ハロウィン前夜

「二人とも、明日はハロウィンだぜ!」

顔を輝かせる
嫌そうにする黒神。

「つーわけで、明日の夕方からパーッとティーしちゃおうかと思うんだぜ!」
「わー、楽しそうだね!」
「あっそ。興味ねぇよ」

冷たく言い放つと、黒神はコーヒーを口に含んだ。

「ハロウィンって仮装するんでしょ?」
「ああ。そうだぞ」
「面白そうだなぁ……」

楽しげに頭を悩ませる
一方黒神はそんなの挙動について目を光らせている。

「仮装ってどんなことすればいいの?」
「そうだな。定番だと……」

MZDは指を鳴らす。
すると、の服装が瞬く間に変化した。
先の尖ったブーツ、黒いミニスカート、室内に合わない竹箒、大きなとんがり帽子。

「魔女だ」
「そっ。流行に左右されない、安定仮装だぞ」
「可愛い?」
「ああ。十分可愛いぞ」

よしよしと頬を撫でるとは気持ち良さそうに顔を緩めた。
しかし、それを面白くなさそうに見る男がいる。
とは言え、興味がないと言ってしまった手前、口出しすることが出来ない。

「じゃあ、これで明日出てみよっかなー」
「いんじゃね。学校終わったらこっちで着替えて、んでオレんちおいで」
「うん。判った!他の人もいっぱい仮装するの?」
「するよ。は可愛いから、その中でも目立っちまうかもな」
「ちょっと待て」

とうとう堪えきれなくなった黒神がずんずんと二人の方へ歩いてきた。

「まだ、他の仮装試してない。決めるのはその後でいいだろ」
「なんだそれ。じゃあ黒神はにどんな格好させてぇの?」

してやったり顔のMZD。
がするとなれば、黒神は関わらざるを得ないことはよく知っているのだ。

「……じゃあ、一つ」

は黒神に向いて身体の力を抜いた。
先程と同様、一瞬で身体を覆う布が変化を遂げる。
しかし、今回はそれだけではない。

「……しっぽ?」

の視線の先には黒い尻尾がちろちろと動いている。
右へ左へ、ふるふると震えたり、止まったり。

、上上!」

MZDに言われ、は手を上に伸ばした。
腕を掠った柔らかな毛。警戒しながらゆっくりと毛の元に手をやった。

「え、何これ!?ちゃんと感覚もあるよ!」
「ああ。尻尾も神経が通っている。今だけの身体の一部だ」

不思議そうに、は足元から自分の変化を確かめていった。
足は大きな獣の靴になっている。足裏を見るとピンク色の肉球がついていた。

黒いタイツ、黒を基調としたワンピース、白いブラウス。
首にはちりりと鳴る鈴がついている。

「これって……猫?」
「正解」

そう言って黒神はの頭を撫でた。は猫のように目を細めた。

「神経繋げてるつったよな」

MZDはの頭の上に二つついている、大きな耳を撫でた。

「っひゃぁ!」
「あ、ぴくぴくしてる。面白いじゃん!」

更に猫耳を撫でる。
くすぐったそうに声を漏らすの尻尾が左右にゆらゆらと揺れて。

「調子乗ってんじゃねぇよ」
「じゃあ、黒神も触れば?」

好きな女の子を良いように扱われて、嫉妬をした黒神であったが、MZDの提案であっさりと怒りを収めた。
自身も気になっていた、の猫耳に手を伸ばす。

「やっ……」
「……気持ちいい」

少年のように驚いた顔をすると、ふにふにと、動く耳を何度も撫でつけた。
は足をもじもじと擦り合わせている。

「だろ!この耳、本当の猫と同じにしたのか?」
「多少のアレンジは加えている。実際の耳も残していることだし、
 猫耳の方で聞き取ったものは脳に直接届く仕様だ。
 聴覚自体は猫のそれだからあまり大声は出すなよ」

二人は触り心地のよい耳を、一人一つ撫で続けた。
真ん中に立つは、口をきゅっと結んで、ぞわぞわと背筋を撫でる感覚に耐えていた。

「あ、立っているの大変だろ。あっちいかね?」

MZDがを気遣うと、黒神は頷きソファーへとの手を引いた。
両耳から二人の手が離れたことではほっと息をつく。
しかし座った瞬間、顔の殆ど変わらない神は同時に耳を撫で始めた。
すると、または未知の感覚と戦う羽目になった。

