聞きたいんだが、あんた程の陰陽師なら、おれの視力を取り戻すことは出来るのか?」
「ええ。寝起きでも出来ます」

思わずホウイチも声を漏らした。

「ですが致しません」
「まあ、おれとあんたの間にそんな義理もないからな」
「違います」

きっぱりと言った。

「まず、貴方がその質問をしたのはどうしてか、聞いてもよろしいですか?」

ホウイチは古道具屋のことを話した。
セイメイは聞き終えると、僅かに笑っていた。

「貴方でも悩むのですね」

独神が絡まなければ悩むことはなかったが、その事は伏せた。

「私は貴方の琵琶、好きですよ。戦い方は暴力的であまり好きではありませんが、琵琶の音は繊細で心の奥底に仕舞ったものに訴えかけてくる。私は貴方を知りませんが、琵琶の音から貴方の魂が見えるようです。きっと主人も、貴方の琵琶が無くなることを良しとしませんよ」

自分の琵琶を求めているひとが身近にいた。

「あとは……。そうそう。貴方はご存知ですか。私、顔が良いそうですよ」
「らしいな。おれには判らんがな。……おまえは……そうだな……おれにはこう見える」

慣れた手つきで琵琶を弾いた。
世界にうっすらと現れるアベノセイメイの形を音で形作る。

「とまあ、こんな感じだな」

物を形容する言葉は知識として知っているだけの自分と、健常者の間には言葉の認識に大きな差がある。
心で捉えたものを音にするのが、過不足なく伝えられる「言葉」だ。

「そういうところですよ」
「なにがだ」
「容姿を褒められても心は明鏡止水の如く揺れ動きませんが、貴方の琵琶だと油揚げが欲しくなります」
「油揚げぇ……?」
「では行って参ります」

意味が判らないが本人は弾むような足取りで行った。
すっきりとしたホウイチは古道具屋へ走り、店主には術を受けないことを伝えた。
店主は「構いませんよ」と言ってそれ以上すすめることはなかった。

本殿に戻ると独神が呼んでいたと伝えられ、執務室へと向かった。
独神は「ああ」と軽く声をかけてきた。

「熱心に見回りしてるって聞いたよ。どう? 怪しい場所でも見つけた?」
「いいや。それだがな……」

古道具屋のことを話してやった。

「ははははっ!!」

独神は大笑いだった。

「……確かに、おれは間抜けだったかもしれない。しかし笑いすぎやしないか?」
「あはは、ごめんごめん」

数度の呼吸音が聞こえた。
胸のあたりが大きく動いているのが空気の振動で感じられる。
声を出さずに笑っているようだ。

「いやー、琵琶と張りあえる日が来るとは思わなかったよ」
「なに」
「だから、び・わ。嫌いなわけじゃないよ。凄い奏者だと思ってるし、良い時もある。でも、琵琶を聞かせてた、って言って、私と出かける約束をすっぽかしたりするじゃん」

断じて悪気はないのだが、そういう時もある。
これでも二回に一回のところ、四回に一回約束を破るまでに改善した。

「私はもっと見て回りたいのに、琵琶を聞かせるのに忙しいって、放置される事も多いし」

こちらはあまり改善が見られない。
気分が乗ってしまうと周囲が見えなくなるのは奏者として悪いことではない。

「たまにムカついてた」

当然のことである。
寧ろ”たまに”で済んでいるのは独神の心の広さ故である。

「まあでも、今回ので許してあげる」

満足そうな声色をしていた。
ホウイチはふと尋ねた。

「主《あるじ》は琵琶の弾けないおれをどう思う」

独神は答えた。

「つまんない」

今度はホウイチが噴き出す番だった。



◆ボロボロトン




俺には友達がいなかった。
人の家に泊まらせてもらって、その蒲団の生気を吸って生きている三流妖。
おまけに、暗くて引っ込み思案な性格。
畏れられることもなければ、親しまれることもない。

そんな妖は八百万界に数えきれないほどいる。
だからこんな俺でも、自信はないなりにそれなりの毎日を過ごしていた。
変わったのは、悪霊に襲われたところを独神様(と連れていた英傑)に助けられてからだ。
目の前でばしばし悪霊を倒していく英傑を率いる独神様はかっこよかった。
俺も手伝いたいと身の程知らずな頼みにも二つ返事で了承してくれた。

そして訪れた本殿。
各地の英傑達が集まって、のびのびと暮らしていた。
俺みたいな弱い妖を仲間だと言って受け入れてくれて、楽しい行事にも誘ってもらった。

でも、友達、と言えるのは独神様である、主《あるじ》だけだった。
英傑は優しいひとたちが多かったけれど、強いひとが多くて俺は尻込みして、劣等感を膨らませていた。
一人の方が良かったと言いきれないのは、主《あるじ》の存在だ。

主《あるじ》は俺にとっては太陽のようで、いつも傍にいたいと思った。
血迷った俺が「友達になりたい」と言うと「良いよ」と返してくれた。

主《あるじ》は友達。唯一の友達。

でも、主《あるじ》の友達は俺以外にもたくさんいる。
主《あるじ》は素敵なひとだから。

英傑はみんな、主《あるじ》が好きだ。
俺も、主《あるじ》が好きだ。

主《あるじ》……………。

俺はだんだんと主《あるじ》の言葉が自分の気持ちに馴染まなくなって、出来るだけ「あなた」と言うようにした。
主《あるじ》は気にしていないようだった。
他の英傑でも「あなた」や「お前」と言うから、それと同じだと思っているのだろう。

同じと思われるのは切ない。

主《あるじ》といると嬉しいはずなのに、最近は悲しいことの方が多い。
笑っている主《あるじ》をみるとぎゅって胸が痛くなる。
どうして。その相手は俺じゃないの。
俺よりも他の人の方が良いの。

俺へのあてつけのように思えてくる。
そんなことない。主《あるじ》は仕事。
色々なひとの話を聞いて、困っているひとを助ける仕事。
だから俺だけと話して、なんて無理だ。
でも、もしかしたら。
主《あるじ》は優しいから。
試したくなる。

あなたがどこまで許してくれるか、知りたい。

主《あるじ》の気持ちを聞きに行った俺は、執務室に佇む主《あるじ》を見た途端、「綺麗だな」なんてのんきな事を思った。
それが災いして自分の足に躓き、助けようとしてくれた主《あるじ》を床に押し倒してしまった。

「ごめん主《あるじ》!」

俺の一尺ほど下に主《あるじ》がいた。
俺の手のひらの横に主《あるじ》の顔があって、その髪が俺の手に絡んだ。
近くで見ると主《あるじ》は英傑達よりはずっと小さかった。
てきぱきと指示をする姿はあんなに大きかったのに。
身体を見ていると、胸が山形なことに気づいた。
主《あるじ》は女の子だった。
かっこいいひととばかり思っていた。

俺は恐る恐る、主《あるじ》の顔を見た。
赤くなった顔で俺を見上げていた。
俺と目が合ったらすぐに逸らしてしまった。
まるで自分を見ているようだった。
いつもびくびくしてしまう俺と同じ。
蛇に睨まれたカエル。

カエルのはずの俺は、困っている主《あるじ》を見て可愛いと思った。
感じたことのない高ぶりを感じた。

「あなたでも、そんな顔するんだね」

主《あるじ》不機嫌そうに、

「……するよ」

と言った。相変わらず俺の方は見てくれない。
見てもらえないのに、なぜだか俺は嫌じゃなくて。

「他の人の前でそんな顔しないで」

誰にも見せたくない。見られたくないと思った。

「可愛いから。絶対好きになっちゃうから。これ以上人気者にならないで」

主《あるじ》をとられたくない。

「あなたは、俺のものなんだ」

……あ。あれ。
俺、今……なんて。
主《あるじ》を、俺のって。

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。お、俺、さっきのは、忘れて、主《あるじ》を物扱いなんて」
「なってもいいよ。君の物に」

耳を疑った。

「条件はあるけど。……聞く?」
「聞く」

可能性が万に一つでもあるなら。

「私以外の娘《こ》と遊んじゃ駄目」
「……えっ!? そんな簡単で良いの!?」
「できるの? できないの?」

さっきまでか弱かった主《あるじ》が威圧的に詰め寄って来た。
自分が返事にもたついたからだと俺は急いだ。

「でででできましゅ!」

どもってしまったし噛んでしまった。

「じゃあ、私は君の物だ」

あっさりと言い放った。

「それで、どうする?」

もう主《あるじ》は、いつものかっこいいひとだった。
畏れ多くて俺は急いで主《あるじ》の上から下りた。

「…………」

俺の行動は間違っていないはず。
なのに、主《あるじ》が物凄く睨んでいるのは何故だろう。
ひええ。ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。

「……はぁ。先は長いな」

た、溜息まで!
俺、何しちゃったの!?
 


◆ベンケイ




鏡の中の私は、自分で言うのは恥ずかしいけれどいつもより綺麗だった。
化粧はイズモノオクニがしてくれた。
衣装は針仕事が得意な英傑達が縫ってくれた。
今日は特別な日。

結婚式だ。

ここまで来るのは長い道のりだった。
あくる日もあくる日も死闘に死闘。そしてめでたく私の花婿になったのはベンケイである。
私は、周囲の者たちには私が同意しているのに文句を言うなと言ったのだが、ベンケイは律儀にも異を唱えた英傑を全員倒した。
おかげで結婚は延びた。
一試合ごとに怪我もすごかったので、治療期間も長くて、治ったらすぐ試合……ってほんと馬鹿みたい。
でも譲れないと言われれば、私もはいはいと従うしかない。

「そろそろ、様子を見てきてはどう? 座頭の姿を見ればあの朴念仁も動揺するんじゃない?」

イズモノオクニの言葉に私もじわじわと期待感が高まった。
どんな反応してくれるだろう。
早速控室へ見に行った。

「その回転の遅さで主《あるじ》様に恥をかかせないと何故言える。主《あるじ》様を愚弄する気かベンケイ」

あ、怒られている。

「勝負では僕に勝った。だがあの時点では、だ。今後も精進し続けなければ、八百万界の宝である独神は守れない。違うか?」

この説教は長々行われていたのだろうと思われる。
打破する為に私は部屋に入った。

「主《あるじ》様」

私を見たウシワカマルは口を噤んだ。

「今日くらい容赦してやってよ。うちの旦那時々繊細なの。結婚式にウシワカを呼ぶかどうかで一週間悩んでた男よ」
「小さいな、ベンケイ」

笑われて憤っているが、ちゃんと耐えている。偉い。

「ウシワカも心配しなくて良いよ。ベンケイはちゃんと私の夫でいてくれてるよ」
「主《あるじ》様がそうおっしゃるなら、この場はこれにて退きましょう」

あっさりと去って行った。
式の前だというのに、ベンケイはげっそりとしている。

「ベンケイも大変ね。ウシワカのことまだ気にして」
「私は元々ウシワカマル様にお仕えしていた身だから当然のことだ」

当然、という割には割り切れていないような素振りを見せる。
ウシワカマルが私に仕えている以上、私の結婚に意を唱えることは出来ない。
ウシワカマルの家来も、私の統治下だからだ。

