まるで恋のように

一人の貴族が軍へ入隊した。
何の実力もなく、ただ学があり、人よりは剣技が出来るという、ただそれだけの人間。
貴族と言うだけで、戦地には赴かない参謀としての位置を手に入れた。
使えない新人が自分達の上に立って指図するのかと、戦闘兵種に属する者たちからは非難が弾けた。
だが、こんなことはよくあることである。
前線へ行く兵達は影で文句を言い合って自分達を慰め、現実を少しずつ受け入れた

しかし、彼らも、その人物が、実は女であることは誰も知らなかった。
もし知っていたら、暴動が起きていたことだろう。





「女か……。使えんな」

極卒は自分を護衛、補佐する役目を担った者が女であることを一目で見抜いた。
軍服に身を纏う姿がやけに小柄で、意図的に出した低い声が不自然だったからだ。
他の者も勿論怪しんではいたが、男と強く言い張られ、仮にも上官であったため、そう追究することは出来なかった。

しかし極卒は、の上官である。
真実を述べるように命令すると、は女であることを簡単に認めた。
こんな人間を派遣してきた上層部を殺してやりたいと、極卒は苛立つ。

「剣はまあまあだが、所詮は女だ。女であることを生かせ。
 その身体は使えるのか?まさか嫌だとは言うまいな」
「作戦とあらば」
「ふむ……使えるか試してみるか」

強引に軍服を脱がし、素肌を露にしていくと、女の身体が極卒の目に入る。
胸を押さえていたさらしを緩めていくと、なだらかな曲線が顔を出す。
抵抗のない女を机に押さえつけ、乳房を鷲掴む。
下半身を覆い隠すものを全て取り去り、極卒は脚を開かせた。
誰の侵入も受け入れたことがないことが一目で判る、くすみのない性器。
極卒は手袋をはめたまま中に指を差し入れ、中を拡張していく。
しかし、一向に濡れない。勿論身体の構造により少しは濡れたが、それまでであった。
苛立った極卒は女を見る。
女は淡々と極卒の様子を見ていた。
その光を失っている瞳。
極卒は秘部から指を引き抜き、女に張り手を食らわせた。

「舐めるな。人形を抱いて興奮できるか」
「……申し訳御座いません、少佐」

小さく頭を下げた女を放置し、極卒は鬱陶しそうに手袋を床に捨てる。

「貴様は何に使えるというのだ!使えん駒はいらん。
 使えるようになるまで、しっかりと調教してやる!!」

血走った目で、極卒は女を怒鳴りつけた。
反応の薄い女を何度もはたき、手近なもので傷の無い性器を犯し、剣で身体を刻み、自身を咥えさせる。
屈辱や痛みをどれほど与えようとも、女は泣き喚くことはなく、また快楽によがる事も無かった。
ただただ、ぼんやりと何も映さない瞳だけが顔に張り付いていて。





『まるで恋のように』





!御主人様のお帰りだぞ!出迎えもないのか!!」
「申し訳御座いません!!極卒様!」

極卒が中央から帰ってきたと聞き、は急いで迎えに走ったのだが、
既に極卒は司令室に着いていた。

「おお、我愛しのよ。いい子にしていたか」
「はい、命令通り、地点A制圧しました」
「そうではない!全くいつまでたっても堅物だな。
 僕が言いたいのはだ、
 『極卒様のために身体を磨いてましたのよ』とでも言えないのかということだ!!」
「以前注意を受けましたので、シャワーは済ませました」
「全く色気のない奴だ。僕は疲れた!疲れた疲れた!癒せー!すぐさま癒すのだ!」
「はい、極卒様」

司令室にある革張りのソファーにが座るとその膝の上に頭を置く極卒。
ぼーっと壁を見るの手を極卒は容赦なくつねる。
爪を立てたせいで、皮が剥け赤くなった。

「僕より壁の方が見る価値があると?」
「いえ……申し訳御座いません」

は極卒の手を握りなおし、その横顔を見る。
その時、思い出したかのように極卒が言う。

……お前宛に荷物が届いていなかったか」
「ありました。洋服が入っていました」
「僕が送ったものだ。今ここで着ることを命じる」
「了解しました。少佐」

の爪の間に極卒の爪がぎりぎりと食い込む。
苦痛には小さな息を漏らした。

「今は違うだろう」

怒気が混じった言葉を放ち、血走った目で睨みつける。
身体を震わせ、激昂している。

「……申し訳御座いません。極卒様」

は頭を下げると一度退室し、小包を持って帰ってきた。
ソファーに座りなおした極卒の目の前で、軍服を脱いでいく。

「脱ぐのは全部だぞ」
「はい、極卒様」

上から一枚ずつ淡々と脱いでいく。
さらしを緩めると、女性らしい丸みを帯びた胸が揺れる。
何の躊躇いもなく晒すと、今度はしゃがんでブーツの紐を緩め、脚を引き抜く。
靴下を脱ぐと、白い素足が黒い床に映える。

