「今週もギャンブラー面白かったな」
「そだねー」
毎朝オレはとギャンブラー談義をしながら登校する。
日によって人数の増減があるが、今日は二人だ。
ということはつまり、最初から最後までみっちりヒーローの話が出来る。
「かっこ良かったよな、あの──」
「ヒロシさん」「灰貫さん」
が発言した名前にオレは思わず耳を疑う。
「なんで敵側なんだよ」
「い、いいじゃん……。凄かったもん」
「えー。やっぱりヒーローだろ。タイトルになってるんだぜ」
今までならば、こういう時、トオルさんやヒロシさんといった、ヒーローの勇姿を二人で賞賛していた。
それだというのに、最近のが褒めるのは悪役の方ばかり。
「あんなにオレたち日夜ヒーローの素晴らしさを語り合っただろ!」
誰もが皆、平和で幸せな毎日を送りたいと思っている。
だがこの世界の至るところに、そういう平和を壊す悪が巣くっているのだ。
強大な悪は善良な市民を食い物にし生活を脅かす。
それを救うのが、ヒーローの役目だ。
我が身を削り、弱きを助け、平和をもたらすヒーローが、オレは大好きだ。
それなのに。は──。
「ヒーローも好きだよ。かっこいいし」
「だろ!じゃあ、なんで?」
と、オレが聞くと、は目を伏せて小さな声で言った。
「……怖いの。強いから」
ヒーローは強い力を持っている。
だがそれは全て自己利益のためではなく、他者のみに行使しているのだから何も怖がることはない。
むしろここは安心感を覚えるところだ。
それに、悪より弱ければ、正義は勝てない。力は必要不可欠なものだ。
「悪人が怖がるならわかるけど、が怖いって思うのは変じゃね?」
「……だって、私、悪い子だし」
「なにが?」
オレがどう問おうともは曖昧に笑うばかりで、何も答えてはくれない。
何も判らぬまま、教室に辿り着いてしまった。
「ちゃんオハヨーのちゅっちゅー」
「ニッキーおはよ」
「ちゃん……この体制辛いんですけど……」
ニッキーがに飛びつこうとするのは毎朝の日課だ。
あれだけに怖がられ、嫌がられているというのに日々よく頑張っている。
今もの力で飛びつくその格好のままで停止させられている。
温厚なだがニッキーにはどこか冷たく、容赦ない。
だがそれは決してニッキー自体を嫌っているわけではないことは明らかだ。
それは気の置けない、親しさの表れ。
傍から見える通り、ニッキーの一方的な好意ではなく、からも好意の矢印がちゃんとニッキーに向いている。
────二人は、仲が良い。
「止めてやんな。俺がニッキーガードしてやっから」
「ありがと、リュータ」
「はぁ?オレ男に抱きつく趣味ねぇんだけど」
「馬鹿、俺だってあるわけないだろ!」
「ちゃんオレのところへカムバック!」
の力が解け、自由を取り戻したニッキーをリュータが止めている。
ぎゃんぎゃん騒ぐニッキーをは気にも留めず、自席に腰を下ろした。
その時、ふと、オレは制服で隠しながら、────いい人光線銃をニッキーに向ける。
いい人光線銃とは──パルがくれたすんごい銃。らしい。
いや、実際本当に凄いもので、どんな悪人も良い人に変えてしまうという銃なのだ。
これには殺傷能力がない。ただ人の心に眠る悪の心を変化させるだけのもの。
悪の心が強いものは、良い心になるまで時間がかかるので、その間は特殊な電磁波で動けない状態になり、心を書き換える。
書き換え中に抵抗すればする程、拘束は強くなるらしい。
この機能があるお陰で、オレは誰彼構わず銃を向けることが出来るのだ。
オレはこれを使って、本物のヒーローとして、日夜密かに活動している。
ヒーローが好きなだけじゃない。
オレ自身が本物のヒーローなのだ。
オレが今までこの銃を人に向けたのは、街で見かけたひったくりだとか、喧嘩だとか、交通違反だとか、そういうことを行っていた者たちのみ。
まして、同じ学校の、しかも友人になんて一度も向けようなんて思ったことはない。
パル曰く、悪人以外に打っても何の効果もないということだから、多分ニッキーに撃ったところで何の害もない。