「ウシワカマル様にも考えがあるのだろう。私は最後まで付き合う所存だ」

良い臣下をもったものだ。主としてほんのり嫉妬する。
私たちはウシワカマルのいびりが、性悪なだけではないことを理解している。

私たちの門出が寂しいのもあるだろう。
家族に対する考えも含む事があるだろう。
単純にベンケイを突きまわしたいのもあるだろう。
独神の伴侶の重みを判らせたいのもあるだろう。

私に対して……ほんのり寂しさのような、諦めのような、凄く静かな空気も感じる。
お互いに触れないから、それがどんなものかは判らないけれど、一生知らないで良いものだと感じている。

「上様にはまだ迷惑をかけるが、今しばらく時間を頂きたい」
「いーよ。だって私、二人の主だもん」
「恩に着る」

結婚しても、独神として主としての私は継続する。
ウシワカのことは二人で付き合うつもりだ。
でも主だからといって、なんでも我慢するわけではない。

「その分、上様の我儘は何でもきこう。……っ! いや我儘というのは言葉の綾で」

大男が本気で慌てふためく姿が滑稽だった。
思い切り笑ってしまう。

「じゃあ今後、楽しい夫婦生活を過ごさせてね」

ベンケイと共に歩む為には必要な事だから、ウシワカを許せる面もある。
ベンケイとウシワカマルは切っても切れないものだから、ベンケイを好きになる時にまるっとウシワカマルも受け入れた。

「その申し出は願ってもないことだ」

あ、今、そういう雰囲気だ。
ちょっとだけ、良いかな。
化粧が崩れなきゃ、良いよね。
ベンケイだって少し照れて腕を広げてくれている。
私の旦那様に抱きつかれに行こうと、衣装を気遣いながらそっと近づいた。

「申し訳ありません、主《あるじ》様。手土産を忘れていた」

瞬時に私たちは離れた。
ウシワカマルに笑われた気がした。

「……ウシワカ……。わざとでしょ!!!」
「わざと、とは? ……ああ、邪魔したようですね」
「白々しい!! ベンケイ! 薙刀借りるよ!」
「上様! 御召し物が!」

振り回してみても、燕には当たらない。

「ベンケイ! 余興代わりに斬っちゃって!!」
「ほう。このウシワカ、ベンケイ程度では捉えられませんよ」
「誰か! 上様の御乱心だ!!」



◆ガゴゼ




福は内。
鬼は内。

某寺の節分は立春の前日である二月三日ではなく、立春に行う。
村の子供たちはにこやかに駆け回り、そこら中に豆を投げつけている。

節分と同じく鬼の役もいた。
鬼ですと書かれた紙をぶら下げたガゴゼが担当している。

「ふくはーうち、おにはーうち」

炒った大豆が境内に散らばっていく。
昨日は本殿の鬼たちが凶暴化して大混乱だった。
その次の日で大変だろうにガゴゼは子供たちの相手をしている。
豆をあてられても顔色一つかえずにされるがまま。

「お疲れさまでした」

独神は自ら茶を淹れた。

「こっちはお礼ですって。近所の人たちから」

甘味や干した果物などが籠いっぱいに入っていた。

「ありがとう」

ガゴゼは中を見た。少しだけ目元が柔らかくなった。

「これはガゴゼへのお礼だから、皆には分けなくて良いですよ。全部あなたが食べてね」
「ありがとう」

同じ言葉を繰り返す。
嬉しそうにしていることは雰囲気で判る。
庭では子供たちがぼりぼりと豆を食べていた。

「……断っても良かったんですよ?」

と、独神が言った。

「ううん。別に。大丈夫だよ」

抑揚はあまりない。
子供たちが遠くから縁側に座る二人を見ている。
ガゴゼが「があ」と無表情で言うと、笑いながらきゃーきゃー言いながら走って行った。

「変だよね。鬼の僕がこんな」

ガゴゼは湯呑をそっと両手で包んだ。
本殿に来たばかりの頃、湯呑に限らず、食器全般、斧、引き戸、様々な物を壊していた。
わざとではなく、気を張っていないと力が入り過ぎると言って、気を張り過ぎて力が入り過ぎていた。
本殿にはそういう者が多かったので、誰も気にしなかったが、本人は壊れてしまった道具をいつも静かな目で見送った。

「主《あるじ》さんと会ってから、変な事ばかりだよ」

元々八百万界の危機には興味がなかったガゴゼであったが、ひょんなことから独神のいる本殿へ流れ着いた。
働かざる者食うべからずと、悪霊を自身が嫌う怪力でなぎ倒していった。
本殿は毎月のように祭事で盛り上がるが煩いのは嫌だと言ってこそこそ逃げても、強制的に参加させられた。
今までとは違う生き方を強いられて、ガゴゼは少しずつ変わった。

「さっきも、子供に言われたんだ。僕はちょっと力が強いだけ。だって。それでみんなはちょっと身体が弱いだけ」

この寺はガゴゼが以前悪霊を討伐して救った。
それからはこの村の者達にガゴゼは慕われている。
子供たちは、本来ならば鬼を怖がるところだが、ガゴゼのことを守護神と慕った。

「僕は前、主《あるじ》さん以外興味がないって言ったよね。それは変わらないよ。でも今のこの雰囲気は、いいなって思うんだ」

人と距離をとっていたガゴゼも、この寺からの要請は必ず向かう。
周辺で悪霊が増加して不安だと言われれば、独神に声をかけて一人で向かう。
祭りを手伝って欲しいと言われれば、独神に声をかけ、時折他の英傑にも頭を下げて共に向かう。

「主《あるじ》さんは、僕のこと、どう思う?」

その姿は、欲しい言葉を待つように見えた。

「私は、今のガゴゼ、良いと思うよ。ガゴゼって良いひとだから、知ればすぐに好かれるよ。ここみたいに」
「そうかな」

ガゴゼはぼんやり庭を眺めた。
子供たちが手を振っている。ぎこちなく、ガゴゼも手を振り返した。

「主《あるじ》さんはどうなの? 僕のこと。好いてくれてるの?」
「……」

独神は黙って籠の中の干し芋を食べた。

「……聞いたら駄目だった?」

肩を落とした。

「……。駄目じゃない。想像してた」
「想像?」
「ガゴゼが人里で楽しく過ごすとこ」

ガゴゼは首を傾げた。

「悪霊を倒して終わったら、ここみたいなガゴゼのことを受け入れてくれる場所に住もうよ。私もそこに住む」
「……じゃあ、もっと悪霊倒さないといけないね」

村人たちの感謝の詰まった重量感のある籠を持って、ガゴゼは立ち上がった

「帰ろう」

太陽を背に嬉しそうにしていた。
 


◆モミジ



とうとう。やってしまいました……。

裏通りにある小さな店で買った小瓶に入った無味無臭の粉。
惚れ薬と呼ばれるそれを、独神の食事に混入した。

「美味しい!」

独神は普段通り残さず食した。
それから三日間、一日一回、薬の混ざった食事を食べさせることに成功した。

「最近ご飯が美味しくて」

独神は異物入りの食事を美味しいと思ってくれているようだった。
では肝心の効果はどうだろう。

「おかわり!」

いつも以上に量を食べるようになった事以外に変化はない。
目の前の食事を貪ることに一生懸命で作りてのモミジのことなど目に入らない様子。
独神には薬が効きにくい特性があるのかもしれない。
本来ならば過剰摂取だがもう少し薬を飲ませよう。
規定の倍の量を服用させ、モミジは毎日結果を心待ちにしていた。

ところが、独神が夜中盗み食いをしていたところを、同じく盗み食いしようとしていたガシャドクロによって捕獲された。
食糧倉庫で出会うはずない相手に違和感を覚えたガシャドクロは周囲に相談し、英傑達が代わる代わる診て、とうとう気付かれた。

「こりゃ魅了の術だ。例えば惚れ薬とか」
「独神サマは今、食べ物に魅了されている。ということか」

半分正解だ。
大きな誤算は独神の惚れる相手が食事そのものであったこと。

「敵の攻撃かもしれない。……例えば丸々と太らせて逃げにくくするとか。生活習慣病で早死にさせるとか」
「しょぼい攻撃だな」

まずいことになった。
本殿はすっかり警戒を強めて犯人探しに躍起になっている。
炊事係の一人であるモミジに辿り着く者も必ずいる。
ここの英傑達は優秀な者が多いから、気づかれれば逃げきることは難しい。

理想の女性像と称されるモミジである。
犯人だと判明すれば、周囲の目は大きく変わるだろう。
危険人物へと仲間入りし、あちこちで陰口を叩かれる。
蔑まれた視線に晒され続けてしまう。

そんなことは嫌だ。

このまま誰にも知られず処理して、真相を闇に葬り去らなければならない。

「やっぱりモミジの料理が一番だな」

食事はいの一番に疑われたが、材料の方に目がいき、作り手への指摘はない。
独神を好む英傑しかいない為に、内部犯の線は薄いと見ていることと、身内を疑いたくないからだと推察する。
おかげでモミジは、一日一回の独神への食事提供を続けられている。
食事の際ならば他の者に聞かれず話が出来た。

「主《ぬし》様。随分沢山食べますね」
「そうなんだよ。最近食べても満足しなくてさ。それが惚れ薬のせいだったなんてな。ちょっとびっくり」

薬の効果が続いているらしく食事の量は未だに多いが、大食い程度で収まっている。

「でも夜中食べてもやっぱり満足しなかったよ。今気づいたんだけどさ、モミジが作ったから美味しかったんだね」

屈託のない笑顔浴びて憑き物が落ちていくのを感じた。

「主《ぬし》様、少し聞いて頂けますか?」

モミジは全てを告白した。

「……というわけで、私の料理が好まれなさったのは、惚れ薬の影響なのです」
「へえ」

独神の反応は薄かった。

「魔が差したとはいえお食事へ手を加える行為は許されるものではありません。本当に申し訳御座いません。私は二度と、厨房に立ちません」
「それは困るなあ」

独神は口を尖らせた。

「確かに君の信用は落ちた。食事は生物にとって大切な行為だ。その食事に混入させるっていうのは、普通に毒殺するより悪いよ」
「おっしゃるとおりです」
「だから、私のだけ作ればいい」

耳を疑うような言葉が独神の口から出てきた。

「目的は私だけなんでしょ? 無差別に誰かを巻き込む気もなかったなら問題ないんじゃない?」
「でも主《ぬし》様。私は。……目的の為には手段を選ばない、そんな妖です」
「うん」

