えがいた、ゆめ

「黒ちゃん」

布団の中からくぐもった声が漏れる。
それを聞いたは小さく笑うと、こんもりと盛り上がった布団に近づいた。

「朝ですよー」

髪の毛だけ飛び出している布団に話しかけると、中から急に手が伸びてきての腕を掴んで引きいれた。

「もう、黒ちゃんったら……」

決して不満げではなく、微笑んだは素直に布団の中に入りこむと、自分を抱きしめる黒神へと顔を合わせた。

「起きよう。影ちゃん待ってるよ」
「……ん」

薄眼を開ける黒神は抱きしめる腕に力を入れた。
鼻先が触れ合うと、は小さく声を上げる。

「っ、黒ちゃん。早く。行こうよ……」
「んー……」

生返事をしそのままをがっちり拘束するが、はもぞもぞと身体を捩る。抜け出させるものかと言わんばかりに拘束は強まるばかりで。
「お願い」と甘えた声で頼んでも許してくれない。

「黒ちゃん、あのね……こんなに近くにいると……その……きす、したくなる……だから放、」

言葉は唇によって遮られる。
去り際、唇を舐めてすっかり覚めた目で赤くなったに言う。

「我慢なんてしないでくれ。俺はからして欲しい」

先程とは逆にとろんとした瞳で黒神を見ながらこくんと頷くと求めに応じた。

「……じゃあ、目、瞑って」

黒神がゆっくりと瞼を落とすと、の唇が黒神のものにそっと触れた。柔らかな感触を受け、黒神は薄く目を開ける。

「……おはよ。黒ちゃん」
「おはよう、










「えー、黒ちゃんお仕事行っちゃうの?」
「すまない。すぐ済ませるから」
「……判った。待ってる。でも早くね。無理はしなくていいから……」
「即座に済ませて飛んで帰ってくるから」
「約束だよ」
「ああ」

小さな小指に、傅いた黒神は口付ける。

「約束だ」










「お、お風呂!入る!」
「な、……い、いいのか」
「いいの。……い、嫌なら、いい、けど」
「い、いや、いやじゃ……ない」
「……」
「……」

脱衣所にて、二人はお互いを見ることなくするすると脱衣していく。
服の枚数が多く、また複雑な物が多いはどうしても黒神よりも遅くなってしまう。
となると、待っている間相手の事が気になるもので。

「あ、あんまり見るの駄目!」
「す、すまない。先に行っている」

後ろ髪を引かれながらも浴室へ行く。
先にシャワーを浴びて浴槽に入っていると、開かれた扉に湯気がうねり、入室した少女に纏わりついた。

「あっち見てて!」

指差す方へ素直に向いてやる。
水音の大小で何をしているのか想像しているだけで気分が高まった。
落ち着け、落ち着くんだと言い聞かせていると、ふと肩に触れていた水が大きく波打った。
許可が下りる前に振り返り、顎まで湯に浸かったを抱きしめた。

「触るのも駄目!」
「でも
「駄目なの!」

渋々黒神は離れた。
だが見る限り、は心底触れられたくないと思っているようには思えなかった。
でなければ、自分から入浴に誘うことはない。
ただ恥ずかしがっているだけだ。そう判断した黒神は強要する事は止め、の緊張がほぐれるのを悶々としながら待っていた。

しかし、は全く許可を下さなかった。
身体を洗おうとが言い、黒神は素直に応じる振りをしながら、動いた。

「折角の機会だ。髪を洗ってやる」
「本当?ありがと」

素直に黒神に任せるの単純さに黒神は笑みがこぼれた。
そんな所も可愛くてしょうがない。
丁寧に髪を洗ってやると、の警戒心がすっかり解け、黒神の思惑通りに事が進んだ。

「え、い、いいよ。自分で出来るもん!」
「ついでだ。何もおかしい所はない」

ソープを垂らした両手はまず両肩を撫でた。
怖がらせないように欲に走った行為を一切含むことなく洗った。
導入部が上手くいけば、後は流れるように進めるだけ。

「っふ、ぁ、くーちゃ、」

小さな身体は小刻みに震え、いやらしい声で啼いた。

「綺麗にしないと。は女の子なんだから」
「や、手、手が、いっぱい、やだ、くすぐったい」

ソープで滑りの良くなった肢体を容赦無く撫で回す。
敏感であればあるほど執拗に、逃げるを追いかける。

「隅々まで洗わないと駄目だろ?」
「でも、っあ、やだぁ……変なとこ撫でないで」
「変なところとは?言わないと判らないが?」
「い、いわない」
「言って」

正面を撫でれば水平線の様なの胸であっても、隆起した突起が邪魔をする。
ぎゅっと目を瞑るを黒神は優しく慰めた。
何も怖くない、何もおかしくない、だから自分に生じた衝動に身を任せて。
自分はその全てを受け止め満足させてあげるからと。
黒神は濡れそぼった秘所へと手を伸ばし、甲高い声をあげるの口を塞いだ。
舌でこじ開け、惑う舌を捕まえてねっとりとねぶる。
それは調教。
自分の言う通りにすれば、一人では得難い快楽を与えてやる。
だから、大人しく従えと。
泡に塗れたの指が、そっと、黒神の背に伸び──。










「……うおーい、黒神さん」
「っっ!!!!??」

兄の声に驚き飛び上がった黒神はバランスを崩し、椅子から転げ落ちた。

「妄想、漏れてるぞ。下手すりゃ、にまで」

衝撃的事実にもはや痛みに気を取られている場合ではない。
自分の願望劇が本人に上映されていたという事実に背筋が凍る。
気持ち悪がる様子が容易に想像出来た。
嫌われるという可能性に破壊神は打ちひしがれた。

「と、とりあえず、に聞いてきてやるよ。なんかヴィジョン見えたー?って」

土下座のポーズで床に座り込む弟に居た堪れず、MZDはがいる学校へと転移した。

「マスター……。大丈夫、大丈夫デスよ……」

影がいくら宥めようとも、彼はではない。先程の演目には一切出演していない者だ。気休めにもならないと知りつつ「大丈夫」を繰り返した。黒神はやはり顔を上げずただただジッと、後悔の念に耐えていた。





は授業に集中してて映像類は一切見てないってよ」

と、転移しながらMZDが言うとがばっと顔を上げた黒神は安堵の息を漏らした。
事態が深刻な事にならずMZDも緊張を解いて笑う。

が真面目な子で良かったなー」
「テメェだって、真面目に作業してりゃ、俺の考えなんて流れなかったろうが」
「え!?まさかのオレのせい!?」

一度安心してしまえば、普段通りのツンケンした態度が現れる。
そんな彼を見たMZDは自分のせいにされる事は心外であれど、半身同様ほっとするのであった。
するとこちらもいつものように小言を漏らす。

「つーか、あんな妄想悶々でといて大丈夫かよ。もし手を出すなら」
「煩い、放ってろ。何もない」

ジト目で見つめると、黒神はふいっと明後日の方向を見たままで目を合わせようとしない。
妄想が現実となるのも近い未来かもしれないと、MZDは溜息をついた。
だが、すぐに笑った。

「黒神は、のことが大好きだな」

一文字に結ばれていた口元が、ふっと緩んだ。

「当然だ」






fin.
(14/02/10)