「よっ、と」
軽やかに着地した。
いつもなら誰もいない、いたとしても小さな魔族がいるだけのヴィルヘルム城の廊下。
は城の主に給仕を命令され、ホールからここへ転移してきた。
そこで一人の少年と目が合う。
「ジャック!?」
「!」
二人は驚いた顔を見せた後、すぐに満面の笑みを浮かべ、抱擁を交わした。
「久しぶり!!今帰ってきたの!?今日はいてくれるの!?いられるの!?」
「いや……ただ、寄っただけ……すぐ出発で……」
「……そっか」
膨らみすぎた風船が割れるように、二人は一転して表情を暗くした。
「そうだ……、渡したいものがある」
ズボンの中を探り、小さな瓶を取り出してに渡した。
「わぁ!可愛い!」
様々な角度で小瓶を見回すの反応を見て、ジャックは嬉しそうにした。
「紅茶に何滴か垂らすと良いと聞いた。珍しいものだそうだ」
「そうなの?……美味しいかな。紅茶によって相性とかありそうなものだけど」
「種類は問わないらしい。味に変化を与えるものではないのだと聞いた」
「そうなんだ。ありがとね」
そのまま、任務に向かうジャックを見送ったは、小瓶を持って調理室へ。
いつも通りに紅茶を淹れると、小瓶から一滴。
ぽたりと水面に波紋が生じるが、色も匂いも変化が見られない。
ヴィルヘルムが喜んでくれたらと期待しながら、それを持っていった。
「ヴィル。淹れたよー」
「さん、私の分も」
「あら、ジズさんいつの間に来てたんですか?」
読書をするヴィルヘルムの前にティーカップを差し出す。
「ジズさんにもすぐ淹れますから、もう少しだけお待ち下さいね」
トレンチを胸に抱いたは、笑みを浮かべながらヴィルヘルムを見ている。
視線に気づいたヴィルヘルムは眉をひそめた。
「なんだ、気色の悪い」
「今日の紅茶は少し違うの。だから感想聞きたいなって」
「そうか……」
分厚い本を閉じると、机の上に置いた。
丸いカップで揺れるオールドゴールドをしばらく観察した後、ヴィルヘルムはすっと口に含んだ。
どきどきと見ていると、新しい紅茶はどんなものかとわくわくするジズ。
ぽんっとヴィルヘルムを中心に煙が上がった。
「……な、なんだお前たちは!?」
煙の中から現れたのは、地獄の業火を思わす赤髪、ルビーのように輝く瞳。
……の、少年。
「「!!!!!!!」」
ジズとがばっと顔を見合わす。
「じ、ジズさん……」
「あ、あなた……、これは、貴女の新たな力ですか……?」
全力では首を横に振る。
「私じゃない!だって、紅茶いれただけで、はっ!」
はジャックから貰った瓶を思い出した。
十割方あれが原因だろう。
「城も景観が違う。なんだこの雰囲気は……」
一方小学生サイズとなったヴィルヘルムは、忙しなく周囲を見回している。
身体のサイズだけでなく、服装まで変化し半ズボンにリボンタイ姿となっていた。
「……どうしよう、ヴィルが可愛くなっちゃった」
「呑気なことを言っている場合ですか。急ぎますよ」
「何を?」
ジズはすくっと立ち上がると、ヴィルヘルム少年に対して一礼した。
「ヴィルヘルム卿、先程は見苦しい姿を晒し大変失礼しました」
「あ、あぁ……。お前は誰なんだ」
「ジズと申します。あちらは私の従者です」
話を合わせる為、も立ち上がり一礼した。
知らない人間達(正確には一名は幽霊)が、自城にいることに、ヴィルヘルムは疑いを隠せない。
だが、現状を知るのは目の前の二人だけであると判断し、努めて冷静に尋ねた。
「ジズと申す方、城はどうなっている。父上や母上は」
「今ここは、悪魔に乗っ取られてしまったのです。夫妻が留守の時を魔の者達は狙ったのでしょう」
あまりにも出鱈目な嘘に、は思わず吹き出しそうになった。
対照的に、ヴィルヘルム少年の顔は青ざめていく。
「どうして……。いや、私はどうすればいいのだ」
