せつなさ、とけた

神も夢を見る。
人間と変わらず、起床時に覚えている事もあれば忘れている事もある。
今日は、“覚えている”日であるようだ。

詳細に思いだそうとすればするほど、綻びが現れる為、大凡内容を言えば、前のの事だ。
舞台、登場人物の設定が出鱈目な夢であっても、どちらのかはすぐ判る。
明確に異なる一人称を聞かずとも、だ。
全く同じ人間である者を見分けられるのは、何も俺が特別観察力があるわけではない。
ただ単に、昔のが夢に出てくる事が殆どであるだけだ。

俺は改めて無力感に苛まれ、部屋を出た。
は影と共に台所にいた。朝にしてはやけに余裕が見える。
そこで、今日が休日だと確信した。

「オ早う御座いマス」
「おはよう。今日は早いね」

二人にいつも通り「おはよう」と返し、ソファーへと身体を沈めた。
程よい弾力が心地よく、眠気がじわじわと戻ってくる。
呼ばれるまでこのまま微睡むのも悪くはあるまい。
鈍い頭では、瞼の裏に映る遠い日のに思いを馳せる事に罪悪感が無かった。

その後気づけば起こされ、と共に食事をとった。
先に平らげたは慌ただしく外出の準備。
前日に外出する事は聞いたが、詳細は聞いていない。
それだけでも絞られるが、更に荷物を見れば誰に会うかは大体判る。
汚れても良い服装で、着替えまで持って行くとくれば。
相手は、関わる事に俺が難色を示す相手。

今朝の事があり、俺は思ってしまう。
もしも、前のならば。と。

準備を終えたはじっと俺を見つめた。

「大丈夫?」

何を大丈夫と聞いているのか。

「どうかしたか」
「なんだか、疲れているような気がして」
「まだ身体が起きないだけだ。気にする事はない」

外出が後ろめたいだけかと思ったが、それは俺の誤解だったようだ。
は少し考えた後、荷物を持ち直した。

「何かあったら教えてね。すぐ帰るから」

「絶対だよ」と念を押し、予定通り外出した。
もしかしたら行かないかもしれない。と言う淡い期待は無意味だった。

を失った俺は、「大丈夫」と言ったほんの少しの言葉が幸せだと知っている。
それを噛み締めたのも束の間。
すぐに慣れて足りなくなった。

何もかも忘れていく事を責める。嫌悪する。

に。自分に。
に、に、に、に、に。

そして、自分に。





fin.
(16/09/13)