「雨かよ。かったりーな」
足元がぐずつく中、学校に向かうオレはなんて真面目な学生なんだろう。
雨は面倒だからサボるなんて奴は馬鹿だ。人生の四分の一くらい損をしている。
だってそうだろ。雨は、雨は────。
ブラ透けが拝めるんだぞ!!!!!
つって、今はもう夏服は終わっちまったけどな。
ここで「ならどうでもいいじゃん?」なんて言う奴は阿呆だ。
こういう時はまた別の透けイベントが発生する。
傘を忘れたor壊れてしまって制服が濡れる。
今の時期は寒い、そのままではいられないと言う事で上着を脱ぐ。
ほら、ここ。ここだ。
この時に出くわせば、ちゃんと見られるだろ?
加えて、そんな女子に自分の上着を貸して、感謝される事だってある。
そうすりゃ「ありがとう!お礼は私の身体よ!」って流れ!!!
さてさて、雨に身体を震わせた女子たちがいそうなところを、
今日はしっかり巡回すっぞー。と、その前に。
「おはよう。ニッキー」
「っはっす。ちゃん」
タイミングは完璧だ。
俺は、わざわざ同じクラスのちゃんに朝の挨拶をしに来たわけではない。
俺の目的は服装のチェックだ!!
いつもと変わらず風紀を一切乱さない着こなし。
そういう規則通りの格好は普通ダサいんだが、ちゃんは別。
その鉄壁の守りが破れた時を想像するだけでも美味い!
今日は雨の中徒歩で登校してきたちゃんのチェックすべきはここだ!
「ちゃん水溜まりとか大丈夫だったか?」
「見てたの!?私ね、うっかり入っちゃって足がびしゃびしゃなの」
うっしゃ!!
「我慢と思って上履きを履いたは良いけど、今すっごく後悔してる」
「馬鹿だな。そういう時は脱いじゃえば良いじゃん?」
「へ、変じゃないかな?」
「風邪ひくのとどっちがマシか考えろよ。次は進級じゃなくて卒業出来ねぇぞ」
あ、言い過ぎた。
ちゃんはずもーんと落ち込んでしまった。
「とにかく、体調管理はしっかりしねぇとだろ。さっさと脱いじまえって」
「……なんかニッキー変。何を考えてるの?」
「考えてねぇって!!ほら、しないならオレが」
ふふふ。
これが、オレの真の目的。
これにより、合法的に服を脱がすことが出来る。
ちゃんはサイハイソックスだ。
判るか?
ソックスでも、ハイソックスでもなく、ニーハイでもなくサイハイだ。
これは大体爪先から太腿上部までの長さがある。
脱がすとしたら、太腿に食い込む布に指を入れ、そのまま爪先まで下ろす必要がある。
ここまで言えば、もう判るだろ。
「え、いいよ。自分で脱ぐ、し」
「まぁまぁ遠慮すんなって」
オレはスカートの中が見えるかもと期待しながら、ちゃんの前に傅いた。
そして有無を言う隙を与えず、即座に太腿、じゃなくて、サイハイを持って、ずりっと下した。
「って、感触がねぇ!!それにオレの手の中に何もねぇ!!」
「なんか怖かったし、力をちょっと使って早着替えを」
「反則だろ!!」
「ついでに上履きも乾かしたし、ニッキーの服も乾かしたよ」
なんてことだ。
酷いぜちゃん。
折角のパンツチラ見チャンスと、太腿ベタベタスリスリチャンスが……。
そんなにオレに触られたくないってのかよ!
「ご、ごめん……。そんなに落ち込むと思わなかった……」
折角の。折角の。雨の日のチャンスが。
これだって、毎回水たまりにハマってくれる訳じゃねぇし、
落ちそうになってもサイバーが庇ったとかで、意外と発生率低いんだからな!!