幼くあどけない顔をしたヴィルヘルムは、不安げな表情をジズに向けた。
「魔の者達は貴方に要求があるそうです。それをのめば、支配を解くと」
「……判った。その内容とは」
ジズは小さなヴィルヘルムを見回し、にんまりと笑った。
◇
「か、可愛い!!!!」
ジズとは手を取り合い、喜びを分かち合った。
「やめないか!お前たちいい加減にしろ!悪魔の話は嘘だな!いや、お前たちが悪魔だったんだな!!」
「いえ、私はただの幽霊です」
「私は人間です」
「白を切るのもいい加減にしろ!!この見えない拘束を解け!」
騒ぎ立てるヴィルヘルム少年は、二人によってコスチュームチェンジさせられた。
勿論恐怖を感じたヴィルヘルム少年は抵抗した。しかし、この場にはがいた。
都合の良い能力を持つは、少年の身体の自由を失わせ、人形のように仕立てあげる。
後は、人形遣いジズに身体の操作権を譲渡すれば、思いのままに操ることが可能だ。
普段の偉そうなヴィルヘルムを知る二人は、毒のない少年の反応が楽しくてしょうがなかった。
すぐに調子に乗った二人は、少年に"少女"モノの洋服を着せている。
「私の目に狂いはありませんでしたね。やはり素体がいい。もしこれで女性ならば完璧です」
「本当!女の子だったら、誰にだって好かれちゃうよ!」
「あ、悪魔どもめ……」
赤髪、赤眼の少年はモノクロの服装がよく似合う。
それもまだ男性らしさが現れていない整った顔には、幼女に引けをとらない可憐さがあった。
少年は悲しいことにスカートを難なく着こなしてしまっている。
「写真!写真を撮っておきましょう!」
「今の状態で写るの?」
「彼は今人間です。ちゃんと写りますよ。さ、証拠のため貴女も写りなさい」
「はーい!。ヴィル、あっち見て」
「離せ!平民風情が!」
嫌がろうとも身体の指揮系統はジズとに握られている。
フリルで着飾ったと少年は、ジズが何故か持っていたカメラのファインダーの中におさめられていく。
「ふふふ。これは面白い。面白すぎますよ」
二人がポーズを変える度、シャッターを切っていく。
ジズとが満足感で満たされた頃には、ヴィルヘルム少年はげっそりとしていた。
「私、黒ちゃんに見せたくなってきちゃった。連れて行ってもいい?」
「お行きなさい。私は現像しております。
間抜けなヴィルヘルム、おっと、可愛らしいヴィルヘルムが見られましたら、証拠写真を」
「承知しました!」
ジズはそのまま闇に紛れた。
操者が一定距離以上に離れた為、少年は身体の自由を取り戻す。
「さ、ヴィル行くよ!」
「ふん、誰がお前なんかと。このような服さっさと脱いで」
憤慨するヴィルヘルム少年を、はシャボン玉の中に閉じ込めた。
「なんだこれは!?う、浮いて、魔女め!どんな魔法を使ったんだ!」
「じっとしてないと危ないよ」
そう警告すると少年と一緒に黒神の自宅へ転移した。
◇
「ただいま」
「おかえ……」
黒神はの隣で浮いている少女に視線が釘付けになる。
「魔女!さっさと私をここから降ろせ!」
女装させられた少年はに抗議している。
「……、それは誰だ。どう見てもあの男にそっくりなんだが」
「違うよ。女の子だもん」
「勝手なことを言うな。私は正真正銘おと、」
シャボン玉は突然消え、少年は床へ尻餅をついた。
「何をするのだ!」
「煩いのは駄目だよ?」
は口元で人差し指を立てた。余計なことを言うなと目で伝える。
「それで、そいつの名は」
「えっと、ヴィ……オっていうの」
「なにを言う、私の名は」
は少年と目線を合わせ、口を抑えた。
黒神に聞こえないように小声で話す。
「……その名前は駄目。黒ちゃん怒らせると怖いんだから」
「わ、私を脅すのか?貴族であるこの私を」
「身分差なんて力の前では無意味だよ」
