ここは世界とは切り離された異次元。
……の、中にある黒神宅。
ソファーに座る、と黒神とMZD。
三人は和やかにティータイムを過ごしていた。
「……二人ってもしかして、格好良かったりするの?」
突然のの発言に、神の一人は動きが一瞬止まるほど動揺した。
「え、ど、ど、どどどうしたんだ?」
「なんだよ、今までオレの魅力に気づかなかったのか?」
軽口を言うMZDの足を黒神は容赦なく踏んだ。
余程強く踏んだのか痛さに耐え兼ね、足を押さえるMZD。
「最近ね、知らない人にずるいって言われたの。
黒ちゃんはすっごくかっこいいし、MZDもたまにかっこいいって」
「……なんだよ、たまにって」
「はどう思ったんだ」
ずいっとに詰め寄る黒神。
「俺のこと。どう思っているんだ」
黒神はの肩を掴み、真剣な表情で見る。
は「うーん」と考えあぐねていたが、やがて顔をぱぁっと明るくして言った。
「可愛い!!」
「……ああ、そう……」
予想だにしなかった答えに黒神はから手を離した。
精神攻撃をした本人は黒神が落ち込んでいる理由が分からず首を傾げている。
「オレは!オレオレ!」
自身を指差すMZDをじーっと見て、は先ほどよりも早く回答した。
「神出鬼没」
「なんで美醜評価じゃねぇんだよ!」
「そうだなぁ……。たまに怖い」
「ざまあみろ」と、黒神は小さく呟いた。
納得のいかないMZDは「どうして」を繰り返す。
すると、は少し言いづらそうにして言った。
「だって、サングラスで目が見えないもん。
だから、時々何を思ってるのかわからなくて」
「じゃあ」
MZDはサングラス取り外すと、驚くの顎を指ですくう。
「これなら?」
にやりと口元を上げるMZDには顔を赤らめ、ぷいっと顔を背けた。
「し、知らない」
「ちゃんとオレの方を向け、よ!?」
無理やり自分の方へ向かせようとしたMZDに、
額に青筋を浮かべた黒神が二人の間を引き裂くように殴りかかった。
MZDはその振り上げられた腕を握り、なんとか当たることを回避した。
「に妙なことをするな」
声のトーンを一層落とす黒神に、MZDは唇を突き出した。
「ンだよー。じゃあ黒神も試してみればー」
「お、俺は眼鏡だし。関係ねぇし……それに、風呂入ってる時に十分見られてる」
「へぇー。じゃあ、眼鏡取ってもにこんな反応はされねぇのか」
口元をひくつかせた黒神は再度、MZDへと拳を振り上げる。
「暴力反対!」
「く、黒ちゃん。叩くのは駄目だよ?」
は黒神の両手を優しく握って諭す。
「だが、コイツはわざと苛立たせているんだぞ」
「MZDも反省!」
「し~らね」
の窘めも気にしないMZDに、更に黒神は苛立ちを感じる。
じんわりと己に眠る破壊の力を呼び覚ましだした時、がよく通る声で言った。
「黒ちゃん」
ひょいっと黒神の眼鏡を取った。
小さく笑みを浮かべ、黒神の瞳を覗き込んで言う。
「確かによく見るけど、やっぱり無いのは新鮮だよ」
「……だが。………MZDみたいな反応はしてくれないだろ」
「どういう反応が良かったの?」
「だから……」
黒神は言い淀む。
本当は、自分に対しても照れた顔を見せて欲しい、恥ずかしがって欲しいと思っている。
だが、そんなことを言たくとも羞恥心が邪魔をする。
「あ、黒神さ、大人になればいいんじゃね?」
MZDは黒神の了承を得ることなく、黒神を青年の姿へと変えた。
「黒ちゃ……い、いつもより大きい、ね」
黒神がMZDと以外の生物の前に現れる時は青年の姿ばかりなので、も全然見ていないというわけではない。
しかしまだまだ珍しいその姿──しかも今は素顔。
見慣れぬ姿はを戸惑せる。
逃れようと逆を向けば、素顔のMZDがそこに。
「やっ。二人とも違う……」
目のやり場に困る。身動きが取れない。
左右に普段とは違う二人がいて、慌てるを楽しそうに見ている。
「ほら、……」
の左の陣地を取ったMZDがの左手を取った。
「お前、近すぎんだよ」
「脛を蹴んじゃねぇよ……」
「喧嘩するなら二人とも離れてよ」
