くちづけは、あまく

「黒神にはナイショな」

そう言って、オレはの首筋に口付けた。
可哀想に。
生命を維持する為に必要なものが薄皮のすぐ下にあるここはほんの少しの刺激でも身体が危険信号を打ち鳴らす。
は震え、反射的にオレを押し返そうとする。
でもオレは「大丈夫」という意味のない言葉をかけて、その抵抗を抑え込む。

「MZD……どうしたの?」

オレがいつものオレじゃないから、は不安そうだ。

「いや?」
「いやとかじゃなくて……。どうしたのかな、って」
「少しだけでいい。許して欲しい」

の抵抗がすっと消え、オレの背に回る腕の温かさを感じたら、もうオレの思いのまま。
髪紐を解こうが、額に口付けようが、ネクタイを外そうが、オレを咎め、責める者はいない。

「っ。ねぇ、ひと、人が来たら」
「来ねぇよ。ちゃーんと鍵かけてっから」

オレがを連れ込んだのは、学校の一教室。
廊下側には窓が無く、三階であるここは誰からも見えない。
人間しかいない学校なので、施錠さえしておけばオレの力なんて使う必要はなく、よって黒神にはバレない。
オレとが学校にいることも特別違和感はなく、探られる事はまずないと言っても良い。

とは言え、一切危険が無いかと言えばそうではなく、それなのにオレはそれ以上の対策をせずにいる。
このスリリングさを、楽しんでいる。

ほんと、オレ、何やってんだろうな。

黒神がをどう想っているのか知っておいて。
がどれだけ物を知らないのか知っておいて。

でもだからこそ。だからこそである。

オレの居場所は何処にある。
二人は二人で完結してて、片割れであるオレはどうなっちゃうんだ。
一つになるはずのもう片方がオレより別の誰かを選んだら、オレは永遠に一人のまま。
オレにぴったりとはまる奴はアイツだけなんだぞ。

片割れと見事合わさることが出来たなら、オレとも合わさる事が出来るはず。
黒神の痛みや苦しみを理解し受け入れられたなら、オレの事も判ってくれる。
オレの中にあるどう足掻いても癒せない孤独も、埋めてくれるだろう。


オレにはどうして、黒神も、も、いないんだ。
本当に一人きりなのは、黒神でも、でもなくて。



────………本当は。



。そんなびびんなって。もうおしまい」
「終わり……?」
「そっ。怖がらせて悪かったな。ちょっとの身体を調べてたんだ。
 オレや黒神が持つ力がに負担を与えてるかどうかってのを」
「そうだったんだ。……それで、どうだったの?」
「ん。特に異常なし。ちゃんと扱えてるみたいだ。スゲーな」

をがしがしと撫でながら思う。
なんでオレ、演技ばっか、上手くなってんだろう。





fin. (13/10/24)