おにいちゃんといもうと

が羨ましい」
「じゅるる?(そうかな)」

食後の紙パックのジュース(特売でびっくり安かった)を飲みつつ友人に返事をすると、
彼女は鬼のような形相をして私に指を突きつけた。

がさっき食べたお弁当はお兄さんの手作り!体操着入れはお兄さんの手作り!
 それだけならただのお母さんでしかないけど、
 お兄さんは高校生だし、ハーフで超カッコいいし!知的だし!
 数学の苦手ながいっつも宿題の答えが合ってるのはお兄さんが見てくれてるからだし!
 背高いし!優しいし!一切非が無い完璧超人じゃん!」

確かに、私の兄は友人の指摘通りの人物である。
仕事で忙しく殆ど家に帰らない両親に代わって、家を支え中学生の私を支えてくれている。
他の生徒よりも大変なはずなのだが、成績は学年上位をしっかりとキープし、運動も出来るらしい。

秀でているのは能力だけでは無く、外見もだ。
ハーフで外国の血が色濃く出ている兄は、外国の俳優さんのようにかっこいい。
背が高い事もあってモデルだったら今すぐにでも出来ると思う。
妹の私はというと、血が繋がってるのが嘘のように平凡な日本人だ。
同じ両親の遺伝子を使ってこれかと、周囲以上に私が嘆いている。
赤毛と赤茶色の瞳がそっくりな事が唯一の救いだ。
これが無ければ、私は橋の下で拾われた子供だと信じるところであった。

「……お兄さんってまだ彼女いない?」
「いないよ」
「じゃあ」
「却下」
「早いよ……」

私の兄はとってもモテる。
バレンタインデーなんて地獄だ。
毎日真面目に学校を通う兄が「……休んでも良いだろうか」と言うくらい凄い。
帰宅時には服装が乱れ、両手にデパートで貰える大きな紙袋をいくつも提げている。
そうやって家に持って帰るのに、兄はいつもそれらを食べない。
甘い物が苦手と言うわけではないのに。

勿体ないので私が処理するのだが、以前手作りチョコに髪の毛や爪が入っているのを見つけ、今では既製品以外は全て捨てるようにしている。
まともな人には申し訳ないけれど、それは今でもトラウマで、私は兄以外の人の手作り料理は食べられない。

「私さ、ここにいるクラスの馬鹿男子がお兄さんと同じ歳になったら
 お兄さんみたいな良い男になるのかって言ったら違うと思うんだよね。
 もう生まれからして違うって言うか」

クラス全体を見渡してみる。
廊下で走り回ってたり、カードゲームやってたり、漫画読んだり、ルール不明な遊びをやってたりと、男子はいつも小学生みたい。
外見だって残念。寝ぐせが昼になっても直ってないし、すぐ制服を汚すし、ハンカチないからって制服で拭いてるから濡れてるし、幼稚園以下。
なんでこう中学の男子って馬鹿ばっかりなんだろう。
あと一年半で高校生になるなんて信じられないくらい餓鬼っぽい。

「やっぱりクラスの男子なんて子供っぽくて嫌い。お兄ちゃんとは大違いだよ」
「何言ってんだよ」

と、声変わりしたての気持ち悪い声を発しながら私の髪を引っぱるのはいつも同じ男子だ。

「痛ぁ……」

こいつは隙さえあれば私の髪を引っ張ってくる。それだけじゃない。
私のスカートが少し捲れてる時も大声で「こいつパンツ見せてるー」とか言うし、
返却されたテストを覗きこんでくるし、
体育の時顔にボールが当たって痛がってる時も「更にブタ鼻になれて良かったな!」なんて言う最低な奴なのだ。
私はこいつが大嫌い!!!