さらりと言っているが、完全に悪しき者の台詞である。
相手が元ヴィルヘルムであり、今まで散々な目に会わされているせいか遠慮というものがない。
少年は、未知の力を操るに逆らうことは己の首を締めることになると判断し、渋々頷いた。
それを見届ると、は立ち上がり、黒神に言った。
「黒ちゃん、ヴィオちゃんのこと可愛いと思わない?」
「あぁ、そうだな。可憐だと思うぞ」
「だよね!」
そう言いつつも、黒神は気づいていた。
が紹介したヴィオという少女が、実は男で、実はヴィルヘルムだということを。
その辺はやはり神である。
更にはヴィルヘルムにかけられた力は、ただの身体縮小ではなく時間の巻き戻しであり、
今のヴィルヘルムが魔族ではなく、人間の身体であることも承知している。
「(滑稽だからしばらく放っておくか)」
ヴィルヘルム関係になるとすぐ頭に血がのぼる黒神であるが、
この件に関しては静観することを決めた。
「全く。今日はいったいなんなんだ。私はヴァイオリンの演奏をしている最中だったのに」
「え!?ヴィオちゃん弾けるの?いいなー聞きたい!」
「何故私がお前みたいな女に素直に従わなければいけないんだ」
「ヴァイオリン出せばいいんでしょ?」
時代と場所を超え、はヴィルヘルムのヴァイオリンをこの場に召喚した。
「はい。どうぞ」
「……。了承をした覚えは一切ないんだが」
「でも持って来ちゃったし」
貴族である自分が平民如きに振り回されているという屈辱感はある。
しかし、出会った当初から自分の意志は一切通させて貰えていない。
プライド高いヴィルヘルム少年であるが、力の差を思い知らされている為、仕方なくに従った。
「……で、何を弾けばいい」
「なんでもいいよ。得意なものとかどうかな」
自分の演奏力の高さを見せつけてやる。
彼の頭を切り替え、自分が一番得意な曲を弾き始めた。
技術を必要とする楽曲。自分を馬鹿にする達に格の違いを思い知らせるための選曲だ。
終日、音楽が流れることがない黒神の部屋で、少年の音色が駆け巡る。
滑るように動く少年の指先、真剣な眼差し。
格好は未だ少女服のままではあったが、そのことが気にならないくらいも黒神も見入っていた。
また奏者も、弓が弦に触れた瞬間からに一泡吹かせることなど考えていない。
ただ自分が持つ音を素直に放出し、表現することだけに真剣になっていた。
少年の演奏が止んでも、二人はすぐには何も言わなかった。
「……なんだ、間抜けな顔をして」
「凄いね!」
「なかなか良かったんじゃないか」
素直に称賛され、少年は照れ隠しにを指さした。
「そ、それで、お前はどうなんだ、魔女。散々人をおちょくって、お前の音楽とは何か見せてみろ!」
は笑顔のまま固まった。
何も出来ない。楽器も歌も、リズムを正しく刻むことすら出来ない。
本人の中では大きなコンプレックスである。
「は今調子が悪いんでな。代わりに俺がやろう」
を気遣った黒神がデスクから立ち上がった。
「で、何がいい。俺に使えない楽器はないから好きなものを言うといい」
「……じゃあ、ピアノだ」
「なるほど」
黒神の前にあるデスクの形態が崩れていく。
それは新たな形へ、ピアノの形へと変化する。
「折角だ、ピアノとヴァイオリンの二重奏でいこう。
先にそちらが始めてくれ。俺はそれに合わせる」
「……判った」
ヴィルヘルム少年としては不服であった。
何故ではなくこの男がしゃしゃり出るのか。
それに、上から物を言うような態度が気に入らない。
もしも演奏が下手だったら思い切り馬鹿にしてやろうと決めた。
「じゃあ、始めるぞ」
すっと少年は音の世界へ飛び込んだ。
少し聞いて曲を理解した黒神が白と黒が整然と並ぶ鍵盤を叩き始める。
少年は動揺した。しかし、すぐに態勢を整える。
