待ち人

ちりんちりん。
風に揺られて風鈴の涼しげな音が奏でられる。

「よお。暫く邪魔するぞ」

夏なので日が長く夜でもまだ明るい。
ならば夕飯前に一掃除出来るだろうとは竹箒で門周辺を掃いていた。
そんな時に青い髪を揺らした侍が現れたのだ。
予期せぬ来訪者には思わず竹箒を取り落とした。
来訪者はそれを気にすることも無く、堂々と門の中へ、の自宅へと入っていく。
しばらく広い背中を見届けると、ははっと気がついてそれを追った。

「やっぱりここはいいな。イグサの匂いが一番俺に合っている」

勝手知る六は、まるで自分の家であるかのように八畳間で肘をつき横になっている。
気ままにくつろいでいる六に、は小言をぐっと堪えて溜息をつく。

「……夕食、すぐでいいの?」
「ああ。出来ればな」

は熱いお茶を六に淹れると、夕食の準備に力を注いだ。
文句は沢山言いたい。だが、激しい胸の動悸がそれを拒む。
愛しい人のお帰りだ。










六との出会いは数年前になる。
しとしとと雨が降る梅雨の頃。
庭に紫色の紫陽花が咲き乱れ、蛙が毎日合唱する季節。

その日も勿論雨で、は散歩をしようと傘を差して、門を出ようとしたところだった。
あろうことか自分の家の門の前でずぶ濡れの男が倒れていたのだ。
男が帯刀しているのを見て、見て見ぬふりをしようかとも思ったのだが、仕方なく自分よりも遥かに大きい男性を客間に引きずり介抱した。
あの時は古い家にたった一人で住むと見知らぬ男が一つ屋根の下で過ごすなんて、何かあったらどうしようかと布団へ寝かせてから慌てたものだ。

次の日に男は目を覚ました。
妖とも思える茜色の瞳に思わず身構えたのを昨日のことのように覚えている。
男は六と名乗り、深々と頭を下げた。

「この度は行き倒れていた俺を介抱して下さり感謝申し上げる」

六は旅の途中でありこの町で食料と路銀が尽き、の家の前で倒れてしまったということであった。
これを聞いてしまっては、すぐに追い出すことが出来なくなってしまったと、多少後悔しながらも、これきりだからと思い六に十分な食事を与え、多少の路銀を渡した。

「何から何まで本当に感謝している。助かった」

そう言って頭を下げた六は次の日の早朝に出立した。
若い男性と過ごすなど今までなかったは、六がいなくなったことでようやく安心した生活をと戻す頃ができた。

しかし、六が常識ある者で助かった。
何をするにも家主である自分に許可を取ったし、が頭を悩ませていた風呂と就寝も、先に終わらせて部屋から出ないからという気遣いを見せたのだ。
嘘かもしれないと警戒をしていたが、いつまでたっても六が部屋から出ないので、もゆっくりと睡眠を取る事が出来た。

それに、共に食事を取る際に旅の話を沢山してくれた。外の世界を知らぬとしてはまるで物語を聞いているかのような心地で耳を傾け、楽しい時間を過ごした。
もう二度とこんなことはあるまい。
はこのことを不思議な思い出として胸の中へと仕舞った。

こんなこと、これで最後だ。
そんなの考えが間違っていると知るのは、一ヶ月後。

「すまない。泊めてくれ」

と、六が再度訪れたのだ。
流石にこれには首を傾げずにはいられなかった。
胸の中に生じたある疑念。
もしかして、便利な場所として認定されてしまったのではなかろうか。
追い出したい気持ちはあるが、無下に扱うわけにはいかないと、はまたもや食料を与え、寝所を与えた。
これで最後。そう思いながら。

そして半年後。
白雪がちらつき寒さも厳しくなった頃また六は現れ、は押さえていた感情をぶつけた。
最初の一回は好意で寝食を与えたが、こう何度も求めるというのは厚かましい。
うちは宿屋ではない。もうこのようなことは止めて欲しい迷惑だと捲くし立て、玄関に手をかけた。
すると、それを拒むように足を差し入れられる。
何をするだと、は怒りを口にしようとしたが、それは叶わない。
六は冷たい唇でのものを塞いだ。