あっさりと肯定した。

「いえ。あの。ですから、今回のようなことが主《ぬし》様にあってはお困りになりますよね……?」
「なる」

元気よく断言するが、モミジの懸念が全く伝わっていない。

「もしも。また魔が差して何かしでかしてしまうことを思うと、自分が怖いです」

モミジは自身の欲望を押さえる自信がなかった。
本殿で独神と過ごしていくうちに、過去の自分は浄化されて消えていたと思っていたのに、自分の根本は変わっていなかった。

「やったらやったでしょうがないよ」
「仕方なくありません。その度に主《ぬし》様にがっかりされたくありません」

本音はそこにある。
薬を使った事の罪悪感は実のところまだまだ薄く、独神からの評価が下がることが苦しい。

「がっかり、か。だから昔の事は絶対話さないんだよね」

それは今、関係ない話だ。

「教えろって迫るのも違うんだけど、あまりにも言わないから、信用されてないんだろうね」

違う。信用はしている。けれどそれとは別問題。
過去は知らないで、本殿に来たところからの自分を見て欲しい。
過去は全て濯いで終わりにしたい。
蒸し返さないでほしい。
もう一度人生をやり直すつもりでここにいるのだ。

「ま、いいや。とりあえず、モミジが言うように本殿の厨は禁止ね。それでいい?」
「お願い致します」

それで、惚れ薬騒動は終了した。
しかし、モミジは言葉を間違えた。行動を間違えた。

独神にもう一人の自分を意識させてしまった。
だから、忘れてもらう。

……確か今夜は、寝所を見張る方がいなくて、本殿周囲の警戒を強めるとのことだった。
外部からの敵には有効だが…………一方………………



◆イマガワウジザネ



【注意】―――――――――――――――――――
判りやすさを重視した結果、横文字表記が混じっております。
ノウヒメ祭事では英傑達のポジションがアルファベット表記だったので、ふわっとしていても大丈夫だろうという判断。
―――――――――――――――――――――――

オレは今、蹴球大会の試合の真っ最中だった。
ごーる裏には主《あるじ》がオレのちーむの公式衣装《レプリカユニフォーム》を着て応援してくれている。
顔を真っ赤にして声を張り上げているのが遠目でも判るくらい、熱のこもった声援を飛ばす。

今日の試合を主《あるじ》が見に来てくれると知って、オレは決めていた。
来てくれたら試合中にはっととりっくを決める。
そうしたら、主《あるじ》に告白しよう。って。

現在オレは二点決めている。あと一点……!

当然相手もこの試合で一番勢いのあるオレを警戒している。
二人に張り付かれて、思うように球が回らない。
裏をかいて抜いていくのが理想だが、相手ちーむ全員が視界のオレを入れている状態だ。
ここはぱすを回して確実にちーむを勝利に導くべき。

けど、どうしても、次のごーるもオレが決めたい。
あと一点なんだ。

オレは焦っていた。
ぱすを待つ仲間。球を保持したいオレ。
まごついている間に敵ちーむの選手にとられそうになり、思わずゆにふぉーむを引っ張ってしまった。
審判にふぁうるを取られ、相手のふりーきっくになった。

落ち着けオレ。
危機的状況であるが可能性はある。
仲間からはしっかりしろという視線を貰いながら、一度私情は置いておいて目の前の球に集中した。

「嘘だろ……」

そういう時に限って、奇跡は起こるのだ。
無論、相手に。
幸運の女神は邪な念を抱いて蹴球をするオレに一喝したかったのかもしれない。
ごーるねっとに突き刺さる球を見せつけられてオレは唖然とするばかりだった。

「めちゃくちゃ悔しい! ウジザネに勝って欲しかった!! 勝ったら何を言うかって昨日晩から決めてたのに!」

オレより悔しそうにする主《あるじ》に苦笑いした。
さっきまでちーむの話し合いがあり、当然オレは絞られた。
二点先制しておきながら、あのふりーきっくから潮目が変わって逆転負けとなったからだ。
全てがオレのせいというわけではないが、あのふりーきっくはオレが悪い。
ちーむの皆には申し訳ない。

「悔しいけど、きっと私より悔しいのはウジザネだから。悔しいの我慢する」

我慢出来てたっけ?
でも主《あるじ》だってそう言っているのだ。
オレがいつまでもうじうじと引き摺っているわけにはいかない。

「……うっし!」

顔を叩いて気合を入れ直した

「それ。最近の蹴球は顔も大事だから叩かない方が良いよ。選手雑貨は顔でも売り上げが変わるから」
「主《あるじ》熱心だな。運営みたいだ」
「ううん。まだ出資までなの」
「提携先《すぽんさー》なの!?」

軽い冗談だったんだけど……。

「ごめんね。経営も企画も出来なくて。出資と広報は頑張るから」
「頑張りすぎじゃない!?」

主《あるじ》は凄い人なんだと周囲に言い続けてきたオレだけど、これは流石に想像を超えていた。
だって普段本殿の英傑を取りまとめてるんだぜ?
ちょっと無理しすぎてないか?

「だってウジザネのこと支えたいじゃない? 本当は応援も全部行きたいけど、仕事に穴はあけられないでしょ? だから出来ることは頑張るね!」
「十分だって……。めちゃくちゃ嬉しいけど」

尚の事、今日はちゃんと勝ちたかった。
かっこよくはっととりっく決めて……なんて思ってたけど、まずはちーむが勝たないと。
観客は主《あるじ》以外にもたくさんいて、みんながオレたちの勝利を願ってるんだ。
オレたちの試合を拠り所にして、楽しみにしてくれる人たちをもっと楽しませないと。
そんな当たり前のことが出来ない間は主《あるじ》に伝えられない。

「次の大会は絶対勝ってよ。絶対優勝。絶対だからね」

そりゃ勿論。
知らず知らずのうちに天狗になってたんだから、気合を入れ直して取り組まないと。
もっと自分のごーるを確実に。仲間との連携も考えなくても出来るくらい詰めていこう。

「もう賞品は用意してるんだ。優勝しないと渡さないからね」
「なにそれめちゃくちゃ気になる!」
「駄目だよ。ちゃんと優勝しないと」

優勝はオレだってしたいから望むところ。
だけど、主《あるじ》は何を用意してるんだろう。

「ちょっとだけ教えてもらうってのは?」
「だーめ。……正直、喜んでくれるかはまだ判らないんだ。だからその時に、ね」

そんな風に言われると余計に気になる。
優勝するって期待してくれてるんだ。
オレは絶対、今度こそ優勝するぞ!!!!!
 


◆シーサー



俺は死んだらしい。
神様というヤツが教えてくれた。

「これ……異世界転生じゃん!!!」

送られた世界は八百万界。
なーろっぱと言えば西洋だが、なんとここは和風世界らしい。
意外っちゃ意外だけど、和風はそれなりに人気のある世界らしいし、まあ良いだろ。

八百万界の救世主である「独神」となった俺は、ここで無双しながらハーレム築くぞ!!!

「……はあ。産魂《むす》ぶ?」
「左様で御座います。英傑と英傑の血を混ぜ、新たな世代を産み出していくのです」

何言ってんだこの白ブツ……。
案内人のマスコットキャラだと思われる八咫烏の説明によると、

俺は独神。
偉い!!!! 
凄い!!!

と、ここまでは良いのだが、独神自身に戦闘力はないらしい。
謎の力で引き裂かれそうになった世界をくっつけたり、なんかバリア的なことをしたり、地味すぎんだろ。
メインは血と血を混ぜるって……交配? メンデルの法則?

こういうのって、唯一の男である俺が人類存続の為に種を撒きまくれとかじゃないの?
え? それは別の漫画?

んで最終目標が、侵略してきた悪霊を全員追っ払うor殺し尽くす……か。
つまんね………………。

折角の異世界転生なんだから、刀ぶんぶん振り回したり、魔法ばんばん撃ちたいだろ。
そして周りから羨望の目で見られながら「俺なんかやっちゃいました?」ってさ……。

結局転生しても、俺は取り柄のない地味な普通の人間のままなんだな。
色々嫌になってきた俺は、口煩い八咫烏をまいて船に乗り込んだ。
このまま乗って行けば新大陸を目指せば、独神の使命からも、つまんない自分からも逃れられると思った。

「どわぁああああ、ふざけんなよクラーケン!!!!」

運に見放された俺は船上でクラーケンに襲われ、大海原へ放り投げられてしまった。
次に目覚めた時、そこは澄んだ青が一面に広がっていた。

「大丈夫?」
「……?」

褐色の女の子が俺を覗き込んでいた。
橙色の水着を見て、自分が海へ投げ出されたことを思いだした。

「あっ。……その…………」

俺は内心は饒舌だが、対人間ではろくに喋れなかった。
絶対に「あっ」ってつく。
あっ。

「無事で良かった! とりあえずシーサーの村まで行って休むと良いサー☆」

変な語尾が流行った00年代あたりを思い出しながら、女の子についていった。
多分ギャルであろうその子は、ケモミミに尻尾がついていた。
あー、若干そういう層に受けそう。でもガチ勢からは嫌われそう。
でも顔は可愛い。……すごい、可愛い。
勝手に批評している間に村に着いた。

「ここがシーサーの村サー! みんなこの子海で倒れてたから看病よろしくサー!」

わらわらと俺を囲む村民たちに「あっ」しか言えず、俺はされるがまま看病された。
家の一つ一つが石垣に囲まれている所を見ると、もしかしてここは沖縄か。
話も通じるし、家の物も馴染みがあるものばかりだ。
船の上に随分いたような気がするが、日本圏は突破出来なかったらしい。
てことは、ここも八百万界かあ……。

あーあ。がっかりだ。
いっそ溺れ死んで、次の世界へ転生させてくれれば良かったのに。

「見てみて~。元気ない時は踊るのが一番サ~☆」

さっきの女の子が沖縄っぽい音楽に合わせて、南国っぽい踊りをしている。
本州出身の俺は、南の島に旅行に来た気分になった。
少しだけ、気分が上がった。

「あ! やっと笑ってくれた! じゃあ次はキミも一緒に踊るサ~!」
「あっ。いや。俺」

女の子は俺の手を引いて外へ連れ出した。
村民たちは当然だが余所者の俺をじろじろと見る。
女の子はお構いなく踊り出したが、俺は立ち尽くすばかりだった。
──みっともない。
そんな風に誰からも思われているような気がして、下手な踊りで恥をかくくらいなら、黙ったまま突っ立って場をしらけさせて恥をかくほうがマシだ。
そう思ってじっと動かずにいたのに、女の子は俺の顔を覗き込んだ。

「どうしたの? そっか! うんうん。踊り合わせるのって難しいもんね!」

それ以前の問題なんだが、女の子は勝手に話を進める。

「じゃ、シーサーがずっと手を握っててあげる! 一緒なら大丈夫サー!」

柔らかい女の子の手だった。
ちなみに俺は転生前は彼女がいなかった。
女子の手を握ったことはない。
よく聞くフォークダンスだって俺の通う学校にはなかった。
だから、これが初!! 女子!!! 手!!!!