「そろそろ席つけー。雨で滑りやすいから焦らなくて良いぞ」
「……席、戻るね」
オレは授業にも身が入らないぐらい落ち込んだ。
と言っても、十分くらいで他の女子が裸足になってたり、
下着がぐちゃぐちゃという会話を盗み聞いて、早々に復活した。
◇
そして昼休みだ。
「ちゃん。今日は用事あるから気にせず飯食ってて」
「うん。判った」
これでちゃんに余計な気をまわされずに済む。
探しに来られたり、他の奴に色々言われると面倒だからな。
今までずーっと張り付いてきたが、もうちゃんには期待しない。
オレは、別の出会い(エロ的イベント)を探しに行く!
適当に飯をかき込んだオレは、適当に校舎をプラつく。
雨は一切弱まる事を知らず、窓へと突撃しては散っていく。
多分今日は夜になっても止むことは無いだろう。
明日も雨かも知れない。
今日が駄目でも明日があると考えると、にやけが止まらない。
「うわ。キモ」
「こんな日にアイツ見るなんてサイアク」
「どうせ雨だからって歩いてるのよ」
「死ねばいいのに。って言ってる傍から近づかないでよ変態」
闇雲に歩いている事もあって収穫がない。
でもきっと、何かあるはずだと期待してしまうのは、過去の経験からだ。
あの日も雨だった。
教師用のジャージを着たちゃんを見つけたのは。
あの時は濡れたからって、下も履いてなかったんだよな。
見た目からしてスゲーそそる&可愛くて、その分おっぱいがないのが残念だった。
でも他の女子とは違って、何も知らない無垢な所や砂糖菓子みたいな雰囲気に魅せられた。
そんな子に会えてラッキーと思ったのも束の間。
オレは、その後最大の障害である黒神と会う事になる────
ダメダメ。ストップストップ。
折角の生足記憶回想を、あの鬼畜神に乱入されてたまるか。
頭を振ったオレは頭を切り替え、良い女子がいないかどうか見回した。
あの時のちゃんみたいな出会いが、もう一度ないかと。
「────な」
いた!!!!!!!
誰だよアレ!超可愛い!
クセのある黒髪を肩まで伸ばした女子だ。
背は、ちゃんよりはあるけど、小柄なタイプ。
あとは顔とおっぱい!
そろりと相手にそしてさりげなくすれ違い、その時に先の二項目を確認した。
顔は花丸。ツリ目が凛としていて、性格キツそう。
でも整った顔をしている。可愛いより美人だ。
重要項目のおっぱいだが……微妙。
無いわけじゃない。けど小ぶりで、掴むところが少なそ、
!!!!!
どういう事だよ!!
濡れてる筈の制服なら見えるはずのアレがない。
こ、こいつまさか、ノー、
「あ!あなた何なんですか!!」
黒髪女子はさっと胸を隠した。
これは間違いねぇ。
この子、ノーブラだ。
制服の下はキャミソールとかいうやつ一枚という心許ない装備。
落ち着けオレ。
ここはいつもみたいに暴走するわけにはいかねぇし、鼻血だって厳禁だ。
この子のおっぱいを揉む為には、まず。
「何なんですか、じゃねぇだろ。濡れてるけど大丈夫か?」
「え。……えぇ。ダイジョウブデス」
「なら良いけど。体操着とかねぇの?」
「え!?な。う。も、持ってなくて……。今日は体育がなくて」
「じゃあ、ここでちょっと待ってろよ」
「へ!?あの、ちょ」
オレはダッシュで教室に帰ると体操着をひっつかんで、黒髪女子の元に戻った。
あの子はまだ廊下にいた。
「ほらよ」
「これ……?」
「その格好で教室帰るつもりかよ。それに濡れたままでいると寒ぃだろ」
「……あ、ありがとう」
「あのさ、名前何ていうの?」
「え!?えっと……く……くろ……クローネ」
「……外人?」
「う!?えっと、祖母が海を越えた国の人で」
なるほど。
端正な顔立ちは他所の国の血が混ざってるからか。
……美味しい。これは美味しいぞ!
このチャンス、必ず物にしてみせるぜ!