「お前の兄貴だって俺らと変わんねぇっての。毎日エロい事ばっか考えてるに決まってる」

自慢の兄を侮辱されると、私はすぐに頭に血がのぼる。
それも大嫌いな奴に兄を語られる。それが物凄く腹立たしいし、許せなかった。

「うちのお兄ちゃんは違うもん!!」

いつもはあまり言い返さない私が声を荒げた事に、多少相手は驚いたようだった。

「ふん、どーせ男なんだし、俺らと変わんねぇーよばーか」

私に言い返しながらも友達の所に走って行くのが凄くダサいと思った。
こんな奴ばかりの同級生が、私のお兄ちゃんと同じな訳がない。
いやらしいことだって男子たちと違って絶対考えないに決まっている。











以前洗濯物はお兄ちゃんがしてくれると言ったら、とても驚かれた。
どうしてそんな顔するのと尋ねると、兄に自分の下着を見られるなんて恥ずかしいし、
それを綺麗に洗濯する兄なんて気持ち悪いと言うのだ。

私と同じ学生という立場なのに、他のお母さんと同じく皺を作らないように気を使って干す兄を、称賛こそすれ恥と思った事は無い。
下着だからなんだと言うのだ。洗剤で回されてしまえばどれも同じ洗濯物だ。
体育の女子の着替えの話題で盛り上がるような男子とは違うのだから、何であれ兄は淡々と干すだろう。
そこには何の劣情もない。
絶対にない。ない。あるはずがない。



家から学校への距離が近い兄は普段は私よりも帰宅が早い。
でも今日は委員会の集まりがあるから遅いと言っていた。
今夜の夕食は、昨日中に用意をした夕食を温めるだけと言っていたので、相当遅いはずだ。

私は、疑ってなんてない。ただ証明したいだけだ。
私は兄を信じている。そう思いながら不在の兄の部屋に足を踏み入れた。

兄の部屋は常に整理整頓されており、無駄なものが一切ない。
私ならば漫画で埋まってしまう本棚も、兄の手にかかれば参考書や文庫本で埋まってしまう。
一冊引き抜いてみたが、その裏に別の本があると言う事は無かった。
他の一冊も抜きだしてみた。
でも、何も無い。
今度は辞書。
販売時に入っていた厚紙の箱に入っていて、もしやと思って中身を取り出したが厚紙に印刷さ
れている物と同じ辞書であった。

「当たり前だよ。お兄ちゃんがそんな事に頭を使うはずないよ」

無意識に零れた言葉。
次に私は机の引き出しに手をかけた。
筆記用具、消しゴム、マーカー、定規、プリント数枚。
他には無い。漫画みたいに二重底になっているというわけでもなさそうだ。

「見えないところも綺麗なんて、お兄ちゃんは凄いね」

明らかな言い訳を口にしながら、様々な所探った。
ベッドの下、クローゼットの中、枕の下。
どこを見ても、判ったのは兄が隅々まで掃除をしていると言う事だけだった。

探す箇所が無くなると急に身体の力が抜け、そのまま床に座り込んだ。
兄は無実だった。兄は変態なんかじゃない。
信じてはいたがそれを自分の手で証明できた事が嬉しかった。
兄が帰ってくる前に片づけてしまえば心苦しい探偵ごっこも終わりだ。

入室当初と変わらぬ配置に戻していると、何故か二階の廊下が小さく軋む音がした。
今いる兄の部屋はその廊下に面している。今出ればどうしたって兄と鉢合わせだ。
玄関の音はしなかったのにどうして、と一気にパニックに陥る。
早くこの部屋にいる言い訳を考えなければ。
だが、混乱している頭では何も思い浮かぶわけがなく、無残な顔合わせとなってしまった。

?」

流石の兄も少し散らかった自室の真ん中に私がいる事に驚いているようだった。

「部屋で寝ているのかと思って静かにしていたんだが……」

気付かなかった原因が今判った所でこの状況が好転する事は無い。
上手な言い訳も思いつかず、私は急いで頭を下げた。

「ごめんなさい!」

兄妹とはいえ、断りもなく人の部屋に入るような妹を、兄は軽蔑するだろう。
兄には殆ど怒られた記憶がないが、今回は過去最大かもしれない。
私は兄が好きなのだ。怒られる以上に嫌われるのが嫌だ。

