全英傑で小話を書いてみた ~桜代神代降臨侍編~



◆ミシャグジサマ

「まずいで……ほんまどないしよ」

ミシャグジサマは箪笥の前で項垂れた。
独神との外出に着ていく服がないのだ。
神である自分は、特別着飾らずとも人々に崇められた。
神なら当たり前の慢心が、彼女を苦しめる。

どんなものが可愛い服かは判るが、自分に合う服となると皆目見当がつかない。
そこで本殿一……か二番の誑しであるタマモゴゼンに聞きに行くことにした。

「ならばわらわの物を貸してやろう」
「ほんまに!?」

九尾の狐もなかなか良いところがあるではないか。
ミシャグジサマは渡された服を嬉々として身に着けた。

「って、胸ガッバガッバやん!!」
「ふふ。可愛らしいのう」
「馬鹿にしとるやろ!!!」
「わらわの魅惑の身体を見れば、そなたでは合わぬと判っておろうに。んふふ」
「はー。血迷って狐を頼ったうちが馬鹿だったわ」

目一杯笑われたが、自分でどうにかできる自信はなかった。
本来勝気な性格であるミシャグジサマであったが、嫌われる怯えに二の足を踏み、もう一度他人に頼ることにした。
次に声をかけたのはハシヒメだ。
彼女は健気で愛らしいと評判の神であった。
望まずとも相手を魅了し、傅かせてしまうところはタマモゴゼンと同じである。

「なあ。あんたはす、すす、すきなひとと出かけるならどんな服にするん?」
「ええ!? そんな主《あるじ》さまとなんて……」
「主《あるじ》様とは言うとらんやろ!!!」
「主《あるじ》さまなら……。もしものことを考えて、脱ぎやすいものにします」
「はあ????」
「もしもですよ!! 勿論私からお誘いはしませんが、もしも、です。
 油断して着古した下着なんて見られたらその方が恥ずかしくありませんか?
 突如雨に降られてしまうことだってあります。
 主さまにはいつも可愛い私のままでいたいので、その為ならなんだってしますわ」

意気込みが違う。ミシャグジサマは気圧されてしまった。
独神に可愛く見られたいが、果たして自分はその為に日々努力してきただろうか。
急に決まったお出かけの日だけ乗り切れば良いと思っていたのではないか。
きっとこの時点で、自分は失敗しているのだ。
今から減量は出来ないし、頭の先から爪先まで作り変えることは出来ない。

「あかんあかん。まだ約束まで時間はあるんや!」

他人を頼ることはやめた。
現時点で出来ることを精一杯やるしかない。
所持品の中から一番良いものを身に着けて、当日何を言って独神を笑わせようかと会話内容を考えていた。

「隈エッグ……」

考えすぎて睡眠不足である。
欠伸を噛みしめながら、化粧で目元を誤魔化した。

「おはよ。今日は特に可愛いね」

独神はいつもと変わらなかった。

「ありがと。でも主《あるじ》様その恰好で行くん!?」
「うん。独神が見回っていることを見せたいからね。……あ、ごめんね。服楽しみにしてた?」
「主《あるじ》様らしいやん。全然気にしてへんよ」

がっかりしたことは丸呑みにして抑えた。
独神にとって、自分と町へ出かけることは仕事の一環に過ぎないのかもしれない。
舞い上がった自分が悔しくて惨めで、これなら自分もいつも通りで良かったのにと後悔した。

「今日はどこへ行きたい?」
「主《あるじ》様の行くとこならどこでもええよ」
「じゃ、どうしよっかなー……」

ほんの少しの沈黙で口が大きく開いて欠伸を零しそうになる。
独神と二人で緊張しているというのに、自分はどれだけ神経が図太いのか。
ぐぎぎと歯を食いしばり、欠伸を誤魔化した。

「じゃあ、枕屋さんいこう!」
「は? 枕」
「そう。人を駄目にするとかなんとか。安眠道具情報は忍に頼んで仕入れてるからね!」
「働きすぎなんやって。もっと頼ってもバチ当てんで、うちら」

枕と言っても、それは人の身長ほどあるものだった。
円柱型、雫型など形は様々で枕というより巨大な座布団に近い。

「人も神も妖も駄目にするんだよ!」
「へえ。……あ、めっちゃ柔らかいなあ!」
「包まれてるって感じするー」

中には綿ではなく、柔らかな小さな粒が大量に入っていて、身体に沿って形を変えた。
雲の中にいるような心地になり、ミシャグジサマは気持ちよさそうに目を閉じた。

「……っ! うち!」

変わらず、隣に独神がいた。
一瞬だけ寝てしまったのだろう。
店の外が茜色に染まったのを見て、それが間違いだったと気づいた。

「なんっ。夕方。おこ」

どうして夕方になっているの。
どうして起こしてくれなかったの。

「疲れてるみたいだったから。あ、寝顔は見せてもらったよ」

詰られた独神はいつものように笑っていた。
どうして。
ミシャグジサマは下を向いて、深い溜息をついた。

「……ごめんな。主《あるじ》様」
「なにが。何も気にすることないよ。寝てる間も一緒にいたんだし」
「うちはもっとお話ししたり、お買い物したり、主《あるじ》様と色々したかってん」
「次行こうよ」
「次って!? 今日だって主《あるじ》様無理して時間作ってくれたやろ! それをうちは……」
「無理はしてないよ。一緒にいる為に働くの、結構楽しいよ」
「主《あるじ》様………………それは流石にかっこつけすぎちゃう?」
「うっそ、そこ駄目だしされるの。えー、そりゃ仕事は大変だけどさー、楽しみがあるとはりがあっていいよ。うん。やっぱり私楽しんでるよ。全部」

独神のからっとした言葉には救われ、申し訳ない気持ちが薄らいでいく。

「主《あるじ》様、今日はほんとごめんな。次は楽しいこと、なんかしよな」
「そうねえ。じゃ、ちょっと寄り道しよっか」

独神に連れられた店は、暗くて店内がよく判らない造りになっていて、そもそも開店しているのか疑問に思った。
すぐ戻るからと、ミシャグジサマを店先で待たせ、独神は紙袋を抱いて出てきた。

「次はそれ着てきてよ。それなら寝不足にならないでしょ?」
「え、あ、ありがとうな。って、なんでそれ知ってるん!?」

独神は目を細めて、品なく口端を大きく釣り上げた。

「それくらい独神はお見通しだから」

歪に笑うその顔をぽこぽこ殴ってやりたくなったが、今日の失態を思い出して歯噛みした。

「主《あるじ》様の馬鹿! 次は絶対この服着てうちに釘付けにしたるからな!」

叫びながら走り去っていくミシャグジサマの背中に、含み笑いを投げた。

「これ以上釘付けになれだなんて、罪なやつだねえ」



◆イシマツ

「うわ。月とすっぽん」

イシマツが独神の護衛の任につけば、町の者達はこそりこそりと呟いた。
言わんとする事は理解している。
隻眼に厳つい顔つきの自分は、ゴロツキの親玉然としていて、微笑むだけで春を呼ぶと言われる独神とは釣り合わない。
独神は単に秘儀を使える女ではなく、絶世の美女がなんと秘儀まで使える、と言うのが一般的な見解であった。
圧倒的な美貌に誰もが平伏し、その後、失われた術を使う術師として崇められた。

「護衛の話なんだが、アシュラとか、オモイカネとか、ハクリュウとか、そういう奴が合ってないか?」

アシュラとは派手な身なりで女物の装いと化粧を好む豪傑で、オモイカネは美を追求したような顔の持ち主で、ハクリュウはいつも柔らかに笑む穏やかな龍神である。
野盗と間違われて追われるシイマツよりも、独神の傍に置くに相応しい見た目をしていた。

「でもさあ、傷のある男ってかっこよくない? 寧ろ歴戦の猛者感が出て護衛にはぴったりじゃない?」

独神は端正な顔立ちではあったが、口を開けば知性をあまり感じさせない言葉をよく使った。

「美女と野獣って言うじゃない? 私の可愛さを引き立てるならゴッツイ筋肉達磨が適任でしょ」
「オオタケマル置いとけよ」
「情報抜かれちゃうから気が気でないよー」
「それにしちゃよく一緒にいるな」
「時々気が合うのよ。その後は裏切り合戦だけど」

独神は”悪いこと”をすることに抵抗が薄かった。
名誉の為に言うが、殺しはしないし、盗みもほどほどにしかしないし、種族の差別はしないし、お金を巻き上げることは偶にしかしない。
弱い者を虐げることが大嫌いで、彼女なりの線引きをしていた。

イシマツが独神と初めて会った時は、話し方が乱暴なただの悪ガキであった。
その時から顔は良かったが、村では一番の程度でしかなかった。
独神として活動するうちに、自分の顔が使えることに気づき、顔を引き立てる為に衣装を変え、性格と口調を変えた。
大方の英傑は変わった後に一血卍傑で喚《よ》ばれた者達だ。
なので、主君がどうしようもない奴だと知っているのは極一部である。

「そもそもだが、八傑を置いた方が良いんじゃないか。実力に申し分ないだろう」
「彼ら忙しいからね。派遣したの私だけど。
 ……で、なに。私といて不満?」

目には非難の色が強く濃く表れていて、少しでもふざけようなら術で張り倒されるそうだった。

「不満があるわけじゃねぇが……」
「じゃあなに」

脅せばなんとかなるという雑な尋問。
突っぱねることは出来るが、そうするとしつこいのだ。

「月とすっぽん」
「どっちが?」
「そりゃ、主君が月だろ」
「まあね。私可愛いし」
「だったら、その月に見合った……太陽や星を侍らせればいいだろう。相応しい奴がここにはいる」
「すっぽんが遠慮してるの?」
「するだろ。……相手は独神だぞ」

世界と同じ重みを持つ名の持ち主は鼻で笑った。

「月は月でも、私はハリボテの月だから。
 すっぽんと変わらないよ。勿論見た目と中身がすっぽんと比べないでよね」

独神はイシマツを見据えた。

「この話は今後二度としないこと。判った?」
「……了解」

射貫くような瞳にイシマツは素直に頭を下げた。
独神は目に一番感情が乗る。
太陽を張り付けたような瞳は、次話したらブチ殺す、と書いてあった。
イシマツが黙ると、独神は舌打ちをして捲し立てた。

「どれだけ借金作っても賭場狂いでも、困った人を助けられる器量を持ったイシマツが、私には丁度いいの。
 顔とか身体とか力とか、それぞれ秀でた英傑は沢山いるけど、私が善悪判らなくなった時に信用出来るのは、……やっぱいいや。もう言う事ない」

不満げに唇を固く結んだ独神の目元は赤く染まっていた。
照れると黙ってしまうのは、昔から変わらない。
仕方なくイシマツは助け舟を出した。

「……。あんたがゴエモンに探させてた渡来のゆ、」
「見つかったの!? うそうそねえねえ、どうだって? 手に入れた? でも報告来てないけど。あ! 増援が必要ってこと? いいよ、何百人でも使っちゃおう!」
「公私混同が過ぎるだろ」

指輪に目がない独神の特性により、話を終わらせることに成功した。

「(まさか、主君がそんなこと思ってたとはな……。
 俺も同じく、主君の真面目さと不真面目さの割合が丁度良くて、何をするにも気兼ねがない。
 出来ればこのままずっと眺めていたいってのは、過ぎた願いだと思ってたが。
 それとも……)」

背中を叩かれてイシマツは我に返った。

「黄昏てる場合じゃないでしょ! 早く指輪回収しに行くよ! ふふ、なんなら神の炎で邪魔する奴らを全て排除してやろうじゃん!」
「カグツチを巻き込んでんじゃねぇ! 可哀想だろ!」

大はしゃぎする姿に、噂の美人独神の姿は見る影もなかった。

「……あんたに惑わされてる奴らには堪んねぇな」



 
◆イッシンタスケ

「ごめん。魚苦手」

冗談じみて言った「オレ様のとこにこないか」は見事に爆散した。

「に、苦手ってどういうことだよ。普段食べてるじゃねえか!」
「火が通ってればぎりぎり……生は無理。だから私刺身食べないの。海鮮丼が出た時は山葵で誤魔化してる」

山葵巻が好きと言っていたのはこういうことだったのか!
仕えている上様の魚事情を今更ながら知った。

「だから、魚屋さんにはちょっといけないな。……ごめん」

魚嫌いまらな、魚屋から年中無休で漂う生臭さには耐えきれないだろう。
オレ様は情けなくも酒を浴びてめちゃくちゃ泣いた。

だが次の日、すぐに復活した。
魚屋からの転職は踏ん切りがつかないので、現状何か工夫できないかと考えることにした。
自分一人では良い考えが出るとは思えず、通りがかりのヤヲヤオシチに声をかけた。
またフラれたと言っていたので、ある程度話を聞き、その見返りに昨日の出来事を全て話した。