「シーサーは踊り大好きだから。キミもきっと好きに決まってるサ~☆」

決められてしまった。
でも、少しだけ腹を括れた。
シーサー(変な名前)は俺の手を握ってステップ(?)を踏んでくれる。
俺はただ流されていくだけ。
何も考えない。
周囲の村民だってシーサーに目が行って、俺のことなんて見えないはずだと、変な意味で安心した。

俺は少しだけ、シーサーに、そして音楽に身を任せた。
幼稚園児のお遊戯よりもずっと酷いものだったろう。
けど、俺の手汗でぐちょぐちょな手を握ったままのシーサーがずっと笑うから、俺もつられて笑って、そのまま踊り出していた。

「すっごーーーーーい!!! キミ凄いよ! めちゃいい! どこで踊ってたの!?」
「いや。経験ないけど」
「すごーーーーーーーい!!!!」

とんでもないリップサービスに照れくさくて、何を言っていいのかも判らない。

「キミ名前は?」
「俺……えっと、独神、だけど」
「ドクちん!? ……ドクちんお願いがあるの。聞いてくれる?」
「えっ。…………まあ、聞くだけなら」
「一ヵ月後に踊りの大会があるんサ。男女で参加しなくちゃなのに、シーサーは全然相手を見つけられなくて」

がしっ。
シーサーが俺の肩を掴んだ。

「ドクちん! ここはシーサーを助ける為に一肌脱いでほしいサ!」
「脱ぐ!? シーサーが!!??」
「うん? シーサー?」

シーサーは少し考えて、ちらっと太ももを見せた。
水着だからさっきからずっと見えてたけども。

「どわぁああああありがとうございます神様ぁああああ!!!」
「あはっ。ドクちんってヤバ~変な子~☆」

わざわざちらっと見せる動作が良い!
俺! 独神! 童貞! ハイ死んだ!

「シーサーは脱いだよ。じゃあドクちんも……イイ?」
「お、男に二言はない! 俺、本気で踊る。そんでもって、シーサーを優勝させる!」
「んーちょっと違うなー」

つん。
シーサーは恥じらいながら頬をつついた。

「優勝させるんじゃなくて、一緒に優勝。でしょ」

やってやるぜえええええ!!!!!!

────『独神《きゅうせいしゅ》に転生した俺は悪霊ほっといて琉球で踊り子の頂点を目指すサ~☆』


第一話 完





──番外編──

「なにっ!? おい、シーサー! 決勝戦の相手を見たか?」
「ベリアルあんどパスズ……ってあるね」
「おいおい悪霊どもはダンス界までも支配しようっていうのかよ。くそっ! 許せねぇ! シーサー! 勝つぞ!」
「ハイサ~☆」




◆ミコシニュウドウ




ちょっと町で引っかけた女はとんでもなかった。

「あ、会計別で」

妖族だけでなく、他の種族までも虜にするミコシニュウドウとお茶をしておいて、その女は奢らないときた。
流石に物申してやらなければならない。

「待ちなさいよぉ。私と会話させてあげたのにそれ? たった470界貨くらい奢りなさいよ」

するとその女は少し沈黙して、

「奢ってあげたら、次も会ってくれるの?」

なんて生意気なことを言うから、当然ミコシニュウドウも上から見下ろして言った。

「それは貴方次第ね」

と突き放すと「会計別でお願いします」とさっさと界貨を払ってしまった。
店員はやりとりはいいからさっさと払えと、ミコシニュドウを見ている。
それはこの上なく屈辱的で、かっとなって多めに出して去ると、店員が追いかけてきて、「おつり」と面倒くさそうに渡してきた。

そう、女との出会いは最悪だった。
しかし、偶然にもその女ともう一度会う機会があった。
その時もお互いに連れもなく、文句を言う目的でもう一度茶屋に入った。

「会計別で」
「またぁ? ……まったく貴方おかしいわよ」

ミコシニュウドウは渋々と界貨を支払った。
次に町で会った時には、その女────独神は顔の右半分が包帯で覆われていた。

「あら。怪物かしら」
「しゃー!」

ミコシニュウドウが連れ歩くのにふさわしくない醜い女。
しかし興味本位でミコシニュウドウは前回の茶屋にさそった。
独神は「いいよ」とすぐについてくる。

「悪霊退治ねぇ……。なんでするの?」
「使命だから」

それ以上は話さない。
雑談にはべらべらのってくるくせに、独神についての情報は口を堅く閉ざした。
だがミコシニュウドウはさして気にならなかった。

「これ以上醜くなってどうするの」
「おべっか使って近づく者が減るから好都合だね」

顔の半分が潰れれば普通の女は気にするが、独神は意に介していない。

「今でも人を近づかせない性悪なんだから十分でしょ」
「確かに! いいねえ!」

独神は声を上げて笑った。

「(半分でも、隠れると少し、嫌ね)」

理由は判らなかった。
美しい自分と話すのに醜女はふさわしくないからのような気もしたが、それも違う気がした。

「じゃ、会計は」
「判ってるわよ。うるさいわね」

いつもと同じ額を払った。

「独神って実は結構暇なんでしょ。次も会わない?」
「良いよ。じゃあ……きっかり一ヵ月後は?」
「忘れてなければ行くわ」
「半刻待ったら帰るから忘れててもいいよ」

そしてきっかり一ヵ月後に、ミコシニュウドウは入店した。
同じ席に座って、待ち人をじっと待っていた。
しかし、独神はこなかった。
いつもの飲み物を二杯飲んで、ミコシニュウドウは帰った。

それからは偶に店を覗いてみたが、独神の姿を見ることはなかった。
きっと、独神は討たれたのだ。
ミコシニュウドウとは違って弱そうな者だったから仕方ない。
この世は誰が死んでもおかしくない。命は軽い。
だからミコシニュウドウも独神のことを忘れることにした。

そのつもりだった。
気持ちに反して、瓦版を逐一目を通して独神の死について探した。
町の噂で独神の名が聞こえたら振り返った。
そんな自分が気持ち悪いと思ったミコシニュウドウは、独神の本拠地である本殿に乗り込んだ。
自分の知名度ならば門前払いを食らう事はないと思ったが、まさにそうだった。

「主様はいらっしゃいますよ。ご案内しますね」

拍子抜けした。同時に来なければ良かったと後悔した。
たかが店に来なかっただけでここまでする自分が間抜けでみっともなくて嫌だった。
ここは独神に一つ二つ嫌味を言ってすっきりして帰ろう。

「へえ。ミコシニュウドウと言うのですね。初めまして、私は独神と申します」

明るい挨拶を受けた。
目の前にいるのはミコシニュウドウの知る独神ではなかった。
机の向こうでちびちび飲み物をすする独神は、もっと世界を厭う目付きをしていた。
こんなに柔らかな物腰をする女ではなかった。

「とっても美しいひと、ふふ。なんだか緊張しますね」

絶世の美女であるミコシニュウドウに向かって、「その程度で?」と鼻で笑うような生意気なやつだった。
そっくりさんと話すのは気味が悪く、ミコシニュウドウは適当な事を言って部屋を出た。
すると案内人が近づいてきた。

「あなたは以前、独神様と会われているのですね。……ここだけの話なのですが、独神様は二ヵ月前に戦で頭部の殆どを失いました。直ちに術師が治療したのですが、今は記憶がまだらの状態です。記憶が戻るかも不明です」

ほら。悪霊退治なんてろくなものじゃない。
戦になんて参加しなければ良かったのだ。

「納得したわ。頭が挿げ替えられたなら、あの性悪でも優しくなれるわよね」
「何を言いますか。独神様は以前よりずっとお優しい立派なお方です。あれほど優しい眼差しをした人はいません!」

ぴしゃりと言われた。相当気に障ったらしい。
それから案内人は独神の人となりについてぺらぺらと喋り出した。
三種族をまとめる手腕だとか、政治にも明るいとか、軍師としての才もあるとか。

「(私の知る独神は、地味で暗くて、厭世的で、私を楽しませた)」

案内人の独神像の気持ち悪さに耐え切れず、ミコシニュウドウは案内人を振り払い、もう一度独神に会いに行った。

「あら。えっと、ミコシニュウドウ、さんですね」
「独神様ぁ。私のことも忘れちゃったの?」
「え。……っと、……はい、すみません……」

丸めた背で何度も頭を下げた。
────つまらない。
なんだかどうでもよくなった。こんな女に執着したことが恥だった。

「ならいいわ。じゃあね」
「あの」

独神は部屋の隅に走って行くと、何やら手に握ってミコシニュウドウに渡してきた。
界貨だった。

「……なによこれ」
「470界貨です。……これ、違いました?」
「妖違いじゃなぁい?」

一度も振り返ることなく、ミコシニュウドウは本殿を去った。
もう一度、独神と話したあの店に行った。
いつも頼んでいたものを頼む。これももう最後だ。
一杯だけあの日々を思い出しながら飲んで、会計に向かう。

「お会計は470界貨ね」
「はいはい……」

財布を探す手が止まった。
470界貨。
さっき独神が渡そうとしてきた額だ。
ミコシニュウドウは釣りが出ないように小銭を渡して、本殿へ向かった。

「ミコシニュドウさん! また会いましたね」
「ええ。”また”会ったわ」

もう自分の記憶が独神にないとしても、残りかすのような記憶たちはこれ以上誰にも触らせてやらない。
また誰かに奪われるのであれば、独神そのものを自分が食って奪ってやる。

「今度こそ、貴方に奢らせてやるわよ。覚悟なさい」
 


◆ジロウボウ




やばいひとを好きになっちまった。
コノハテングくんのコレだ。
そうでなくても、一番手を出しちゃまずいやつ。

ご主人は優しいし、可愛いし、頼りになるし、安心するし、強いし、完全無欠のお方だ。
オレが今まで生きてきて、一番凄い人だ。
そして一番、好敵手が多い。

英傑は勿論、ご主人が救った村や町でも独神を好きなヤツばかりだ。崇めてさえいる。
あのひとはとにかく誰からも好かれる。
しかし、あのひとが誰かを選ぶことは想像出来なかった。
誰でも良さそうにも思えるが、誰もが物足りない。

コノハテングくんとご主人は……どうだろう。
悪くないように思う。他の英傑達の中なら一番しっくりくる。
オレよりは確実にお似合いだ。

「いや、俺、主《ぬし》さまは好きだけど、姐さんつーか。……好きになるなんて畏れ多くて羽抜けちまいそうだ」

コノハテングくんは羽根を震わせた。
気持ちは判る。あのひとは立派過ぎるんだ。

「なあ主《ぬし》さまぁ! 主《ぬし》さまはさ、どんな奴が好き? 強ぇ奴? 弱い奴?」

男らしいぜ、コノハテングくん。
ご主人に直接、しかもこんな大声で聞くなんて。オレだったら尻込みするぜ。

「す、すき? ……私はみんな好きだよ」

出た。鉄壁の護り。
ご主人は隙だらけに見えて護りが堅いのは本殿なら誰でも知っている。
これをどう崩すんだ、コノハテングくん!