だからオレは、トリガーを引いた。
「……」
光線をまともに受けたニッキーはぴたりと動きを止めている。
大丈夫だとは思っていても、少し心配になってしまうほど、不自然な停止。
何も知らないリュータが怪訝な様子で名を呼ぶと、ニッキーは同時にぱっと顔を上げた。
スタスタとの方へ歩いて、言った。
「ちゃん、ごめんな」
ニッキーはに向けて四十五度のきっちりとした礼をしている。
は目を丸くして小さく頷いている。
そんなの手を取ったニッキーは、目をきらきらと輝かせながら言った。
「セクシャルハラーはいけないことだったよな。もうしない」
「ニッキー……?」
「オレは心を入れ替える!これからは真人間として生きるぜ!」
「お前頭大丈夫か?!」
………う、うわー。
いい人光線ってすげー……ただ、ニッキーじゃなくなっちまったな、これ。
マジかよ……。急いで帰ってパルに戻し方教えてもらわねぇと。
──と、思っていたが、昼休みには元のニッキーに戻っていた。
これもニッキーには悪の心というものがなかったからだ。
多少エロいとはいえ、誰かの害になっているわけではないし、悪意もない。
この銃が働く対象ではなかったということはつまり、ニッキーは"良い人"なのだ。
そりゃそうだ。オレもそれをわかって試したんだ。
とは言え、短期間でもエロくなくなるとは思わなかったけれど。
さて、これからが本題。
オレはにこの銃を試す。多分何も起こらない。
ニッキーの例をあげるなら、多少性格が変わるかもしれないが、すぐに戻るものだから問題ないだろう。
に、ヒーローを恐れる必要はないということを、証明してやる。
早速、ミッションスタートだ。
オレは、午後の移動教室を利用することにした。
大抵とサユリは二人で移動することが多いのだが、サユリに頼んで二人で帰らせてもらっている。
もサユリに、用事があるから先に帰っておいてと言われると、こくりと頷いていた。
オレと二人で教室に戻ることになったことも、疑うことなくすんなりと受け入れる。
「次の授業はなんだっけ?」
「国語じゃね?いい睡眠時間だよな」
「ハジメ先生怒るよ?」
「大丈夫だって。メロンパンでも渡せばうやむやになるんだから」
会話をしながら、オレは周囲に誰もいなくなったことを確認する。
この時間、この廊下は人が少ないと聞いていたが、ばっちりだ。
殆ど人は通らない。今も一人いるだけだ。
その一人が階段を下りていき、廊下にオレとの二人きりになったところで、オレは制服の下に隠している銃に触れた。
「なぁ、。ちょっと用事思い出したから、一人で帰って」
「ん。わかった。授業遅れないように戻ってきてね」
元来た道を帰る素振りを見せて暫くしてから、オレはの背を見つめる。
五メートルほどの距離。
オレはいい人光線銃をしっかりと握ると、トリガーを引いた。
「!?」
だが、対象であるはオレの視界から消えていた。
「ヴィルじゃないんだから、突然攻撃なんてやめて」
すぐ真後ろから聞こえる声。
振り返るとはぽつんと立っていた。小さく溜息なんてついている。余裕だ。
は間違いなく前を見ていて、オレは間違いなく背後からを狙った。
それだというのに、は光線を避けたのだ。
只者じゃなさすぎる。いつもはそんな素振り見せないというのに。
「それ、今朝ニッキーにも使ってたよね。なんなの?」
はオレの右手にあるいい人光線銃を指差した。
どうやら今朝の出来事の原因がバレていたようだ。
ならば、は最初からオレを警戒してたのかもしれない。
さてどうする。
正直のこの銃の効果を言えばは更に警戒して撃つ隙を与えないだろう。
「これは人体に問題はない。全くないから。だからちょっと試させて」
「性格変わってたじゃん!効果が短いのはニッキーを見てるとわかるけど……」
半歩後ろへと下がる。
「少しだけ!」
「嫌!」
駄目だ。は首を縦に振らないだろう。
ここは強行突破しかない。
オレはコントロールを捨て、目掛けてトリガーを引きまくる。
