あんさつしゅうだんのじょうしとぶか

※beatmania IIDXはプレイしないからムービーキャラなんて判らない!という方は、一番下のあとがきまでスクロールお願いします。
どのムービーに出ているキャラか全て記載しております。 あとがきにネタバレはありませんのでご安心下さい。





「ふふ~ん。今日も完璧」

部屋中に飛び散る鮮血を編み上げブーツで踏み散らかしながら、年端も行かぬ少女はスカートを揺らす。
数十分後、彼女が後にした屋敷ではサイレンが鳴り響き、国家公務員たちが喚き散らした。

「隅々までよく探せ。必ず証拠は出る。なんたってご丁寧に足跡を残しているんだからな」











「上司!!今日もやった!はい、報酬!」

は両手を差し出しちょーだいのポーズをした。
それを見て溜息をついたのは、の正面でデスクワークをする上司と呼ばれた青年だ。
赤ワインを零したような髪、紅玉の双眸、すっと通った鼻筋、きゅっと引き締まった口元。
世間で言う整った顔をしている男性であるが、何故か頭には獣の骨を模した物を被っている。

「結果報告が先だ」

上司は跳ねるを鬱陶しそうに睨んだ。
声の低さも相まって部屋には緊張感が漂うが、は臆する事無く非難の声を上げた。

「えー!頑張ったの!ほーしゅうほしい!!」
「結果報告が先だ」

ぴしゃりと言い放つと、は不満げに成果を述べた。

「……アンドレイ・ティカ・マール。
 指令通り別荘内で射殺。尚、銃はターゲットの猟銃を使用。
 ……ね?報告したから良いでしょ!」

目を輝かせ再度両手を広げた。
しかし上司はそれを一蹴。

「次は報告書の提出だ」
「報告さっきしたじゃん!上司に伝わったから良いでしょう?」
「何度もこのやり取りをやらせるな。暗殺と報告と報告書はセットだと」
「報酬もセットですー」
「さっさとしろ」

デスク上に積み上がる報告書に目を通す事に忙しい上司は苛立ちながら命令した。
むっとするは鼻を鳴らして背を向けた。
ドアノブに手をかける前に、一度上司を振り返る。

「終わったら絶対してもらうんだからね!」
「早くやれ」

乱暴に閉められた扉を、上司はやはり見ない。











ー。おかえりー。暇?暇なら遊ぼ」
「ラジェ、私は忙しいの!あのムカツクけどかっこいい上司にいっぱい命令されたの!」

ラジェと呼ばれたピエロのような少年はわざとらしく頬を膨らませた。

「そんなの放っておけばいいじゃん。僕なんてヴィルヘルムの命令なんてぜーんぜんきかないもん」
「あんたは誰の命令もきかないでしょうが!」

は猫の様にまとわりついてくるラジェを鬱陶しそうに手で追いやる。

「とにかく邪魔しないでよね」

足早に駆けていくを目で追いながら、ラジェは徐にトランプを取り出した。

「……僕の誘いを断るなんて……殺しちゃうよ」

彼が一束になったトランプを投げると空中で弧状に広がった。
一枚一枚が回転し、に向かって今にも飛び出さんとしている。
それを通りがかった赤いノースリーブの目つきの悪い少年が気付き、
偶然持っていた、ラジェに似た人形を投げた。

「A様人形ver8.21やるから大人しくしてろよ」

落とさぬよう慌てて人形をキャッチしたラジェは、嬉しそうに笑った。

「A様A様!新しくなったんだね!すっごくかっこいいよ!
 早速僕と一緒に遊ぼうね!」

ラジェは受け取ったばかりの人形を高い高いと五メートルほど上空に投げ、
トランプで遊ぼうと言って、尋常じゃない速さで動くトランプを人形に当てる。
トランプはまるで鋭利な刃物のようで、人形は少しずつ切り刻まれていく。