「もう二度とあんたの好意に甘えない。
 あんたを好いてしまって、ついここに足を運んでしまった。
 あんたの気持ちも考えず、すまなかった」

身を翻し足跡の残る雪道を戻っていく六の背中を見つめていたは、衝動的に駆け出した。
六が半身を後ろに引いたところで、その腕を引く。

「行く当てはあるの?」
「ない」
「雪降ってる」
「そうだな。とても綺麗な氷の世界だ」

雪が降る中、宿も無く当てもないという無謀な状態であるにも関わらず、六は目の前の景色を楽しんでいた。
呆れたは無理やり六を自宅に引きいれた。

「いいのか」
「あ、あのまま野垂れ死ぬことでもあれば、め、目覚めが悪いでしょ!」
「だがしかし、無理にとは」
「いいから!!いつもの八畳間にでもいて!炬燵も火鉢もあるから!!」

その日もいつもと同じく、食事を与え風呂を提供した。
は六が口を開こうとするたびに、適当な言葉を捲くし立て遮った。
自身、自分が何をしたいのかよくわからず、ただ六が寒い思いをしないよう、快適に過ごせるようにとばたばた働く。
ようやくいつものように、六が風呂を終え部屋に篭ってから、は自分の身を清めた。
普段通りにやれない自分への自己嫌悪に浸って、湯へと沈んでいく。
だが、考えすぎた所為で沈みすぎた。

「っひゃぁああ!!」

いつの間にやら寝てしまっていたようで、湯の中に鼻と口が埋まっていた。
体内に入る湯に驚いたせいで、体勢が崩れる。
体勢を戻したいのに、息が出来ないことで慌ててしまい頭の中が真っ白になっていた。

「どうした!!」

ぐっと腕を引かれ、は身体を抱き締められる。
は咳き込みながら、その人物に縋った。
息が整い、初めては自分が置かれている状況を認識した。

「大丈夫か?風呂場で溺れるなんて何を考えてんだ」
「お、溺れたくて溺れてたわけじゃないし!そ、それより……」

冬場であることが幸いし布越しに胸を押し当ててるとはいえ、あまり六には伝わらないだろう。
それだけは救われたが、裸を見られたことにかわりはない。
それに先ほど門でキスされたばかり。六が自分をどんな感情で見ているのか明らかだ。
この場をどう収拾すればいいか、 は分からなかった。

「……。俺が目を閉じている間に、あんたはあちらを向くんだ。
 俺も身体を反転させて、そのまま真っ直ぐ部屋に帰る。それでいいか」

勿論これが嘘であるかもしれないという思いはあった。だが、今まで六は嘘をついたことがない。
だから、は六の言うことを信じ実行した。
壁を見ている間に足音は小さくなり、六が宣言通り去ったことを知る。

風呂から出たは肌を痛めつける寒さによって、頭もしっかりと冷えていた。
自分を抱き締めたせいで、六の着物は濡れているだろう。
この寒さの中、濡れた服で寝るなど健康を損なうことが目に見えている。
六に与えた部屋は暖をとる道具が無い。六がいつも通り約束を守っているのなら、そんな中で耐えているはずだ。
火鉢でも持っていこうか。
だが門ではキスをし、風呂場では裸を見た、そんな人間が夜部屋を訪ねてくるというのは危険でしかない。
本当なら絶対に行くべきではない。
だがの性分では、溺れたことを助けてくれたのに、風邪をひかすなんてことは出来そうになかった。

「あの。着物大丈夫?濡れてるでしょ?」
「問題ない。お心遣い感謝する」

ふすま越しに声をかけるが遠慮される。はいいからと、ふすまを開いた。
火鉢を持つに、六は驚いた顔をしていた。

「乾かさないと。今日は寒いんだから。本当は着替えを渡せばいいんだろうけど、ここに六が着られる服はないから」

さっさと準備して、六には暖をとってもらった。
だがを引き上げた際、相当多くの湯を被ったのかなかなか着物は乾かない。
は六をすぐに就寝させてやれないことを謝罪すると、六がとんでもないことを言った。