「クローネちゃん。そろそろ教室に戻った方が良いんじゃねぇの。
あ、そうそう、服だけど、返してくれるのはいつでも良いから。
っと、オレはニッキー。三年だ」
焦って会話の順番がおかしくなったけど、まあいいだろ。
「は、はぁ……。服は明日お返しします。
場所は同じ時間にここで」
「雨だし無理しなくて良いぞ」
「いえ、私の家は晴れてますから」
天気が違うって事は遠方から電車通学か。
何処住みなんだろう。
「それじゃあニッキー先輩、失礼します」
ささっと、クローネちゃんは廊下を走って行った。
先輩ってつけてたし、クローネちゃんは後輩か。
って、学年とクラス聞くの忘れちまった!
まぁいい。明日会うんだ、その時に聞こう。
軽い足取りで教室に帰ると、ふっとちゃんが目に入った。
あっちもオレに気付いたのか、小さく微笑まれた。
嬉しいはずなのに、オレの胸に何かがぐさぐさと刺さる。
気づかなかったふりをして、オレは席に着いた。
◇
次の日も、雨だった。
昼休みにクローネちゃんと会った廊下に行くと、彼女は一人で立っていた。
「あぁ、こんにちは、先輩」
「悪ぃ、オレ遅かった?」
「いえ、今来たところですよ」
そして彼女は手に持っていた、紙袋をオレに手渡した。
妙にファンシーで女子が持つ物と明らかに判る。
これを教室に持って行くのは抵抗があるが、自慢には使えそうだ。
「これ、有難う御座いました。お陰で助かりました」
「風邪大丈夫だった」
「えぇ。あなたのお蔭で」
口元を少し持ち上げ、彼女は笑う。
しぐさが上品だ。普段どんな生活をしているんだろう。
「なんか今日は雰囲気違うな。昨日は落ち着きがなかったけど」
「あ、あれは想定外で!まさか、あんなことになるとは思わなかったんだ」
「昨日は昨日で可愛かったけどな」
「はぁ?何を言ってるやら」
素はこっちの性格なんだろうと思う。
ちょっとつっけんどんで、男っぽい感じはするけれど、オレはそういうタイプもいける口だ。
正直……おっぱいと穴さえあれば割といける(但し顔と年齢でふるいにかけた後の話)
「先輩、あの……昨日のお礼がしたいんですけど」
キタ──────!!!!!
「その……どんな事がお望みですか。
私、あの……なんでもしますから」
うおっしゃあああああああ!!
「今、なんでもつったよな?」
「え、えぇ……まあ」
願いと言えばヤらせて下さいの一言に尽きる。
だが、いいのか。
ここでがっついても。
「いや、お礼をされるほどでもねぇって。大したことしてねぇし」
ここは一度、引いて見せる。
あくまでも「そこまで言うなら仕方ねぇ」というスタンスで。
「あの、本当は、私、昨日はわざと濡れたんです」
「え、なんで?」
「……ニッキー、先輩が、通るって、思ったから」
え?
おいおい、マジか。
これは期待しても良いのか?そうなのか?
「だから私、昨日はあんなはしたない格好で……」
確定だろ。
この子、オレの事好きなんじゃねぇの!!!!
これでようやく童貞とオサラバか!!
思えば今まで、長く険しい道のりだった。
ただ女子とエロい事がしたい。
そんな細やかな願いは、いつも他人に見下され、蔑まれてきた。
触れたいと思う女子には逃げられ、罵倒された日々。
オレはいつも、映像や写真の女を見ては、右手で頑張っていた。
必死に妄想して、自分の右手である現実から目を逸らしてきた。
だが、そんな辛い日々に、今日漸く終止符を打てる。
オレの右手……今までありがとう。
疲れただろう、ゆっくり休め。
マイサンの世話は、次から。
「く、クローネちゃん!ちょっと体育倉庫来てくんない?」
「…………えぇ、それが、望みならば」
妖艶な彼女の笑みは怪しくも性的興奮を誘った。
こんなストレートな要求がまさか通るとは思わなかった。
クローネちゃんって、可愛い顔してビッチ系?