「まあ可哀想!」

同情の欠片もなく、にこやかに言った。
しまったこいつ、上様の強火担だった……。

「お魚苦手なんですね。主《あるじ》様は。うふふふふふふふ」

くっそ……うらめしい。

「なら魚が出た時は私の愛で焼いてさし上げればいいのですね。ふふふ」
「それだ!!!」

魚屋をやめて、定食屋になろう!!
早速オレ様は上様の元に行き、定食屋になら嫁に来られるかと聞いた。

「調理前の魚は生じゃない? 無理」

撃沈した。

「えーっと、タスケ……大丈夫?」
「だ、大丈夫だ」

大丈夫なわけがなかったが、上様に心配されるのは恥だった。

「……じゃあ、うちにお嫁においで。家はこのまま本殿使えば良いし、周囲の助けも多くて住みやすいんじゃない?」
「いや、それって今の生活と変わ、」
「良い考えじゃない? 世の中の平和は守れるし、毎日魚の匂いを嗅ぐこともないし、みんなと一緒にいられるし、良いこと尽くめでしょ!」

自信満々に主張する上様を見ると、オレ様の足は海月のように力を失っていった。
この人に、オレ様の気持ちは一生伝わる気がしない。

「じゃあまずは部屋を一緒にしよう! 今夜から私の部屋使っていいよ」
「ん!?」

いやもしかしてもしかすると、これは。

「丁度綺麗な衝立もらったところだから。同じ部屋でも個人空間は守られるから安心して!」

…………だよな。
上様はそういう人だった。



◆ヌエ

「なーーるほど! これが噂の赤い池ね!」

それは大昔から存在していた。
深い緑色をした樹木が生い茂る森の中、錆びた色をした池がひっそりと存在していた。
近づいて何かあるわけではないが、なんとなく不気味で、村の者達はないものとして扱い近づく事はなかった。
しかし、近年は村同士の交流が盛んになり、居住区拡大のために土地を広げていて、赤い池の辺りまで範囲をのばしたいと思うようになった。
下手に手を付けてなにか祟られても困る。
神々をも従える独神ならば祟られまいと白羽の矢が立った。

「じゃ、調査始めるよ。ヌエよろしくー」
「はあい」

ヌエは元気よく手をあげた。

「まずは水の調査! ……えーっと……錆色って聞いたのに、よく見ると錆っぽくないね」
「辺りの石も鉄が特別多く含んでいるわけではなさそうです」

土や石に鉄が多く含まれていると、風雨の影響で酸化し表面が錆色になることがある。
この一帯に鉄産業が栄えた記録はなく、鍛冶も盛んではない。

「これ。血のように見えませんか?」
「血ぃ?」

独神は柄杓で水を汲み、傾けて水を落としていく。
透明度は低いがただの水のように見えた。

「水としか思えないけど。……とりあえず飲んでみよか」
「だだ、駄目ですよ!」
「だって調査」
「お腹壊しちゃいますよ!」
「じゃあ煮沸する」
「駄目ですってばあ!」
「へいへーい……」

独神は水面の揺れない池をじっと見る。
森の中だというのに鳥の声が聞こえなかった。

「……ここ、変だね。静かなのにざわついてる」
「そうかもしれません。……久しぶりですし」
「久しぶりって、何が」
「ここ、私の家なんです」
「ふうん。…………家?」
「はい」

けろっとヌエは答えた。

「この池が赤いのは私の血なんです」

そう言ってヌエが池に手を入れると、そこを中心に池の水が一気に赤く染まった。
その濃さたるや、地獄にあると言われる血の池のようであった。

「うわ。トマト汁みたいになってる!?」
「あはは。食べても美味しくないですよ。口にすると普通の人なら三日三晩全ての穴から血と臓物を噴き出してしまいます」
「えっらい体液してるね」
「私の血程度じゃそんなことなりませんよ! ここの水と強く反応しちゃってそうなるだけで」

周囲に生き物がいない理由が判った。
その効力だと、独神でも半日厠に籠ることになるだろう。

「……怖い、ですか?」

もふもふの手を胸の前で組んで、小首を傾げた。
小動物のような庇護欲をそそる顔をしながらも蠱惑的な身体つきで欲を誘う。
だが、独神は一蹴した。

「呪われそう」
「呪います」
「ひえー」
「嘘です」
「嘘かい」

すかすかの軽口を言い合った。

「てか、自分の家?が触れるべからず扱いされてるのってどうなの?」
「怖がってくれて嬉しいです」
「あーはいはい」
「それにこの村の者達はこの池が鵺の棲み処で、京で負傷した私が垂れ流した地で赤く染まったことも知っていますよ。
 知らないはずありませんよ。代々ひっそりと口伝で教えていたはずです。
 だって、そうなるように私は皆さんを驚かせてあげていましたから」

ヌエの身体からはひんやりとしたもやがじわじわと染み出てきた。
小さく笑うその笑顔は可憐であったが、まるで生気を感じない。
普通の人ならば恐怖に顔を歪めている間に命を狩られていただろう。

「最近はここに帰ってないんですよ。やられた時のこと思い出すと気持ち良くなくて」

はあ。
前髪を切り過ぎて少し憂鬱になる娘のような溜息をついた。

「村人もこの池のことは終わりにしたいのかもね。どうする? 家を残したいなら村人にはここは手を付けるなって言うけ、」
「わぁ!」

突然の大声に驚いた独神は小さく飛び上がり、その拍子にぬかるみを踏みつけ足を滑らせ池に落ちた。

「ヌエ!!!!」
「あはは! 主《あるじ》様おかしいですね!」

突如発生した霧にヌエは紛れた。
即座に辺りを見回すが、独神には何も見えない。

「……これじゃ、誰も助けてくれませんね」
「こら! 怖い妖ごっこやめな!」
「ふふふ」

含み笑いが四方八方から聞こえて方角も距離もつかめない。

「くそ。全然見えないんだっての」

色々な耐性を持つ独神であるが、自然現象の霧には太刀打ちが出来ない。
これが術による幻覚ならば突破出来たのだが。

「帰省で気分上がっちゃったのか。ちょっと面倒だなあ」

独神が服の中に仕込んでいるのは懐紙と財布くらいである。
非常に心許ない。

「……私が勝ったらお仕置きだぞ」

懐紙を一枚取り出し、こよりをつくった。
それに己の血を沁み込ませて霊力を込めると、一本の赤い鏑矢が出来た。

「そーれいってこーい!」

振りかぶって鏑矢を投てきした。
最初はへろへろと進んでいた鏑矢であったが、独神の霊力を吸って速度を上げ、ひょうと音を鳴らして、ふつと当たった。

「いったあい!」

生娘のような甲高い声。霧は逃げるように晴れていった。
右手をさすっているヌエを、独神はにこにこと見下ろした。

「悪い子にはお仕置きだねえ。じゃ、おしりだそっか!」
「……へ」

調査を終え、村へ戻ると、村人たちが震えあがっていた。

「独神様! やはりあそこには鵺が! 鵺がまだいるんですね!」
「あの地を侵そうとした我々が悪かったのです! お願いします! どうかお鎮め下さい!」
「いやだ! もう鵺の影におびえずに済むと思ったのに!!」

独神は珍妙な顔で語った。

「鵺は現在静かに暮らしています。ですがあなたがたが棲み処を侵そうとするならば、この地の者を食らいつくすと怒り散らしております。
 みなさまはどうぞこのまま隣村と協力しながらこの地で生活を営んで下さい。
 ただし、あの池の周囲はそのままお手をつけずにお願いします。
 土地を残すのであれば、鵺はあなたがたに危害を加える気はないようです。
 ……きっと、暴れまわった昔のことを反省しているのでしょう」

くわっと目を見開いて村人は反論した。

「いや!! あの恐ろしいひゅぉおおおという声はそんなものじゃなかった!!」
「独神様は嘘を言っている!!」
「わしらが嬲り殺されると知って、見捨てるつもりだ!!」

恐怖に染まった村人に、独神の言葉は通りそうにない。
面倒になった独神はぱっと笑顔になった。

「調査は終わりましたので、私は帰ります!
 あとは皆さんが好きに解釈して下さい!」

泣きわめき、怒鳴りちらす村人に背を向けた。
今後の事で頭がいっぱいなのか追う者はいなかった。
しばらくすると、おしりを撫でるヌエが合流した。

「主《あるじ》様、私より怖がらせるなんて凄いですね! やっぱり主《あるじ》様は凄いお方です!」
「いや、そのつもりはなかったんだけど……。ヌエの悲鳴がよっぽど怖かったんだね」
「主《あるじ》様の方がよっぽど怖いですよ! わ、わた、私、おお、お、お尻なんて叩かれたこと、い、今まで一回もないですからね! 酷い辱めです!」
「人族のお仕置きではお尻叩くもんだって聞いたよ」
「人族って、変態なんですね」
「私からすると、妖も大概変態だけどね」


 
◆ミツクニ

「はぁ。肩が凝る」

────城(実家)になんて帰るんじゃなかった。
編纂の資料を取りに来ただけだったのに、家臣たちには矢継ぎ早に跡継ぎの話をされ、
面倒だからとなあなあにしていたら、藩主に相応しくないその態度に頭に来た乳母にとうとう決められてしまった。

見合いを。

相手も藩主に釣りあうだけの地位があるので、絶対に逃げ出さないようにと念を押された。子供か。
水戸藩藩主である自分が情けない限りである。
悪霊が跋扈する世の中で、町は勿論城内も不安なのだろう。
それでも諸国を渡り歩く事を許してくれた。
そろそろ安心させてやることが藩主の務めだろう。
一瞬、ある人の顔が浮かんだが、それはすぐさまかき消した。

着慣れない正装をして料亭で待ち続けていると、襖を開いてやって来たのは妙齢の女だった。
有力者の一族ならば顔を見れば大抵判るものだが思い出せない。
必死に過去の記憶を掘り起こしていると、もう一度襖が開いた。

「お待たせしま、」

若い女はミツクニを見て顔をひきつらせた。
すぐに跪くとミツクニと側近たちに向かって名乗った。

「わ、わたくしが、ど、じゃない、桜、と申します」

周囲の者たちがぺらぺらと話している間、ミツクニは気が気でなかった。
動揺を抑えながらも、女とは目を合わせないように心掛けた。
互いの身内が盛り上がり、ミツクニと女は二人きりにさせられた。
足音が消え、女はミツクニを震える手で指差した。

「ねねねね、ねねええ、どどどど、どしてここいるの??」
「後継ぎが欲しいんだと。ご主人こそ、べっぴんさんになるだけじゃなく偽名まで使ってどうした」
「いやややや、だだだ、」
「ま、茶でも飲みな」

出された茶を受け取った独神は貪るように飲み、冷静さを取り戻した。

「依頼だよ。高貴な方と見合いをすることになった。でも自分は好きなひとがいる。なんとかして欲しいって。
 自分で断ればいいでしょ、って言ったんだけど、相手が権力者だから、怖くて出来ないかもって。
 いい感じで破談になってくれないと家が取り潰されるって泣き続けるから……仕方なく替え玉になったの。
 相手がどれだけ高貴であれ、私の独神としての地位を使えば、上手く処理は出来るだろうってことで」

大きく溜息をついた。

「まさか相手がミツクニだったなんて思わなかったよ」
「オレだって驚いてるんだぜ」

どれだけ家臣団にせっつかれようとも嫁をとらなかったのは、他に気になる女がいたからだ。
藩主が自由恋愛してどうすると自嘲しながらも、何年も踏ん切りがつかずにいた。
その相手がまさか、見合い相手に現れるとは驚き以上に愉快だった。

「てかあんたは頼まれればこんなこともやってんのか」
「まあ依頼されれば基本的には受けるよ。独神は何でも屋だからね」

手広くやりすぎではないだろうか。

「もしこれで相手に気に入られちまったらどうするつもりだった」
「断るよ。それとなく」
「それとなくって……」

独神は本殿の内外で大人気で、なおかつ相手の好意には疎い。
出来るだけ傷つけないように遠回しに断るので、察しの良い者にしか通じないし、断り方がいじらしいので余計に好意を募らせ泥沼化する。
恋愛相関図をややこしくする天才である。