「流石主《ぬし》さま! 懐がでっけーな!」

ええええ。コノハテングくん!?
いやいや。
そのまま受け取ったように見せて、きっと上手い返しを用意しているに違いない。

「教えてくれてありがとな!」
「終わりかよ!!」

やべ。思わずつっこんじまった。

「なんだよ。皆好きならそれでいいじゃねぇか」

よくねぇんだよ。
あ~~~、コノハテングくんがご主人に惚れてないのは良いとして、ご主人がオレたちをひとまとめにしているのが問題なんだよ。

「じゃあ、主《ぬし》さま、俺とジロウボウどっちがいい?」

オレの時間が止まった。

「……じゃあ、強い方かな」
「よしっ! なら俺だな! やったあ!」
「ちょっと待ってくれ! 勝負はやってみなくちゃ判んねぇって」

うっかりコノハテングくんにまさかの宣戦布告。
でもここは退いちゃ駄目だろ、絶対。

「主《ぬし》さま。怪我させねぇなら良い?」
「うーん。皆には内緒ね」
「よしきた!」

まさかの展開だけど負けられねぇ。
そもそも負けるなんてかっこわるいところ、ご主人に見せられねぇ。
コノハテングくんはかっこいいけど、でも、駄目だ。
ご主人のことは譲れねぇ!

「コノハテングくん! 恨みっこなしだからな!」
「良いぜ! オラァ!」

コノハテングくん、やっぱり速い。
法力に悩んでいるけれど、そんなもの目じゃない位、強いし速い。
神代八傑のシュテンドウジに匹敵する鬼人は半端ねぇって。

そうして殴り合った結果、オレは霊廟で目覚めた。

「若気の至りなんだろうが、ほどほどにな」

と、アカヒゲに言われた。
てことはオレが負けたのか……。はあ。
落ち込んでいると、廊下にご主人が現れた。

「ご主人!? えっ、えっと!!」
「……どっちつかずな終わりだったけど、良いんじゃない?」
「どっちつかずって?」
「聞いてない? さっきの勝負は引き分けだったのよ。二人とも目を回しちゃって。コノハの方はもう元気みたい」

指差す方向には大きな鳥が旋回していた。
オレの身体はまだ痛むってのに、コノハテングくんは全然なんだ。無性に悔しい。

「なあ、ご主人……あのさ……」
「うん。第二試合は来週ね。期待してるからね」

ばいばいと手を振られた。
あの。
期待してるって……。それって、オレの方も期待していいってこと……?
それって、ご主人。もしかして……。

……え。てことは、
来週またコノハテングくんと喧嘩しないと駄目なのか。
嘘だろ!?

でも、ご主人が期待してくれてるんだ。
オレも、期待に応えたい。
そして勝ったらご主人に聞くんだ。

「オレの事、どう思ってる?」



◆ダテマサムネ



仙台藩の藩主、ダテマサムネの嫁になったのは二年前のことだ。
結婚の約束をしたのは界帝を目の前にした最後の戦いの時。
いざ死地へ向かわんと全員が緊張している中、前触れなく「嫁に来い」と言われた。
あの一瞬、全員が戦いを忘れ、日常を思い出した。
そのお陰か、私たちは帰る場所を再確認し、生きて帰ることを決意した。

と、なかなか印象的で感動的な出来事も、今は少し色褪せている。

藩主の嫁はちっとも面白くない。
『独神様』の私は部屋を一つ移動するだけでも申告しなければならない。
外出なんてもってのほか。
欲しい物は申告すれば手に入るが、
着物は一度ばらばらにして何も問題がないか調べてから縫い合わされ、
物であれば解体して調べ尽くしてから再度組み立てる。
食べ物は当然毒見後のものなので、いつも冷めているし、形だって一匙分欠けている。
流行り物を見せられたところで、独神の時に最新の物を貢がれる生活をしていたのでとうに飽いた。
城の者と仲を深めようにも、畏れ多いと言って距離を置かれる。
家臣たちにとってはダテマサムネが第一で、私のことは田舎の小娘程度に思われている。
独神は、まあまあ特別な存在だったのだが、今の私には見る影もない。

独神時に生き死にを共にした英傑達は、結婚後は一度も会っていない。
英傑が来ると領民たちが不安がるらしい。城の者もマサムネ以外は敵視している。
いつ乗っ取られるかと気が気でないらしいのだ。
だから人族に限らず、会いたいとの連絡は全て断り、自分からも連絡はしなかった。

肝心のマサムネは、領地がどうとか、隣国の戦がどうとか。
そう言って城を空けてばかり。
嫁の私は、危ないからと言って戦場や政の場からは遠ざけられる。
まともに話したのは、いつだったか思い出せないくらいだ。

なにも面白くない。
会話も出来ず、仕事も出来ず、主人もいない。

それでも耐え忍んでいたのは、ひとえにマサムネの為だ。

「すまない。独神様」

そう言って何度も頭を下げるから、私は耐えてきたのだ。

魔元帥に囚われた時だって私は平気だった。
拷問された時は辛かったが耐えられた。
実験体として身体を暴かれた時は相当辛かったがぎりぎり耐えられた。

なのに、主人が家に帰ってこないだけのことが、どうしてこんなに辛くて憂鬱にさせるのだろう。
身体のどこも痛くないのに。
衣食住揃っているのに。
毎晩誰も見ていないことを良いことに泣いている。
毎日広すぎる部屋で朝を迎えていたが、唐突に私の心が折れた。

「離縁しましょう」

戦から帰ってきたマサムネは上機嫌で、勝利の宴を終え私の蒲団に入り込んだ時にはっきりと伝えた。
へらへらと笑っていたマサムネも口元を引き締めた。
蒲団から追い出そうと胸を押すと、マサムネは猫のように飛び掛かって私の着物を剥いだ。
嫌だ。
今更遅い。
と抵抗したが簡単に脱がされ、マサムネも着物を脱ぎ捨てた。
ぴたりと酒で火照った身体が重ねられた。何をするでもなく、ただ圧し掛かってきた。

喋らない。
追い詰めるとよく喋るマサムネが一言も。
足の付け根にあるものはふにゃふにゃと柔らかく、今の情けない顔とそっくりだった。

「……駄目だ。いくら独神様の願いでもそれだけは聞き届けられん」
「今まで放置しててよく言うよ。最後に私に触ったのいつ?」
「……面目ない」

謝られても心は揺れ動かなかった。

「もう、決めたから」

押しのけようにもマサムネの鍛え上げられた身体はびくともしない。

「頼む。腹を割って話せるのは独神様だけだ。俺には独神様の温もりが必要だ」

私に毎夜冷たい枕で寝かせておいて、この言いぐさはない。
勿論マサムネの周辺のあれこれは一通り耳にしている。
支えてやりたいと思っていたし、そのつもりだった。
けれど私を放置するばかりで、都合のいい時だけ私を求められることに段々と怒りが生じてきた。

「どうか俺を見捨てないでくれ」

泣き言なんて聞きたくない。耳を塞いでしまいたい。
情はまだまだ残っていて、縋られれば手を貸してしまう。
そうやってずるずるやってきた。もう蹴りをつけたい。
だから離縁を選んだ。

「弱味を見せたら絆されて許してもらえるだろうなんて甘いよ」

マサムネの馬鹿力は私を逃がす気がなかった。
私はひたすらに罵った。
酷いことを言ってもっと傷つければ諦めると思った。
なのに、マサムネは一切引かない。折れない。
この二進も三進も行かない状況に涙すら出てくる。
私には自分の生き方を選ぶ権利もないのかとめそめそと泣いていると、マサムネは頑なに外さない眼帯を徐に外した。
瘢痕が私を見ていた。

「……この傷を初めて見せたのは、独神様を二度目に抱いた時だったのを覚えてるか?」

初めての時は私も生娘なりに動揺し、羞恥に溢れていたのだが、二度目はある程度落ち着きを持ってマサムネと向かい合い、その時右目を見せて欲しいと懇願した。
マサムネはなかなか首を縦に振らなかったが、私が眼帯に触れることを止めなかった。
私が少しずつずらす間も緊張した面持ちではあったが、やめさせなかった。
そして私は初めてダテマサムネの素顔を見た。

「俺の急所だ。こんな醜いものが俺をいつまでも縛って蝕んでいる。だというのに、独神様は見るなりにこにこと嬉しそうにして、あろうことか口付けて舐め回した」

あの時は、マサムネの懐に入れたのだと歓喜して調子に乗った。
ずっと傷を見せなかったからどれだけ酷いかと思ったが、そうでもなかったので揶揄いたくなったのだ。

「……はしたなかったのは謝るよ」
「俺もまさか躊躇いもなくやる独神様に少し、……引いたな。さすがにやりすぎではないかと」

そんなこともあった。

「その時に、俺は一生独神様に頭が上がらぬだろうと思い知らされた。そして俺の予想は正しかった。独神様は俺に弱味を見せてくれなかった。いや、なかったというのが正しいのだろうな」

弱味ならある。
マサムネのような判りやすいものではないだけだ。

「独神様が泣くところ、初めて見たぞ。……ようやく俺は独神様に届いた気がする。その弱味が俺であることを喜ばずにはいられんな」

ついかっとなって私はマサムネの頬をはたいた。
体勢が悪くあまり力は入らなかったが、そうでなくともマサムネには効かない。

「殴られたのも初めてだ。独神様はいつも、俺の前では凛として美しくて、強かったからな」
「さっきから何なの」

離縁と言った時には血の気が引いていたくせに、さっきからずっと笑ってばかりいる。
その苛立ちをぶつけると、

「判らんか。ようやく俺は独神様と対等になれたのだぞ」

全く判らなかった。

「元々夫婦なんだから対等でしょ。おかしなこと言わないで」
「おかしなものか。独神様は奥羽の藩主如きが持って良い宝物《ほうもつ》ではない」
「過大評価」

お互いに疲れたように息を吐いた。

「謙虚で慎ましいと思っていたが、独神様は自分を正当に判断出来ないだけなのかもれんな」
「目が曇ってるのはそっち」

首を振った。周囲は独神の名を特別視しすぎだ。

「俺は嫁に恥をかかせる気は毛頭ない。二年も待たせているが、もう少しだけ待ってくれないか。そうすれば独神様に安全と自由を与えられる」

これだけ放置して、まだ飽きないと言うのか。
いやそもそも、私に離縁を叩きつけられておいて、いけしゃあしゃあと要求出来るものだ。

「………なんで、悪霊退治が終わったのに、傷がいつまでもなくならないの」

マサムネの身体には無数の傷があった。私の知らない傷。
傷口は塞がっているが、最近ついたものだろう。
そういえば、帰って来る度に抱かれていたのに、生傷を見たことがない。
私が心配するからと傷が塞がるまで時間をおいていたのだろうか。
ばっかみたい。それなら血を流しながらでも会いに来れば良い。