何と言って私を怒るだろう。
そう思って待っていると、頭の上にふっと手を置かれた。

「お腹空いただろう。今から用意する」
「……」
「頭を上げなさい。残りを片付けた頃にリビングに来れば丁度いいだろう」

そう言って、兄は退室した。階段の音がする。本当にキッチンに行ったのだろう。
怒られなかった。それが怖い。胸の内ではどんなに怒り渦巻いているだろう。
私は兄に言われたように部屋を元通り片づけ、リビングに向かった。

「いいタイミングだ。手を……うがいもした方が良いかもしれない。埃っぽかっただろう」

頷き、言われた通り洗面所へ行って手洗いうがいを済ませた。
もう一度リビングに戻ると、テーブルには二人分の夕食が並べられていた。

「冷めない内に食べるといい」
「……いただきます」

料理は至って普通だった。いつも通り美味しく、おかしな所は一切無い。

「学校はどうだった」
「う、ん。……いつも通り、かな」
「そうか。なら今日は良い日だったのだろうな」

兄は何度も私に話しかけたが、一度も私の入室の話題を出さなかった。
御馳走様と手を合わせた後も、私の好きなテレビ番組にチャンネルを切り替え、自分は洗い物をしていた。
いくら好きな番組とはいえこの状態で楽しくみられる訳ではないが、ここまでさせておいて自室に帰る事は出来ない、とソファーの上で膝を抱えて見ていた。

テレビを眺めながらずっと考えていた。
何と言って謝ろう。いつ謝ろう。どうすればいいだろう。もしかして手遅れだろうか。
悶々と考えていると、兄は洗い物を終え、お風呂へと向かった。
チャンスと思った私は、兄が湯船に浸かった頃に扉をノックした。

「……?」
「お兄ちゃん、ごめんなさい!!!!!」
「あ、」
「勝手に部屋に入って、探しちゃって、本当にごめんなさい!!!!
 許して貰えるようになんでもするから!!た、叩いたっていいから!!」
「ふっ」

兄は噴き出した。

「ごめんなさい。どうしたら気が済むか判らないけど、私頑張るから!」
、落ち着きなさい。ふふっ、あははは」

いつも落ちつき払っている兄だが、私があまりに滑稽だったせいか声を上げて笑い続けた。
謝り方がなっていないのは判っているが、兄が認めてくれるような謝罪方法が判らなかったのだ。
……でも、そんなに笑わなくても良くないかな。

「ふふ、は面白い子だね。そんなに必死に何を探していたんだ?」

私は正直に伝えた。

「……お兄ちゃんがね……えっちなもの、持ってないか、探してたの」

引かれた。絶対に引かれた。
私だってこんなこと毎日考えてる訳じゃない。
今日偶々言われたからやっただけだ。確かめたかっただけだった。

「探してみてどうだった?」
「……見つからなかった」

すると兄はまた笑った。

「そうだな。ないものは見つからないな」
「勝手に漁って本当にごめんなさい!!」
「いいや。私は気にしてないよ。最初から」
「でも」
「寧ろ身の潔白が証明されて何よりだが?」

気を使ってくれているのだろうか。
私が逆の立場だったら、きっと兄とは暫く口を利かなくなると思う。
なんで、笑って許そうとしてくれるんだろう。兄という立場だから?

「……お兄ちゃん、我慢しないで。怒っていいんだよ?」
、私は気にしなくて良いと言っているんだ」

諭すように兄は普段と同じく優しく声色で言った。

ももう中学生だ。今まで通りとはいくまい。
 気にならなかった事が気になったり、私の事が嫌になる事もあるだろう」
「違う!お兄ちゃんの事を嫌だなんて一度も思った事無いよ!」
「そうか、それは良かった」

笑い交じり。どうして兄がそんなに笑っていられるのかよく判らない。

「うちは両親が両親としてあまり機能していない。
 その為に私が家事を行っているし、にもお願いしている。
 家事を行う上で女の子としては踏みこんで欲しくない領域に足を踏み入れる事がある。
 例えば洗濯がそうだ」

あっと思った。
兄は兄で気にしてくれていたのだ。

「私に洗われる事が嫌かもしれないし、同じように洗濯機で回さず別にして欲しいと思っているかもしれない。
 だが私からそれについて声をかけられる事も嫌だろうし、どうしていいものかと思っていた」
「私気にしてない!別々になんて思った事もないもん!」
「気を使う事は無い」
「使ってない!!」
「そうか。私もそれくらい気にしていないよ、今日の事は」

