”あの”独神が、と余計な噂を立てられることはどうしても嫌だと独神は懇願した。
 そんなものどうでもいいと突っぱねながらも、一理あると考えたシュテンドウジは人や神の多い宿を避け、自分の脅しが通じる妖族が経営する場末の宿を見繕った。
 独神のことは羽織で髪も顔も隠し、その辺で引っかけた女を装った。

「今回は随分高貴な方を手籠になさったんですな」

 下衆な笑いで出迎えられるのはいつものこと。
 しかし内心は独神の前で余計なことを言われたらと怯えていた。

「首突っ込むんじゃねェぞ。この先遊びにくくなるからな」
「勿論ですとも」

 部屋に入ってすぐ、口を開こうとした独神の身に着けているもの全てを脱がした。
 シュテンドウジと二人で出掛けるのだからと選んだ高価な着物も無惨にも剥がされていく。

「早いって早すぎ!」

 独神の下着まで取り去った後は、自分の服も毛羽立った畳に叩きつけるように脱ぎ捨てる。

「うっせェ! こっちはとっくの昔に準備出来てんだよ!」

 シュテンドウジは我を忘れていた。
 優しくしたいと思っていても、時折有無を言わさぬ圧を放つ。
 気付いた時には独神が表情を張り付けていて、またやってしまったと反省する。
 荒げた息を出来るだけ鎮めて、胸部を隠して小さくなった独神に両手を伸ばした。

「好きってことで、良いんだよな……?」

 八百万界の要人である独神の御身を穢すことへの最終確認である。

「いい。と思う」

 独神は自信なさげであったが、シュテンドウジの手を掴んだ。
 その返事に些か不満ではあるが、初っ端から怖がらせた自分にも非があると呑み込んでゆっくり口付ける。
 独神も”優しい鬼”のふりをするシュテンドウジに唇で応えた。
 まるで初めて触れ合ったかのように、たっぷり時間をかけて合わせた。

「……こういうのは良いのか」
「う、ん。結構」

 まどろっこしいので、あまりこの手の愛撫に時間を割かないのだが、独神が良いと言うならばしないわけがない。
 軽く触れ、頬や額にも短く口付けると、独神はくすぐったそうに身を捩った。
 いかにも恋人が戯れているようだと他人事のように思う。

かしらからってのは……?」

 独神はくすりと笑うと、シュテンドウジの額に口付けた。

「角は駄目?」
「まぁ……けど手荒に扱うんじゃねェぞ」

 頷いた独神は角にちゅっと口付けた。
 子供のような音を立てて恥ずかしい。
 独神は判っていないが、鬼の間では親や恋人くらいにしか角は触らせないものなのだ。
 それに気安く唇を当てている。

「硬そうなんだけど、爪みたいなことなのかな」

 角なしの独神は物珍しそうに両角を握って指で擦った。
 蟻に這われたようにむずむずする。

「もう良いだろ」

 健全な空気に移行する前に、独神の意識を唇へ戻した。
 今度は触れるだけではなく、瑞々しい果物を齧りとるように歯を立てた。
 艶っぽい雰囲気に飲み込まれた独神は手を握り直して、シュテンドウジの指に絡めた。

(噛みちぎりてェな)

 散々触れた唇からその奥へと舌を伸ばす。
 温かな肉感に出迎えられ、独神の中を丹念に擦った。
 小さく跳ねた独神には、大丈夫だと宥めるように指をさする。
 怖がることはない。こんなのまだまだ始まってもいない。

「ちゅ……ねぇ、牙、すごいのね。犬みたい」
「はあ? 犬が鬼の真似してんだろうよ」
「そうなの?」

 一区切りついたところで、独神も真似をして口内へと舌を伸ばした。
 探検をするように右左と見回すその幼すぎる舌使いで、独神は絶対に誰とも身体を交わらせていないことが察せられた。

(意外と乗り気なんだよな。じゃあちょっとやるか)

 シュテンドウジが主導し、敏感な部分を舌で探りあてて擦った。
 ぬるんだ舌先が容赦なく快楽を与えていく。

「っん。んん……」

 口角から溢れる唾液に構わず、独神もシュテンドウジの声なき命令に従って、舌を絡み合わせた。
 従順な主を褒めてやるような気持ちで、髪を梳き、背中を撫でてやる。
 小汚い宿で裸に剥かれて尚無垢さを残していた彼女も今では、奥底から溢れてくる、甘い疼きを抑え込もうと必死になっていた。