「人の温もりでもあれば、服がなくとも寝られるだろうがな」

普段のなら何を破廉恥なことを言っているのだと怒るところだったが、その日は違った。
何故なこうなったのも自分のせい、そしてここに来るなと六に言ったばかりなのだ。
六は明日にでも出立するだろうが、もう二度と来ないかもしれない。
今日何もしなければ、もう各地を流離う六になど一生会えないだろう。
当時の自分は、必死にどうすればいいかと考えていたのだ。

「なんて、冗談」
「あ、あっち……向いて、絶対こっち、見ないで」

未婚の娘が若い男性に肌を見せるなど、それも自分から着物を脱ぐなど言語道断だ。
だが、はそれを行った。恩人である六に対する感謝と、旅の者である六を引き止めるために。
全ての衣類が畳に落ちていき、は六の入る布団へと足を滑らせ、六の背中に自身の背中をつけた。
後ろでもぞもぞと六が動き、が気付いた時には後ろから抱き締められていた。

「限界だ。すまない。今度はあんたとの約束は守れない」

部屋がしんしんと冷える中、重ねた布団の中でお互いの素肌を摺り寄せた。
は戸惑いはしたものの、六を拒否することはなかった。
掌で、足で、唇で、胸で、熱を分け与え、二人は契った。
そのお陰では風邪をひき、六が手厚く看病することになったが、お互いに満足感を得ていた。

も心のどこかでは、初めて近くに感じた男性である六に惹かれていたのだ。
だからこそ、便利に使われているだけと斜にも構えてしまい苛立ちを感じていた。
六が訪れて胸が弾んでいたというのに。
六は六で、若い娘が侍である自分を怖がることなく、丁寧に自分をもてなしたことに感謝し好意を抱いていたそうだ。
その好意が次第に形を変え、をただの優しい娘から、ある種の欲を感じてしまう対象となったということである。

の全快を見届けた後、六はいつも通り出立した。
そこから一ヶ月から半年おきにの家に六は現れては、数日で出立という生活を繰り返している。










────今日は三ヶ月ぶりの訪れである。

の飯は美味いな。俺にはこういう飯が合う」
「文でも送ってくれればもっといいご飯作ってあげられたんだけど?」
「何を言う。これで十分だ。有難う」
「あ、あ、っそ……」

礼は欠かさぬ性格なのか、一回目の訪問から今まで感謝の言葉が無かったことがない。
こういう小さな気遣いの積み重ねは、が押し殺している自分を置いて行くことの憤りだとか、偶には文でも送って寂しさを紛らわせて欲しいという願いを伝えることを躊躇わせる。
六の都合の良い女になっていくようで、はこんな自分が嫌いだった。

「食べ終えたらすぐお風呂?」
「そうだな。の都合が良い時で構わない」
「いいよ。すぐに用意する」
「すまない。有難う」

その後共に風呂に入ることを提案されたが全力で拒否した。
何度か入ったことはある。が、襲われたり、のぼせたりと大変なのだ。
今日はそんな疲れ方をしたくないと、と六は別々に入浴することになった。
六の入った後にが入浴する。
湯船に青い髪が一筋残っているのを見ると、六の入浴を一層意識させられ、きゅっと身体を抱いた。
ここに六は居ないというのに、見えないところまで隈なく身体を見られているような気分になる。
いやだ。恥ずかしい。
は勢いよく湯船から飛び出すと、身体を清めて浴衣を纏った。