「オレが権力に笠を着て襲ったらどうするつもりだよ。武器くらい持ってるんだろうな」
「丸腰だよ。だって危ないじゃない」
「どっちが!」

突然襖が開き、双方の身内が入ってくる。

「打ち解けたみたいね。まるで前からの知り合いみたい」
「「(知り合いなんだよなあ)」」
「大丈夫よ。結婚を決めるまで過ごしてもらうから」

ぴしゃん。
襖が閉まった。

「なんか、やべーこと言ってなかったか?」
「あっれえ? 桜姫さんは親は、出来れば結婚が決まって欲しいってくらいの熱量しかないから大丈夫って」

あれは完全に結婚させる気満々だった。

「軟禁ってことか」
「困ったなあ。……外にいる忍に連絡を」

ぱしゃ。

「護衛の忍たちは帰らせましたからごゆっくり」

ぴしゃ。

「駄目だこりゃ」

結婚を了承しないと出られない部屋と化した。

「嘘でも結婚しようって言おうぜ」
「依頼主に反したことは出来ない。例え嘘でも了承は出来ない」

独神は首を振った。

「じゃあ、オレが言い寄って次回も会おうって先延ばしにして、そこで本物の姫に断らせりゃ良いだろ。
 ……いや良くねぇか。ご主人の依頼主はここで終わらせたいんだから」
「ミツクニ公と会うだけでも、相手の男は良い顔をしていない。余計な行動は出来ないよ」
「オレもこれが破談になったら、どうせ間髪入れずに次の嫁候補が送られる。
 くそ。なあ、ご主人。いっそ独神としてオレの連れ合いになるってのはどうだ」

冗談っぽく言う。

「え。しない」

即答だった。

「いや。もう少し考えてくれたってよくねぇか」
「独神はみんなの独神。って、巻物に書いてある」

懐から出した巻物には、

『独神の心得その弐 特定の人物に所有されることを禁ずる』

とある。

「あんたは魔性だよ、ほんと、困っちまうな」

人の心を惹かせるだけ惹かせておいて、よく無責任なことを言える。
底なし沼に絡めとられた自分が悪いのだろうか。

「……なあ、ご主人。例えばなんだが、オレが助けて欲しいと言ったら、あんたはこの状況下でも救ってくれるのか?」
「そりゃ助けるよ」

真面目に言うものだからミツクニは思わず噴き出した。
そして冷静な頭で逡巡する。
本当に、やってもいいのか。独神の善意に付け込むことを自分自身が許すのか。
一通りを考え、決断した。

「悪いな。ご主人。この件はオレの手に余る。……破談にしてくれ」

こくりと独神は頷いた。

「ほかならないミツクニの頼みなら、一肌脱ぎましょう」

二つの依頼を同時に叶える為、独神はミツクニの家臣ら、特に縁談に熱心であった乳母に掛け合い、ミツクニ公は独神と交際中だから時間をくれと頼んだ。
あの独神と縁を結べるかもしれないということで、姫と独神がすり替わっていたことは不問になった。
若気の至りだと都合よく解釈された。
独神に依頼してきた姫の方は無事に破談となり、想いを寄せていた男と無事婚姻を結ぶことに成功した。

「巻き込んで悪かったな。暫く嫁候補役、頼むぜ」
「そんな頭下げないでよ。私は全然気にしてないから」

ミツクニと独神の縁談に本殿の英傑達の衝撃が走ったが、事情を知って一先ずは大きな問題は生じていない。
表面上は、丸く収まった。

「ところで、オレの家臣たちを黙らす為に、恋人っぽいことしてみねぇか?」

一瞬、独神の動揺が見えた。

「いいよ。じゃあさ、買い物付き合ってくれない? 丁度買いたいものがあるの」
「おう。構わねぇよ。荷物持ちでも護衛でも、あんたの為ならなんだってしてやるさ」
「いや、そこまではいいよ。だって偽、」
「まあまあ。良いじゃねぇの」

二度とない好機を逃す気はない。
独神の反応を見ると、極僅かだが勝機はある。
なんとかして偽物から本物にするつもりだ。

(これで駄目なら潔く諦める。オレの本気を見せてやろうじゃねぇの)



◆イバラキドウジ

「ついていくなら頭《かしら》だ」

界帝を倒し、英傑は一度独神の下を離れようという話になった。
本来の目的に戻る者。
領主としての仕事に精を出す者。
八百万界を漫遊する者。
英傑は各々好きな道を歩み、また収集がかかれば独神の下へ戻ると誓い合った。
独神はイバラキドウジに今後のことを聞くと、先程の返事が返ってきた。

「え。シュテンドウジは……?」

イバラキドウジといえば、シュテンドウジである。
大江山を根城する鬼の大将の右腕がイバラキドウジであり、当然大江山に戻ると思っていた。

「シュテンドウジ様には感謝している。山での日々はオレの財産だ」
「う、うん。そうだよね。なら」
「頭とシュテンドウジ様の二択でオレは頭を選んだ」

その後気の抜けた返事をした独神はふらふらと本殿を彷徨い、とある英傑の所へ行った。

「ックハ! おまえそんなことで悩んでんのか!!」

飲み納めだと言って、大酒を食らうシュテンドウジは大口を開けて笑い飛ばした。

「だ、だって……。寝耳に水だったんだよ!」
「ま、おれも今知ったんだけどな」
「ご。ごめん……」

強く目を瞑って項垂れる独神を撫でようとして、シュテンドウジは手を止めた。

「謝ることじゃねェだろ。イバラキが決めたことだから好きにすりゃ良いだろ」
「そう……。そうだよねえ」

独神はまだ整理がつかないようだった。

「生きてりゃ心は変わる。ついていきてぇヤツだって変わってもおかしくねェだろ。
 おれも、大江山に拘ることもねェしな」
「え!? じゃあ、大江山には戻らないの?」
「戻る。やっぱおれにはあそこが気楽で良いんだよ。下りりゃすぐ京で酒に困らねェからな!」

そう言うと、独神の口元が緩んだ。

「頭、イバラキのこと頼んだぞ。……って、おれが言ったことあいつに言うなよ。嫉妬されると面倒だからな!」
「なにそれ。でもありがと。勝手にどきどきしちゃった」
「さっさと戻れよ。イバラキ多分固まってるぜ」

独神は慌てて戻っていく。そしてシュテンドウジは呟いた。

「頭目のおれはおまえに着いて行きたいなんて、言えねェわな」

イバラキドウジは先程と同じく執務室にいた。
九十度頭を下げた独神はまず謝罪した。

「さっきはごめん! なんか……その……」
「もう少し遅ければ、新鮮な血欲しさに狩りに行っていたところだ」
「じゃあぎりぎり間に合ったね!」

イバラキドウジはふっと笑った。

「決まったのか。オレが頭についていくことについて」
「うん。私について来てもらう」
「随分早い決断だな」

独神は口をひきつらせた。
シュテンドウジのことは言えなかった。

「どうせシュテンドウジ様に頼んだとか言われたんだろ」

筒抜けであった。

「……ひとの右腕もらい受けるなら筋を通さなきゃ、でしょ?」
「律儀だな。オレが何も言わなくたってシュテンドウジ様は判ってるさ。
 あのひとはそんな小さい妖じゃない」

独神は肩を竦めた。

「よく知ってるね。……選ばなかったのに」
「確かに一の子分は返上したが、シュテンドウジ様を一番に理解してるのは今のところはオレだろうからな!」

力強く言った。

「次は頭《かしら》の右腕を目指す。そして頭《かしら》の全てを知るのはオレだけで良い」

真剣な眼差しを向けた。

「血に飢えていたオレに、別のものを与えてくれたのは頭《かしら》だ。
 オレは頭《かしら》に全てを渡す。だから頭《かしら》も、オレだけだと言ってくれ」

他を寄せ付けない鋭い目と牙を持つ鬼が、縋るように独神に頼んだ。

「……出来ない」

独神が首を振ると、イバラキドウジの顔に影が差した。

「すぐには、無理。……だから、少しずつ、私が私を取り戻すまで、傍で待ってて貰えないかな。
 私、”みんなの独神”は卒業するつもりで解散したから」

さっきまで死の宣告をされたかのように小さくなっていたイバラキドウジが不敵に笑った。

「決まりだ。早速本殿を出るぞ」
「早!?」
「自分を取り戻すんだろ? ならさっさとここを出て、独神の殻を破れば良い。オレは一血卍傑をしない頭《かしら》で構わない」

面食らう独神に構わず、イバラキドウジはテキパキと動き始める。

「明朝に発つ。それで良いな」
「流石にみんなが心配するから」
「お前を一番に想っているオレのことを考えろ」

独神は言葉を呑み込んだ。

「頭が心配しなくても周囲が上手くやるさ。シュテンドウジ様とかな。
 シュテンドウジ様は子分と頭《かしら》に優しいからな。……いや、もう様はいらないか。それに子分でもない。
 今度は頭《かしら》の伴侶を目指すからな」


 
◆ニギハヤヒ

「ありがとう。天磐船《あめのいわふね》を敷地に置いてくれて」
「簡単だけど雨風凌げるようにしてもらったから。オオクニヌシには一言お礼を言っておいてもらえる?」
「当然だ。しっかりと礼をさせてもらうよ」

一血卍傑で現れたニギハヤヒという英傑は、産魂《むす》ばれて早々に天磐船《あめのいわふね》の所在を尋ねた。
偶々独神の耳にその情報が届いていた為、すぐさま天磐船《あめのいわふね》を回収し、本殿へと持ち帰った。
しかし船は故障しており、修理が必要であった。

「船に詳しくはないんだけど、どうやって修理するの?」
「うーん。どうするんだろうね」

独神はきょとんとして、微笑むニギハヤヒを見つめた。

「実はおれ、操る方が専門で整備は違うんだ」

そう言って見るも無残な天磐船《あめのいわふね》を撫でた。

「物部の一族には世話になったよ。代々子孫らが手を貸してくれてね」

現在物部氏はその数を大きく減らしたが今も無事に生き永らえている。

「昔は良かったんだけどね。神への信仰が薄れ、次第に仏に祈る者が増えてきてからは、天磐船《あめのいわふね》は輝きを曇らせて、おれ自身も少しずつ駄目になった」

物部氏は当時蘇我氏と対立しており、仏教の流布を求めていた蘇我氏に負けた後、八百万界に急速に仏教が広まった。

「その時だってここまで無残な姿にはならなかったんだけどな」

一瞬目を伏せたニギハヤヒだがすぐに笑顔を見せた。

「地道に進んでいくさ。再び空を駆けるためにね」

ニギハヤヒは本殿での仕事をこなしながら、休日の全てを費やして天磐船《あめのいわふね》の修理に励んだ。
あまりに籠ってばかりなので、時折独神が様子を見に行った。

「船のことが少し理解できるようになったよ。全貌を理解できるのはまだまだ先だな。
 ……そんなおれを無様だと軽蔑するかい? 持ち主なのに」
「そんなことないよ!」

間髪入れずに否定し、何度も首を振った。

「だと思った。意地悪してごめんね。主君に否定してもらいたかっただけなんだ。
 主君の声はおれを元気づけるからね」

天磐船《あめのいわふね》の損壊率は会った頃と殆ど変わらない。
作業に難航していることが窺えた。

「私も手伝えることあるかな。今までは使えそうな部品を集めてたけど、他に、何か……」
「主君は優しいね。それって、英傑だから手を貸してくれるの。それとも」

ニギハヤヒは工具を置いて、一歩ずつ独神に近づいた。
見ず知らずの他人には許せない距離まで踏み込み、笑んだ。

「おれだから?」

足を竦ませた独神はニギハヤヒの曇りのない笑顔を前に何も言えなかった。

「おれはどっちでも嬉しいよ」

背中を向けて作業をしだした。
独神は隠れて息を吐き、少し、考えた。
自分はニギハヤヒだから助けたかったのか、英傑だからかなのか。
しかし答えは出なかった。

「……ねえ、私が来ても邪魔にならない?」
「勿論。おれも一人作業は時々寂しくてね。来て話してくれると嬉しいな」

ニギハヤヒは爽やかな笑顔を見せた。
許可を得た独神は天磐船《あめのいわふね》を見に何度も通った。
休憩がてら、散歩がてら。
頻度は一週間に一度。
三日に一度。
二日に一度。
そしてとうとう、毎日になっていた。

「今日は試運転しようと思うんだ」
「凄い! そこまでになったんだね! 私も乗れるの?」
「主君になにかあってはいけないから、おれが先に乗って試すべきだ」

安全第一。
修理中に何度も爆発が起きた。試運転でも何が起こるか判らない。
まして空の上には逃げ場がない。
痛いで済むなら良いが、周囲への影響を考えると独神は控えるべきである。

「そこをなんとか! 私もこの子が空へ飛ぶところ楽しみにしてたの」

独神はニギハヤヒの手を握ってごねた。
難しい顔をしたニギハヤヒは、しばらく考えた後に頷いた。

「掴まってて。いつ制御不能になるか判らないからね」

一瞬戸惑いながらも、指はニギハヤヒの服を握った。
するとニギハヤヒによって身体に手を回させられた。

「ごめんね。けどおれのせいで怪我させたくないんだ」

真剣な様子に独神は気を引き締めた。

「じゃあ、行くよ」

操縦士に呼応し、天磐船《あめのいわふね》が淡く光り出した。
船の周囲は重力を失い、二人の髪の毛や服がふわりと舞う。
じわりじわりと景色が下りていき、独神はニギハヤヒの身体に今一度しがみついた。
途端、船は加速し、本殿上空でぐるぐると錐揉みすると、予備動作なく真上に上昇。
まるでツボの中に入れられたサイコロのようだ。
甲高い声をあげながらも手を離さなかった独神は、怪我無く無事着陸することが出来た。