かしら。こっちも赤くなってんの見えるか」

 何を指しているか察したのだろう。
 独神は一切見ようとしなかった。

「こっちって判んねェのか? ここだろ」

 手のひらですっかり硬くなった胸の頂を撫でた。
 ぶるりと震える独神ににやけつつ、指先でトントンとつついてやる。

「前もここたたせてたよな。ん? おれはちゃんと知ってんだぜ」

 独神よりも一回り大きな指がスリスリと尖った先端を擦った。
 その度にびくりと跳ねる独神であったが毅然と否定した。

「してない」
「へえ。そうかよ」

 指で先を摩ったり、爪で引っ掻くが桃色のそれはどんなに嬲られてもぴんと立ち上がった。
 健気で身の程知らずな蕾には教えてやらなければならない。
 乳頭の側面を少し撫でた。別方向からも少しだけにする。
 ゆっくり繊細に扱うことが大切で、息を吹きかけたり、先端をそっと撫でたり、触れずに見ていたり、乳首を指で挟んだまま擦ったり、そのまま頂も刺激してやったり、様々な攻め方をした。
 力を入れず、風に撫でられたかのような弱々しい刺激を与え続ける。
 最初は黙って動かなかった独神が、溜息をつき、声を漏らす。

「……ふぅ……っ…………ん……」

 官能の響きが胸の膨らみに集まってきたのか、たわわな胸をたゆんと揺らして細い腰をくねらせた。

「あの……シュテン。それ……いや。変な感じする」
「変になるから良いだろ」

 向かい合っていたシュテンドウジを押しやって逃げようとするが、そうは問屋が許さない。
 後ろから独神を羽交い絞めにした。

「逃げんな。痛くはねェだろ」
「でも。だめ。きっとだめだよ。こんなことしてはいけない。絶対駄目!」

 あれだけシュテンドウジのすること全てを受け入れた独神が、落ち着かない様子で駄目だと繰り返す。
 今までなら思わせぶりなことをと怒っていたかもしれないが、今日の会話に手がかりがあった。

「おれ以外見てねェよ。ここに来てから英傑の気配も感じねェ」

 羽交い絞めにしていた腕で優しく包み込むと、緊張感が少しずつ弱まるのが判った。
 独神は忍を警戒している。偶然自分たちを目撃した英傑たちの尾行を恐れている。
 シュテンドウジを嫌がって逃げているのではないことを冷静に読み取り、ここは引くのではなく押すべき場面と判断した。

「ったく、おれだっておまえの為にこんなに優しくしてんだぜ。もっと信用しろよ」

 ぷっくりと膨らんだ左右の乳首を摘んで捏ねてやると、喉を震わせ情けない声を漏らした。
 次は乳頭を摘んで左右に引っ張って離すと、豊満な胸は弾かれたように揺れる。
 乳首に食い込むくらいに摘まんでクリクリとしてやると、胸を突き付けるように背を逸らす。
 いや、やめて、と口にしながら我を忘れたようなだらしない顔を晒していた。
 そうして散々いけない刺激を教え込んだ後、今度は乳暈を無骨な指がなぞっていく。
 羽のように軽やかに、触れるか触れないかの塩梅で撫でると、緩急の差にゾクゾクと背筋に快楽が突き抜けた独神はあられもない声をあげて腰を揺らした。
 足りない。
 もっと。
 独神の中にある性への欲が高まっているのが判る。

「犬みてェに腰振ってんな」
「いやぁ!」

 言葉での辱めを嫌がり、シュテンドウジ相手に本気で抵抗をするが、彼女は何処にも行けない。

「おまえは素直によがってりゃ良いんだよ。いちいち隠してんじゃねェ。つ、付き合ってんだろ」

 有無を言わさず胸を揉んで、指先で乳首を押し潰した。
 全身を巡る痺れるような欲望を、独神は今まで生きてきて知らなかった。
 口付けを繰り返す甘い疼きとは異なり、これは己を壊しおかしくさせてしまうものだ。
 このままだと引き返せないかもしれない。
 錯乱気味にシュテンドウジに制止を求めた。