先ほどとは違い大胆に多彩に変化する弦楽器の音に、黒神は難なくついていき支えていた。
五分ほどで、二人の演奏は止む。
「すーっごーい!二人の演奏ぴったりだったよ!すごいすごい!」
音楽の良さが判らないであるが、なんとなく二人の演奏は良いような気がした。
それに、滅多に音を奏でない黒神の演奏を聞けたことだけでも、興奮には十分であった。
「いいや。やはり現役で奏でている少年には敵わないさ。俺の腕は落ちていくばかりで」
口が半開きになっている少年に、黒神は話しかけた。
「素晴らしかったぞ。ありがとう」
「べ、別に!私は、別に……。まぁ、お前も凄かったがな!」
そっぽを向いた。
「だ、だが、ピアノは良くても、ヴァイオリンの腕は別だろう」
「まぁ、そうだな。楽器としての種類が違うのだから」
「そうじゃない!い、いいから!ヴァイオリンを弾いてみろと言っている!」
「はぁ……」
この流れで、どうしてそんな言葉が出るのだろう。
黒神は首を傾げた。
「お前、どの楽器でも出来るんだろ!」
あまりにも必死で言う為、黒神は承諾してやることにした。
「随分口の悪い女の子だな」
構えれば、その肩にヴァイオリンが。
「リクエストは?」
「お前の好きなもので」
「判った。……まぁ、そう興奮せず座れ」
が少年の腕を引いて、隣に座らせた。
それでもなお、少年は身を乗り出して黒神を凝視している。
やり辛さを感じながらも、黒神はふわりと自分の世界に入った。
ほんの少しだけ、自分の中に眠らせている自己世界を開放し、音を乗せる。
普段見ることがない黒神の姿に格好がいいと興奮すると、
指の動き、弓の動きを一心不乱に観察する少年時代のヴィルヘルム。
二人の観客に見られる中、三分程度の演奏を終えた。
「……と、こんな感じだが。ヴィオ"ちゃん"は満足か?」
「黒ちゃん凄い!!格好良かったよ!」
「が喜んでくれたのなら良かった」
この女馬鹿じゃないのか。
ヴィルヘルム少年は心の中で毒づいた。
「ちょっとMZDのところに行ってくるね。すぐ戻るから」
そう言って、は飛び跳ねながら家を飛び出して行った。
残される黒神と、少女にさせられた少年ヴィルヘルム。
「……」
「……」
気まずい空気が流れる。
黒神は幼いヴィルヘルムに気を使って無理やり話しかけた。
「……、……さっきの娘だが、君はあの娘のこと」
「私はあの女が嫌いだ!!!!」
部屋の壁が揺れそうな程の大声を放つ少年。
顔を瞳の色の様に真っ赤にしながら、怒鳴り散らす。
「あの女、私に無理やり婦人の服を着せ、しかも連れ回すのだ!
拒否すれば力を振りかざし、脅してきたのだぞ!!!
レディとは程遠く、室内で走り回り、騒々しい!
もう一度言うが、私はあの女が大嫌いだ!!!」
「そ、そうか……」
あまりの迫力に毒気を抜かれる。
念の為に聞いただけであったが、黒神の想像以上には嫌われているようだった。
恋愛感情が芽生えそうになくて安心はしたが、が可哀想に思えた。
「あの女の一番腹が立つ所は、あの演奏を聞いて、あの程度の感想しか出ないことだ」
少年はぐっと拳を握る。
「……あれだけの音が出せるまでにどれだけの時間を必要とするか。
人の一生であの域まで到達できる者がどれだけいるか、私には判らない。
それがあの程度の称賛しか出来ないだと……。ふざけるのも大概にしろ。
それに先ほどのソロ演奏の時は、既存の曲ではなかっただろう。
あれが、お前の中にある"世界"なのか?」
「そうだが。……それがどうした?」
きっと睨んで言う少年に、黒神は同じく構えた。
「…………す、す、ばらし、かった」
少年の口から素直な称賛の言葉が出た。
これには黒神も一瞬目を見開く。
「私ではあの世界を表現することは出来ない。あれは複雑過ぎる。
演奏技術だけ秀でている者、作曲技術だけ秀でている者は溢れるほどいるが、