「この程度、独神様を守る為ならば大したことはない」

傷だらけの男は屈託なく笑った。
私は悪霊のことが終わったら戦いとは無縁になれると思っていた。
例えばマサムネと料理したり、この町を少しずつ良くしたり、のんびり出来ると思ってた。
なのに、マサムネは戦いを続けた。
私を置いて。
でもそれは私を無視して好き勝手やっているのではない。
この国を豊かに、強国にしようとするのは、領主としての面もあるだろうが、それより何よりも、多分、私が独神であることが原因だ。

部屋一つ動くのに申告が必要なのは、身辺を警戒しているから。
城の者が私に近づきたがらないのは、刺客が内部に紛れ込んだ時の為、普段から誰も近づかないことで、私を暗殺する機会を減らしている。
外出を許可しないのも、毒見も、与えられるもの全てに目を通すのもそうだ。
戦に近づけないのも、私が怪我をしない為。
政に近づけないのは、私が利用されたり、身に危険が及ばないようにする為。
英傑を入れないのは……これは個人的なものかもしれない。

私を守っている。
そして私が気兼ねなく生活できるように、環境を整えている最中だそうだ。
自分だけ傷だらけになりながら。

「……。ここは夫を立ててあげるべきなの?」
「そうであるとありがたいな。今はまだ独神様を狙う者が周囲に潜んでいる。迂闊な行動はやめてもらいたい」

多くの英傑によって守られていた私を、今はマサムネ一人が守っている。
夫としての務めだと言わんばかりに。

「待ってあげるのは少しだけだからね」
「かたじけない。だが必ずや独神様に、楽しく愉快で派手な新婚生活を約束しよう」
「新婚って。もう結婚二年も過ぎたのに」

大きな溜息をついてマサムネの身体に手を回した。
どこに触れても傷ばかりで、ちっとも撫で心地が良くない。
けれど傷の一つ一つから、愛情を感じた。
 


◆アシュラ



「フラれた」

と、主《あるじ》ちゃんは枝豆を食べながら言った。

「あら。前言ってた彼?」
「そう。人族の。関所の伴頭さん。きりっとしててお堅いところが良いなって」
「わかるー。堅物の男も良いわよね。頼りがいがあって、遊びで恋をしないからこっちも好きなだけキュンキュンするもの」
「それがさ、独神に気を持たれたかもって、仕事仲間で盛り上がっちゃってさ……。当然私の情報網に引っかかるし、次回は会わないことにした」
「最悪ね」

主《あるじ》ちゃんは惚れっぽくて行動的。
だけど独神の名が足を引っ張ってなかなかお付き合いには辿り着けない。
フラれる度にこうやって適当な居酒屋で酒を酌み交わす。

「英傑ならよりどりみどりなのに」
「ヤダ。職場恋愛なんて気まずいじゃん」
「いつでも会えるじゃない」
「ヤダよ。みんなとは清くいたいの。この私の愛情わっかんないかなー?」

主ちゃんは真面目で、英傑を平等に扱う為にも特別な関係を嫌った。
だから外に恋人を作ろうとする。
甘えたいーと言ってジタバタするくらい、他人を頼りたくて仕方ないのに一向に相手は見つからない。
英傑のアタシに出来るのは、「飲みにいこ」と言って連れ出すだけ。
主《あるじ》ちゃんは仕事の愚痴は言わないし、深い関係にはそもそもなれないからこれが限界だ。

「いい人いない? むきむきな人は無しで」
「筋肉素敵じゃないの!」
「本殿でいっぱい見てるからお腹いっぱい〜」

強いひとは求めていない。

「顔もあんまり美形なのはナシ」

顔が特別良いのも駄目。
……本殿で毎日見ているからだって。

「普通のひとがいい!」

普通がいいなんて贅沢すぎる。
そして普通の人からすれば、独神は重すぎる。
背負っているものが八百万界そのものだ。
それを取り囲むアタシたち英傑。
こんなの好きと言えるのは、無謀か、馬鹿かどちらかだ。

重圧と付き合う為にも主《あるじ》ちゃんに恋人はいた方が良いと思う。
今日だってなんだか少しやせたけど何があったのかしら。
アタシに教えてくれないのは、独神の仕事に関係するから?

「ねえ、来週食べに行きましょ。奢るわよ~」

化粧が濃くなったことに気づいている。
目元の紅、少し露骨過ぎない?

「あと新作の化粧見に行きましょうよ」
「いくいく。化粧詐欺するー。めちゃモテたーい」

今でも可愛いよ。可愛いに決まっている。
だってアンタはアタシの……。ううん。言えない。
アタシの役目は女友達だから。

一週間後、主《あるじ》ちゃんを連れて都を歩いた。
新作の化粧見て、お互いに似合うと言い合った。
でも、アタシみたいなのを、不思議そうに、ちょっと迷惑そうに見ている子がいた。
いつものことだから気にしないけれど、主《あるじ》ちゃんはわざわざ話しかけた。

「ね! あなたのそれ良いね! すっごく可愛い。ねえどこの使ってるの?」
「こ、こっちの」
「え? これ? ……あ、着け心地めちゃ良いじゃん! 私の連れに合うかも。あ、連れってこっちの。激強のくせに敏感肌なんだ。良いの知らない?」
「敏感肌なら、こっちの種類の方が」
「そうなんだ。ありがと。一緒に考えてくれて」

そして主《あるじ》ちゃんはアタシの所に商品を持って帰ってきた。

「ありがとね」
「なにが?」
「なんでもなーい」

こんなごついの連れていれば、主《あるじ》ちゃんだって目立ってしまう。
でも主《あるじ》ちゃんは全然気にしない。
そういうところ好き。
優しいんじゃなくて、無頓着。
だから全然気を使わなくて良い。気遣われてないから。

新しい化粧を二人で買って大通りを歩いていた。

「やっぱり男いるんじゃねぇか」

ぼそっと。小声だったが確かに聞こえた。
すかさず振り返るとアタシと目が合った瞬間に逃げていく。

「主《あるじ》ちゃん。あれ何」
「ああ。最近会ったの。相手探しで食事会」

悪霊に関することじゃないのは良かった。

「もしかして独神って言っちゃった? お酒の勢いで」
「言った。ドン引かれた」

近くの町でも平気で相手を探すから最近は少しこういうことがある。
そりゃ普通の人の感覚では主《あるじ》ちゃんのことを量ることは難しい。
毎日連れる相手をとっかえひっかえしているように見えなくもない。

「もっと遠い町で探さない?」
「本殿から近くないと会えないじゃん」

遠距離は嫌だと言う。
仕事終わりに気軽に会える関係が良いらしい。
言わんとすることは判るが、どう考えても難しいだろう。
女に主導権を握られることを嫌な者も多い。
それに相手が自分より上の立場にいることを嫌がる者も。
アタシの女友達は、どちらも該当している。

「この寂しさ埋めて欲しいのー。毎日じゃなくて、たまーに」

身勝手すぎ。そんな条件望む相手いるのかしら。
お酒が入っても入らなくても長ったらしい話を聞いてくれて、
自分の理想をどこまでも押し付けてきて、
元来の人に好かれやすさで麻痺している立ち回りの上手さを嫌がらなくて、
望む時だけ付き合ってくれる、そんな相手。

「それ、アタシで良くない?

無意識に声に出た。これはまずいと急いで次の句を紡ぐ。

「なーんてね」
「そうそう女友達じゃやっぱり違うじゃん?」

なんて笑って言うから、アタシは、────。
気付いたら主《あるじ》ちゃんの手を握っていた。

主《あるじ》ちゃんは手まで可愛くて、爪紅を塗ったら更に可愛くて、華奢で指輪も小さくて、健康的な肌色をしている。
本人はどこぞの姫のように白くて透き通るような肌がいいと言うが、よく外に出ている血色の良さは生命の強さを感じる。
一方のアタシは、どれだけ着飾っても、指の節は太くて良いと思った指輪は入らないし、手のひらも豆を潰してきたから大木のように堅い。
大きすぎる手は主《あるじ》ちゃんの手なんて簡単に覆うことが出来るし、少し力を込めれば粉砕してしまう力がある。

アタシは、女の子じゃない。
可愛いものが好きな腕っぷしの強い男だ。

「……え。…………なに」

触れるだけで怖がらせてしまう。
女の子に恐怖を与える存在。

「冗談よ」

じんわりと笑って、手を離した。

「びっくりさせないでよ!」

主《あるじ》ちゃんは口元をひくつかせながら、ようやく声を絞り出した。
その後の主《あるじ》ちゃんはアタシに必要以上に近づかなかった。
男に対する距離感だった。

アタシとしたことが失敗した。

良い時には女の顔して、懐に入ったら男の顔をして。
顔を使い分けてる。
化粧で多くの顔を持つ女と同じように。
男を自在に出し入れされて困るのは、相手なのに。
それに主《あるじ》ちゃんは面倒なことが嫌いだ。
私事では穏やかに過ごしたいのだと耳にたこができるくらい聞かされている。

これでアタシたちのダラダラとした友情も終わりか。
買い物して長話して、楽しかったんだけどな。

「あ、アシュラ。今晩いつもの場所。いいね?」

気まずくなった翌日、討伐帰りのアタシに選択させない強引な上司がそこにいた。
予定を全て知られているのが困ったところ。
だけど、アタシのことを見ている分、本当に無茶な誘いは絶対にしないから、その匙加減が憎らしい。

「前回。私の手触ったの、めちゃくちゃ怖かったから謝って」

男顔負けの強気で支配的な女友達に、アタシは頭を下げた。

「ごめんね」
「うん。おしまい。じゃ呑もっか」

いつものと、と言って注文する。
いつも通りがんがん呑んでいくと少しずつ主《あるじ》ちゃんの口が滑っていく。

「はーあ、厄介な友達持ったけど、友達ってそういうもんでしょ。私が支えてあげるわ」
「あーら、主《あるじ》ちゃんだって相当だからね! 年々理想ばっか高くなって絶対男できないから!」
「なんだとー! いつか絶対出てくるから! 私に激甘で我儘聞いてくれる私より年収高い人!」
「いるわけないでしょ!! それを普通って言うからおかしいのよアンタ」