「……ありゃ、また半日もたねぇな」

巨大な目玉を従える少年は踵を返すと、今度はガスマスクを装着した少年を見つけた。

「よお、ジャック。戻ったのか」
「さっき。上司は?」
「執務室」

足早に執務室へ向かうジャックを見送ると、今度は別の廊下から工事現場の様な騒音が響く。
物と物が激しくぶつかり合う音の後、新たな少年とが縺れ合って飛び出してきた。

「グラビティのばーかばーか!」
「こンの、馬鹿女!!」

転げ回り、首を絞めたり、殴ったり、蹴ったりを繰り返す二人。

「うっせ……」

ギガデリックは、退散しようと足元にいる目玉達を呼び寄せた。
一つ、二つ、三つ、……足りない。
壊れた城壁を見れば、下にこてっと力尽きた目玉がいた。
今度はやり合っている二人を見ると、お互いにギガデリックの作った目玉を持って相手にぶつけている。

「テメェらふっざけんなよ!!!」

ギガデリックも参戦し、ドンパチは更に激しさを増した。
城が半壊する中で、A様人形を抱いたラジェはくるくると回る。
飛んでくる破片を器用に避けながら「A様ぁ」と愛を囁くが、そのA様からは綿が飛び出し半身が無かった。











「……で、馬鹿が何やらかしたんだよ」

粉砕した石材の山の中、、グラビティ、ギガデリックは座り込み疲弊しきっていた。
身体に多数の擦り傷を作ったギガデリックは、血走ってしまった目玉を撫でながらに毒づいた。

「報告書。面倒だからグラビティに作らせようかと」
「テメェでしろ!ぶっ壊す以外の面倒事を俺に持ってくるんじゃねぇ!」
「そうだよね、重力操作しか出来ないグラに出来るはずないよねー」
「潰すぞ!」

第二回戦が始まると面倒だと思ったギガデリックはに説いた。

「お前さ報告書を他人に書かせて良いと思ってんの?後々上司が目を通すんだぜ?」
「どうせ少しでしょ」
「そんな少しの文でも、の直筆なら目に留まるだろうなー。
 上司も喜ぶだろうなー。グラビティのクソ汚ぇ文字なんか見るよりよー」
「ちょっと本気出してくる!」

少年らと同じく傷だらけのであるが、疾風の如き速さで駆け抜けて行った。

「……ギガサンキュ」
「気にすんな。その代わりテメェが壊した目玉の修理手伝え」
「……ちっ」











「報告書出来ました!ねぇ、して!」

の期待に満ちた眼を避けながら、上司は報告書を受け取った。
目を通し、問題がない事を確認して書類の山の上に乗せる。
上司の動きを一つずつ凝らして見るに、上司は思い出したように言った。

「今日は掃除当番だった筈だが?」
「そんなの後で良いじゃん!してして!」
「義務も果たせん部下に興味は無い」
「も~~~判ったよ!すればいいんでしょすれば!」

ずんずんと足を踏み鳴らす背中に上司は付け加えた。

「メインホールとキッチン、それにギガデリックのラボ、あとラジェの部屋に、ジャックの部屋、アーミー、グラビティもだ。
 だが私の寝室と書斎だけは絶対にするな」
「多い!!そんなの一日で終わらないじゃん!」
「廊下も。それにシャンデリアもだ。観葉植物の葉も。
 それに、窓拭きに扉も、それに家具にはたきを。
 だが芸術品には一切手を触れるな。あと私の衣類にも手を出すな」
「しつこい!」











雑巾片手に廊下を拭いてみたり、バケツに入れた水で洗ってよく絞ってみたり、そのバケツに躓いて水浸しにしてみたり。
そして、はぶちキレた。

「もう!!!ムカツク!!!はっぱ千切る!!!!」

要所要所に置かれた観葉植物の葉を、花占いのように一枚ずつ千切っていく。
だが通りすがりのアーミーに「上司泣くぞ」と言われれば、千切ったばかりの葉をもう一度枝につけようと無駄な努力をするのであった。