「初飛行はどう……って」

お尻をべったりとつけて荒い息を吐きながら座り込んだ。

「怖がらせてごめんね」

天磐船《あめのいわふね》のじゃじゃ馬飛行にも息を乱さなかったニギハヤヒは、独神を労うように撫でた。
大きな手のひらに何度も撫でられた独神は次第に呼吸が落ち着いてきた。
ぼんやりとニギハヤヒを見上げ、そしてバッタのように飛んで離れた。

「ごめんなさい!! 速くてびっくりしちゃって」
「ちょっと焦っちゃったね。いい線はいってたからこれからも頑張るよ」
「私も次までには速さに慣れるようにするね」
「次?」
「うん」

独神の返事に首を傾げ驚いていた。

「怖かったでしょ?」
「でも面白かったよ」
「主君は強いな。…………おれも次の時こそ言いたいね」
「何を?」
「天磐船《あめのいわふね》が直ったら判ることだよ」

今日は疲れたろうからと、ニギハヤヒは本殿まで独神を送り届けた。



◆マサカドサマ

「まさか味方に捕らえられるとはね」
「味方?」

マサカドサマは鼻で笑った。

「逆賊が。片腹痛いわ」

界帝を倒した独神は突然姿を消した。
次に姿を現した時には以前とは別人になっていた。

「神様として勧誘されちゃってね。おバイトで悪の幹部やってるの」

驚愕する英傑たちを尻目に、独神は八百万界を破壊した。
我が身を犠牲にしてまで守った世界を。
アリを踏み潰す童のように躊躇いなく踏みにじる。
独神を信じていた英傑たちも、大地を穢し人々を殺める手を止めない独神を見過ごせなくなり刃を向けた。
独神の身体は、切ると、ちゃんと血が流れ、手足も千切れ、潰れて、砕けた。
慕っていたひとの悲惨な光景に吐き気を覚えたものも少なくない。
独神はそれでも、英傑らの敵で居続けた。
人々は再び絶望へ落とされた。

大陸の侵略者と手を組んだマサカドサマは、拠点を離れて奇襲準備をしていた独神の後ろをとり捕らえる事に成功した。

「将軍。言い残すことはないか。一時は俺を惑わせたのだ。特別に聞いてやろう」
「今はまだ早いな。もう少し界が混乱してから殺してくれない?」

マサカドサマは鼻で笑った。

「命乞いは聞けんな」
「いいや。殺されることから逃げるわけじゃないよ。ただ、キミが少しでも八百万界を想うなら聞き入れてもらいたいね」
「どの口が」
「いやいや。独神の口だからさ」

詐欺師のような口ぶりであるが、マサカドサマは顎で先を促した。

「私は平和が一番だと言ったね。界帝を倒したとしても多少の諍いはあるだろうけれど、平和と言ってよい時代がくると信じてた」
「実際、悪霊無き世界は俺たち英傑が不要となったではないか」
「申し訳ないけどお役御免になったね。だから、キミのように一部の者は別の戦場へと世界を飛び出した」

別の界へ行った者。
心を病んで治療中の者。
暗殺から詐欺へ業務を変えた者。
すっぱりと血生臭いことから手を引いて、普通に生活する者。
それぞれの道を選び散り散りになった。

「これは仕方のない事だと思ってた。こうして英傑達は死んで、悪霊との戦そのものが過去になっていくんだろうと思ってたよ。
 でも、違ったんだ。
 ”八百万界に平和は訪れない”。決して」
「それは、人が人である限り、闘争から逃れられない。そういうことか」

独神は憐れんだような表情を浮かべて、それを否定した。

「そうじゃないんだ。……それなら納得出来たんだけどね」
「まどろっこしい。はっきり言え」
「まるで聞けば理解できるという口ぶりだね」

耳が削げた。
独神は顔を歪めて耳を抑え、くつくつと腹から笑った。

「三種族が馴れ合い過ぎたんだよ。互いを理解し敬い慈しみ……でもそうやって一つになってはいけなかったんだ」

耳から手を離すと出血が止まっていた。

「生命の危機に瀕すると、八百万界の防衛システムが働いて新しい救世主が産まれる。
 界帝は前回の救世主で、私はそれを排除し新しい形の平和を産んだ、ことになっている。
 今度は、私の番なんだ」

立ち上がった。

「さあ、キミの好きな殺し合いを始めようか」

一血卍傑しか出来なかった独神は敵となって一血卍傑の能力を失い、代わりに死霊を操る術を会得した。
マサカドサマの前に数年前に首を落とした悪霊たちが何層にもなって立ちはだかる。

「散々担ぎ上げられた末路がこれか。ふははは、無様だな」

刀を出した。

「だが、将軍の決定を否定すまい。その甘さが俺に微笑みをもたらした」

構えた。

「なあ将軍。その命、要らぬというなら俺に渡せ。そして二度と離れぬよう俺の身体に縫い付けてやろう。そうだ、将軍の身体に俺の首を挿げ替えるのはどうだ」
「ヤバイこと考えるねえ。相変わらず。
 ……いいよ。勝者は絶対だ。独神の身体ならば君は神にもなれるさ」
「神になろうなどとは思わん。俺は将軍の血肉になりたいだけだ」
「だから、それがヤベーんだって」

独神がししっと歯を見せて笑った。

「私に勝った暁には、手でも足でも、目でも耳でも持っていきな。全部、八百万界には要らないものだから」

諦めを滲ませながらも顔は笑っていた。

「決まりだ」
「ああ。どっちが勝っても恨みっこなしだよ」

次の瞬間、二人の血が吹き上がった。


 
◆イッタンモメン

集団生活を始めて、気づいたことがある。
それは人が握ったおにぎりを食べることに抵抗があることだ。
今まで、例えばオトヒメギツネが握ってくれたものを嫌がった事はない。
どうやらそれは、オトヒメギツネが特別だっただけのようだ。
本殿では物を平気で手で食べる者も多いので、そういう時は遠慮するか自分で箸を持ってきた。
頭領さんは平気なひとだった。

「お腹壊したらどうするの?」

口が滑って聞いてしまった事がある。
頭領さんは不躾な質問にも関わらず嫌な顔せず答えてくれた。

「壊さない」

断言していた。

「胃腸が強い、とか?」
「いや、普段よりたくさん食べるとお腹壊しちゃうよ」

何故断言するのか不思議に思えた。

「んーとね、単純にしてくれたことが嬉しいから食べるのであって。
 綺麗とか汚いとかあまり考えたことがないんだ」

自分と自分は違う人種だと悟った。

「あ、でも人には強要しないから大丈夫。イッタンモメンは汚いの苦手だもんね」

優しさに優しさで返せる頭領さんに、自分が辻斬りの犯人だと知られたら、どんな反応をみせるのだろうか。
しょうがないと言って、理解を示すのだろうか。と、ふと思った。

冬のあくる日、オトヒメギツネがじゃーんと言って、桃色のつつみを見せてきた。

「ぬしさまの手作りなの! 」

と、オトヒメギツネが言った。

「え!? なんで!?」

思わず大きい声が出た。
頭領さんはよく物をあげるひとだとしても、手製の物を貰った話は殆ど耳にしない。
オトヒメギツネは頭領さんとそこまで親密だったのだろうか。
長い付き合いの友人に対して、あまり感じたくないものが胸に込み上げてきた。
そうとは知らないオトヒメギツネはにこにこと教えてくれた。

「今日は好きなひとに血代固をあげる日なんだって。だからぬしさまがみんなに配ってるよ」

全員────。
胸を撫で下ろした。全員ならば自分も含まれる。
ただ気がかりなのは、オレが人の手作りをあまり好まないことを漏らしたことだ。
集団生活を続けていて、調理担当の英傑がしっかりしていることが判ってから、前よりは神経質にならなくなったのだが、頭領さんはそれを判っているだろうか。
いや。二百人のうちの一人の好みなんて、忙しい頭領さんが判らなくてもおかしくない。
かと言って自分から貰いに行けるはずがなく、オレは頭領さんを避けて過ごす事にした。

「はいこれ」

天眼通でも使ったのか、あっさりと見つかった。

「そんな怪しまなくても滅菌状態で作ったから大丈夫。ふふふ。大陸の新技術だって。菌というものを出来るだけ消滅させた場所で作るからお腹は壊さないよ。不味かったら別だけど」
「これ、わざわざ」
「うん。みんなにあげたかったからね。独神だから無理やりあげることは出来るんだけど、自然に喜んでもらいたいじゃん?」

滅菌状態がどんなものなのかは判らなかったが、苦心してくれたのは十分に伝わった。

「ありがとう」

少し小さくなった声に反して、頭領さんは大きな声で笑った。

「こちらこそ。いつも感謝してるよ」
「感謝って……。オレはただ斬ってるだけだよ」

悪霊だから喜ばれているが、本来は褒められたものじゃない。

「そのお陰で何人もの人の生活が守られてるんだよ。勿論私もね」

そう言って、頭領さんの視線が流れた。
向こうに英傑がいる。
渡す相手はオレだけではない。
オレは衝動的にいつも羽織っている布で頭領さんをくるんだ。

「……頭領さんは綺麗だから。そんなに気を遣ってくれなくていいよ。オレを気にかけてくれるのは嬉しいけどね」

さっきまで笑っていた頭領さんが恐々と頷いていた。
緊張からオレから一切視線を離さない姿に心が掴まれた。

「頭領さん。ここで開けてもらってもいい?」

オトヒメギツネと違う、薄青のつつみが開かれると、小さな血代固が三つ入っていた。
血代固を乗せた包装紙の上から摘まんだオレは、戸惑う頭領さんの口に咥えさせた。
オレはそれを噛み付くように食べた。
体温で溶けてしまった血代固が頭領さんの唇に残っていて、余さず舐め取った。

「こうやって頭領さんが食べさせてくれるなら、手作りだっていくらでも食べられるんだけどな」
「…………」

口を半開きにしたままの頭領さんを見て、オレは急に理性を取り戻した。

「っ! 頭領さん! ごめんね!」

夜でもないのに衝動的に動いてしまった。

「あの! さっきのは嘘だから。一人で食べられるから!」
「……食べさせてあげるだけなら良いけど」

赤い顔した頭領さんが少しむくれて言った。

「きょ、今日はまだ忙しいから。夜……結構遅くなるけど、その時なら良いよ」

返事も聞かず頭領さんは走っていった。

「……え。ほ、ほんとうに?」

夜のオレはこんなもので済ませないよ。



◆カミキリ

ここは本殿近くのいたって平和な町。
本殿の結界の影響により悪霊の出現率が著しく低く、また出たとしても本殿からすぐさま英傑が派遣され、
町民は戦争中にも関わらず笑顔が絶えない毎日を送っていた。

そんな町の外れに建つ、掘っ立て小屋。
素人仕事で一度嵐が来れば吹き飛ばされそうで頼りない。
怪しげな雰囲気から町の者達はないものとして過ごしていた。

そこに、一人の女が意を決して入った。
中は棟割長屋のように土間の奥には四畳半の部屋があった。
丸机が一つ。そして薬棚が一つ。
部屋の真ん中に獣の耳を生やした女がいた。
淀んだ空気。悪神か祟り神か、それとも人々の怨念を抱いた妖か。
女は息を呑んだ。

「……くんくん。……髪の毛、持ってるね」

言いあてられた女は懐を抑えた。

「渡せば誰のものか教えてくれるって本当なの」
「そうだよ」

獣の女はゆらりと巨大な鋏を振るった。
女は中途半端に切られた髪を抑えた。

「なにをするの!?」
「髪。名前……覚えられないから」

気色悪く思った女は堂々と顔を歪めた。
狐の妖はその反応に慣れているようだった。

「じゃあ。髪、出して」

女は畳んだ紙を渡した。
妖狐が開くと中には長い髪が一本。

「髪の持ち主。判ったよ」
「もう!?」

期待に満ちた女を妖狐は制止した。

「お代は独神サマの髪の毛。渡してくれないと、教えない」
「ど、独神様になんておいそれ近づけるわけないでしょ!!」
「ううん。独神サマ……町に行くのが大好き。だから機会はあるよ。
 髪の悩みは髪で解決。……どうする?」

独神といえば、八百万界内でも別格の権力者である。
自身の立場に関わらず町をうろついているのは確かによく見かけるが、遠目でしか見たことがない。
近づくなんてもっての外だ。いつも屈強な護衛を連れ歩いている。
怪しまれれば弁解する間も無く殺されてしまうのではないか。
女はじっと考え、怪しい小屋を後にした。