イマイチオレの事が好きなのか、ただヤりてぇだけなのか判らねぇけど、特に問題は無い。
据え膳は食うべきなのだ。
今まで逃してきたが、今日は絶対に食ってやる。
オレとクローネちゃんは体育倉庫に着くと、扉をしっかり閉めた。
「あ、あのさ、……確認だけど、マジでいいわけ?」
「勿論。あなたの思うまま、してくれて良いんですよ」
こう言ってるし良いんだよな。
オレはとりあえず、目の前にくっついている二つの膨らみに手を伸ばした。
が、スカった。
「……く、クローネちゃん?」
「い、いきなりでちょっと驚いてしまいまして……」
なんだ。経験ある奴がこの程度でビビるか普通。
「そうじゃなくて」
クローネちゃんはオレに背を向け、制服の上着を少し脱いだ。
「先にこちらじゃ駄目ですか?」
マジかよ!!!
脱がして良いのかよ!!!
うひょおおおお!!!
生きてて良かったぜ!!!
オレ的に一番気になるおっぱいは今は置いておき、
彼女のリクエスト通り、まずは服を脱がすことにした。
腕の途中で止まった上着を下ろしていく。
それから次は、ブラウス、である。
正面をこちらに向けてくれない彼女の首を辿って、第一ボタンに触れる。
この向きならば、普段自分で着脱するようにボタンを外すことが出来る。
もつれる指でいくつかボタンを外したところで、オレは肩に手をやり、そのまま布を左右に引いた。
ブラウスの下から現れた肩は、華奢だった。
思う以上に小さかったが、どこかで見たことがあるような気がした。
誰だろう。いや、今はいいか。
現れた素肌に鼻を寄せると良い匂いがした。
やっぱ女子っていい匂いだな。
何の香りだろう。よく嗅ぐ匂いだ。
甘くて、ふわっとして、でも胸焼けするほどしつこくなくて。
オレの好きな匂い。
「せ、先輩……。良いんですか?」
「なにが」
「こんな事して」
なんで誘ってきた奴が、そんな事聞くんだ?
「良いんだよ。若いし」
その余計な一言が、オレが目を向けないようにしている罪悪感を引き寄せる。
オレは何も悪い事はしていない。
後ろめたい事は何もない。
いつもと違って、今回は相手から言われたんだから何したって良いはずだ。
それなのに、オレの胸の内にいるあの子は言うんだ。
「なんだ!ニッキーはやっぱり私の事をからかってたんだね」
傷つく様子なんて微塵も無く、他の女子とくっついたオレを祝福するだろう。
そしていつも通りに接してくれる。
「サイバーの家で遊ぶ!ニッキー?ニッキーは駄目。その子に悪いもん」
きっと気を使って、オレとは距離を置いて、心ごと離れていく。
元から距離とられてるのにな。ここから更にとか。
「……気持ち悪い」
今のこの状況だけを見たら、流石のあの子でもそういう気がする。
って、なんかやけに鮮明な幻聴が。
「って、ちゃん!?」
内側から鍵かけたんだぞ。
なのに、なんでちゃんが倉庫の扉開けて、こっち見てんだよ。
「違うの!ニッキー先輩は私を助けてくれて」
クローネちゃん上手い!のか?
とりあえずオレが無理やりやったと思われずに済む。
でも、問題はそこだけじゃねぇ!!