だが、それよりも早くは消え、真横、背後、斜め後ろと、一瞬で移動していく。
オレの射撃の腕じゃ無理ゲーだ。
「こうなりゃヤケだ……絶対に勝つからな!!」
「え……?」
こうして、オレの一方的な勝負が始まった。
例えば、登校時。
「、おはよー」と言った瞬間に撃ってみた。
勿論は銃の光線自体を消滅させた。
教室の中で制服に隠して打ったときも無効化された。
昼飯中に机の下で撃った時も、駄目だった。
何度もやりすぎたせいで、に常に防護壁を張られてしまう始末。
「悪いけどいつ撃っても効かないからね」
「それチートだろ!!ずりぃし!!」
「サイバーだって、人に向けて銃を打つって変だよ!!」
「大丈夫だっての。それにここで引いたら、ヒーローがすたる!」
「ヒーローは人の嫌がることなんてしないでしょ!!」
数日間、ずっと機会を窺っていたが結局に当てることは叶わなかった。
はオレを始終警戒し、必ずオレと二人きりにはならないようにしていた。
更には授業中も、教師ではなくオレの背をジッとみているのだ。
オレが振り返ろうとも全く目をそらさず、目に力を入れてオレから目を離さない。
怒っているわけではないと言っていたが、さすがに怖かった。
のほわりとした外見からは想像できない鋭い眼光に、ヒーローのオレがたじろいでしまうほどだ。
もしこの先何かあったとしても、を決して怒らせまいと思った。
「サイバー!」
「なんだよ。今忙しいんだよ」
にどうすればいい人光線を当てられるのか考えていると、ニッキーが話しかけてきた。
休み時間毎にいるから、うっかりクラスメイトだと勘違いしてしまう。
「お前の用なんて知るかよ。それより、ちゃん!どうしたんだよ!」
「ちょっと……勝負中」
まさか、銃を当てようとしてるなんてことは言えない。
しかもその前にお前にも当てたんだぜ、なんてな。
「最近全然近づかせてくんねぇんだよ!……聞いたらお前のせいだつってたぞ」
「オレだって困ってんだよ!ってばずっと警戒してるし!」
「さっさとその勝負ってやつ終わらせろ!オレとちゃんとのラブラブタイムを返せ」
「そんなの最初から無かったろ」
オレだって早く勝ちたい。
ヒーローがこんなに手こずるなんてダサすぎる。
オレの思うヒーローはもっとカッコいいものだ。
手ごわいにもあっさりと光線を当て、に自身がいい人であることを証明して、めでたしめでたし。
そんなストーリーのはずなのに、実際はずっと手こずっていて突破口を見出せない。
「こんなとこでぐずぐずしてねぇで、早くちゃんに会って終わらせろよ」
すっと辺りを見るが、あの小さいの姿が無い。
「いねぇじゃん」
「さっき、トイレつってた。オレに着いてくんなだとよ。けちだよな」
当たり前だろ。
「それ、黒神に言ったらキレてた」
「げ……。言うなよ。アイツ怒らせすぎたらちゃんにセクハラ出来なくなるじゃねぇか」
こういうのを聞くと、黒神の心配は当然だと思う。
自分に娘がいたとして、その子にニッキーみたいな奴が付き纏っていたらショックだ。
は不思議な力で自分の身を護ることができるから、安心かな。
何があっても、力があればなんとかなるだろう。
「ちょっと探してくる」
オレはニッキーにそう言って教室を出た。
教室から近いトイレに行ったと考えると、場所の見当はつく。
なら、出た瞬間なんかを狙えば、も油断してるかも。
そう思ってトイレの入り口がある場所から九十度曲がった壁で待機していた。
なかなかは出てこない。腹壊してるのか。
「サイバー!いいところにいた」
心臓が思わず飛び出した。誰かと思って振り返ると、クラスの女子だ。
「旧校舎の廊下でさんが上級生に喧嘩売ってるの。
サイバーなら止められるでしょ」
ニッキーに嘘を教えて、ついてこさせなかったのはこのためか。
急いでその場所に向かわないと、以前と同じことが起こってしまう。
「は人に喧嘩なんて売らねぇよ!毎回売られてんだよ!!」
それだけ言うと、オレは旧校舎へと向かう。
階段を三段飛ばして下りて、廊下も全速力で走った。