「お食事中に落としたのを拾ったわ」

二日後、女は一尺ほどの長さの髪の毛を妖狐に持ってきた。
妖狐は匂いを嗅ぎ蝋燭の火にかざして確認すると、頷いた。

「間違いない。これは独神サマの左側の髪だね。
 いつも左側から太陽を浴びるからこっちの方が焼けてるんだよ。
 中でもこれは肩に当たるからすっかり癖がついてる」

息継ぎなしに語った。女は引いた。

「じゃあ。この髪の毛の持ち主ね」

歩き出した妖狐の後ろを、女は着いて行った。
小屋を出て、数分歩くと仕立て物所の看板が下げられた店に着いた。

「……仕立て屋」

女は顔を強張らせ、妖狐は格子扉を開いた。

「カミキリ?」
「独神サマ!」

ぴぎゃ、と悲鳴をあげたカミキリはあわあわと右往左往する。
反物を持っていた独神はその声に驚いた。

「独神様が……浮気相手だなんて」
「うん? なんだか不穏な勘違いの予感だね」

女が振り上げたこぶしが独神の頬目掛けて飛んでいく。
そこをカミキリが刀の柄で受けた。

「独神サマの髪と、髪を産む独神サマは私が守る」
「いや順番」
「ふみ!」

奥から出てきた男を見て女は身体を震わせた。
きっと睨み、その目尻には涙が。

「浮気なんてどういうこと!! 独神様とだなんて嫌味!?」
「違うって! 困っていた時に独神様が手を貸してくれただけで」
「でも髪の毛。どうして家に独神様の」
「ああ、それは。……家に来てくれれば判るよ」

男と女が店を出るので、カミキリと独神も後方で追いかけた。

「本当は驚かせるつもりでね」
「これ。こんな上等なもの!」
「独神様の所にいる英傑様に助言をしてもらったんだ。
 何度か連れ歩いたからその時に髪の毛が落ちたんだと思う」
「……ごめんなさい。早とちりで売秋なんて」
「いいんだ。それだけ僕の事を愛してくれているってことだろ」

二人の世界に入ってめでたしめでたし。

「独神サマ……」
「よく判らないけど帰ろっか?」

カミキリは耳をぴんと立てて逃げていった。
手には女から手に入れた独神の神を握りしめて。

「……ま、みんな平和そうだからいっか」

俯いた顔をした者はいないということで、独神は元の用事へと戻った。


 
◆イシコリドメ

忙しい忙しい!!
タマちゃんに主《あるじ》様に忙しいです!!!

これは嬉しい悲鳴。
だって大好きな二人の役に立てているんですもの。
まあ、早速不届きものを発見しました。
はーい、てんちゅー!

「笑顔を守るのは難しいですね」

きらりと輝く汗は愛の喜び。
わたくしが鏡を司る神に生まれて良かった。
好きな人を思う存分見られて警護も出来るなんて、わたくしにうってつけの力です。
主《あるじ》様の追っかけ《すとぉかぁ》に気づいたのもわたくしだけでしょう。
本来なら闇討ちで退治《ブッ殺》してしまうのですが、一般人は助けろと主《あるじ》様がおっしゃるのでまだ手を下せずにいます。
迷惑な輩ならばお仕置き《始末》しても良いのではないかと聞いた時、主《あるじ》様はおっしゃいました。

「良い人だけを助けるんじゃないよ。困っているひとを助けたいんだ」

昨日のことのように思い出せる、聖女のような主《あるじ》様の声。
となると、もう仕方ない。モヤモヤしても耐えなければ。
もし何かある時にはわたくしが守ってさし上げれば良い。
そう言い聞かせて、わたくしは鏡を毎日確認する。
タマちゃんと、主《あるじ》様と、……追っかけ《すとぉかぁ》を。

ある日、追っかけ《クソ野郎》が悪霊に襲われているのが鏡に映った。
気に入らない者同士が潰し合う機会なのに、わたくしはその場に走った。
追っかけ《ひ弱な男》は持っていた刀で応戦していたが、自衛をするだけで手一杯。
屈強な者だろうと英傑に達しなかった者は所詮その程度でしかない。
悪霊を徹底的に叩くならば、わたくし《えいけつ》でなければ。

「成敗します!」

勝負は一瞬で決した。
旧型の悪霊はわたくしの敵ではない。
追っかけ《困っている人》はわたくしを見てこう言った。

「フン。礼なんざ期待すんなよ」
「当たり前です!!!!!!!!! クソッタレ!!!!」

わたくしの目から思わず涙がほろりほろり。

「主《あるじ》様のお言葉がなければ見捨てているのに!
 でも、そんな主《あるじ》様だから好き。好き。大好き」
「は? なんだテメェ。そんなに嫌ならありがとう感謝するぜ、って言ってやるぞ!!」
「あーあーあーあーあー聞こえない! 聞こえない! 聞きたくありません!!!」

こいつは敵。敵だ。
主《あるじ》様を狙う敵だ敵!!!
純粋に憎ませろ!!!!!!

「……こんな束縛監視女でも、あのお方の部下になるだけで、あのお方の考えに染まるもんかね」

と、零したのが聞こえた。

「あ? 何か言ったか? 主《あるじ》様のクソ追っかけ」
「口悪すぎだろ。顔と合ってねぇじゃねぇか! お前みたいな輩はあのお方に相応しくねぇんだよ!」
「うるさい! お前みたいなオッサンこそ、主《あるじ》様に相応しくないんだ!!!」

……悪霊が民を斬ってしまった、と報告してしまおうか。
いや、そうするとわたくしが悪霊相手に手こずったと思われてしまうし、民を守り切れなかったと心象が悪くなるだけ。
どうすれば合法的にこいつを斬ってやれるだろうか。
男は男で口やかましくわたくしを罵っている。舌を斬り落としても許されるような気がしてきた。

「イシコリドメ。それと……どなた?」

手入れの行き届いた髪を揺らし、花の髪飾りを鳴らしたのは数百の英傑を束ねる主《あるじ》様であった。
わたくしたちは瞬時に背筋を伸ばした。

「主《あるじ》様。今回の討伐はとても怖かったです。でも民を守るために頑張りました」
「大変だったわね。ありがとう」

主《あるじ》様に撫でて貰えるのは、給金を貰うよりもずっと嬉しい。
わたくしはこの方の猫になりたい。ごろにゃーん。
ああでも、タマちゃんが猫になるのも……ふふふふ。

「俺、いや、私の名は独神様の御耳に入れるようなものではありませんので」
「そうかしら。町で起きてた泥棒事件。あれはうちの英傑がしたことなのに、あなたが罪を被ったのではなくて?」

なんだそれは。
初耳だ。
今思えば鏡で見たような……主《あるじ》様に無関係だったからよく見ていない。

「いえ。とんでもない。私のしでかしたことです」
「優しいのね。じゃあそれとは別に私からあなたにお礼を申し上げます。
 悪霊退治に協力してくれてありがとう。お礼がしたいから本殿まで来て下さる?」
「いえ。私は」
「恩人をそのまま帰らせたのでは独神は誠意のない者と言われてしまいますわ。
 私を助けると思ってどうか」

主《あるじ》様が手を伸ばす。
名誉なことであるというのに、その男は迷っていた。

「い、いや」

わたくしは鞘ごと刀を引き抜き、鞘で男を押した。
よっぽど目の前の主《あるじ》様に意識が向いていたのか、男の身体は簡単に崩れ、主《あるじ》様の手に触れた。

「主《あるじ》様を待たせないでもらえますか」
「お前! あ、いや」
「言っておきますが、わたくしの主《あるじ》様はやると言ったらやるお方。お礼をする為に家にまで押しかけます」
「ちょっと待って。その言い方だと私が押しつけがましく聞こえる」
「大丈夫。主《あるじ》様は何をしても立派な方です」

全体的に薄汚れ、爪のひび割れた手を、しっとりとしたか細い指がしっかりと握っていた。
普通の人であれば触れるのを躊躇うところだ。
けれど、主《あるじ》様は違う。
どんな身分の者に対しても平等で、嫌な顔一つしない。

「では本殿まで行きましょうか」

男は首が引きちぎれるくらいにこくこくと頷き、主《あるじ》様の手を放した。
先導する主《あるじ》様の後ろで、触れた手を見つめて噛みしめていた。

なんとなく、良い気分がしない。
男が散歩後ろを歩くならばと、その隙に主《あるじ》様の隣を占領した。

どやっ

振り返ってみるが、男はいつまでも自身の醜い手を愛おしそうに見ている。

「(しかたがないですね)」

いつも遠目でしか主《あるじ》様を眺められない哀れな男に、今日くらいは本物の神々しさを味わわせてやろう。
勿論、間違いが起こらないように、わたくしはその様子をずーーーーーーーーーっと見させてもらいますけど。



◆ササキコジロウ

秘密の交換日記を始めたのは三月頃だった。

「ねむい。」
「今日は一日書き仕事でした。疲」
「お疲れ様。」
「今日は少しだけ本殿を抜け出して買い物に行ってきました。
 町が平和で良かったです。」
「何買ったんだ。」
「鯉。今池にいる子がそうです。」
「疲れた。」
「アシヤドウマンがあなたの愚痴を言っていました。
 偶には付き合ってあげたらどうですか?」
「ほぼ毎日付き合わされているが。」
「それは失礼しました。仲が良いのですね。」
「討伐、最近少なくないか。」
「最近面倒だとよく聞くので減らしました。
 少し頼みすぎたと反省しています。
 ごめんなさい。」
「口癖だ。」
「失礼しました。
 けれど頼りすぎていたのは事実なのでゆっくり過ごして下さい。」
「花見と聞かされた。」
「今年も計画しています。
 良ければあなたも参加してはどうですか。」
「面倒。」
「気分が向いたらどうぞ。」

ササキコジロウは日記をぱたんと閉じた。
自分の書いた文章には愛想のかけらも感じられない。
最低限の礼もなければ可愛げもない。
自分の面倒くさがり屋は度をこしているのかもしれない。
いや本当に面倒ならこんな日記破り捨てているだろうから自分は頑張った方だ。

そう言い聞かせながらもため息をついた。
独神との交換日記にはうんざりしつつも、手書きの文字を目で追うだけで笑みが溢れた。
あの独神が自分にだけ向ける言葉が愛しくて、いつのまにか返事を楽しみにする自分がいた。
このまま仲が進展するかもしれないと淡い期待を抱いておきながら、この様はなんだ。
嫌われにいっているのか。

再びため息をついた。
あの独神に好かれたいと思ったことが大きな間違いだ。

交換日記を返せないまま花見当日。
遠征を断られたササキコジロウは本殿にいた。
せっかく言い訳できると思ったのに、上手くいかない。
このまま部屋で丸一日昼寝でもしていようか。
昼寝前に何か腹に入れておこうと厨に向かうと慌ただしくしていた。

「手が空いたものは運んでくれ! 至高のずんだ餅、この機会に広めねばな!」

ササキコジロウは踵を返した。手伝いなど真っ平だった。

「おお! ササキコジロウ。おぬしは行かないのか? 今日は豪勢な食事が並んでいる。稽古の息抜きにいいぞ」

背後から声をかけてきたヤギュウジュウベエを、適当に頷いてかわした。
下手をすると無理やり連行されてしまう。
ただ飯を食って部屋に戻りたいだけなのにここは騒がしい。
喧噪の原因は……。
ササキコジロウは、一度足を止め、庭へ下りた。
誰にも見つからないように気配を殺して、花見会場へと近づく。

その人はいた。
思った通り、英傑や外部の者達に囲まれて笑顔を振りまいていた。
ササキコジロウは足早に部屋へ向かった。

やはり見るんじゃなかった。
結果は判り切っていたのにひどい後悔に襲われた。
日記の中の独神は自分だけを見ていたが、実際自分に向けられた感情はひとかけら。
独占しようなどという欲が忌々しい。

途中、英傑達が汗を流して動いているのを見かけ、部屋への最短道筋を諦めて大きく迂回し裏から回ることにした。
今日は面倒なことしかない。苛立ち紛れに舌を打った。
本殿裏はさすがに人影はなく、ササキコジロウの気持ちを鎮めていった。
部屋まで行かずともここで横になろうかと本気で考えていた時だった。

「来てくれたんだ」

手に箱を抱えはにかむ独神がいた。
裏方の軽作業など人任せにすれば良いのに、独神が働き者のせいでこうして会ってしまった。

「偶々通りがかっただけだ」
「それでも。……」

何かを噛みしめているのが判ったが、ササキコジロウは余計な事を考えないようそっと目を逸らした。

「俺のことは気にしなくて良い」

他の英傑らが独神を求めていると、やや皮肉を込めて言った。
独神は、待って、と声を張った。

「あの。日記。やっぱり負担だったかな……?」

無視しても良かったが、罪悪感で振り向いた。

「面倒臭がり屋さんって知ってたのに。強制してごめんね」

申し訳なく謝る独神に、ササキコジロウは頭を振って否定した。

「いや。違う」

違うと言っても、日記を返していないのは事実だ。
自分の怠惰が不安を抱かせた。

「……ただ、何を書けば良いか判らなくて。そのままにしていた。
 主《あるじ》とのやりとりが嫌だったわけではない」

少し不思議そうにする独神に、続けた。

「主《あるじ》こそ、俺とのやり取りに困らなかったのか?
 共通の話題があるわけでもない。
 明るいとは到底言えない俺を相手に」
「思った事を書くだけだから。私は負担とはあまり」