「しっかり浸かったか」

六は縁側にて扇子を片手に座っていた。

「浸かったよ。最近は暑いからしっかり浸からないと」
「だな。夏だからこそ、暑い湯だ」

熱湯を受けた肌が火照っている。はそういえばと、台所へ行った。
盆を持ち、六の元へと戻る。

「西瓜頂いたの。食べる?」
「流石だな。有難く頂く」

しゃくりしゃくりと、二人は隣通しに座り黙って西瓜を頬張る。
は丁寧に種を皿の上へ。六は種ごと飲み込んでいる。
綺麗に食べ終えてからが六に話しかけた。

「お腹から西瓜が生えるよ」
「そうしたら、西瓜が自由に食える」
「六に生えているんだから、六は食べられないよ」
「そうだろうな」

が縁側から降りようとすると、西瓜の果汁で濡れる手を六は握った。

「待って。これから手を洗うんだから」
「必要ない」

太陽を受けて焼けたの人差し指を六は飲み込んだ。
は罵倒しようとしたが、敏感な指先を余すことなく舐め上げられ、言葉を呑む。
小さな水音を立てながら、六は人差し指を口からずるりと取り出し、隣の指も口に含んだ。
は声を上げることを必死に堪え、六の行為が終わることを必死で待つ。
六は指先から指の付け根まで丁寧に舌を這わす。
最後の指を舐め取られた頃には、の頭は湯上りとは別の理由で頭がぼんやりとしていた。

「十分堪能したし、手を洗うか」

縁側を下りて庭にある蛇口で手を洗う六。も足元が覚束ないままそれに倣う。

「大丈夫か?」

ふらつくの腰を支え縁側へ連れて行く。は誰のせいだとは言わず、介助を受け入れた。
縁側に身体を落ち着けると、何故だか六の手は腰に触れたまま。
するりと、その手が臀部を撫でる。は身体をびくりと震えさせ、六を見た。
情念を宿した赤い瞳。
は静かに目を閉じた。
自分ではない、他人の唇が触れる。
軽いキスを繰り返し、焦れた頃に六の舌がの口腔へと進入してきた。
歯列の隙間を割り開かれ、西瓜で冷えた舌を舐められる。それは口蓋や頬にまで容赦なく這い回る。
は身体を引きつらせた。

「っはぁ、……んぅ」

三ヶ月ぶりの六の唇の愛撫に、の身体は疼きだす。
このままもっと続けたい。でも、早く先に進んで欲しい。
相反する欲は共にの下腹部を潤わせる。

「移動できるか」

唇から糸を引かせながら六は言った。
もうの身体は六によって人に支えられなければならない程である。

「俺としてはこのまま縁側で剥くのもいいんだが」
「馬鹿!」

家屋の周囲には高い塀があり、更には草花がしげる庭があるが、やはり外と面しているということで安心は出来ない。
六はすまんと笑うと、を横抱きにし、寝室へと運び入れた。
をゆっくりと下ろし手早く布団を敷くと、だらりと座るを布団の上へと優しく押し倒した。
は乱れかけている浴衣の胸元をきゅっと握るが、六にその手を開かれ指を絡まされた。

「俺に見られるのは嫌か?」

優しげに問うが、その目は有無を言わさぬ意志の強さがある。
は小さく首を振ると、無骨な手が襟を強引に下へ引いた。
ふすまから入る月光がの膨らみを照らすと、六はそれをうっとりと見つめ刀の鍛錬のせいかとは違う硬い指でその曲線をなぞる。
むずがゆい感覚には小さく声を上げた。

「まだこれからだぞ」

六はの首筋に舌を這わしながら、露になった左の乳房を、下からすくい上げるように撫でた。
六の手に包まれたそれは次第に汗ばみ、逞しい手での愛撫を形を変えながら受け入れる。

「っやぁ……、ろ、く」
「良い香りがする。風呂での匂いが無くなったのは残念だ。風呂前に襲うべきだった」

そんなの絶対に嫌だ。汗をかいた汚い身体で六の前に晒したくは無かった。
滅多に会わぬのだから、せめて綺麗な姿で六の記憶に残っていたい。

「っふ……」

乱暴に揉みしだかれ、下腹部に熱を帯びているのが判る。
更に敏感な首筋を舐められ、吐息が耳元当たって背筋がぞくぞくと震えた。
それを追うように、尖った乳首を指先で突かれ、擦り上げられる。
小さな痛みが更なる快楽へと変換され、は堪らず愛撫を続ける六の背に手を回した。