「ああっ。だめ。やだやだ! 勝手に動いちゃうの! やめて!」
「動いて良いぜ。もっとおれで感じてくれよ」

 そう言ってシュテンドウジは再び独神と向かい合うように膝の上に乗せると、紅葉した乳首を唇で包んだ。
 きゅっと吸い付きながら舌先で舐め取ると、独神は呻いた。

「しゅて、むねいやあ、もっとへんになる」
「いいおっぱいじゃねェか。すげーうまい」

 今度はわざと音を立ててしゃぶりつき、空いた方の乳首は形が変わるくらいに摘まんでクリクリと捏ねた。
 独神は短く喘ぎ続け、手を止めないシュテンドウジに懇願した。

「しゅて、むり、むりだよぉ」

 こりっと摘まむ度に魚のように身体が跳ねる。
 足の間から流れてきた快楽の蜜がシュテンドウジの膝を汚す。

「んんっ! いや!! さわらないで!! おねがい。あっ、ああっ!」
「いくのか」
「いっちゃう? だめなの。いちばんきもちいいの、きちゃうからあ!」

 かりっと牙を立てると同時に、独神の身体はばねのように大きく跳ね、弓なりになってぶるぶると痙攣した。
 シュテンドウジは執拗に愛撫をしていた手を止め、初めて得たであろう快楽の終着点に戸惑う独神を見守った。
 大きな呼吸を繰り返し、背中をゆっくり丸めた独神は気だるげに目を閉じた。
 汗なのか涙なのか、目元を光らせていた。
 シュテンドウジは優しく接吻を落とした。

「可愛かったぞ」

 汗で束になった髪を撫でると、独神は小刻みに首を振った。

「可愛くない。いやらしいのは独神に合わない」
「今は独神じゃなくておれの彼女だろ」
「彼女……?」

 不思議そうに言う。

「ようやく手に入れた女がおれの前で喘いで、嬉しくねェわけがねェだろ」

 恥ずかしい本音を口にするが、独神はぼんやりしていて真意の半分も伝わっていないように見える。
 独神は顔に張り付いた髪を後ろに流した。

「……私もシュテンが喜んでくれるのは嬉しいから。同じ……なのかな」

 そう言って独神はシュテンドウジに口付けた。
 筋肉質な腕を掴んで、触れるだけの接吻を繰り返す。
 豊満な胸がシュテンドウジの厚い胸板にむにゅりとくっ付いて、シュテンドウジの欲は加速度的に込み上げてきた。

(早くかしらん中にいれてェ……。何度も突きまくりてェ……)

 独神の心が判らない時から、邪な欲をぶつけたくて仕方がなかった。
 それを、今、鋼鉄の精神でぐぐっと抑えているのだ。
 女を抱くというのは最初が肝心で、ここを制することが出来るかで将来が決まる。
 今後シュテンドウジとの密事に寛容になってもらうには、一方的な押し付けにならないように耐える必要があった。
 肉棒は血管が浮かび上がり、心臓に呼応してびくびくと動いているがまだ入れる時ではないのだ。

「……なあおっぱい揉んでいいか」
「え。でもさっきいっぱい……いや、いいよ。……こんな恥ずかしいこと許すの、シュテンだけだよ?」

 心の中で、握った拳を掲げて勝ち誇るシュテンドウジは、遠慮なく目の前の乳房をむんずと掴んだ。
 軽く揉み上げただけでも、指がめり込む柔らかな胸は、着物を着ていた時よりはずっと大振りな気がした。

「さっきから思ってたけどよ、結構でかいのな」
「着物が綺麗に着れないから嫌い」
「おれは巨乳好きだぜ」
「……そう」

 独神自身は褒められたと思っていないのか、冷たい返答だった。
 一方のシュテンドウジは独神の胸の膨らみをニヤニヤしながら揉み続けていた。
 小さかったとしても独神の胸であるだけで価値はあったが、大きいなら更なる付加価値がつく。
 この大きさならば、シュテンドウジの陰茎を胸で挟んでしごくことも簡単だろう。そのまま咥えさせて飲ませるのも……いや敢えて外に出して顔にかけるのも悪くない。
 風呂で洗いあう時にも石鹸で泡立てたものを乳房に落とし、全身を真珠麿ましゅまろのような乳房で擦ってもらうことも可能である。
 いつかはさせたい。今日でも良い。
 独神にやらせたいことを考えると止まらない上に、なけなしの理性が溶けてなくなるので、これ以上は考えない方が良い。