「そっか……失礼しました」
ガラッと、ちゃんは元通りに扉を閉めた。
「あのニッキー先輩、続きを」
ようやくクローネちゃんの正面が見えた。
ブラウスで隠しているが、胸の谷間がばっちり見える。
肩紐がねぇけど、まさかまた下着着けてねぇのか。
マジかよ。着衣でも揉み放題じゃん。
このまま下脱がして、挿入ってのもありだな。
それに見つかった後なのにこんな事言ってくれるなんて、最高だろ。
そんなにしたいの?オレもしたいよ。
でも。
「……クローネちゃん、ごめん」
「先輩?」
「ちょっと、殴られてくる」
結局据え膳は食えずじまい。馬鹿だよな、オレ。
でも、良いんだ。オレは行かなきゃ。
「ちゃーん!!待って!!」
まだ人がいる校内という事があってか、
ちゃんは普通の人間と同じように廊下を走っている。
空いても決して足が遅い訳ではないが、性別の差のお蔭で頑張れば追いつけそうだ。
「っ、ま、待て、って」
オレはちゃんの服を掴んで、息を整えた。
振り払われはしないが、距離を取られている。
「あのさ」
「あのね、ここは学校だから。あまり変な事はしない方が良いと思う。
私みたいに誰かに見られたら大変だし、あの女の子も嫌だと思うよ」
「それは……うん。ごめん」
「服を脱がそうとしてたけど、怪我でもしたの?」
オレが何をしようとしていたのかは判ってねぇのか。
それはそれで好都合だ。
「ちょっと、色々としようとしただけ」
「……無理やり、じゃないんだよね?」
「ムリヤリ、で、シタ……」
大きくため息をついたちゃんは「最低」と言ってオレを振り払った。
はは……こりゃまた何日か無視が続くな。
まだいるかな。
オレは念の為体育倉庫に向かった。
「……先輩。あの子は良いんですか」
クローネちゃんはまだいた。
「良くはねぇけど……。まぁオレがヤろうとしてたのは判ってねぇみたいだった。
またオレがセクハラ紛いの事をしてるって思ってるだろうな」
「彼女でもないんだから関係ないと思いますけど」
そうなんだけど。
「良いんだよ。オレはちゃんに(あまり)嘘は付けないし、
それにクローネちゃんだって、オレに迫ったなんて噂がたっても困るだろ。
オレ自慢じゃねぇけど、女子受け悪いから」
「……随分優しいんだな」
「やっぱそう思う?オレってチョー良い奴だよな」
「自分で言いますか、それ」
そうでもねぇけど。
クローネちゃんに迫られたって事は、オレとしてもバレたくない。
ろくに判らないちゃんでも、番が男女一名ずつと言う事は知っている。
クローネちゃんがいるとなると、オレはちゃんの中の選択肢から脱落しちまう。
オレは女っけが全く無い。
そう思わせておかないと、ちゃんはオレと間違ってもそういう関係にならない。
折角ここまでしてくれて悪いけど、オレは予行としてしかクローネちゃんを見て無いんだ。
……悪い子でもないし、可愛いし、魅力的ではあるんだけどな。
でもクローネちゃんの事を考えていると、ちゃんに罪悪感を覚えちまう。
意識しているつもりはないのにだ。
この二日間、クローネちゃんの事が楽しみという気持ち以上に、苦しかった。
オレに彼女作らせない呪いみたいだ。
「……仲直り、しなくて良いんですか。
まぁ、彼女は無視ばかりで相手にしてくれないかもしれませんが」
「まさにソレ!全然話してくれねぇんだよ!」
「手紙でも書いたらどうです。失言がない分スムーズです」
「……女子ってすぐ手紙とか言うよな」
「女性の機嫌をとるんでしょう?あっちに合わさずしてどうする」
た、確かに。
「私は教室に戻りますね」
出ていくクローネちゃんに続き、オレも教室へ戻った。
ちゃんはこっちを見ない。
オレはその間にせっせとノートの切れ端に書く内容を考えていた。
書いた紙は放課後に渡した。
「これ。読んで欲しい」
ちゃんは素直にそれを受け取った。
「じゃあな」
縋ることなく、オレはその場を後にした。
結果が判るのは明日だろう。
◇
「クローネちゃん!」
「ああ。ニッキー、先輩」
「成功だ!こんなに簡単に許してくれるなんて過去最高!」
「そう。……良かったですね」
今朝はいつも通りだった。
あっちから挨拶されたし、その後も雑談出来た。
念の為謝ってみたら「ううん。ごめんね」と、言ってくれた!
「じゃあ、私は失礼して、」
そうは問屋が卸さない。
オレはがっしりと手首を掴んだ。
「ちゃんは許してくれたし、
昨日の続きを……へへ」
「……クズだな、テメェは」
ん、なんだこの声。聞き覚えがある。
掴んだ手首が少し大きくなり、背も少し伸びた。
艶のある黒髪はそのまま、目鼻立ちもほぼそのまま。
でも、胸が縮んで……服も制服から……私服?