「可愛い奴だ」

頬に一度口付けると、六は隠れていたもう片方の乳房も暴き、両の乳房を揉み出した。
片方は力を込めて乱暴に、もう片方は乳首をつまんでは撫で、そこはより一層の硬さを得る。
は六を抱く指先に力を入れ、浴衣を掴んだ。

「あっ……、ろく、して」
「何をだ?」

快感にもうろくした頭であったが、まだ片隅には羞恥心が残っている。
だからは言わない。六が更に乳房の愛撫を丁寧に、官能的に行おうと決して口を開かなかった。
根負けした六は口惜しさを顔に滲ませながらも、が望んでいた通りに紅色に尖った乳首を口に含んだ。
柔らかな舌が優しげに乳首を包んだと思えば、硬くした舌で容赦なく嬲った。

「っふぁ……っあ」

は六の頭部を抱えるように手を回し、身体を跳ねさせるたびに胸の膨らみに六を押し付ける。
六は乳首だけでなく、胸全体を口に含み唇で優しく食む。
空いていたもう片方の乳房への愛撫も再開し、の両の胸から溢れんばかりの快楽が脳に突き刺さる。

「ろく、…っ、んふ、ろく……」
「っ。まだ始まったばかりなのに、もうそれか?」

意地悪く笑われるだけで、下肢の中心がじんと疼きが突き上げてくる。
は三ヶ月間ずっと会いたくて、触れたくて、触れられたくて仕方がなかった六を感じるだけで、身体が陶酔の海底へと沈んでいく。
愛しい人が自分を求めてくれていること、ただそれだけで蕩けるような熱情が身体を走っていた。

「まぁ、俺もあまり人のことは言えないんだがな」

すっとから身体を起こすと、六は膝立ちのままを見下ろした。
六の舌の軌跡が、弱い光に照らされて白い肌の上で輝いている。
は自身の痴態を誰でもない六に見られていることで、きゅっと締め付けるような切なさを感じた。

「ろく……?」
「判ってるだろ。次に何をするのか。」

が首を振ろうと今度は六が折れることは無い。一度譲歩したのだから次は、ということだ。
出来ればしたくない行為。だが、の身体は早くと急かしていた。
残っている力を振り絞りは布団の上でぺたりと座る。
そしてゆっくりと足を立てる。ぬちゃりといういやらしい音を立てながら。

「それだけじゃ、駄目だろ?」

は躊躇いがちに両脚を開き、六の眼下に自身の秘部を露にした。
ぐっしょりと濡れているのか、露出した部分が冷たく感じる。
六は唇を吊り上げると蜜口へと唇を寄せるた。
闇夜でも判る赤く長い舌が粘膜の中へと伸び、蜜口を丁寧に嘗め回していく。
悲鳴を上げるは足の指を丸めて、足の付け根へ頭を埋める六を柔らかな太ももで挟んだ。
脊髄をぞくぞくと這う快感をもっと得たいという気持ちとは裏腹に強すぎる快楽から逃れたいという要求が身体を捩らせ、六を押し返そうとする。

「ろく、っ……ぅふ、やぁ……」
「嫌だというわりには、ここは掬いきれないほどに溢れている」

言わないで欲しい。羞恥心には下腹部を熱くした。
蜜を貪る六に自身の一番恥ずかしい部分をぐりぐりと押し付けてしまう。
六は舌先で薄皮を剥き、ぴんとたつ赤く色づいた蕾をざらつく舌で舐めた。
先ほど以上に腰を跳ねさすに、容赦なく蕾を嬲る。
形が変わるほど強く舐め上げ、唇を窄めて蕾を吸い上げたりを緩急つけて行うと、は更に媚声を上げた。