 先程まで散々苛め抜いた頂には触れないようにし、純粋に肌の柔らかさを堪能していると独神が頭を撫でてきた。
 身体の貪り合いには似つかわしくない慈愛に満ちた触れ方に、滾る欲が穏やかになりそうだった。
 独神の包容力には普段救われているが、内なる獣も引っ込ませるほどとは恐れ入る。
 さっきまで好き勝手な妄想を繰り広げていた胸に顔を埋めた。
 幼い時から力が強くて誰からも受け入れられなかった自分が、最も温かで柔らかなものに包まれていく。
 夢のような心地。

「こっちの方がいいよ」

 独神はシュテンドウジを抱き寄せ、薄い蒲団に倒れ込んだ。
 シュテンドウジは自分より二回りも小さい独神を引き寄せると、男根が凶器じみた反り返りで独神の身体を突いた。

「っわ。……とっても硬いんだね」

 色黒いそれを怖がることなく、何の気なしに太ももで挟んだ。
 突き出てて邪魔だから収納した感覚なのだろう。
 胸ほどの肉感がないが、興奮しきった今なら素股でも出せそ、

「そうじゃねェだろ!」

 完全に独神の空気に呑まれていた。
 相手の調子を崩す才は群を抜いていて、合わせようとすると主導権を持っていかれる。
 自分もすっかり呑み込まれた。
 本来の目的を思い出し、太腿に腕を差し入れてこじ開けると、くちゅ……と水音が部屋中に響いた。
 秘裂がぱっくりと口を開け涎を垂らして男を誘っている。
 聖女と扱われる独神の身体にも、他人の欲を求める入口があるのだと思うと今までにない征服感に満たされた。
 彼女を影から見守る、あるいは堂々と好意を見せてきた英傑たちは決して味わえないのだ。
 自分だけが、高潔で潔白な「みんなのあるじ」を犯せる。

「おれに弄られてびしょびしょじゃねェか。初めてでどんだけ助平なんだよ」
「や。知らない。こんなの知らない! 見ないでよ!」

 足首を握られてびくともしないが懸命に抵抗を見せた。
 自分は独神が淫乱だろうと大歓迎だが、聖人を装うことを半ば強要されている独神には禁句だ。
 主導権を得るためにそれを逆手に取って、怯えと罪悪感で心を揺らした。

「見るなって言う割にはおまえのここはさっきからとろとろ汁垂らしてるけどな」

 触らずともシュテンドウジの前に曝け出された秘部はとくとくと蜜を溢れさせた。
 指摘していないが、胸の突起もしっかり色づいて、食べて下さいとばかりに誘っている。

「なってない! してない!」

 必死に否定するが、態度に反して秘めたる所はシュテンドウジの受け入れを待ち望んでいるようにうねる。

「……シュテンドウジ、いやなこと言わないで」

 これ以上は嫌われる。
 だが慎重に進めれば、より独神に踏み込める。
 シュテンドウジは腹をくくった。

「おれ欲しさにしてんなら良いだろ」
「よくない」
「スカした面のおまえが何思ってんのかおれには判んねェけど、濡れてりゃおまえが嫌がってないって安心すんだろ」
「っ……」

 言い淀むのは,自覚があったのだろう。
 独神の本音が見えないと英傑たちにも思われてること。

「ほ…………ほんとに……引いてない?」

 かかった。

「一回でもおれが引いたか?」

 独神は呆然としていた。
 おかしな話である。
 脛に傷がある者も、漁師も、疫病を撒く者も、ただの猫も、受け入れ同じように接してきておいて、
 自分だけは等身大で受け入れられるはずがないと頑なに信じ込んでいるのだ。

(おれらが不甲斐ないってことなんだろうけどな)

 薄い紅色の秘所は独神と同じく一点の曇りもなかった。
 綺麗で淫猥で、見るほどに理性を奪われる。
 中に入れたらどうなるのか。
 どんな声を出して、どんな風に乱れるのか。
 独神の全てが知りたくて仕方がなかった。