言い合いをしていても店員が近づいたらすぐににこやかな顔を浮かべる。
主《あるじ》ちゃんの変わり身は速い。
けれど、それが切り替えのきっかけを与えた。

「私もごめん」

主《あるじ》ちゃんが頭を下げて謝った。

「アシュラって何でも聞いてくれるし、可愛いの好きだから女の子扱いで良いんだと思ってた」

それをアタシも望んでた。なのにヘマしちゃった。

「……まさかこの完全無欠の私を好きだったとは……」

わざとらしく溜息をついた。

「あ。それは本当に冗談だから」
「はああ???」

机を叩き身を乗りだして怒った。

「お金と権力と力(英傑)の全てを持つ私に何の不満が」
「そういうところよ。第一アンタ筋肉ないし」
「いらんだろ! 強い英傑を動かせるんだから、私にはいらない!」
「アタシは己の身体を苛め抜いて高みに登った身体を持った男がいいのよ!」
「ヤシャじゃん!!」
「ヤシャはいつもつれないんだからしょうがないでしょ!」

こうやって言い合いした後は、強い酒を持ってくるのがアタシたちの通例だ。

「じゃあ勝負だ。私がどれだけ良い女が教えてやろうじゃん」
「あーら。アタシに勝てると思ってんの?」

飲みまくって。
飲みまくって。
飲みまくって。
主《あるじ》ちゃんが潰れた。
天井をじっと見つめて目を回している。

「アンタって、……馬鹿よね」

主《あるじ》ちゃんの凄いと思うところは、これだけ力を集めておきながら、あっさり謝れるところだ。
横柄なことを周囲に言うが、自分のどこが悪いのかと反省を忘れない。
敢えて自分の方が馬鹿やってみっともなく振る舞う事で、相手を気遣っている。
そうやって周囲の者は守られている。アタシのことも。
英傑であれば平等に。

「自分で歩ける。大丈夫」
「こういう時は頼りなさいよね」
「いいって。…………守られたいって言ってるやつに私は抱かせてやらないよ」

変な所で頑固。
でもアタシはそれを押し返すだけの腕力がある。

「良いわよ。偶には。変な遠慮やめなさいよね」
「…………どうも」

主《あるじ》ちゃんは横抱きされても絵になる。アタシとは違って。
本殿のみんながこぞって守ろうとするのも判る。
庇護欲をそそる。守ってやったのだと満足感を与えるだけの存在感。

「……主《あるじ》ちゃん、実際にアタシのことどうなの。アレがあってからやっぱり見方変わったんじゃない?」
「正直…………一人で二人分楽しめるならお得だなって思った。これマジだから」
「人をおつとめ品みたいに言わないでよ」

多くの顔はずるくはない。
そう言っているような気がした。

「てことで聞いてよー!! 今度は公家に言い寄られたんだけどさ、なんでもかんでも占いしてみないことには判らない~って、自分で決めんのかい! って思わない?」

唐突ねほんと。
人族でも特に信仰心が強いのが公家だから、占いは日常でしょうがないじゃない。
とは思うけど。

「判る」
「そこは、俺なら主のこと強引に引き連れてやるけどな。じゃないの!?」
「なによそのアタシ!? アタシ知らないけど!?」

主《あるじ》ちゃんはアタシの顔を知っている。
知っていて、アタシの友達をする。
まだ見せていない顔も、主《あるじ》ちゃんになら見られても平気かもしれない。



◆ワタナベノツナ



世が乱れ、未曾有の混沌に陥る時、変革を成さんと独神なる者が産まれる。
細かな部分に差はあれど、それが八百万界中に言い伝えられた予言だった。
世界の加護を受けし子供がどこぞの腹から独神として産まれ、界を導くのだと信じて、悪霊の猛攻を耐える日々だった。

────独神が産まれたと、界中に瓦版が撒かれた。

そこには、鬼族の一人が神託を受け、独神の力を与えられたと書かれていた。
独神の誕生に喜びながらも、後天的独神に対して懐疑的な見方をする者も少なくない。
ワタナベノツナもその一人であり、独神とは関わらずに悪霊を退治していた。

数年が経ち、独神は力ある英傑達を集めて組織的に悪霊を狩るようになった。
出会う悪霊を片っ端から退治していたワタナベノツナも、個人行動には限界を感じ始めていたので、独神を訪ねた。

「ごめんなさいごめんなさいころさないでくださいごめんなさい」

ワタナベノツナを目にした女は目を見開き、その場で何度も頭を床に叩きつけ土下座をした。
ぎょっとするワタナベノツナ。

「遊びはそれくらいにしてしっかりしなよ。僕まで馬鹿と思われるでしょ」

黒髪の少年が独神の頭を上げさせた。長い刀を使う赤目の少年には覚えがあった。
予想が正しければ、彼はモモタロウ。鬼を専門に斬る侍である。
自分と同じく鬼を憎み、排除する立場にありながら、情けなく頭を下げる独神を気遣っていた。

「ほら。ちゃんとやりなよ主《あるじ》さん」

諫める彼の言葉に従い、頭を上げた独神はようやくワタナベノツナと目を合わせた。

「……取り乱して申し訳ありません。私がここの主、独神でございます」

白い頭巾を外し、手をついて再度頭を下げた。
独神の額には二本の赤黒い角が生えていた。鬼の証拠だ。

「そうそう。主《あるじ》さんを斬るなら僕を含めた全員が敵に回るよ」
「まさか。わたしは独神様に協力する為に参った」

ほんの一瞬抱いた敵意にも目聡く反応している。
モモタロウという者も相当な場数を踏んでいるのが感じられた。
独神の回りには腕利きの者達がまだまだいるのだろう。

鬼であることは気に入らないが、今は悪霊の殲滅が先決。
この本殿にはそれを成せるだけの戦力もある。協力するべきであろう。
そう判断したワタナベノツナは、大人しく独神の配下となった。

独神に近づいたのは正解で、単身で活動していた時よりもより効率的に悪霊を殺すことが出来た。
本殿の英傑達は皆一様に士気が高く、様々な武具や流派を間近で見ることは大きな刺激となった。
総合的に見て、本殿には満足している。
ただ、難を言うならば、やはり大将である、独神の事だった。

倒すべき鬼に従うことへの抵抗はなかなか拭えない。
独神の実力は認めている。腕利きの者ばかりを集め、従えることの大変さは理解している。
しかし、何かが引っかかって上手く処理できずにいた。
時間が経過すれば何かが変わると思って先延ばしにしていたが、そろそろ蹴りをつけようと、ワタナベノツナは独神に話したいことがあると言って呼び出した。
必要最低限しか関わってこない者からの誘いに大いに動揺していたようだったが、二つ返事で了承した。

昼食後に二人は本殿の敷地を歩きながら話した。
部屋に二人きりでいることは、どちらも気が進まなかったのだ。

「主《ぬし》さまは何故、いつも頭巾を被っていらっしゃるのだ」

まどろっこしい雑談を抜かし、ワタナベノツナは疑問に思っていたことをぶつけた。
独神は足元に規則的に植えられた花を見ながら答えた。

「鬼で損する事は沢山あるよ」

すっと指を指した先には、朝から酒樽を浴びているシュテンドウジがいた。

「あれと一緒にされるんだからね」

昨晩は夜遅くまで酒盛りをし、苦情を言いに行った英傑を殴り倒し、止めに来た英傑を殴り、殴られ、乱闘騒ぎだった。
最終的にアマテラスが激怒し、神聖な矢で何度も射貫かれ気絶して場が収まった。
無骨で下品で暴力的だという、鬼の一般的な認識そのものである。

「鬼族が人族には特に嫌われているのは判ってるけれど、私は鬼のみんなが好きだよ。人族の両親から産まれた子が鬼だったからって、あっさり山に捨てられた私を育ててくれたのは、同じ鬼族なんだよ」

詳しい出自を聞いたのは初めてだった。

「鬼族は見ての通り、暴力が当たり前の社会だから、略奪やめてまともに働こうよって言っても聞きやしない」

この感覚は人族に近い。
本殿に規律が存在し、それを守らせているのは独神の感覚のお陰だろう。
だから種族入り混じる本殿でも共同生活が行えている。

「そんなこと言ってたら、寝ている間に神託を受けて、朝には独神の能力があって……。私が独神に選ばれたって言ったら、みんな喜んじゃって、前よりもっと横柄になっちゃった。独神が選出される種族なんだぞって、前よりも手あたり次第挑発して、喧嘩して、略奪して……」

嘆かわしいが、鬼とはそういうものだ。

「独神なんかに選ばれなければ……。そうすればきっともっと鬼族はマシだったのかもね」

角のことは言わなかった。
だが独神は鬼であることを恥じているように感じた。

「……鬼族である私を好きなだけ憎んでくれて良いよ。悪霊を全員倒してからなら殺してくれても構わない。少しでも溜飲が下がるなら、私の命なんてあげるよ。……その分、みんなに悪意が向かないなら」

角を隠した独神が鬼を庇う様子に、ワタナベノツナは「そうか」と返事をするだけにし、会話も終わらせた。
独神も、鬼を憎むワタナベノツナといることは望んでいないはずだ。
さっさと去ると、今度はシュテンドウジが立ちふさがった。

「ちょっと面貸せ」
「……良いだろう」

酒臭い鬼のことは不愉快だったが、売られた喧嘩はいつでも買う気でいたから丁度良かった。
本殿では英傑同士の私闘は禁じられているが、証拠がなければなんとでも誤魔化せる。
刀を抜く気でいたワタナベノツナであったが、シュテンドウジは人気のない所でも襲ってはこなかった。

「……頭《かしら》を斬るなよ。あいつは鬼だけど、おれみたいな馬鹿とは違う。まともなヤツだ」

拳一つ飛んでこない静かな警告だった。
これでは刀を抜くわけにはいかなかった。

「あいつは、鬼にも居場所はねェ」
「居場所が、ない……?」

きっと考えが合わないことが原因だろう。
暴力行為はやめるよう、独神になる前から言っているようだった。

「種族も立場もごった煮の本殿の頭《かしら》になることがどうなるか。少し考えりゃ判んだろバーカ」

吐き捨てたシュテンドウジは背を向けた。
多少の口汚さははあったが、粗暴な鬼族らしからぬ落ち着きにワタナベノツナは違和感が溢れて仕方がなかった。

その後は、独神の身辺についてシュテンドウジに怪しまれない程度に情報を集めた。

独神は鬼であり、妖である。
それらの所属に囚われず、全ての民に公平に努めた結果、彼女は鬼の中では裏切り者とされているそうだ。
仲間の鬼たちは、独神の地位にあやかることでこのまま鬼族が優遇されることを期待していたのに、彼女はそれをしなかった。
そして信用を失った。