普段耳という器官をそれ程長時間撫でられることはない。
黒神の力が完璧なことから、猫耳はに以前からあったかのように錯覚してしまうほど感覚がリアルだ。
他の部位で言えば、脇腹や掌、足の裏を触れられた時のような、くすぐったさが全身を駆け巡る。
肌がざわめき、そろそろ止めて欲しいと伝えることすら困難で。

「いやぁ、癖になるな」

耳の薄いところをくりくりと弄る。

「短毛種で正解だな。この感触はなかなかいい」

毛を逆撫でてみたり、毛にそって撫でてみたり。

「っ……」

は猫耳をぴこぴこと動かして、そろそろ離して欲しいことを遠まわしに伝える。

「面白。お前どんだけ本物にしたんだよ」
「ちゃんと意思や感情で動くようにしてある。当然だろ」
「こういうことに関しては細けぇな」
「あ、あのっ!」

の声で、一度二人の手が止まった。
その隙には主張する。

「……くすぐったいから、あまり耳触らないで」

二人は顔を見合わせる。そして。

「な、なんで、触るの!」
「そりゃ……なぁ」
「……すまない。つい」
「もー!」

二人はまたもふもふと耳を触る。
止めて欲しいは頭をフル回転させた。

「と、とりっくおあとりーと、だよ!」

今二人がお菓子を所持していないことは判っている。
としては、悪戯はされたくないからと、耳を弄ることを止めてくれるのではと思ったのだ。

二人は顔を見合わせ、くすりと笑った。

「ああ。好きなだけしてくれて構わない」
「オレにどーんな悪戯してくれんの?」
「なんで!?」

ショックを受けるに、黒神は追撃をする。

「トリックオアトリート」
「わ、私は言われる方じゃないよ!言う方だもん!」
「何もくれないのなら、悪戯をさせてもらう」

黒神は先程からぴこぴこと動いている尻尾に触れた。

「っやぁん!」

耳に触れられた時よりも強い衝撃が全身を走る。
思わず飛び上がってしまったは、反対方向に座るMZDに抱きついた。

「尻尾は駄目!」

の尻尾は興奮のため真っ直ぐ上に伸びている。
そのせいでスカートがたくし上がり、可愛らしい下着が黒いタイツ越しではあるが、堂々と黒神の眼下に晒された。
薄い双丘に食い込み、大切な場所を隠す心もとない布に、黒神の理性が揺らいだ。

とは言え、MZDの目の前であるということから、欲望を少しだけ抑え、
が敏感な反応を見せる尻尾と、突き出された尻から太ももを撫でた。

「じゃ、耳はオレのな」

MZDは両方の猫耳を掴むと、優しく撫でたり、触れるか触れないかの位置で指を這わせた。

「っう、や、だ……」

過敏な箇所を二人に触れられ、は顔を真っ赤にしながら震えた。
ちりん、ちりんと鈴が鳴る。
鈴の音に紛れて、熱っぽい吐息が静かな部屋に響いた。

「……

尻尾への刺激を与えながら、黒神はのタイツを引き下げ、の白い脚を露にした。
素になった脚に直接手を這わすと、は先程よりも高い嬌声を上げた。

「可愛いなぁ」

MZDは自身の膝に頭を置くの顔を覗き込んだ。
うっすらと涙を浮かべて、甘ったるい声を漏らしている。
耳に触れながら、猫にする時のように首筋を擦ると、強く目を瞑って声が上がった。

「えむ、ぜ……っ」

恨み言を言う代わりにたどたどしく名を呼んだ。
だが、それがMZDの中にある呼び起こしてはいけない感情の扉をノックした。
黒神の目の前であるというのに、実の弟が好いている子に対して、いやらしい欲が浮上してくる。

抑えなければならない。
MZDは残っている理性を総動員させながら、黒神を見た。
兄の自分から見ても、どこかに色香を纏っている。
これではを襲うのは時間の問題だと判断した。

「くろ──」
「きゃっ!」

MZDの声を遮り、の声が響いた。
先程までうつ伏せ状態にあった身体があお向けになっている。



泣きじゃくりそうなの顔を、黒神はうっとり見る。
の顔の変化を観察しながら、尻尾を指先で弄り、太ももから腰のラインを撫でていく。

「っふ、や、く、ちゃ、くーちゃ」
もっと。もっと呼んで」

脚が立てられたまま開かされているせいで、黒神にはの下着が露になったまま。
下着には触れることなく、しかしそのぎりぎりの柔肌に指を食い込ませ、の尻尾で内腿をなぞった。
敏感な場所同士の擦れ合いは、の背が弓なりになるほどの刺激を与える。