「……判った。シュテンだけは、大丈夫って慣れるようにする。
 でも恥ずかしいのは恥ずかしいからね! もう十分見たから終わりにして!」

 シュテンドウジだけ。
 その調子で全て曝け出して欲しい。

「どこ入れるか確認したって良いだろ。間違って別の穴入れるぞ」
「別って」

 後孔がきゅっと収縮した。
 そこに手を付ける気はない。今日の所は。
 まずはさっきから濃厚な甘い香りを放つ大輪を散らすのが先決だろう。

(さっさといれてェけど。……焦るな、おれ)

 脈打つ雄に今ではないと何度も言い聞かせ、独神の腰を掴んでぐっと顔を近づけると、とろとろと蜜を流し続ける秘部に舌を伸ばした。

「シュテン!? だめきたないでしょ。それに。っんん」

 肉びらを舌でなぞると、独神はシュテンドウジの頭を抑えて仰のいた。
 腰を固定しているので、髪を引っ張るなり、叩くなりしなければ抵抗を示せないが、残念ながら独神は相手が痛がることは苦手だった。
 なのでいつまで経っても止めてこない。
 そんな主の許可の下、舌先で包皮を丁寧に剥き、ぷくりと充血する突起を唇で挟むと、独神はいっとう大きな声をあげて足を閉じた。
 しかしシュテンドウジの頭部に阻まれてしまう。
 一度解放してしまったら最後。
 獣が満足するまで徹底的に弄ばれるのだ。
 独神の嬌声を聞きながら、肉芽を大事に捏ね回した。
 のたうちまわる身体を有り余る腕力で押さえつけて、大切に大切に愛した。

「っしゅ、むり。ごめんなさい。あぁ……! おねがぁい。やさしくして……」

 独神は全く判っていない。
 これ以上の優しさはない。
 目の前のご馳走に走らないように必死に堪えているのに。
 独神ほどではないが先走りでぬるついていて、さっさと自分も絶頂を迎えて熱い飛沫を独神にかけてやりたいのだ。
 そうでなくともこのまま覆い被さって、お互いのよいところを触り合うも良いが、独神に恐怖させ拒絶されるのが嫌で耐えるの一択を選ばされている。

(おれだっておまえに引かれるのは嫌なんだよ)

 割りを食っている腹いせに蜜壺目掛けて舌を入れた。
 ぴたりと閉じた入口は堅固に守られていて、これはしっかり解してやらなければならない。
 媚肉に舌を這わせ、襞を開いていく。
 この後舌とは比べ物にならない巨大なものが入り込むのだから、丹念に抽送を繰り返し、濡れそぼった襞を押しやる。
 鼻先が充血した陰核を撫で、溢れる蜜を、好物の酒のように一滴まで大事に啜った。

「あっ、はあ、はっ、あぁ、おねがい。シュテン、あんっ、ふぁ、しゅてんってばあ」

 柔らかな太腿に挟まれながら、立派に勃った紅玉をざらついた舌で舐った。

「しゅてん、ンンっ! だめ。そこ。ん、あんっ、つよいの。ひゃあっ、っん」

 花芯への刺激で始終腰をビクビクと痙攣させる。
 嬌声がじわじわと大きくなると、足先をぴんと張り、ぷしゅと間欠泉が湧き出した。

「っ、はっ、はぁ、……しゅて……」

 膝は痙攣を続けていて、弱々しく両手を伸ばしている。
 シュテンドウジが近づくと優しく包むように抱きしめられた。
 英傑も民も世界も、全てに愛情を注いでいる独神が宿の煎餅蒲団の上ではシュテンドウジだけを愛している。
 好きな女が耳元で囁く。

「まだ、いれてもらえない?」

 可愛いおねだりにぐっとくる。

「もう少し待ってろよ」

 が、格好つけて抑え込んだ。
 蕩けた顔した頬に口付けながら、指を秘所へ滑らせた。
 既に十分濡れていて、クリクリと花芽を嬲ってやると、シュテンドウジを抱きしめる力が強くなった。

「痛いか?」
「痛くはないよ」
「じゃあなんだよ」
「言わせるの?」
「言わせてェだろそりゃ」
「……諦めて。ひあっ! ……もう! しゅ、あぁん! ひどいよ……」

 けれど言葉以外は饒舌で、熱っぽい吐息が耳に絡みつく。
 無意識なのか名前も何度も繰り返し呼んだ。

「シュテン。っふぅ、……っあ、シュテン、んんっ! シュテンシュテンシュテ、んぁ……!」

 指をその先の蜜口へ下ろすと、潤みを帯びたその場所はシュテンドウジの指を隙間なく飲み込んでくちゅくちゅと音を立てた。
 愛液の海の中で容赦なく指の腹でなぞり、生唾を飲みながら秘裂を割り開いて中へと滑り込んだ。

