「MZDってホモなの?」
「……は?」
MZDは脱力して、目の前のミミとニャミを見た。
「だってさ、私達随分長く神といるけど女の人と特別仲良い姿なんて一度も見ないし」
「そうそう、見てもマリィとかジュディとか、パーティーの常連と話すって感じ」
「……で、オレがホモだと?」
「そう」
声を揃える二人に、何を言っているんだと、MZDは思った。
「あのなぁ、オレ様は可愛い女の子、綺麗なお姉さん大好きだぜ!」
「嘘ばっかり」
「本当だってば!お前等酷すぎるぞ!神泣いちゃう!」
MZDの泣き真似を、はいはい騙されませんよと言い放つ二人。
付き合いが長い分、MZDへの対応は冷静である。
「一時期さ、じゃあ、誰がMZDの恋人だろうって予想はやったよね」
「そうそう。六さんとかKKさんとか、ショルキーとか、アイスとか候補に上がったね」
「みんな酷い……。オレが頑張ってパーティ開催してるのに、そんなことしてたのかよ」
がっくりと肩を落とすと、二人はごめんごめんと笑って謝った。
「でもさ、前回のパーティで一応ホモ疑惑は解消されたんだよ」
「マジ?なんで?」
「さん」
MZDは「はぁ?」と怪訝な顔をする。
「隠し子がいたってことで、皆納得して」
「ちょっと待ったぁ!!隠し子ってどーいうことだよ?」
「えー?だってさ、妻がいるって言ったじゃん。今は指輪してないけど」
確かにいつかのポップンパーティでそんなこと言ったなぁと、MZDは思い出した。
その時の指輪は今、黒神のものと一つになり、の胸元で揺れている。
「正直あれも嘘だと思ってた。でも、さんとの様子見ちゃうと」
「ねー」とミミとニャミは声を合わせた。
「付き合い長いのにさ、MZDのあんな姿初めて見たよ」
くすくすと笑ってミミは言った。ニャミも同じくくすくす笑う。
「そうそう、滅茶苦茶優しかったよね」
「さん人見知りみたいだから、参加者の多さに戸惑う場面も多くてさ、それ全部庇ってたもんね」
「そうそう。ニッキーのストーカーっぷりからも護ってたし」
「のことは、別に……弟に代わってだな……」
パーティーには顔を出せない、出したくない黒神に代わって、を監督する責任があった。
自身のパーティーで事故や種族間による抗争を発生させたことは無い。
黒神はそれをMZDの功績であることを認め、だからこそを出席させることを許可した。
黒神からの信用を守るためにも、MZDはの身の安全を守る必要があった。
「本当?それにしては優しくない?」
「見る目が違うもんね」
「もしかして、好きだったりして」
「ばっか。それはねぇよ」
は黒神のもの。
自身がそれを拒否するならば仕方がないが、進んで二人を引き裂くことはしない。
それも、を黒神から奪うなんてことは、絶対に。
MZDが一番恐れていること。
それは、黒神に嫌われること。過去のような関係に戻ってしまうことだ。
「だって高校生でしょ?MZDには丁度いい感じだよねー」
「丁度いいって、オレ生きた年数で言うならお前らの言うところのじーさんだぞ」
「でも見た目若いし」
「ていうか、学生?」
「まぁ、オレが見た目が超絶イケメンで全知全能の神っていう死角なしのいい男だってのは否定しねぇけどよ」
「……」
「……」
「おい。二人ともなんか言えよ」
引き気味で見ていたミミとニャミが弾けたように笑い出した。
MZDもやれやれと肩を竦める。
「MZDー!」
玄関から声が響く。軽い足取りがMZDのいる部屋へ近づいていく。
「ただいまー!」
丁度話題になっていた少女がMZDに飛びついた。
MZDも軽々と少女を受け止めると、そのまま抱き上げた。
にこにこと笑っていた少女は、MZDの傍にいたミミとニャミに気付くと、
気まずそうにMZDの影に隠れた。
「……すみません……私気づかなくて」
「いえいえ」
「そーそー」
含んだにやにや笑いを浮かべるミミニャミは、じりじりと扉の方へ歩み寄っていく。
「ではでは、お邪魔虫は退散しまーす」
「お二人とも、ごゆっくりー」
さっと二人は身を翻す。
「なんかダーリンに会いたくなってきたかも」
「ニャミちゃんはいいなー。私も誰か探そっかな」
「それいつも言ってない?」
二人の楽しげな声は小さくなっていき、やがて玄関の閉まる音がMZDとの耳に入った。
「……どしたの?」
は抱き上げられたまま、首を傾げた。
「オレもわっかんねー。なんかガールズトーク?してた」
「MZDって女の子にもなれるんだね」
「心は男の子だけどね☆」
「へー」
興味なさげに返事をすると、はMZDの首に回した腕にきゅっと力を込めた。
「……高い高いしてやろうか?」
「本当!やったぁ!」
MZDはの体重を軽いものに変え、身体をしっかりと掴むと、そのまま上に投げた。
MZDの五十センチ頭上まで浮くが、羽のように体重が軽くなったを受け止めることは容易い。
しっかりと抱きとめた後、頬ずりをした。
「……隠し子だってさ」
そうMZDが呟くと、は不思議そうに言った。
「隠してないのに?」
はMZDの頭上に植物の芽のように生えている髪をちょいちょいと弄る。
どんなに撫で付けようと、その一房の髪はぴょいっと、元に戻ってしまう。
「オレにとってって何だろうな」
「家族じゃないの?」
「それが一番しっくりくるな」
微笑むとMZDはの頭を撫でた。
気持ち良さそうにするは、MZDの首に力いっぱい抱きつく。
苦しいと主張するMZDに謝って、少しだけ腕の力を緩める。
すると、しょうがないなとMZDは言うと、背中をぽんぽんと撫でてやるのだった。
「……やーっぱり、甘いよね」
「MZDお父さんになっちゃってるよ」
密かにその様子を見ていたミミとニャミは今度こそ、MZDの家を後にした。
fin.
(12/10/26)