ふいに、不法侵入の事を言われてドキッとした。

「……本当に?」
「本当だ。見られて困るものは無い。
 ただその代わり、理由を聞かせてもらっても良いだろうか?」

兄も言い辛かった事を言ってくれたからだろう。
躊躇う事無く今日の出来事を話した。兄は「成程」と納得した。

「だからお兄ちゃんは全然悪くないの。
 クラスの男子が自分たちとお兄ちゃんが一緒みたいに言われたのが嫌で……、
 うちのお兄ちゃんは違うんだって……証明したかったの……」
「私の為にしてくれたんだね。は良い子だ」

褒められるような事じゃない。
信じるだけで良かった。なにも勝手に部屋に入って探す必要は無かった。
行動に移してしまったと言う事は、心のどこかで兄を疑っていたからだ。

「クラスの男の子はどんな感じなんだ?」
「ほんっと馬鹿ばっかり!
 休み時間に走り回るし、変な事ばかり言ってるし、汚いし、
 あと……え、えっちなこと、言うし……。
 すぐからかってくるし、私の髪触ってくるし、胸の話するし……きらい」
「触る……とは?髪を痛いくらいに引かれるのか?」

今まで穏やかだった兄が、少し固くなったのが声で判った。

「すれ違う時に、ぎゅって持つの。気付かず歩いたら引っ張られて凄く痛いの」

兄が黙りこんだ事で、いらぬ心配をかけていることに気付いた。

「違うよ!遊ばれてるだけ。苛めとか、そんなんじゃないよ!」
「それならいいが……。何かあるなら早めに私や教師に伝えるんだぞ」
「うん。大丈夫。ちゃんとお兄ちゃんに言うよ。先生なんかよりお兄ちゃんの方が信用出来るもん」
「……たった一人の妹だからな」

兄が微笑んでくれた気がした。
私は優しい兄にもう一度謝った。

「今日は本当にごめんなさい。
 でもね、お兄ちゃんが学校の男子みたいにえっちな人じゃなくて凄くほっとした。
 だって、お兄ちゃんの事大好きだから」

普段の感謝も伝えた所で私は自室へ向かった。
あそこに居続けていたのでは、兄は風呂から出る事が出来ないから。
私は階段を上りながらにやける顔を押さえた。

兄が、私の兄で本当に良かった、と。











足音が遠ざかっていく。
心配だったがの懸念が去ったようで何よりだ。
あの歳の女の子は感受性が強く、他人が想定する所とは離れたところで一喜一憂するから。
私もまだまだ若輩者で母親の様に女の子の気持ちをわかってあげられない。
今回上手く言ったのは運が良かったんだろう。

風呂から出て自室に戻って暫くすると、遠慮がちなノックが聞こえた。
入室を促すと、寝間着のがそっと赤い顔を覗かせた。

「お兄ちゃん。宿題見て欲しい……」
「ああ。の部屋に行こうか」

中学生になっても変わらずは私にべったりだ。
家でも外でも構わず「お兄ちゃん」と駆け寄ってくる。
少なくとも嫌われてはいないだろう。これでもそれなりに努力はしたのだ。
に好かれるようにと。が望む兄でいようと。

「ほら、ここに一本線を引くんだ。そうすればこの角度が等しいと証明出来るだろう」
「……あ、そっか。これ円だからこっちも一緒」
「そうだよ。は頭が良いね」

私が教えると嬉しそうに勉強に取り組むはとても無邪気だ。
そして、ひどく無防備だ。

。これでは風邪をひくから何か羽織りなさい」
「はーい。最近買った可愛いカーディガンってどこだったっけ?」
「クローゼットの右から三番目くらいだと思うが」
「あった!流石お兄ちゃん!」