それらを見せ付けられていたMZDは、止めるべきだという気持ちが少しずつ消えていく。
代わりに、抵抗しようとするの両手を押さえながら、またもや猫耳に触れた。
抵抗が弱まったところで、胸部分からウエストの辺りまでをリボンで結い上げている、ワンピースのリボンを解き、肩紐を肘の辺りまで下ろす。
の腕を肩紐に無理やり通させると、ワンピースのみを腹部の辺りまで引き下げた。

「っ、やだ、ばかぁ、っく、だめ」

抗議の声など、"悪戯"を煽るだけだ。
幸い、黒神もそんなMZDの行為を咎めない。
この異常な雰囲気が成した、二人の可愛い悪戯。

。今の姿、スッゲー可愛いよ」
「っ!」

優れた聴覚を持つ猫の耳のすぐ傍で、MZDは囁いた。
いつもとは違う、低すぎることのない落ち着いた声は、の知るMZDではなかった。
声から滲み出る熱っぽさは、黒神が見せるものと似ていて。
しかも猫の耳に囁かれたせいで、その甘美な響きが脳に直接叩きつけられた。
耐え切れない。頭がおかしくなる。
身体がふわふわ浮いてしまったような。

「黒神……いい?」

MZDはのブラウスの裾を指で摘んで少し捲って見せる。

「……やりすぎるなよ」
「りょーかい」

小さく笑うとブラウスのボタンを外していく。

「ちょ、と、いや、だめっ!」

抵抗を見せようと耳元で「」とMZDが囁けば、は身体を震わせ抵抗する力を失っていく。
その間にすかさず一番上のボタンだけを残して後は外してしまった。
外した後の布は左右に肌蹴させた。まだ、ブラウスの下にはキャミソールがある。

、随分いやらしい子になっちゃったな」

MZDがそう言うと、はいやいやと首を横に振った。

「ちが、違うもん!っふ、ちが、んっ、ちがうのぉ」

黒神の愛撫に素直な声を上げるに、MZDは楽しそうに言った。

の可愛い声、あんま大きい声出してると、オレん家に来てる奴等に聞こえちゃうぞ」
「そうだな。扉の前を通る者たちは驚くだろう。
 の声を聞いては、何をしているのかと気になり、そっと覗くかもしれない。
 そして、今の乱れたを見て更に驚くんだろうな」

黒神も便乗しての羞恥心を煽る。
先ほどよりも真っ赤になったは口を押さえた。

「いつまで我慢できるかな」

二人は視線を交わすだけで意思疎通をすると、早速の身体を弄り倒した。
耳や尻尾は勿論、下着の淵の下腹部、わき腹、首筋、ふくらはぎ、デコルテ、少しでもの弱いところを執拗に指でなぞっていく。

「っふ、ん……ふ、っんん」

は身体を震わせながらも、必死に口を押さえる。
鼻から息が抜けていく姿、耐え忍びながらもぴくりと反応する姿は、それはそれでそそるものがあった。

「意外と強情だな……」

簡単に降参するだろうと黒神は考えていたのだが、は予想以上に耐えている。
これでは可愛らしい声を聞くことが出来ない。
どうしたものかと考えていると、MZDが口の端を吊り上げた。

、黒神の方、ちゃんと見てな」

ずるずると、キャミソールの裾を持ち上げていく。

の身体、黒神に全部見てもらうんだ」
「や、いやっ!」

思惑通りは口元から手を離し、頭上にいるMZDの腕を押さえるために突き上げた。

「どうして?家族間で裸見られるなんて、恥ずかしくねぇじゃん。な、黒神」
「そうだな。赤の他人ではなく、入浴を共にすることもある相手に羞恥心なんてわくはずない」

そう言って、膝頭に軽く口付けた。

MZDはうろちょろとするの腕を片手で押さえると、キャミソールの裾をゆっくりとたくし上げていく。
腹部が露に、へそが顔を覗かせ、肋骨が見えてくる。
するすると綺麗な身体が黒神とMZDに明かされていく。