独神は書き仕事が多く、手紙を出す事も仕事の内なので筆まめなのかもしれない。
刀と筆。
握るものの違いだ。

「どうして俺と交換日記なんてものをしようと思ったんだ」

アシヤドウマンにそれとなく尋ねてみたが、あの男とはしていないようだった。
鍛錬に無理やりついてくるヤギュウジュウベエも。
こう言うと自惚れが過ぎるかもしれないが、自分は、選ばれた、英傑、だった。

「極度の面倒臭がり屋さんとどう接していいのか判らなかったの。
 なのに、他の人とは楽しそうにしててさ。……寂しかったな」

聞き間違い、だろうか。
まさか独神がササキコジロウのことで、寂しいと思うはず。ない。

「日記を受け取ってくれた時はびっくりしたよ。
 こっちなら話してくれるんだって」

一つ誤解をしているようだから訂正する。

「書くも言うも面倒だが、言う方がまだマシだ」
「え……。そっか。私は書く方が落ち着くから同じかと思ってた」

超面倒臭がり屋と、自他ともに評しているではないか。
都合の良い解釈に少し呆れるが、それよりも独神が思っていたより自分に関心を持っていたことは驚きだ。

「私って、面倒?」
「面倒の塊だ」

すぐに続ける。

「だがその面倒を継続出来る奴が着実に力をつけていくものだ。
 主《あるじ》はまだ伸びていくんじゃないか。絶対ではないが」

独神は間の抜けた顔をしていた。
言わなければ良かったすぐさま後悔していると、小さく噴き出してくすくすと笑う。

「面と向かってこんなに話してくれるのも驚きだけど、まさか褒めてもらえるとは思わなかった。
 これならもっと、普段から話しかけていれば良かったね」
「そうしてくれ。話すのは面倒だが、相槌くらいなら俺でも出来そうだ」

微睡みの中で主《あるじ》の声が聞けたら、きっと心地よいだろう。
本当は相槌すらせず、笛を聴くように静かに聞いていたいが。

「あ。聞く専門なのね。……うんまあ。そんなものかな…………」

遠くで「主」と呼ぶ声が聞こえた。

「すぐ行くー」

そう言って、名残惜しそうにササキコジロウを見上げてくる。
ここは踏み込むか。撤退か。
こういうやりとりが面倒だから人との交流は嫌いだというのに。

「後で行く。だから早く行くと良い」

独神は子供のように無邪気に笑ってくれた。

「絶対だよ。待ってるからね」


 
◆オダノブナガ

八百万界の真の平和の為には、オダノブナガと共にいなければならない。
そういう”ルート”なのだと、ツクモに言われた。
だから私は英傑達には何も言わずオダノブナガの所へ向かった。
全てを燃やし尽くそうとしていたオダノブナガは私に言った。

「儂はるぅととやらに従う気はない。だが正規の流れを知らねばその道を逆らうことは難しい。だからここにいる」

オダノブナガは元々定められた運命に抗う気で動いていた。
目的を同じくする私たちは手を組んだ。

「独神殿の存在は今更隠せんが、接触を断つことは出来る」

そう言って、私は安土城の上層へと押し込められた。
居住出来る城として作られていたので困ることはなかったが、快適とは言い難かった。
オダノブナガと家臣らは本丸と付近の屋敷に居住し、一日一回は必ずオダノブナガが顔を見せにきた。

「……」
「……」

手を組んだとはいえ、私たちは心を許し合う関係ではない。
とはいえ、毎日見るのだからそれなりに好意を抱いた。
私はきっと、ひとに、飢えていた。

「戦況はどう?」
「聞いてどうする」
「……心を痛めることが、私が英傑達に出来ることだから」
「下らん」

一蹴したオダノブナガは外套を翻して部屋を去った。
私はごろりと身体を投げた。これでもう今日一日誰と話す事も出来ず、何もすることがなくなった。

私には価値がない。
けれど、独神には価値がある。
界の未来を左右する鍵となる独神は、息をするだけで世界が動く。
独神による他愛のない行動一つで世界線が動くらしいので、私は一人で過ごすべきなのである。
しかし、暇すぎる。

「ツクモは?」
「神代八傑に匿われたまま。すぐに儂の前に引きずり出してやるわ」

オダノブナガが独神をさらったと英傑達は思っているらしい。
本当の事を伝えたかったが、余計な動きで世界が変わることを恐れて何も言わなかった。
それに伝える術もなかった。

英傑たちがオダノブナガに焼かれて呻き苦しむ声を聞いた時も、城から出なかった。
これが本当に真の平和へ繋がるのだろうかと何度も迷った。
そのうちに本殿が燃え落ちたと聞かされた。
英傑たちは散り散りになったのだろう。
詳しい話は聞いても答えてもらえなかった。

私が生きていてなんになるのだろう。
傷つく英傑たちを想うたび、平和の為だと呪文を唱えた。
なんどもなんども唱えた。
みんなの未来の為に、みんなの今を捨てる。
それが正しい選択なのだと思い込んだ。

オダノブナガは顔に似合わず優しかった。
つっけんどんで、気が短くて、戸惑うばかりだが、目が好きだった。
私を憐れむ目。
自分が情けなくて、罰を与えられているようで心地良かった。
心の隙間をノブナガは埋めてくれた。

「独神殿」

ノブナガがやってきた。
今日は一段とイライラしているようだった。

「何故笑わぬ。この儂を目にしておきながら凪のような態度を崩さぬのは許せぬ」

呆気に取られてしまった。

「わ、笑うって。寧ろ笑った瞬間斬られそうな雰囲気だったでしょ」
「言い訳など聞かぬわ」

燃やされるのだろうか。
身構えていたが、なかなかその時は来なかった。

「……気に食わん」

身を翻して消えた。
次の日には手に書物やら菓子やらを抱えていた。
かすてらと呼ばれる菓子を押し付けてくる。

「城の職人に毎日焼かせている。食べてみよ」

この菓子を毎日……?
ノブナガはこれを毎日食べているってこと……?
疑問を浮かべながらも礼を言い、豪華な城に似つかわしくない小さな座卓でそれを食べた。
味は美味しい。ノブナガが直々に作らせたものとあって、上品な甘みとやわらかな触感が良い。
これならば毎日食べても飽きないだろう。
つまらない日々の小さな癒しに満足したが、ノブナガが睨んでくるのが気になる。

「美味しいよ。凄く。……それじゃ駄目、なの?」

今度は無言で本を押し付けられた。
反応に困るが仕方がない、読んだ。
大衆小説だった。
ノブナガが持ち込むにしてはかなり低俗な内容である。
子供に向けたような内容が盛り込まれており、思わず笑った。
娯楽性が高いお陰ですぐに読破する。
読み終わるまでずっと見られていて少し気持ちが悪かった。
ここは感想を言うべきだろうか。

「……フッ」

と勝ち誇ったように笑って満足したのか帰ってしまった。
はぁ。と大きな溜息をつく。
自然と笑ったのは久しぶりかもしれない。
ここに住み始めてから罪悪感ばかりで、笑うことを抑え込んでいた。
ノブナガは気にしてくれていたのか。
私の機嫌をとっても何の足しにもならないのに。

いない間、貰った本を繰り返し読んだ。
何度も読めば笑いに慣れてぴくりともしなくなると思っていたのに、それは何度だって笑えた。
次にノブナガが来た時も読んでいて、思わず閉じた。

「……笑うな。そんな醜いものなど見たくもないわ」

今度は不快だと言って帰った。
さっぱり判らない。
楽しくて笑うことが不満か。
ノブナガは私にどうして欲しいのか。
自分の顔をぺたぺたと触ってみる。
にこりと笑ってみると、口元は動くのに目元が殆ど動かなかった。
そういうことか。
自分にがっかりした。

「何度でも持ってきてやる。この儂に感謝しろ」

次の日も懲りずにかすてらと本と、浮世絵と持ってきてくれたので礼を言った。
これまた目をひく浮世絵である。
本の方はというと、また大衆向けの明るい話だ。

「まだ八百万界には娯楽があるんだね」

戦禍が広がっていると思っていたが、であればこのように娯楽性の高いものは入手出来ないだろう。

「儂が制圧したのは周辺国までだからな」

本殿を落としたのだから、三分の一くらいは制圧したものだと思っていた。
戦争の勘が良いといってもそんなものか。

「思ったほど被害がないようで安心した」


・ ・ ・ 


「ノブナガ様。ついに八百万界の殆どを掌握しました」
「随分手こずったな」
「ええ。ですが神代八傑は二人、冥府六傑は一人昇天させました。
 絶対の存在であった神代八傑が欠けたことによる動揺は大きなものです。
 これならば今までの遅れも取り戻せましょう」

満足げにミツヒデは言った。

「ところでノブナガ様。上で飼っているあの方は、いつ”使う”のですか」
「いずれ」
「まさかとは思いますが、いやいや、ノブナガ様に限ってそんなことあり得ませんよ。
 ですが念の為、ノブナガ様の口からお聞きしたいのです」

幽閉している独神について、臣下たちがこそこそと話していることはオダノブナガも承知していた。
鼻で笑った。

「拠り所が独神のみとなった時だ」
「なるほど。最後の希望を目の前にちらつかせて士気を徹底的に下げるのですね」

演技がかった動きで何度も頷くと、用は済んだと機敏な動きで去っていく。

「(八百万界はいつも、独神を起因に破滅し再生する。
 であるならば、儂でなければならぬ。独神殿には、何者も不要だ)」

城内で保護している様々な道に通じた職人たちに、次は何を作らせようか。
オダノブナガは少しずつ心を開いていく独神を思い出し、口元一つ動かさずに笑った。



◆アケチミツヒデ

ふぁんくらぶ会員番号、第壱號が二人存在している。

「ノブナガ様!!!!!」

独神(オダ軍捕虜兼指導者兼ノブナガ強火担)
アケチミツヒデ(オダ軍配下兼ノブナガ強火担)

オダノブナガがあいどる業なるものをするようになったのは、ひょんなことだった。
歌と踊りを駆使して世を支配する「あいどる」を渡来の者から耳にしたオダノブナガが「儂もやるぞ! 情報を集めよ!」と、
配下数百人を巻き込んで「あいどる」活動を開始した。

最初は路上で少しずつふぁんを増やしていくのが王道と言われれば、
「フン。判らぬ者には売れる物が良い物。そしてその道を知らぬ者の方が数が多いのだから、まずは庶民から攻める」
と言って、城下の者たちには安価でまず売り、その存在を知らしめる。
無料で配らないのは、無料で手に入る程度の物と思わせない為だ。
その次は近隣の庶民たちに「オダノブナガ様がな……おっとこれ以上は言えねぇな。ッハハハハ!」と意味ありげに話す。
気になりだしたところで、音源を正規の値段で売る。
そうして販売地域を少しずつだが爆速的に広めていくのだが、裕福層には売らない。
庶民の物なんぞ下等に違いない、と思っている裕福層を動かすには、自分たち以外(庶民)は全員知っているのに、自分たちだけ知らないという状況を作る。
庶民も貴族も身分は違っても人間の習性に違いはない。
自分だけは知らないことへの不安、疎外感を持っている。
裕福層は立場上庶民の文化にはおいそれと手を出せないので、裏の販路を用いて入手する必要がある。
その時には当然法外な金を要求する。
不安を煽っていれば、いくらでも金は積ませられる。
物の価値を決めるのは、人の心。
ただの茶器に価値を与えたオダノブナガはそれをよく判っていた。

こうしてオダノブナガの有能さによって、あいどるオダノブナガは爆誕した────
オダノブナガは先を見通す目に優れていたが、歌も踊りも一定の水準以上にこなせた為に策を弄さずともふぁんは出来た。
そのふぁんから金を巻き上げる制度として、ふぁんくらぶなるものを作った。

そこで、問題は発生した。

ふぁんは「この世で一つ」のものに弱い。
であれば、ふぁんくらぶのめんばーに番号をつけていくのが良いだろう。
そうすれば本部側でもふぁんを特定し、嗜好や財布の加減の情報を得られ、より儲けを出せる。
特に、ふぁんくらぶ「第壱號」は世のふぁんの頂点に立ち、数万のふぁんをまとめあげる才があると、ふぁんを統率出来て都合が良い。
その「第壱號」をどうするかという会議で、二人の者が挙手した。
それが、オダノブナガの主である独神と、オダノブナガの部下であるアケチミツヒデだった。