「っ」

 シュテンドウジの背中に爪を立てた。

「大丈夫。痛くないよ」

 瞬時に否定が返って来た。
 舌とは違って、指では異物感があるのだろう。
 シュテンドウジの指が他人より太いのもあり、入れられている独神が恐怖してもおかしくない。
 大丈夫、と言ったのは、独神もシュテンドウジの意図を判っていて気遣ったからだ。

「……おまえ、可愛いよな」

 いじらしくて健気で、その可憐さが鬼の無きに等しい庇護欲を沸かせた。
 今夜は絶対に独神と快楽を共にする。

「でも……シュテンもかわ、っひぁ!」

 しっとりとした乳房を舐めるとしょっぱい味がした。
 いやらしい乳首に舌を這わせ、扱いてやる間に、もう一方の乳房を左手で揉んだ。
 すっかりシュテンドウジの物になった乳房を虐めている間に、右手はきつい膣壁を探り進んでいく。
 痛がりそうな予感がすれば、親指で肉芽をぐりぐりと弄って痛みをかき消した。
 独神は三方から与えられる強い快感に咽び泣いていて、平静を保つことが出来ていなさそうだった。
 その証拠に腰が浮つき、シュテンドウジに自分のよい所を素直に教えてくれる。

「すげェ可愛いよ、おまえは」

 子宮がきゅっとシュテンドウジの指を締め付けた。
 褒められて喜んでいるのだ。
 もっと喜ばせてやりたくて、シュテンドウジは火照った胸から口を放し、独神の口内を蹂躙した。
 隅々まで愛で、懸命に伸ばしてくる舌と絡み合った。
 口内でくぐもった声が一際大きくなり、独神は再び糸が切れたように静かになった。
 二人の間には透明な糸が伝った。

「……ずるい、よっ。私ばっか。こんな、はし、はしたないの……」

 独神は喉を鳴らして溜まった唾液を飲み下した。

「こっちはギンギンなの我慢してんだよ。判れよ」
「ごめ、んっ」

 どくどくと血が行き交い今にもはち切れそうな屹立を蜜口に滑らせてやった。
 先走りと愛液が混ざってよく動く。

「全部おれに任せてろ。おまえに後悔は絶対させねェから」

 頷いた独神は素直で可愛かった。
 それに反して鬼に暴かれて穢された聖人の姿は、いかがわしく興奮した。

「お望み通り入れてやるよ。けど、……何か言うことねェか? ん? どうして欲しいんだよ」

 嫌だと判っていても、その形の良い唇で、とびきり下品なことを言わせたい。

「……シュテンの、……あの……入れて欲しい、です」

 比較的素直に言うことを聞いた。
 だから欲が出た。

「もう少し、はっきり言わねェと判んねェな」

 自分のものを握り、包皮からしっかり顔を出す花芽に穂先で口付けた。
 ぬるぬると撫でてやると、独神の足に力が入り、もぞもぞと腰を揺らした。

かしらの声で聞かせてくれ」

 泣きそうに顔を歪めながら、独神は口を開いた。

「おねがい。シュテン。はぁ……おねがいします」

 独神は両足をゆっくりと立たせると、自分の足の間にある大事な部分に両手を伸ばし、秘裂をそっと左右に開いて見せた。
 屈強な英傑達を次々に動かす、凛とした姿は見る影もない。
 誰もが触れることさえ躊躇う主が、従える英傑の一人に向かって、てらてらと濡らした花園を見せつけている。
 シュテンドウジの中で、ぷつん、と何かが切れた。

「んん! シュテン! あぁ……っんくぅ……」

 膝裏を抑えつけ、陰茎を花園へと挿入した。
 痛がらないようにと散々時間をかけたが、やはり一度も異邦人を迎え入れたことのないそこは厳重だった。
 独神は痛みに苛まれながらも、必死で好きなひとを受け入れようとしている。
 二人で濡らした愛液が潤滑油になってくれているが、ギチギチとなかなか奥へ進まない。
 滾り切った屹立は濡襞を力任せに押し開き、熟れたばかりの果実は壊され赤い汁を流した。
 鼻の利くシュテンドウジはすぐに錆びた匂いを嗅ぎ取り、理性を思い出した。
 少しでも気が紛れるよう、今更ながら頭を撫でてやったり、口付けたりした。