「さっきからひくついてしょうがないな。どうした、そろそろ欲しいか?」
「ちが、っあふ……んふ、……ろく、いじわる」

本当は今すぐにでも六のもので秘裂をこじあけ、奥を激しく突いてほしい。
ただ、それを言えるほどまだ羞恥心は捨てきれていない。

「俺はの中に入れたくてしょうがないんだが」

そう言って、六は身体を支えていたの手を取り、膨れ上がる自身に触れさせた。
脈打っているそれを、未だには見慣れていない。
出来るだけ見ないようにして両手で包んだ。爪を立てぬよう少し強く握って上下に扱く。

「あまり触るなよ。中に入れずして終わるなんて、悔やみきれねぇ」

それはも本位ではない。優しく丁寧に六のものを扱きながら、反り立つそれを口に含む。
可能な限り口内で包むと、狭い中舌をまわして唾液を擦り付ける。
六が小さな声を上げたことに、は喜びを感じていた。
だがすぐに、六はを制する。

「もういい。止めるんだ」

眉を潜める六を見ると、その余裕の見えない表情には思わず口元を吊り上げた。

「得意気に出来るのも今だけだぜ」

を支えながら横に寝かせる。いちいち優しく扱うところが大好きで嫌いだった。
そんなことされれば、一層好きになり、会えない日々が苦しくなるからだ。
毎月決まった日に会えるわけではない。会う間隔は六の匙加減で何ヶ月もの差が生まれる。
もう自分のことなんてどうでもよくなったんじゃないか。
他に女を作っているのではないか。
そんなことを考えながら毎日を悶々と過ごす。
今回の逢瀬が終われば、次は何ヶ月先なのだろうか。
ぼうっと考えていると、膨れ上がった肉棒がの媚肉を割り開いてくる。

「っあぁ……っくぅ……」

破瓜はとうの昔に済んでると言えども、滅多に使わないせいで痛切に痛みを感じる。
すぐに慣れると判っているが、挿入時は辛い。
そんなを気遣ってか、六は焦ることなくゆっくりと自身を埋めてくる。
強く敷布団を握るの手を握ってやったり、触れるだけの口付けを顔に降らせてやったりと、底抜けに優しく扱う。
だからも思うのだ。
我慢しなくていい、欲望のままに手荒に扱ってくれていいと。
だが決してそのようなことはなく、みっちりと内壁が埋め尽くされるまで六は優しかった。

「少しは慣れたか?」
「だい、じょぶ……いいよ。もうなにしたって、いいよ」

六は熱い吐息を吐きながら、の頬を撫でた。

「そう言われちゃ、俺ももう歯止めがきかねぇな」

ずぷりと引き抜かれると、萎縮する襞を嬲りながら腰を揺らされる。

「ん、あぁ!」

先端近くにある括れが、内壁を容赦なく引っかく。
脳髄までつきあげられる衝撃、刺激には媚声を上げた。
蜜壷で膨張する欲望がもたらす甘い感覚が全身を支配する。
は目を閉じた。聞こえるのは自分のいやらしい声と、愛しい人の息遣い。



心地の良い六の低い声が名を呼ぶ。
ただそれだけで、愛しさが涙となって溢れた。

「ろ、っろく。して…っふ、もっと、激しく、してぇ」

いなくなる前に、六を刻み付けて。忘れられなくなるぐらい酷くして。
請い願うと、六もの弱い部分ばかりを目掛けて腰を打ち付ける。

「っあぁ!!」

揺れる乳房を鷲づかみ、痛いくらいに揉みしだく。
もう尖りきっている乳首を硬い指で摘まみ潰すと、は激しく腰を揺らせた。

「もう、出そうだ」
「だして…、いっぱい、だして」

六はの腰をしっかりと掴むと、抽送を速める。
結合部からはぐちゅぐちゅと音がなり泡立つ。
艶声をあげるの唇を塞ぎ、舌を絡める。
六の存在を強く思い知らされたが全身を波立たせると、収縮した内襞に締め付けられた肉棒から熱い飛沫が弾けた。