目の前の景色がぐんぐん後ろに流れていく。
がどうか、手も足も力も出していませんようにと願い続けた。
どいつもこいつも、をろくに知らずに、悪者にする。
問題を起こす方はいつもであると。
もしかして、が言っていたのはこのことなのか。
自分が悪い子だからと呟いたのは、周囲からの評価からの自己評価なのか。
違うのに。は優しくて、穏やかで、子供っぽいだけで、悪い奴なんかじゃ決して無い。
やはり、早く証明してやらないと。
は、オレと同じく正義を愛する、いい奴なんだって。
最後の階段を下りると、廊下には上級生二人とが対峙していた。
の表情を見る限り穏やかではない。
小さな身体ながら背の高い相手を睨みつけて一歩も引いていないように見える。
オレがに向かって走っていくと、はすっと天井へと手を上げた。
窓が締め切られている廊下にいるというのに、の髪がふわりと浮いている。
対峙する上級生がたじろぐ。
は何かしでかすつもりだ。
まだの所に着くまでには距離がある。間に合わない。
オレは咄嗟に、いい人光線銃をとり、ろくに照準も定めずに向けてトリガーを引いた。
銃口から光線が一直線に伸びる。
がオレに気付いた時には淡い光線がの身体を包んでいた。
は小さくうめき声を上げ、その場にうずくまった。
上級生はの異変に後ずさりをし、オレの横を通り一目散に逃げていく。
追いかけたいが今はの方が大切だ。
肩で息をするにようやく近づくと、周囲に電磁波がまとわりついていた。
ということはつまり、の中にある悪の心が良い心に書き換えられている。
しかも一瞬で終わらないほどの大きな悪がの中に眠っているということだ。
オレはが良い奴だと証明したかったのに、逆のことをしてしまった。
「、落ち着いてくれ。これは抵抗すると拘束が強まるんだ」
「そ、そういわれても……きもち、わるいんだもん……」
まだの身体の拘束は続いていて、は強く目を閉じて耐えている。
くそ、どうやったら解除できるんだ。
こんなこと初めてでわかんねぇよ。パルに聞きたくてもアイツ家にいるのに。
バチバチと音をたてる電磁波をオレは掴んだ。だが、何も起こらない。
引っ張ることも出来ないし、の苦しみを軽減することも出来ない。
「サイバー」
は息を荒げながらオレを呼んだ。
「……わたしが、たおれたら、その後。私の身体をなんとかはこんでね」
そう言うと、の周囲の空気が歪みだした。景色がうねっている。
そして、目がくらむほどの光がの身体から放たれた。
オレは思わず目を瞑ったが、網膜には白光が焼き付けられたことで
今自分が目を開けているのか閉じているのか判らなくなる。
「!!」
一面の光の中で名を呼ぶが、返事は無い。
手探ると身体は変わらずそこにあることがわかった。
手の感触を頼りに手を見つけ手握るが、反応はない。
先ほどの宣言通り、倒れてしまって意識を失っているのだろうか。
早く視界が戻ることを切実に祈っていると、だんだんと物は輪郭を取り戻し、世界が色づいていく。
は先ほど同様、床に座り込んだ格好のままだ。
身体を揺り動かす。
すると、軽い抵抗を感じた。オレは胸を撫で下ろす。
「、大丈夫か」
は気だるそうにオレを見やる。半開きの曇った目は視点が定まらないようだ。
「どうだ?身体辛いか?どうする?あ、黒神!黒神を呼んできたほうがいいか」
「……大丈夫。少し力を使いすぎて、ふらふらするだけだから」
少しでも楽になればと、オレは丸くなっている背を撫でる。
大きな呼吸を繰り返し息を整えていくを見ると、自分がどれだけ馬鹿だったかを思い知らされる。
「……ごめんな。こうなるはずじゃなかったんだ……」
「いいよ。ヴィルよりマシだからね。それに、あの時止めてもらえなかったら、さっきの人たちを怪我させてしまってただろうから」
あの場面は、そうだったのか。だが、ヴィルよりマシという言葉も気になる。
普段はもっと痛い目にあっているのだろうか。
「今までちゃんと我慢できてたんだけどね。ついカッとなっちゃって……。