「もうちっと力抜け。……一度抜くか?」

 独神は首を振った。

「全然痛くないよ。それに早く、シュテンを気持ちよくしてあげたい」

 好きな女が可愛すぎると、悶えるシュテンドウジであったが甘言に負けずに自分を律した。

「少しずついくからな」

 抽送を繰り返して奥へ奥へと押し進めつつも、痛みに堪える独神の頬を包んで、何度も唇を重ねた。
 ずぶずぶと独神の中へ、自身が呑み込まれていく。
 二人が抱き合い求め合い続けていると、穂先が奥へとこつりと当たった。
 二人して「あれ?」という顔をすると、互いに破顔した。
 ようやく、辿り着いた。

「長かったぜここまで」
「たくさん我慢させてごめんね」

 姦通したばかりの膣内は異物を容赦なく締め上げる。
 十分な刺激ではあるが、これだけでは達することが出来ない。
 前後にゆっくりと動いた。
 襞が形を変え、男根にぴっちりと密着して呑み込んで扱く。

「っ。おまえの中にいれることずっと考えてた」

 肥大化した陰茎が膣壁を抉るように押し広げる。
 先程来た道を戻ると、再び奥へと押し入る。
 ゆさゆさと蒲団の上の身体は揺れ、独神は口元を隠した。

「おれのだからな。誰にもその顔見せんな、よっ!」

 掴んだ腰を一気に引き寄せ、最奥を貫いた。

「っん!」

 独神は引き裂かれるような痛みに仰け反った。
 たがが外れたかのように抽送を繰り返し、肉棒によって膣肉を滅多打ちにする。
 腰を打ち付ける乾いた音が律動的な響きを奏でた。

かしらん中、スゲェいい。すぐいっちまいそう」

 律動に合わせて前後する乳房を掴み、木苺のような先端を指で擦り合わせるように潰した。
 するときゅうとただでさえ狭い膣が締まり、今にも男根を食い破るようだった。
 熱っぽい視線がシュテンドウジに絡みつく。

「……おれのかしらは最高だな」

 暴力的な屹立によって与えられる快楽に独神は夢中だった。
 圧迫感による痛みはもうなくなっていた。
 ぞわりと腰から痺れが走り、ずしんと生物の芯を揺さぶるような重い痛みと快感。
 下腹部の熱が膨らんで今にも弾けそうだった。

「あっあぁ! ……しゅて、んっ! だめ。……あっ、…………あぁ……!!」

 独神は手を目一杯伸ばしてシュテンドウジのがっちりとした身体を抱きしめ、後ろで足を交差させて必死にしがみ付いた。
 同じく高みへ上りそうだったシュテンドウジは、孕ませるつもりで太い亀頭を子宮口へ叩きつけた。
 最後にぐっと奥を突き上げると、ぶるりと痙攣した。
 鬼の精子がとぷとぷと注ぎ込まれていく。
 独神は美酒に陶然と酔いしれるように、恍惚とした表情で子種を呑み込んだ。

「……かしら。やっぱ痛かったか? 途中頭がぶっとんで……っ!」

 身体を投げ出した独神は、ほろほろと涙を零していた。
 蒲団の上に小さな染みを作って、微笑を浮かべた。

「……判った。シュテンドウジのこと、私絶対好きだぁ」

 強い確信が感じられた。

かしら、も、もう一回」
「すき」
「誰を」
「シュテンドウジが。好き」

 曖昧な表現を繰り返していた独神がようやく、シュテンドウジへの想いの形を知った。

「他の人とは違う。やっと判った」

 今までで一番美しい告白にシュテンドウジは、

「やぁ。中……今、おっきくなった?」
「準備出来た。次するぞ!」
「駄目だよ、すぐ帰らないと討伐の編成の話し合いに間に合わない。早くシュテンも着物着て」
「つか早ェんだよ! 切り替えが! 普通逆だろ!!」

 出して満足したから帰れ。
 シュテンドウジは過去、何度もしたことがある。
 その時はぎゃーぎゃー言う女を面倒くさく思ったものだが、好いた女にされてようやくその気持ちが判った。