「っく……」
「いっぱい……でた?」

自分は六を満足させられたのだろうかと心配して聞くと、六は額に音を立てて口付けた。

「そういうことを言うな。一晩中だけ気持ちよくさせるぞ」
「む、むり……。そんなの耐えられない……」
「まだ出来るだろ」

きゅっと粘液で彩られた蕾を指でつねる。
一瞬で女の顔に戻って切ない声で啼くを六はにやにやと笑って見ていた。

「ばか!」
「色っぽくて良いじゃねぇか」
「よくない!」

なんて恥ずかしいことをするんだと、が思っていると、唇にそっと六の唇が触れる。

「いつ抱いてもは良い女だな」

恥ずかしいを通り越して、何も言えなくなる。
と六はゆっくりと舌を絡めあい、お互いを愛おしんだ。
吐ききった熱棒を抜かぬまま、二人は相手を貪り、汗ばむ身体を重ね続けた。








が目覚めた時、目の前には目の覚めるような青い髪が揺れており、身体をしっかりと抱きすくめられていた。
耳に触れる愛用する枕とは違う感触に、今日もまた腕枕をしてくれたことが判り、
身体は肌寒くとも心がじわりと温かいものが広がる。

「六……」

普段自由に会うことの出来ない愛しい人の名を呼ぶと、六は切れ長の目を気だるく開いた。
まさか起きるとは思わず、は身体を震わせて驚く。
の腰周りを抱いていた手がするりと上がり、後頭部を押さえると六の方へと押し付けられた。
昨晩さんざん与えられた口腔への快楽が与えられる。
それは長くは続かず、唇が離れた途端、は艶かしい息を吐いた。

「朝からまたするか」

は顔を赤らめ、六を押し返して背を向けた。
無言の抗議に六は笑って謝罪し、の身体を抱き締める。
実際は一切怒っておらず、今日はどんな朝食を六に食べさせてあげようかと楽しく思案していた。


二人で小さなちゃぶ台を囲んで朝食を取る。

「今回はいつまで?」
「もう少しいる」

六の来訪は突然で冷蔵庫には一人分の食料しかない。
六に買出しに行くことを伝えたは、六が好む料理の材料を買い込む。
食べてくれる六の顔を想像しながら、足取り軽く自宅へと向かった。
今日もまた抱き締めて欲しい。口付けて欲しい。
その先をするのはまだ早いが、日が落ちてからなら……六が求めるならいくらでも。



「嘘でしょう!?」

門を見れば綺麗に蛇腹状に折られた紙が差し込まれている。
いつもの手口だ。は肩を大きく落としてその紙を引き抜いた。

「旅に出る」

そう一言そっけなく書かれていて、は憤怒と寂しさのあまりびりびりに破いた。
両手に握っている食材がずっしりと重く感じる。

いつもこうだ。
あの雪の日以降、六は見送らせてくれなくなった。
用事を言いつけたり、目を離した隙にふらりといなくなるのだ。
せめて見送らせてくれたならば心の準備も出来たというのに、かどわかしにあったのかと思ってしまうほど予告も無く綺麗にいなくなって。

けれど、これは六なりの優しさなのだ。
六が去って寂しさに縮こまるを、六は重々承知している。
それでも自身の剣や書の腕を磨くためにとを独り残す必要がある。
もしも、見送りなどさせたらは六を絶対に行かせやしない。泣いて縋るのが目に見えている。
自分の行いに罪悪感を覚えながらも絶対に六を引き止めるだろう。
だから六はに見送りをさせない。勝手に消えた六に怒りを感じさせ、余計な罪悪感を覚えさせないようにと。

だからは六の思惑に敢てのる。
隠していた日本酒を浴びるように飲み、壁に向かって延々と六の悪口を言って次の日に出来るだけ寂しさを引きずらないようにする。
六に負担をかけない自分でいるために。

今日からまた、六を待つ日々が始まる。
大好きなあの人が、日々健康で無事に過ごせますようにと祈りながら。



ちりんちりん────まだ夏は続く。





fin.
(12/07/06)