ボタンを上まで留めさせ、不必要に肌が見えないようにする。
自宅にいるからか、それとも外でもこうなのか。
後者であれば頭が痛い。

は中学に入って急速に子供っぽさが薄まった。
大人へと変わりゆく様は美しくもあるが、それを一番長く見る事が出来るのは私ではない。
同じクラスの少年たちだ。
また少し、胸が膨らんだように思う。
私としては心配だ。

「ここは判るよ。きっとこことここを証明すれば、合同だって言えるんだよね」
「よく判ってるじゃないか」

視界を遮る髪をそっと耳にかける。
私と同じ赤毛がさらりと指から零れた。
綺麗な髪だ。それを無意味に引っ張る者がいる事が腹立たしい。

「ねぇ、お兄ちゃん……」
「どうした」

最後の証明問題にきて、は鉛筆を置いた。
すっと私を見上げると白い首筋が目に付く。

「ねぇ、私変じゃないよね?」
「ああ。勿論だ。身内贔屓抜きにしても、おかしな所はまるでない」

やはり学校で何かあったのだろうか。

「お兄ちゃんみたいに勉強出来るわけじゃないし、運動も普通だし、顔だって凄く可愛いわけじゃないよ。
 でもどうしてからかわれなくちゃいけないの?」
「それをする子は髪を引く子と一緒なのか?」

頷いたところを見ると、私の予想は正しいのかもしれない。
だが、それをにそのまま伝えるわけにはいかない。

「同世代の男の子と言うものはそう言うものだ。
 意味もなく、そして相手の事も考えずに衝動に駆られた行動をとる。
 それが真実かどうかなんて関係ないんだ。 
 に対して特別何か思ったわけではない」

偶々野良犬に噛まれたようなもの。
そこには何の意味もないのだと、言葉を変えてもう一度伝える。

「じゃあ、どうすればされなくなるの?」
「放っておけ。相手にしなければ直に興味を無くす。
 しかし、それがエスカレートした場合は必ず私に言いなさい。いいね?」
「……うん」

放っておくという処置は簡単なようで難しい。
気にしないでいると言うのは、何をされても我慢すると言う事だ。
には少し難しいかもしれない。
事が解決する前に、自分に対する自信をすっかり無くす可能性もある。
今ここで元気づけておこうと、しゅんと小さくなったを撫でた。

「大丈夫。は明るくて、元気があって良いじゃないか。
 勉強は少し苦手だが毎日頑張ればちゃんと良い点が取れる」
「……」

あまり効果はなさそうだ。少し方向性を変えよう。

は可愛いよ。私と同じ髪の色も、瞳も、綺麗だ。
 ……と言うと私がナルシストのようだが」
「そんなことないよ!お兄ちゃんかっこいいもん!
 ……だから、そう言ってもらえると嬉しい」

はにっこりと笑った。

「だからね、髪が変って言われるのも思われるのも嫌なの。
 ……次引っ張られたら、止めてって言ってみる。それで駄目だったら無視するね」
「まずは自分の意思を伝えると言うのは良い手だな」

褒めるとは一層笑う。素直な子だ。

「じゃあ、最後の問題は自分の力で解いてごらん」
「うん、頑張る!」

は問題文に書かれている図形をじっと眺めながら数本線を引いた。
先ほど教えた事をちゃんと学習している。これならばちゃんと解けるだろう。
勉強の方はこれで問題ない。心配なのはそのクラスの男の子の方だ。

多分に無視されれば必ずエスカレートするだろう。
度を越せばは必ず相手を嫌いになり、私に報告する。
そうなれば私が動いても怪しまれる事はない。
周囲の大人を使って確実に彼とを遠ざける事が出来る。
どうせ彼は、思春期の気の高まりでに手を出しているに過ぎない。
面倒事が起きれば気まずくなって諦めるだろう。
女の子は他にもいるのだから。

それにしても、が私の部屋に居たのは驚いた。
長年の望みが叶ったのかと思い、一瞬期待してしまった。
しかしながら理由は性への嫌悪感であり、私の期待は大きく外れてしまった。
仕方がない事ではあるが。

今回は納得したようだが、もしかするとまた不安になって探ってくる事があるかもしれない。
だがそうなったところで困る事は無い。
何故なら私は以外でするつもりはないのだから。






fin.
(14/04/06)