怪我なんてさせたら、黒ちゃんとMZDに迷惑かけちゃうのにね」
普段はぽけーとしてることの多いだが、黒神とMZDの中傷──特に黒神のことに関しては別人のように容赦がなくなる。
それでも、いつもは耐えているようなのだが、きっと内部では攻撃性がすくすくと育っているのだろう。
黒神が大切だからこそ芽生える攻撃性だが、光線銃は攻撃性のみに着目したんだろう。
だからこそ、にあんな反応が起きたんだ。
「そういえば、その銃って何?ニッキーの時はこんなことなかったよね?」
「これはいい人光線銃っていって、悪の心を良い心にする銃なんだ」
「……やっぱり、私は悪い子だったんだ。だからあんな」
「ちげーよ!」
目を伏せて言うをオレは無理に遮った。
「は優しいだけだ。さっきだって、多分黒神かMZDのこと言われたんだろ。
は自分のことであんなことするわけねぇもん」
「……でも、だからと言って力を使おうとしちゃうっていうのが、もう駄目なんだよ」
「確かに怪我させるのはよくないけど……」
でもは何も悪くない。普段から人の悪意に晒されていても、じっと耐えている。
本当ならそういう周囲の人間が悪いんだ。
の本質を見ようとせず、ただ無意味に恐れ、遠ざけ、勝手な像を作り上げて槍玉にあげる。
オレは普段と一緒に居るからあまり聞かないが、他のクラスのニッキーから聞く限り、
は性格やら素行やらなんでもかんでも悪いことにされているらしい。
それって、おかしいことだろう?
確かに一度問題を起こしたけれど、それだっては本当は被害者だった。
それなのに、世間が勝手にを悪者に仕立て上げている。
オレは、ヒーローだから、全員の幸せを願ってる。
そうやってを恐れる人も、嫌う人も、そして自身も、楽しく毎日過ごして欲しい。
だったら、オレがするべきことは。
「、オレ、実はヒーローなんだ」
「へー……?」
間抜けな声をはあげた。確かにちょっと唐突過ぎたかもな。
「さっき教えた銃で、オレはヒーローになれたんだよ!本当だぞ!」
「……そうなんだ」
ふうんと頷いているが、多分、いや絶対オレの言葉を信用してねぇ!
「本当なんだって!休日にはちゃんと街を見回ったり、悪い奴がいたらこの銃で改心させてんだぜ!」
「そうなんだ。確かにニッキーの時は凄かったね。ニッキーが綺麗になってた」
「だろ!本当に悪いことした奴もちゃんとそのことを反省するようになるんだよ!」
「なんだか、凄いね」
ようやく少しは信じてもらえた感じがする。
「あのさ、今度が困ったり、怒りたくなったらオレに言って。
は我慢しなくていいし、力を使わなくていいから」
「で、でも……それってサイバーに迷惑かかるし」
「いいんだよ!!それがヒーローの使命なんだから!」
ヒーローは皆の味方。
けど、これ以上悪の心を世の中に生み出さないためにも。
「オレ、今日から専属のヒーローになる」
今まで頑張ってた。でも、それは所詮頑張ってるつもりでしかなかった。
外ばかりでこの銃を使っていたけれど、そうじゃないよな。
今オレがすべきなのは、身近な友達の平和を護ること。
に学校で辛い思いをさせず、力を発動させるなんてことを起こさせないことだ。
「これからはの平和を護るから!」
◇
「お前さ、最近ちゃんにくっつきすぎじゃねぇ?」
「ニッキーに言われたくねぇし。なぁー、」
は曖昧に笑っている。目が泳いでいるのは気のせいだ。多分。
そんなの腕にニッキーが抱きつくので、負けじと空いている腕に抱きついた。
「オレの貴重なちゃんタイム邪魔してんじゃねぇっつの」
「ヒーローは何よりも優先されるんだよ」
「またお前は馬鹿なことを。ヒーローオタク!」
「オタクじゃなくて、ヒーローなんだよ!ばーか!」
に嫌な思いはさせない。
前からずっと思っていたことだったけど、本気でそう思った。
ヒーローは平等であるべきだと思うが、今しばらくはだけを護ろう。
でないと、が恐れたとおり、────本当の悪役になってしまうから。
(12/07/23)