の心臓は早打ち、きゅっと何処かが切なくなった。
大好きな黒神と、MZDに自分を見られている。
少しずつ服を剥ぎ取られ、隠していた肌が二人の目に晒されていく。
どんな抵抗も無に帰す。

の息遣いが荒くなっていく。
に眠る性の本能が知識のないを襲う。
薄紅色の果実が色づき、ぷくりと腫れ上がる。
触れられることを焦がれ、知らず知らずのうちに二人を誘う。

とうとう、キャミソールの裾が、胸の膨らみ始めの部分に差し掛かる。

「だめ……」

は必死に抵抗を試みるが、両手はMZD、両足は黒神に固定されているため、
どう身体を揺らそうともびくともしない。
抵抗むなしく、キャミソールの裾から薄紅色の円の端をちらりと現れた。
二人の喉がこくりと鳴った。
ほんの少し動かすだけで、全てが明らかになる。
先程までとは意味が違う。
普段通りでない三人の目の前で、初めて女性の象徴が顔を出すのだ。

しかし、MZDは控えめな胸の頂点の部分でキャミソールを引くのを止めた。

「これより先はいけねぇや。、びっくりした?」

そう言ってMZDは誤魔化した。土壇場で理性が勝ったのだ。
馬鹿なことをしなくて良かったと、MZDは自身の精神力に感謝した。

しかし、黒神は違った。
露になった肌に指を這わせながら、腹部に口付ける。
の首がちりんちりんと鳴った。

「黒神、もう駄目だって」

そう言うが、黒神は聞き入れない。
数度腹部や肋骨で盛り上がった肉に口付けていくと、鼻先が胸を隠す布を押し上げようとする。
ヤバイと思ったMZDは黒神の肩を抑えた。

「お前、理性完全にぶっとんでんだろ。これ以上はマジでヤバイって!」
「"まだ"いけるさ」
「"もう"駄目だっつの」

埒があかないと思ったMZDはを見た。
とろんとした目をしており、黒神にいくら触れられようと全く止める様子はない。
熱っぽい視線は従順な猫のように、二人の行為を乞い待っているようだった。

しかし、それでは困る。
元々への触れ合いを耐えていた黒神だ。
無防備で、寧ろ誘っている姿のを見ていれば、いけるところまでいってしまうだろう。

「なぁ、黒神、オレの前だぞ。嫌だろ?」
、今度は自分でめくって。俺達に見えるように。いい子だから出来るよな?」
「黒神!」

黒神はMZDの前であることを問題視していない。
三人である方が、の様々な姿を見ることが出来るという判断で、独占欲よりも情欲を優先している。

「わ、私、……二人になら……何されたって、いい、よ」

羞恥心に顔を染めながらも、キャミソールの裾を少しずつ押し上げていく。
赤々と色づいた二つの突起がMZDと黒神の見る中、つんと主張している。
言葉なんてものがなくても、弄ばれたいという要求が見て取れた。

「馬鹿!」

MZDはキャミソールを引き下げ、ブラウスの前面で肌を隠した。

、これは夢なんだ!いいな、夢だからな!!」

とろりとしていた目がそのまま閉じられた。
かくんと首が落ちると、小さな寝息が聞こえる。
MZDは乱れた服装の猫を元の人間に戻し、部屋へと転移させた。

リビングには未だ興奮冷めやらぬ黒神が、ぼーっとMZDを見ている。

「黒神、悪いけどこれで悪戯は終了だ。このままじゃ本当に犯しちまう」
「……が、可愛いんだ。してもいいよって、言ってくれたんだ」

玩具を取り上げられた少年のように、悲しそうな顔で黒神は兄であるMZDに言った。

「判ってる。でも、違うだろ。お前がしたいのは3Pじゃなくって、
 と恋人になってから、二人でしたいんだろ?こんなのお前の理想じゃねぇじゃん?」

弟に優しく諭すとMZDは立ち上がった。

「オレあっち戻ってくる。ここにいたんじゃオレも夢心地が抜けないからな。
 お前も外の空気吸ってきな。次、顔を合わせた時に普通でいられるように」

そしてMZDは消えた。
黒神はこてっと、ソファーへ倒れた。
先程までが乱れていたソファーへ、寝転んでいる。

「……外、行くか……」

黒神も消える。
誰もいないリビングは消灯され、静まり返っていた。




fin.(12/10/30)