「私が相応しいに決まってるでしょ!!!! 独神の権力を使えば八百万界なんて思い通りなんだから!!」
「おや、独神さんは平和の象徴。であれば、特定の英傑に入れ込むのではなく常に中立にいるべきでは?」
「あいどるオダノブナガに、あの独神がふぁんにつけば、安全性も保障され、より多くの信者が集まりますけど????」
「片腹痛いですね。君、本殿の英傑たちすらまとめられず、彼らが君を巡って争いを起こしているのをご存じない?」
「仲良しなら喧嘩くらい普通でしょ。いちいち大袈裟。私を蹴落としたって自分がノブナガの一番になんてなれないんだから」
「君よりノブナガ様の傍にいる私にいるんですがね。はあ、やはり現実が見えていない」

言い争いはいつまで経っても終わらなかった。
気が短いオダノブナガは苛立ち、二人に言い放った。

「ならば双方「第壱號」となれ。今後の働きを見て真の第壱號(最古参)を認定し、敗した者はその時点で最新の番号(新入り)を付与する」

オダノブナガからすれば、ふぁんの動向を集める第壱號が我こそは争えば、他の者も刺激を受け、えんたーていめんととして盛り上がるだろうと考えたのだ。
「第壱號」の座を争う者はどちらも身内であるため、御しやすいという面もあったろう。

それが果たして、正解だったのかどうか。

オダノブナガの目論見通り、二人はどんな時でも争った。
持ち物にオダノブナガの商品をベタベタと貼りつけ、痛ばっぐなる文化を生んだ。
扇にオダノブナガへしてもらいたいこと(「炎上させて♡」「目線下さい♡」)を書いて、らいぶで振る。
オダノブナガの舞台を見る為に必要な券が裏で高額転売されていれば、転売業者を武力で潰す。
ふぁんの声を聞き、オダノブナガへ意見を伝えて、ふぁんの望みを叶えた。

「ミツヒデ! 今度のらいぶ、ぴかぴかした棒を振ったらどうかしら? 試作品はこれ」
「これは……夜には目立ちますね。しかし目立つが故に個々で振ると汚らしいのでは」
「だから色をつけるの。曲ごとに色を変えれば、振り方が違ったって統一感が出るんじゃない?」
「こちらで制御する……。なるほどそれならばノブナガ様の舞台を穢されずにすむでしょう」

独神とアケチミツヒデは第壱號を争う好敵手であったが、ノブナガへの愛は同じである為、よく協力した。
本業が終われば二人で会い、オダノブナガの凄さを民衆に知らしめるための相談を寝るまでした。
時にはそのまま同じ部屋で朝を迎え、起きてすぐにオダノブナガについて語った。

「ミツヒデ。その服直した方が良いから変えて。新しいのはこっちで用意してるから」
「気が利きますね。君も、今晩は早く寝るように。いつもより顔色が暗く見えますよ」

どちらもオダノブナガの為に相手を気遣っているに過ぎないが、他の者よりは少しばかり心を許していた。
だんだんと隠さなくなっていた。

「ノウヒメはいいなあ。ノブナガ様の妻……なあ」
「あのじゃじゃ馬がノブナガ様に相応しいわけがない」
「そこまでは言わないけどさ。……なんか…………。空しい」
「討てば良いのでは」
「部下として嫌いじゃないんだよ。ただ…………苦しいだけ」
「腹が立ちますね。君は」

オダノブナガに本気で恋をしていた独神はしばしばミツヒデの前で弱音を吐いた。
それが気に入らないミツヒデはその度に罵倒し、手を上げ、抱き潰した。
独神がオダノブナガへの想いで涙する度に抱き、次の日には変わらずオダノブナガを民衆が崇める策を二人で語った。

真の「第壱號」を得たあと、ミツヒデはその地位を捨てて、あいどるオダノブナガを徹底的に潰すつもりだった。
そうすればオダノブナガはきっと嫌な顔をするだろう。それが見たかった。
なのにそれがずるずると。ずるずると第壱號の地位から動けず、独神の傍からも離れられなかった。

(最近、ノブナガ様が独神さんとの仲を探ってきましたね。ふふ、気が気でないのでしょう。
 本当は独神さんをふぁんの頂点に立たせ、側室に迎えるつもりでしたものね。
 表向きはふぁんを続けていれば、いずれはオダノブナガ様に手が届くと夢を見させる為。
 申し訳御座いません。ノブナガ様。独神さんは私の身体に合うように調整しましたし、このまま私とずっとノブナガ様の寵愛を競わせて頂きますよ。
 私は今でもあなたにこの世界でも頂点に立ってもらいたいのです。本当です。その後転落してもらいますが。
 それに独神さんに愛はありませんが、私が面倒を見ましょう。
 ええ。愛ではありません。決して。執着もありません。あくまでノブナガ様の為。それだけでございます。
 ……それだけだ)


 
◆モモタロウ

大好きな幼馴染がいた。

「わ、私が強くなったら、およめさんにしてくれる?」
「はいはい。僕より強くなったらね」

そんな下らない子供のやり取りを、実はひっそりと期待していた。
僕はこのまま大人になって、良い頃には〇〇〇と祝言をあげるだろう。
村で近い年頃の男女が結婚するのは、当たり前のことで、僕自身疑ったことがなかった。

常識が崩れたのは、鬼によって村が壊滅してからだ。
たまたま山へ柴刈りをしていた自分は難を逃れた。
心配なのは〇〇〇のことだったが、こちらもたまたま隣村にいたことから無事だった。
村の生き残りは、僕たち二人だけだ。
僕は村一番の刀の使い手だったので、刀で飯を食う事は出来るだろう。
〇〇〇は隣村の親類を頼れば、生きていくことは出来る。
そう思っていた矢先に、海の外からやってきたという集団が、〇〇〇を訪ねてきた。

「彼女は独神になる素養がある。予言の通りこの娘には我らの秘儀を伝え、数年後に訪れる災厄に立ち向かう事になる」

独神になるには、俗世の全てを一度捨て去らなければならない。
〇〇〇は、名を捨てた。血の繋がりのある者達には術をかけ、記憶を消した。
僕の記憶も消されるところだった。

「英傑の反応が出ている。この者は必ず独神の力になる」

そんな事を言って見逃された。
運が良かった。僕はこのまま〇〇〇といられるようだった。

「〇〇〇という名はこの世からは消えたんだよ」

僕は幼馴染の名前を口にすることを禁じられた。
今後は独神と呼ぶようにと他人に決めつけられた。
主として敬い過ごすようにと、接し方まで強制された。

「モモタロウは気にしないで。私は部下と思ってないから」

〇〇〇はそう言ったが、主と呼び続けていると次第に部下だと刷り込まれた。
呼ばなければ、〇〇〇の評価が下がるからであって、決して認めたわけではなかった。
はずだったのに。

八百万界の意思を民衆に伝える役目を与えられた独神は、己を失った。
全てを愛するが故に、特定の者を愛してはいけない。
僕はただの八傑で、幼馴染などではない。
主《あるじ》さんも、以前のように僕に駆け寄ることはなくなっていた。
僕はいつも遠くから眺めているばかりだった。

そんな僕らであったが、悪霊の巣窟を潰す為の討伐で偶々主《あるじ》さんが同行し、悪霊の新術によって異空間に閉じ込められた。

「駄目だよ。刀は通らない。物理的なものが効く気がしない。どうする……?」
「どうしよっか?」

危機的状況だと言うのに主《あるじ》さんは笑っていた。

「緊張感なさすぎ。無理に笑わなくたって僕に不安なんてないけど」
「違うよ。嬉しくて笑ってるの」

僕は意味が判らず顔をしかめた。

「ここ。空間が切り取られてる。凄い術だね。悪霊も進化してる」
「敵が進化されたら困るんだけど」
「でもお陰で、やっと私、モモタロウくんと話せた」

何を馬鹿なことを、との言葉は呑み込んだ。
主《あるじ》さんは顔を歪めて、今にも泣きそうにしていた。

「私は常に見張られているから」

僕は察した。
主《あるじ》さんは僕に近づきたくても近づけなかった。
僕を八傑と扱うのは、そうしなければならなかったから。

「ごめんね。……私のせいで巻き込んだのに、冷たくして」
「……別に。冷たくされたとも思ってないし」
「モモタロウくんは、変わらないね」

主《あるじ》さんの泣き顔も、昔と一切変わらなかった。

「……信じて欲しい」

何を、と問う前に異空間が壊れ、他の八傑たちが悲壮な顔でこちらを見ていた。
主《あるじ》さんの無事が判った途端、破顔して大喜びしていた。
僕は七人を眺めながら、別の事を考えていた。

早く、あの子を八百万界から解放しなければ。
その為に僕は刀を振るっていく。

信じるって、そういうことで良いんだよ……ね?
この戦いを終わらせれば、君は、○○〇に戻れる……よね?



◆トール

「おいおい、冗談きついぜ」

つい先日、一大決心をしたトールは独神に、告白を飛び越え、結婚を申し込んだ。

「い、いいよ……」

若干腰が引けてはいたが、色良い返事を貰った。

「頼む。アスガルズ界を一目見てくれないか。俺の世界をどうしても見てもらいたいんだ」

独神は頷いてくれたが、他の英傑達は反対した。
故郷を見せたい気持ちは理解できるが、独神に何かあっては八百万界の大きな損害であり、下手をすれば均衡が崩れ戦争が起きてしまう。
安穏とした日々を維持する為に、独神は八百万界の外へ行かないで欲しい。
これは建前である。
本音を言うとトールと結ばれた独神が別の界に行ってしまえば、もう二度と八百万界には戻らないのではないかという疑念であった。
トールと独神は何度も英傑達を対話をし、どうか自分たちの幸せを優先させて欲しいと頭を下げた。
特に独神が自身の自由を懇願したことが英傑達の心を動かした。
十分にひとのために働いた独神を、自分たちの都合で引き留めてはならない。
そして今日が渡航日であったのだが。

「あはは。台風だって。ツイてないね」
「勘弁してほしいぞ」

二人は子供のように、この日を楽しみにしていた。
興奮しすぎて寝不足のトールは欠伸を一つした。

「じゃあもう一日だけ八百万界を楽しもうよ」
「そうするか。じゃあ、昨日最後の晩餐で悩んだ拉麺食べるか!」
「うん。……拉麺って八百万界のものというより、大陸のものだけどね。それでも良いなら」

ずるずると音をたてる食べ方も上手になった。
最初はすすることが難しく何度もむせていたトールも今ではうどんも蕎麦も難なくすすれる。

「あ、じゃあついでに部屋の掃除していい? 間に合わないからいっかって適当にしたとこあるんだ」
「ああ、いいぞ。俺も付き合うよ」
「ありがと」

二人は独神の自室へ行った。

「これ、どこ掃除するんだ?」

部屋の中には家具類は全くなく、すっかり空き部屋になっていた。
ここに人目を忍んで通っていたことが懐かしく、少し寂しさを覚えた。

「ここ。板の間に塵や埃があるでしょ。それなりに綺麗だけど気がかりで」

そんなところ誰も気にしないだろう。少なくともトールはそうだがわざわざ否定しない。

「判った。狭い隙間だからな……小さな箒がどこかにあったな」
「クツツラのところ。私は楊枝でも使おうかな……」

二人は互いに掃除道具を探しに行った。
途中、英傑達には、

「おまえらなにやってんだ?」
「主様は律儀だなあ……」
「なんなら明日以降も掃除を続けてて構わないわよ」

親愛が込められた揶揄いを受けた。
二人は一人一人としっかり向き合い、目を見て話をした。
二人が部屋で合流した時には昼前になっていた。

「掃除は良いんだが、その後どうする? 何かしたいことでもあるか?」
「じゃあトールの部屋の掃除」
「げ。……あ、いや、判った」

部屋が完璧に仕上げられた後、トールの部屋に向かうと、

「う゛……」

独神は一歩後ずさった。

「いや! ちゃんと家具は運んでるし、拭き掃除もしたんだぞ!」
「……この焦げ跡は?」
「ミョルニルは判りませんって言ってるみたいだな」
「嘘を吐く子は金槌の代わりにしちゃうからね」

言った通り、焦げた床板を取り換えるのにミョルニルは釘を打つのに使われた。
昔は重いと言って持ち上げることすら出来なかった独神が、巧みに雷の槌を操っている。
持てないのが悔しいと言って鍛錬する姿に、変な奴だなと興味がわいたのを覚えている。

「……トール、変わったよね」
「ん?」
「ミョルニルに触るだけで怒ってたのに。今じゃ金槌にしても何も言わないんだもん」
「主《あるじ》さんだって。……八百万界は良いのか?」