「お。お、おま、お前!!!」
「判ったら手を放せ。以外の人間が触るな」
言われなくても放してやんよ、バーカ!!!
「全く、人間の男というものは斯くも穢らわしいものか」
脳みそフル回転で、ここ二日のクローネちゃんの事を思い出す。
肩や匂い。それにあの紙袋。
全部覚えがあるに決まってる。そりゃそうだ。
どれもこれも、ちゃんのものなんだから。
「じゃあ、昨日のアレは」
「テメェがブツを晒そうとした所で切り落とす算段だったんだがな。
まさか俺もに邪魔されるとは想定外だった」
物騒なことしようとしてんじゃねぇよ。
「お前、男じゃ」
「その前に神だ。性別くらい変えられる」
オレ……あのままだと、男と、しかも黒神とヤるところだったのか。
「…………お前さ……女の身体、ちゃん以外に知らなくねぇか?」
「は?確かにそうだが、それに何の問題が」
不機嫌そうな黒神を近くの教室へと突き飛ばした。
「っ、なにしやが、」
オレはそのまま覆いかぶさった。
「ひ!?ばば、馬鹿か!?何考えてんだよ!!」
「中身なんざどうでもいい。
オレの推測通りなら、クローネちゃんの身体はちゃんの身体とそう変わらねぇ。
童貞はテメェ(クローネver)で捨ててやる!!!!」
「な!?!待て、俺だぞ。今は外見も黒神で、ちょ、や」
「あー、スッゲー肌すべすべ。ちゃんの匂い」
「ひぃっ!!?やめ、以外のそれも男なんて、気持ち悪」
罪悪感の中オレがホイホイついていけたのは、ちゃんの影を見ていたから。
結局オレは、ちゃんを探してたんだな。
「テメェ!このままこの話終わらせる気じゃねぇだろうな!ふざけんなよ!」
ガラッ。
扉が開く音がした。
なんだかこの展開、昨日もあったような……。
「く、黒ちゃ……ニッキーまで」
まぁ、そうだろうな。
「昨日もなんだか変な気配があると思って探してたけど、
ニッキーといたあの女の子、黒ちゃんだったんでしょ……」
「、違うんだ!勘違いしないでくれ」
あーあ。最後のオチはこれだな。
「……私、家出する」
「こら、そんなの許さないからな!」
「まさか黒ちゃんとニッキーが恋人なんて……ごめんなさい」
ちゃんは逃げた。
「!!テメェも放せよ。ー!!!」
黒神は神の力でひょいとすり抜けると、何処かへ去ったちゃんを追いかけて行った。
「さて」
────猛烈に死にたくなってきた。
黒神に欲情してたなんて……ははっ。
◇
「おい、アイツ」
「あぁ、ホモなんだろ」
「女に相手にされなかったからか……」
「もしかけるなら誰だろう」
「ニッキーでしょ?サイバーやリュータあたり?」
「前までは気持ち悪くてしょうがなかったけど、
あの変態行為が隠れ蓑だって思うと、なんだか夢が広がるよね」
「ねぇ、どっちが攻めかな!」
「俺にAVあんなに貸してくれたのって、それを使って妄想でしてたのか?」
なんで学校中に広まってんだよ、おい。
「ニッキー。オレが好きだから好きになんなよ」
「お、俺はノーマルだから……ごめんな」
「ニッキー、今まで大変だったでしょう。
同性愛ってよく判らないけど、今まで通りに接するね」
サイバーもリュータもサユリもなんだよ。
そして極めつけは。
「……黒ちゃんと別れて下さい」
なんで、ちゃんはオレ敵視してんだよ!!!
まず付き合ってねぇから!!
「じゃあ、アイツは捨ててやるから、代わりにちゃんがオレと付き、」
「!!ニッキーは黒神と別れる気ないって!!」
「サイバー!オレの言葉に被せてんじゃねぇよ!!」
くそ。邪魔しやがって。
こうなるならせめて、クローネちゃんのおっぱい揉んでからが良かったぜ!!!
……じゃなくて。
やっぱりオレにはちゃんしかいません。許して下さい。
fin.
(14/11/05)