鬼では力の強い者が上に立ち、畏怖と信用、尊敬を集めるが独神になる以前の彼女は力の弱い鬼だった。
独神という名を与えられ、初めて期待された。その分が消えて、ゼロに戻った。
元々の信用の下地がなかったことが原因だ。
これが例えば、シュテンドウジが独神となり、鬼を特別優遇しなかったところで、反発の声は少なかっただろう。
強者の言葉が絶対だからだ。

ワタナベノツナは再び独神を呼び出した。
以前の呼び出しより二ヵ月は経っていた。

「こんな人気のないところに呼び出すなんて、何か重要なこと?」

二度も呼び出されるとは思っていなかったのか、かなり不審がっていた。

「鬼を捨てる気はないか」

率直に伝えると、独神は僅かに目を見開いたがすぐに元に戻った。

「あなたのことだ、自分を育ててくれた者達を裏切ることは出来ない。だからわたしが斬るのは故郷の彼らではなく、あなたの鬼だ」

独神はすかさず隠している角の部分を手で覆った。

「勿論。角がなくとも鬼は鬼だ。だが少なくともその頭巾は不要になるだろう」

独神は鬼だが、鬼ではない。
それがこの本殿で過ごしてきたワタナベノツナの結論である。
鬼の象徴を斬ることで、鬼への未練を断ち切る……ことは難しいだろうが、大きな重しを少しは軽く出来るのではないかと思っての提案だ。

「……不思議だよね。邪魔でしかないって思うくせに」

頭を抑えたまま独神はじっと黙っている。

「すぐに決断しなくても良い。ただわたしは選択肢を提示しただけだ」
「……うん。ありがとう」

独神は笑顔で礼を言った。
しかし、その後ワタナベノツナに頼むことはなかった。

悪霊を八百万界から追い出して数年、いや十数年か、かなりの年月が経ってから、ワタナベノツナは独神を町で目にした。
遠目で見た彼女はもう角を隠していなかった。赤黒い血液のような角は左だけが真ん中で折れていた。
同じ鬼に折られたと風の噂で聞いた。

彼女は笑っていた。
傍には別の鬼がいた。

ワタナベノツナは胸に少しだけ痛むものを感じながら、幸せそうな彼女を心の中で祝福した。
 





*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*
あとがき



・マカミ

実はかなり好きだろ、自分……。なマカミ。
2021年のクリスマスの話や、アマツミカボシの長編、オーディンの話、自本殿話、とサブキャラの出演回数は上位。
オオカミverもあるという幻覚をいつも見ている。
最近私はケモナーなのではないかと思い始めた。耳だけついているやつより、獣により近いやつが好きである。

なので、今回は神様ではなく獣寄りの話にした。


・イナバ

因幡の白うさぎは数回読んでいるので馴染みがあるが、キャラの方はあまり馴染みがない。
イタズラ好きが本殿には多すぎるからかも。スクナヒコとかコタロとか。

「~しちゃうよ!」イメージなのに、タイトル画面の台詞が「始めちゃう”わ”よ」なのポイント高い。
でもその台詞以外に「わ」を使わないので、タイトル時のは演技がかった言い方をしてるってことなのだろう。
ノリ良いんだろうね。

ぐっとくる台詞は親愛度95台詞の「主さんが私のこと、好きになってくれたらいいなあ。っ、勿論、私の片思いでも全然構わないけどね! ……ごめんなさい、ちょっとだけ嘘」
これ。
最初に強がりや遠慮を出してーの、「嘘」で〆る女の子は最強に可愛い。


・ホウイチ

私、セミマル好きなんすよ。
だから盲目というとそっちのイメージが強いんだが、ホウイチも盲目。
立ち絵のイメージから盲目を連想しにくい(ファンは違うだろ! と言いたいだろうが、ぱっと見だと判りにくいのだ)

改めて声を聴くと、かっこいいタイプの声で、否定に「~ぬ」を使う。祭事台詞は「ぬ」使用率は低く、「ない」を使う。
この声なら私は「ぬ」で統一した方がかっこいいかな。

……と、上げたところで。ホウイチはとにかく琵琶琵琶琵琶琵琶。琵琶が生活の一部というより、口の役目を果たしているのか琵琶琵琶琵琶。
琵琶を聞かせる為に拳を振るい、拳も強くなるパワー系奏者。(親愛台詞45より)
ロックかな?


・ボロボロトン

親愛度後半「主」って言わないのものすっごく良いと思った。
頑なに「あなた」なの、ちょう良い。
「貴様」呼びのやつが、「主」呼びばかりになるのと逆パターン。

公式が夢系路線を用意してくれているので、私が言う事はあまりない。

蒲団の生気を吸って生きるってことは、妖として弱小じゃないかと思うんよね。
蒲団自体の生気って少なくない?
それとも繰り返し主に敷かれたことで思った以上に蓄積してんのか?
そんなボロボロトンが独神(めちゃ凄い)を好きになって、少しずつ頑張る姿ってちょっと可愛すぎない?
少女漫画の主人公やん。


・ベンケイ

くぅ~好き。
かっこいいんだけど、刀狩りする狂人も最高に好きなんだけど、バンケツだとウシワカに足蹴にされても従者やっているベンケイが可愛いんだな。


・ガゴゼ

「八雷神《やおいかづちのかみ》」が多分元ネタだよねえ? (黄泉にいたのは、八雷神《やくさのいかづちのかみ》で別物)

ガゴゼは、少しずつ自分の世界が広がって、独神以外、英傑以外にも少しずつ世界の住民が増えていけばいいなと思ったので書いた。


・モミジ

好き。
普通っぽい恋愛は今まで書いていたような気がした(バレンタイン・英傑と付き合ってんのか小話等)ので、
今回は第六天魔王への祈りによって生を受けた「北向山霊験記 戸隠山鬼女紅葉退治之伝」の要素強めモミジで。

参考にしたものは、モミジ(呉葉《くれは》)は無茶苦茶しかしない女なんだけど、それを出し過ぎるとバンケツ感が消え去るので、まあまあ面倒くさい女ぐらいに留めている。
面倒臭い女好き。


・イマガワウジザネ

乙女新党の「もうそう★こうかんにっき」より。
アニメ「GJ部」のOPで、今でもよく聞く好きな曲。

その歌詞に、男の子が怪我を乗り越えて放つハットトリックに涙する(※妄想)というのがあり、それを使わせてもらった。

ウジザネは過去色々色々色々……あるキャラだけれど、そこにフォーカスってよりは、
その過去を経て今がある、現在にフォーカスをあてていくのが良い感じかと思う。
普通っぽく見えるけれど、ふとした時に人生の厚みが見えるのがかっこいいポイントだと考えます。


・シーサー

不思議系ギャル。陽の者。
超絶書きにくい。

悪意なくナマハゲのことを「ハゲちん」と呼ぶ純粋さパなくて好きだけど、書くのは難しい。拙僧は陰の者。
ただ可愛い面だけを書くならそうでもないけれど、ギャルい所も入れるのむずい。
とにかく書きづらい。私にはレベルが高すぎる。

そして気づいたら異世界転生を書いていた。しかも私には珍しく男独神。
アニメで偶に見るなろう系(なーろっぱ系?)を思い出しながら書いた。
最近見たアニメだと「転生したら剣でした」が視聴しやすい内容。

主人公が引っ張るよりも、絶対シーサーが引っ張ってくれた方がいい。
身を任せた結果、悪霊退治はどうでもよくなりました。
でも、お約束ながら悪霊と邂逅するのである。
以上。


・ミコシニュウドウ
うーん。好き。
ヌラリヒョン書いていることもあってよく脳内に出てくるスーパーハイパーウルトラ美女。
気怠げに命令して。無茶なお願いして。破産するまで貢がせて。

くぅ~最高ォ。
悩みという悩みがなさげなので、辛気臭い話はつくりにくい。何か出会い・出来事を作る必要がある。
なので私が書いても暗い話にならないのでとてもありがたい。理想を好きなようにぶつけられる。

と思ったのに出来た話は暗い話でした。
姐さんは気分のままに動くけれど、かといって感情の全ては表に出さないし、じっと静観して窺う周到さもある。
だから、……出来たんだなあ。
超かっこいい姐さんが純な愛情隠し持っていたら可愛くない? 私なら可愛すぎて死んでしまう。


・ジロウボウ

俺昔はヤンチャしてたぜ英傑。
なんでコノハの舎弟みたいになってるんだろう……?(関連する話を全部見た上での感想)
ヤンチャ後の人間(?)ってもっと大人しくなるもんじゃないのかな。
自分は暴れないけど、好むのはそういうのってこと?(脱ヤンした奴がヤンキー漫画好むみたいに)

そんなこんなで、ジロウボウの方が大人な感じかなと思って書いた。
独神とは両片思い。


・ダテマサムネ

すぐ出来た。話をまとめるのは長くかかったけど。

豪気な男なのに、眼帯の下がめちゃくちゃウィークポイントなの物凄く好き。
あと意外と触ってこない。受け身。
口では言うけれど、ちゃんと許可を得てから手を出すタイプなんだと思う。

内容の話。
英傑達に協力してもらって守った方が効率も良いし、確実だろうけれど、
最初から甘えているようじゃ駄目だってことで、自分だけでなんとかしているのだと思う。
それだけの気概を見せて見ろと他の英傑から試されている。
成し遂げるのはもう少し先。
その後は、英傑達ともまた交流するようになって、独神は心底楽しく暮らすでしょう。


・アシュラ

付き合っていないけれど、付き合っていてもおかしくない。
そのうちはガチで付き合うかもしれないし、付き合わないけれど信頼している友達として続くかもしれない。

どちらもしがらみや枠に囚われない、自由さがあると、組み合わせとしては良いのかな。
アシュラは頼りたい、でも偶には頼られたいタイプだから、そこを満たすならどちらも担当出来る相手が良い。
バリキャリタイプと合わせたいな。とぼんやり思って書いたのが今回の。

とにかく長く続く相手。
暫く疎遠でも、連絡とったらまた以前と同じように接することが出来る相手。


・ワタナベノツナ

どうなったら面白いか。

そうだ、大嫌いな鬼が独神ならええんや!

という単純なつくり。

女の子の方はツナに守られるのではなく、ツナが思う以上に気丈な性格に。
多分ツナは自分より強い奴を慕いそうだなって。思って。

あと「好き」と気づくの遅そう。武力特化で割と鈍感な気がする。
食べ物のうまいまずいを気にするのが、親愛度の80だなんて遅すぎるでしょ……。
季節の移り変わりを楽しむ雅さはきっとない。感じられるのは本殿のぬるま湯にしっかり浸かってからだよ。
だから、恋愛、みたいな人生の余計なもの(武人視線)に気付くのが遅すぎるんだ。
独神に恋人出来た後に自覚して苦しむ話とか面白そう(地獄感)