「焦らすな。早く見せろ」
「はい、極卒様」

ベルトを緩め、ズボンを床に落とす。女性用ショーツが顔を出した。
男性用の服を脱ぎ捨てたは女性らしいラインを惜しげもなく極卒に晒す。
その身体には治りきった傷がいくつかある。

「羞恥心はないのか」
「上司の命令は絶対ですから」
「今は少佐ではない。ならば、今の僕はお前の上司ではない」
「え……そ、れはそうですが……」

は首を傾げて、何やら困った様子である。それを見て呆れたように息を吐く極卒。

「まあいい。早く着ろ」
「はい。極卒様」

小包の中からするりとパーティードレスを取り出す。
血のように真っ赤で、血走った極卒の目や、唇とそっくりな色。
は淡々とそのドレスを身体に纏う。
上流階級の者しか着用を許されないドレス。
貴族であるは、ドレスをもう飽きるほど着ているため、早々にドレスを着終えた。

「見立て通りだ。見るがいい」

極卒はふわりとの肩に手を置き、部屋の姿見の前までを誘導した。

「どうだ。お前の意見を聞いてやる」
「はい、とても美しいドレスです」
「ドレスじゃない、お前が美しいのだ」

うっとりとした様子で、極卒はの身体を撫でる。
何の反応も見せないの手を引き、極卒はソファーに座った。

「今日はその格好で僕を悦ばせろ」
「判りました。極卒様」

極卒のベルトを緩め、ズボンを下ろし、反り立つものを取り出す。
何の躊躇いもなくはそれを咥え込み、下品な音を立てながら口で扱く。
極卒に教えられた通りには愛撫する。
じゅぶじゅぶと懸命に"官能的"に行おうとする無表情のを極卒は冷ややかに見下ろす。

「構えておけ」

は雁首のところで唇を止め、陰茎を両手で包んで扱く。
少し経つと極卒のものは脈打ち、の口内に発射する。
はこくりと飲み干すと、極卒のものを丁寧に舐めて掃除をした。
情欲を煽るような唇と、濡れた手を、所持していたハンカチでふき取る間、
極卒は何事もなかったかのように着衣の乱れを直す。

「上達したな」
「有難う御座います」
「……全く貴様はいつまでたっても、死人のような目をして」

人差し指で顎をくいっと持ち上げるが、極卒を見ているようで見ていない双眸が張り付いていて。
極卒は呆れを表情に滲ませた。

「行為以外では、たまに女を見せるようになったというのに」

申し訳御座いませんとがいつもの如く謝罪しようとすると、ふいに扉がノックされる。
極卒の手の動きで察したは服や小包の包装を引っつかむと、物陰に隠れ息を潜めた。

「入れ」

上官らしい張り詰めた空気を纏った極卒は、外の部下に命令した。
緊張気味に部下は報告する。

「戦況が変わりました。地点B、Cの敵軍引いていきます」
「地点Bの敵は追って殺せ。それで奴等の士気は一気に下がる」
「了解しました。そのように伝えます」

俊敏な動きで部下が退室した後、極卒は全身を戦慄かせた。

「僕が直々に絶望を植えつけてやろう。二度と歯向かえなくしなければ」

ほろほろほろと独特の笑い声を上げる極卒を、物陰からはじっと見つめた。
悦に浸っていた極卒は、それに気付いて現実に戻る。

「どうした?」
「いえ。ご武運を」

そう言いつつも、は極卒から全く目を逸らさない。
それは何かを訴えているようであった。
極卒はほんの少し、口元を吊り上げる。

「正直に言え。今、貴様は何を考えている」
「……もう少し、極卒様がいて下さればと、思っております」
「そうか」

に近づくと、その前髪を掻き分け、露になった額に口付けた。

「貴様は私が帰るまでに各地の情報をまとめろ」
「了解しました、少佐」

感情のない機械のように承諾する

「次帰還した時には、共に食事でも取ろう」
「はい、極卒様」



は小さな笑顔を極卒に向かって浮かべていた。




fin. (12/08/30)