「あいつ、いっつもああだけど、上司に何求めてんの?」

アーミーは暇そうにしているグラビティに聞いた。

「ああ、あいつは上司とのセ──」
「馬鹿!!!なんでお前はそういうの平気で言うんだよ!」

さらりと言おうとしたところを、すかさずジャックがかき消した。

「何慌ててんだよ。ジャックは餓鬼だな」
「うっさい!!!」

顔を真っ赤にするジャックをアーミーが指差して笑う。

「オレは大人だから判るぞ。上司とセ……せ……正拳突きがしたいんだろ!」

得意げに言うアーミーを、グラビティは鼻で笑い、ジャックは冷めた目で見た。

「……黙ってろ馬鹿」
「なんだよジャック!やるのか、オレより弱い癖に!」

また新たに城が壊れていく横で、はせっせと床掃除に励んでいた。











「終わった!終わったよ!ようやくだよ!」

は嬉しそうに笑っているが、任務報告を行った日から既に二日経過している。
汚れたスカートをふわっと舞わせ、一人で踊るは上司のいる執務室へ向かう。
それを見たギガデリックが「あ」と声を上げた。

「上司はさっき出かけたぞ」
「なんでよ!」

幼児のように地団太を踏んだ。

「あと、上司からホレ、依頼」

ターゲットの名前と顔、暗殺方法の指定が書かれた紙がに投げつけられた。
は内容を見る事無くぐしゃぐしゃにして、投げた。

「もうやだ!どうせそうやって私をこき使うんだ」
「……上司がは信頼出来る部下だからって、」
「今すぐ行ってきます!」

自らが遠くへ飛ばした紙を全速力で拾いに行った。
床に転がっていたアーミーを踏みつけ、そのまま城を出て行く。

「……本気にするなんては単純馬鹿だな」











硝煙の香りを漂わせながらは帰還した。
執務室にいる上司にむくれた顔で封筒を渡す。

「……退職願。もう私やめる。もう殺さないし、報告書書かないし、お掃除もしない」

深々と頭を下げる。

「今までお世話になりました」

踵を返すと、デスクについていたヴィルヘルムが立ち上がり、去ろうとするの前に立った。
ぽんっと頭の上に手をやる。

「褒美だ。有り難く受け取るが良い」

愛おしむように何度も撫でる。

「よくやった。偉いぞ

まるで兄のように優しいテノールはの涙腺を刺激した。

「うわぁあああんん、じょうしぃいいいいいい。
 ぶわぁあああああんう゛れ゛じぃよ゛ぉおおおおおおおおおおお」

ヴィルヘルムは涙と鼻水が噴き出す前に手を引っ込め、デスクに帰っていった。
だがはそれを咎める事無く、わんわん泣いている。
執務室の扉が空いているせいで、外にまで汚らしい泣き声が響いてく。

「あいつ、一生あのまんま使われるぞ……」

呆れて言うジャックに、グラビティが返す。

「良いんじゃねぇの。馬鹿だし」

耳障りだと、部下たちは執務室から遠ざかって行く中、ラジェだけが近づいてきた。

「ねぇ、煩いんだけど……殺しても良い?」
「すぐこき使えるように死なない程度な」

と、ギガデリックが答える間も無く、の後頭部にさっくりトランプが突き刺さった。





fin.
(14/04/03)


ギガデリック→RED「gigadelic」、DJ TROOPERS「THE DEEP STRIKER」、SIRIUS「Red. by Full Metal Jacket」に登場
グラビティ→7th「Gravity」(SIRIUSで削除)、SIRIUS「Red. by Full Metal Jacket」に登場
アーミー→6th「VJ ARMY」(SPADAで削除)、HAPPY SKY「double thrash」に登場
ラジェ→DJ TROOPERS「少年A」、SIRIUS「Red. by Full Metal Jacket」に登場
A→7th「A」、DJ TROOPERS「少年A」に登場
ジャック→HAPPY SKY「double thrash」に登場
ヴィルヘルム→リンクルキングダムで雑魚キャラとして登場

ギガはteranoid(=kors k)の曲で段位認定の八段のラストに鎮座。デプストはL.E.D.作曲でSTRIKERシリーズの一つ。
キャラが三人も出る赤ジャケはDJ Mass MAD Izm*曲でかまぼこ工場としても有名。

グラビティ、アーミーはクプロにいますけど、判りにくいかも…。ダブスラはDes-ROW兄さんと泉さんの楽曲。
AはD.J. Amuro(=dj TAKA)の曲で、少年AはAを元にして少年ラジオ(=wac)がリミックスしたもの。

どれか一つでも興味を持ったら調べるなり、プレイするなりしてみて下さい。今後もサイトの話に出る可能性は高いです。