足元で喧嘩をしながらも、二人はお互いにに密着する。
二人の肌との肌が互いに食い込む。
黒神が、ミニスカートから伸びるの足をさらりと撫でた。
「っ!」
はくすぐったそうに身を縮める。
「。俺の方を向け」
「じゃあ、くすぐらないで。っひゃぁ!」
黒神の手はの足をまたひと撫で。
スカート内には入らない、際どいところまで指先が触れる。
がその度にぴくりと反応し、瞳を潤ませた。
「もう……!」
は反対のMZDを見る。にこりと笑う幼い顔をしたMZD。
切れ長だが冷たさを感じない、温かみのある瞳がを刺す。
「っ!?」
背中、腰からお尻にかけて、誰かの手が執拗に撫でる。
がよくよくMZDを見ると、その目に浮かんでいるのは悪戯心であった。
小さく舌を出したということは、誰の仕業か決定的だ。
よく知っているのに、知らない二人。
どちらの顔も見られなくなったは目を閉じた。
暗闇の中、太ももを執拗に撫でられ、背中から臀部、腹部にかけてまた別の手が撫でる。
いくらくすぐったいと思おうとも逃れられない。
背筋がぞくぞくする。
名の知らぬ感覚が全身を隈なく駆け巡っていく。
から小さな悲鳴とは別に熱っぽい息が吐かれるようになった。
それに気をよくした二人は、更に幼い身体に手を這わす。
決して性感帯に伸びることはないが、それでも幼い身体は二人が与える心地よさと気持ちよさに耐え切れない。
泣き出しそうになる。その時。
「「いい加減にして下サイ」」
影がそれぞれの主人の動きを抑えた。
その隙にはふらつきながらも二人から逃れる。
「いつもの二人じゃなきゃ嫌!」
そう言って扉を叩きつけながら自室へと逃げた。
ソファーに、ぽつんと残された二人。
「…」
「…」
「……調子に乗りすぎたか」
「テメェのせいだ」
「冗談だろ。オレは背中とか撫でただけじゃん」
「俺だって脚触っただけだ」
「撫で回した、だろ。しかも超ギリなの」
「……」
「……どうだった?」
「誰が言うか馬鹿。……まぁ、ずっと触っていたくなる脚だった」
「へー」
「お前は絶対に触るなよ」
「しねぇよ。お前にこれ以上踏まれたり蹴られたくねぇもん」
二人は淡々と言葉を放つ。
夢の中にいるようだった。自分が自分じゃないようで。
一人は何やっているんだろう、と反省し、
一人は細やかに先ほどの感触を脳で再生していた。
前者がMZDで、後者が黒神である。
「アノ……。早くサンに謝りに行ってハ?」
おずおずと影が進言し、ようやく二人は我にかえる。
「よし、黒神頭下げに行くぞ」
「……俺は後でいい」
「なんでだよ」
「……見たらもっと思い出すから」
恥ずかしそうに小さな声で黒神は言う。
我が弟はたまに手の打ちようがないほど馬鹿だよなぁと、MZDは心の中で呆れた。
「なら万一間違いを犯さないようオレと一緒のほうがよくね?」
「……一理あるな」
黒神はすくりと立ち上がった。
二人はの部屋の扉をノックをし、返事を待たずして入室すると、
は布団をかぶって丸まってた。
「。さっきはごめんな」
「すまなかった」
「……もういつもの二人?」
二人は顔を見合わせ、普段の自分の姿へと戻した。
「今元に戻したぜ」
は布団の隙間から顔をだけを現して二人を見た。
「本当だ……」
布団を脱ぎ捨て、二人に抱きついた。
「やっぱりいつもの二人がいい」
満面の笑みを浮かべては二人を見上げた。
その瞬間。
「え!?さっきまで元に戻ってたじゃんか!!!」
二人はまたもや、姿を変えていた。
は一瞬で顔を紅色に染め上げ、ぴくりと身体を震わせた。
それを見て、MZDが笑いを堪えている。
「もう二人とも知らない!」
は二人の間を引き裂くと、玄関から外へ飛び出していった。
「お前!!!馬鹿野郎!!勝手なことしやがって!!!」
「ごめ、ちょっと、可愛いから。ついな」
「確かにあの反応は可愛かった!だが、これからどうすんだよ!!!」
「よし、もう一回謝りにいくぞ!」
やれやれと二人の影が溜息をついた。
fin.(12/07/??)