どちらも無ければ、あれは演奏できない。お前は……いや、貴方は別格だ」
煌めく紅玉が黒神を真っ直ぐに貫く。
「貴方の演奏を聞けたことを私は永遠に誇りに思うだろう」
知らなかった。
心の底から憎らしいと思っているヴィルヘルムがこんな瞳を持っていること。
未來へ希望、貪欲な向上心、純粋な羨望。
内面に眠る強いエネルギーが外へ溢れ出ている。
「それで、その……迷惑でなければ、指導願えないだろうか…………」
少年としては勇気を振り絞ったのだろう。顔に薄っすらと赤みが差している。
黒神は魔族となったヴィルヘルムには決して見せない笑みを見せた。
「構わない。とは言え、俺は指導の経験はない。連奏するか、協奏するかくらいしか」
「それでいい。いや、それがいい」
「……ならもう一度、してみるか。曲はお前の好きなものでいい」
「本当か!ならば──────」
ヴィルヘルム少年は、歳相応に微笑んだ。
素直に慕ってくる様子に、悪い気はしなかった。
「(時の流れは残酷だ。あんな純真な子供が、魔族の道へと足を踏み外し、
そしてを奪おうとする憎たらしい野郎になるんだから)」
◇
後日。
「ヴィルヘルム、これを見て下さい!」
「!?」
ジズの手には女装姿のヴィルヘルム少年の写真が。
しかも、隣にはが写っている。
予想外の写真に、魔族ヴィルヘルムは激しく動揺した。
「これをバラまれたくなかったら、私の言うことを」
刹那、ジズはヴィルヘルムによってボコボコに痛めつけられた。
「無の世界に帰る気になったようだな」
「う、ぐ……。やりすぎ、です……」
こてっと、意識を失ったジズを置いて、ヴィルヘルムはMZDの所へ転移した。
「MZD!!!」
久しぶりとMZDが挨拶する前に、ヴィルヘルムは胸ぐらを掴んだ。
「貴様の仕業か!!私をあのような姿にしたのは!!」
「それオレ違うぞ。オレが見た時にはお前ちっさかったもん」
「なら他に誰がいる。誰が、私の身体を小さくし、辱めたのだ!」
「の力じゃねぇの?小さいものや可愛いもの好きだしその延長で、あ」
虐殺でもしかねないほど、ヴィルヘルムは興奮している。
そんな奴に、か弱いを標的にさせるような真似するんじゃなかったと、MZDは言ってから後悔した。
「死神のいる異次元への道を開けろ。今すぐにだ」
家を壊されてはたまらないと、MZDは承諾した。
今家にはと黒神がいる。
黒神さえいれば、の身体の安全は保障されるだろうと思って、扉を開けた。
扉が開き、ヴィルヘルムの姿を瞳に捉えたは、すぐに機嫌が悪いことを察した。
逃げようとするの腕をヴィルヘルムは掴む。
しかし、すぐにの姿は消え、黒神の腕の中へと空間を渡る。
「に触んじゃねぇよ」
「邪魔をするな。過去から私を召喚し、辱めたこの娘には相応の罰を与えねば気がすまん!!」
「違います!!私じゃありません!!濡れ衣です!!(厳密には)」
痛い目にあわされぬよう、はしっかりと黒神に抱きついている。
小瓶のことはジャックに口止めをしておかなければと、気が気でない。
「貴様はよくも飽きずに、自己満足の異次元に居続けられるものだな。
その力をMZDに渡して消えればいいものを」
怒りの矛先を黒神に向けたヴィルヘルムは、双神の一人をせせら笑う。
「テメェみたいな奴を粛清する為に俺は忙しいんだよ。
自分にかけられた術の術者も判らないような、低能な魔族は黙ってろ」
「……そろそろ貴様のその鼻をへし折る頃だ」
「出来るのか?神である俺に、たかが魔族如きが」
「喧嘩はストップ!やめて!ごめんなさい!ごめんなさい!!」
ヴィルヘルムは仮面で素顔を覆っている。
輝きに満ちていた二つの紅玉は、もう黒神には見えない。
「(人の時間はあまりにも早すぎる)」
fin.
(13/04/05)