釘を打つ音だけが部屋に響く。

「それ以上に、トールが産まれた世界を見たい」

床は無事直った。

「トールだって見てもらいたいんじゃないの?」
「そりゃそうだけど…………もし、俺が心変わりして、八百万界に返したくないって言ったらどうするんだ?」
「その時は、アスガルズで結婚するよ」

ミョルニルを返還した。

「私はトールがいてくれればどっちの世界でも良いよ。
 ……寂しい時もあるだろうけど、一緒に楽しく過ごしていれば気にならなくなるんじゃない?」

トールは福笑いをされたように表情をぎくしゃくと動かした。

「主《あるじ》さん。俺、……。判らないけど……」
「気を遣ってくれてたんでしょ。良いんだよ。二人の事なんだから二人で決めよ。近いうちに夫婦になるんでしょ?」

手を繋ぐことを遠慮しなくても良い。
もうこそこそ会ってキスをしなくて良くなる。
部屋でする時に声を噛み殺すこともない。
激情を押し殺した声で囁かれる「すき」も二度とないかもしれない。

「……なあ」

トールは独神を抱き寄せた。
お互いの顔を見つめ、唇を合わせた。

「こんな時にその……だ、駄目かな?」

眉尻を下げて窺うと、独神は耳元で囁いた。

「困る」

そう言って体重をかけていく。
トールはしっかりと抱き留めて背中を撫でる。
何度も繰り返すと、独神は次第に熱っぽい吐息を漏らす。
もぞもぞと動いて、トールの服を皺がつくくらいに握る。
独神の帯にトールの指がかかった時だった。

「待った!」

トールは独神を放して立ち上がるとミョルニルの全てが隠れるように上着をかけた。
それに小さく頭を下げる。

「よし! これでいいぞ」
「はは。そういうとこ変わらないね」

一度は弛緩した空気だったが、トールの目は寧ろ強さを帯びていた。
独神も全てを委ねようと身体の力を抜いて、トールの腕の中に収まった。
耳を舐めながら、着物越しに膨らみを撫、

「掃除手伝、」

襖が開くのと同時に入ってきた英傑は、三人の時を止めた。

「あ!!! 今、いやらしいことしようとしてたな!!!」

すぐさま独神はトールを突き飛ばして明後日の方を見ている。
トールはよいしょとミョルニルを拾い上げた。

「悪いな。ちょーっと寝ててもらうぞ」

ミョルニルを掲げたトールの雷が、部屋目掛けて落ちてきた。


*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*
 

・ミシャグジサマ

はいかわいい~~~。
女の子してるところ書きたいから書いた。
大食いネタは昔書いたような気もしたから今回はナシ。
普通に恋してる女の子にしたかった。


・イシマツ

ギャンブル好きってプロフィールが最高
「いい人だけど、ダメ男」の路線で今回書いた。
短絡的にビシャモンテンやトドメキと絡ませてしまうけれど、ワンパターンすぎるのでなし。
独神とまともに主従してみた。


・イッシンタスケ

魚。チンピラ(語弊がある)
……と、結構普通の人なので難しかった。
だから普通に恋愛させてみた。
別に独神じゃなくても、普通に嫁もらって、子宝に恵まれてそう。
そういう、きっと普通に生きていけるんだろうな、な人。
めっちゃくちゃ普通だから、つまんないと思う子もいるし、安心と思う子もいる。
どの英傑とも関われるけれど、オオタケマルみたいな悪要素強いモンとは相性悪そう。
基本的に真っ直ぐだから。
義賊のことは、場合によっては許してくれるけれど、コソコソ盗みをするってのがまあまあアウト。
けど、それで救われるひともいるなら……。って、感情優先だね。


・ヌエ

誰かの為に、東三条で人を驚かせてた。
……って、台詞にあるんだけど、何なんだろうね。
鵺のことをぼんやり調べてて、もしかして『鵺は頼政の母説』を採用してるのかなと思った。
合ってる自信はない。これの話って愛媛県のでしょ?
「伝説と習俗」という柳田國男が執筆した論文だと、母は大蛇で息子に手柄を立てさせたくて鵺に化けて射らせた。
別の人の論文「父二峰村の民族記」だと、池に祈りに行った母が鵺になる。
「源平盛衰記」だと鵺が誰かの為に云々は見つからず、「平家物語」でも見つけられなかった。

ただ人を驚かせてるだけの女妖と見るか、誰かの為に妖に成った女と見るかで、印象が大きく変わってしまう。
平家への恨み辛みを募らせたことで醜い姿になった→息子の出世の為に役立てよう もあるかもしれない。


・ミツクニ

ちょ~書くの苦手。編纂してるってトコは好きなんだけど、基本的に軽い男は書き方判らん。
自分なりに頑張った。……頑張った。
……。チャラチャラしてるんだけど、相手の為に身を引くことが出来る奴。
そう。大人なんだよ。軽い奴だけど。
大局を見るのは藩主としてだけでなく、私生活でも生かされているので、大切な人の為なら辛い道でも迷わず行ってしまいそう。
でもって、自分の決断にはきちんと責任を取る。
ミツクニってぇのは、そういうかっこよさを持った英傑なんじゃないのかなあ。
仲良くなってくると、「あいつ軽いからマジムリ」なんて他人が評価してるのを見て、心の中で反論することになりそう。
それだけぱっと見た印象と中身が違う。


・イバラキドウジ

私の中でずっと突き刺さっている案件を小話にした。
親愛度95「シュテンドウジ様と頭の命令なら、迷わず頭の命令をとるなあ。もうオレにとって頭に代わる奴なんていないんだ」

これがず~~~っと何年も突き刺さってて、辛いから考えないようにしていた。
幸い私はイバラキのことをギャグ以外で書かないので、困らなかったのだが。
こういう機会だから、自分を納得させるために書いた。

”私が”シュテンが好きだから、イバラキがシュテンを捨てるような発言は辛すぎた。
でもじゃあ、イバラキから見たらどうなの? そのイバラキに慕われている独神はどうなの?
そちらに自分の気持ちを置いて書いたのだけれど、少し気持ちが晴れてきた。

私の中で”別れ”ってものが物凄くストレスで、大嫌いなのだと思う。
別れを経験するくらいなら、会わなければ良い。
フラれるくらいなら、好きにならなければ良い。
そういう、考え。

それは私個人の考えであって、キャラの考えではないので、今回はイバラキと向き合ってみた。
私の心が死なない落としどころとして、「巣立ち」をテーマにした。
子分をやめたって、それまで積み重ねた情が立ち消えるわけじゃない。
一定の期間、同じ釜の飯を食って楽しく酒を飲んで暴れまわったことは、イバラキの人生の一部になっているんだろう。

そう解釈しないと私が死んでしまう。


。ニギハヤヒ

そもそも持っている人いました????
元々御統珠購入獲得キャンペーンの配布キャラですよ?
つまり課金必須キャラ。
私は多分一番最初の課金で入手した(はず)(調べる術なし)
確実に手に入るけれど、人によっては一生手に入らないキャラ。
……なので、好きになってもらいにくいキャラ。
=祭事物語等で活躍しにくいキャラ(人気キャラ・動かしやすいキャラの出演が優先だから)

私は、この人のことがよく判らなかったなあ……。
王子様系とネットの人たちが言うので、そうなのかなあ……と深く考えずに思った。

これだったら操縦士(パイロット)が出来る環境が欲しかったなあ。
そうすれば唯一無二で、キャラが立った気がする。
八百万界の人たちって機械がなくても飛べるもんね(羽・術)
現代兵器も出てくるファンタジー物語(「幼女戦記」)だったら良かったかなあ……。
……いや、八百万界にもチートアイテムとして空飛ぶ船、いっぱい活躍してもええやろ。宝船とか。


・マサカドサマ

とてつもなく人気キャラ。というイメージ。
最初の方は凄かった気がする。

好きだったけど、だんだんキャラが判らなくなっちゃったな。
私個人の好みとしてはイカれてるけれど、常識もちゃんと持ち合わせていて、余計に厄介で面倒なキャラ。
怨霊と人間の狭間。
人の為に戦った人。

ミチザネサマが、怨霊・人・神と要素が三すくみ状態で。
マサカドサマは、怨霊・人の二値。
普段は人要素が強いんだけど、感情の高ぶりで怨霊要素が増えていくような……?

本編でテンカイとマサカドサマがっつり絡んで欲しかったな。


・イッタンモメン

難しいなあ。
これで本当に良かったのだろうか。
二面性があるキャラ、ギャグだと簡単だけど真面目に書くと難しいな。
比較の為に夜の部分も書きたかったな。


・カミキリ

ヤベー女だからこそ、ギャク枠へ行って欲しい。
そうした方が生きるキャラだと思う。
美髪キャラの髪の毛を切っちゃっても、次の日には伸びる世界線にしよう!

自分の八百万界世界観においては、カミキリはびくびくしつつ髪に異常執着する異常人物だけど、髪が絡むとチョロくなる英傑かな。
アシヤやアマツと近い人種(並べていいのか?)
面倒臭かろうと、興味がなかろうと、餌(独神)を目の前に置いてやると、素直に食いついてくれる。
その方が読んでる側も次の行動を想像しやすくて、ストレスがないと思う。


・イシコリドメ

普通の話を書いてしまった。
当時クレイジーサイコレズと一部で言われたキャラだけど、サイコ過ぎない塩梅で。
常識的な面とか、まともなとことか、そういう面も出すと、キャラが好かれやすいかなあ。なんて。

そう思って、ネタキャラじゃなくてイシコリドメ自身が良く思われるような話になった。


・ササキコジロウ

実は、推しの一人なんすよ。なのに全然上手く書けないし、大体暗くなる。
コジロウは独神を神格化しすぎちゃう?
なんで親愛度90ぐらいの気持ちでいけなかったの?
独神のこと、真剣に考えすぎて高嶺の花にしてない?
遠慮しすぎは迷惑だからな。
面倒臭がり屋がそれをさらにややこしくする。

たまには普通に可愛い恋愛の話書いても良いんじゃないかな。自分。
「俺が」って前に出るコジロウでも良いんじゃない?
コジロウと仲良くなればなるほど、距離置いてくるから厄介なんだよなあ。
と文句をつらつら言うくらいは好き。

ささやかなやり取りで幸せ感じてくれそうで良い。
本格的にくっつこうとすると、腰が引ける男だから、その前の段階が夢っぽくて良いと思う。
討伐頑張ったり、お菓子作り頑張ったり、護衛に選ばれることを心の中で念じてみたり。
あれかな。一番自信のあった剣術で負けちゃったから、自分の願いは最後の最後には叶わない、と思ってんのかな。
一回の敗北がずーっと尾を引いている。
たかが一回の勝負で? って外野は思っちゃうけど、コジロウの中では重要なことかも。
……豆腐メンタルか?


・オダノブナガ

第三部!!!!!!!!シナリオ!!!!!!!後出しで良いから!!!!!!公開!!!!!!!してくれ!!!!!!!!

これに尽きる。
親愛台詞や伝承にそれに関することが書いていたらなんとなく折り合いがついたんだけどなあ。
このまんま一生謎の男。


・アケチミツヒデ

祭事台詞欲しかったんですが!!!!!!!!!!!!!
何パターンも欲しかったんですが!!!!!!!!!!!

どう書けば正解が判らない英傑。
自分は「明智光秀」の方に多くのイメージを抱いているので、バンケツ風味は難しい!
厄介なやつなのは判る。
拗らせまくって失恋しそうなタイプにも思うし、無理やり手籠めにするのもあると思いまーす。


・モモタロウ

長編でもくっつかないし、ここでもくっつかないんか?
自分に心底呆れたぞ。

モモタロウは記号的に書けば、
「僕がいれば十分でしょ」と、少し怒った顔して赤くなっている姿がまず出る。
私の中ではスネるイメージつよつよ。
記号錬成ではなく、話から考えたらこんな感じになっちゃったな……。

気に入らないもの斬りまくる人だし、返り血浴びたまま月光に照らされる場面がよく出てくる。
けれど無理やり、相手を思い通りにする人とは思っていなくて、私の大好きな「監禁暴力拘束強〇等」とは相性が悪い。
正義の押し付けはあるけれど、自分が持つ力で好きなひとを傷つけないと勝手に思っている。


・トール

光。以上。

可愛いしかっこいいし、少し単純だし、嫌な所がない。
しかし欠点がない人物は書きにくいのである。
他人が持つイメージを壊しすぎてはならんし。

アスガルズ英傑は同じ人型で言葉も交わせるのに、何故か一緒にいると考えがずれる。
なーんかコミュニケーションしづらいと思わせる。
そんな感じで思っている。
このズレというのは、生育環境の違いであって、彼らが悪いわけではない。
たまに一緒にいるのは良いけれど、ずっといると苦痛になってくるかも……な匙加減。

それが、八百万界に染まって、こっち側の価値観に彼らの方が寄ってくれたのが、好感度が高くなった後のアスガルズ組。




(20230705)