「余韻がねェのか! おまえには!」
「な……ないわけじゃないけど…………」

 自身の身体を抱きながら、言いづらそうに言った。

「……シュテンの身体、気持ち良くて、ほんとはこのままずっと抱き合ってたいよ」

 シュテンドウジも同じことを考えていた。
 独神の身体に触れるだけで心地よくて、何日でも抱き合っていたい。

「また、私としてくれる?」
「今する」
「待って! 今じゃない!」
「待てねェ。次はーっと」

 膝裏に手を入れ、足を開かせたまま立ち上がった。
 既にいきり立ったそれで精と蜜が混じり合った蜜口をぬるぬると擦った。

「これならおまえは何もしなくていい。この後のことなんざ忘れさせてやるよ」

 ずぶずぶと自身を花弁をかき分けて蜜孔へと穿つ。

「あぁっ……シュテン……。あぁ!」

 破廉恥な恰好で抱き上げられている独神は己の意思で動くことは出来ない。
 片手で岩を持ち上げるようなシュテンドウジの逞しい腕の言いなりだ。
 独神を持ち上げ、秘所の入口まで己を抜くと、次は自身の腰へと独神を打ち付ける。
 最奥ばかりが突き上げられ、男根の暴力的な刺激が臓腑にまで響く。

「ぁあ、っやぁ……ぐ、……あ、あぁ……!」

 ついさっきようやく男を知った独神にはあまりに強すぎる刺激で、突き上げられる際には呼吸が止まるほどだった。
 先程までのシュテンドウジは男根の全てを独神に入れないように遠慮していたが、今は全て食わせている。
 快楽よりも痛みが上回ろうとしていると、シュテンドウジは独神と繋がったまま手を止めた。

「……やりすぎた。そうじゃねェよな」

 ちゅぽちゅぽと、膣腔の中間あたりでゆるく抽送を繰り返す。

「大事にするって、難しいな」

 今までシュテンドウジの女性遍歴というと、基本的に使い捨てである。
 次を考えなくて良いことに加え、大量の酒で知能指数が低下していることが多く、自分が気持ち良ければそれで良かった。
 だが、独神はそうはいかない。
 自分の代わりになる相手はいくらでもいる。
 次に繋げられなければ、二度目はない。
 独神の周囲には厄介な英傑達がうじゃうじゃといるのだ。

かしら
「うん」
「すまん」

 挿入したまま言うのは場違いであると、独神は言いたくなったが呑み込んだ。

「私じゃシュテンを全然満足させられないんだろうけど、これからは頑張るから。もうちょっと待ってて?」

 そう言うと、シュテンドウジは安堵した様子を見せた。
 よしよしと頭を撫でられ、八百万界で恐れられる鬼は飼い犬のようにおとなしくなる。
 いつものシュテンドウジにほっとした独神は、一方的に抱き上げられるのではなく首に手を回して抱き着くような形をとった。
 多分好きなのだと思われる胸も恥ずかしがらずに押し付けて、唇を重ねた。
 何度も口付け、お互いの舌を絡み合わせて、敏感な舌の上を舐り上げる。
 角度を変えて、身体を押し付けて、二人は再び身体の奥に大きな滾りを感じた。

「おまえ、さっきからおれを締め付けてるだろ」
「シュテンだって。中、こつこつ当ててきてる……」

 シュテンドウジは固い肉棒で独神の蜜壺を円を描くようにグチュグチュと掻きまわした。
 奥とは全く違う刺激に身悶えた独神は愛らしい声で鳴く。

「どこが一番感じるんだ?」
「わ、わかんな、っ。んぅ」

 背中側を擦られるのも、腹側を擦られるのも感じ方に違いはあるが、どちらも震えるほどの切なさを覚えた。
 肩口にしがみ付いて嬌声をあげる。

「ここだろ」

 一点を突き上げると独神は咽頭を震わせた。
 甘い衝動が身体の奥から頭に突き抜けていく。

「そこ……だめ……いやぁ……あぁん、だめ」
「いいぜ。さっきは激しすぎたからな。ちゃんと”やめてやるよ”」

 反り返った陰茎をゆっくり緩慢に動かして、独神の要望通りに駄目と言われた箇所には触れなかった。
 源泉から溢れる愛液が精と混じり合って結合部からとろりと垂れていく。
 今までで一番優しくありながら、もどかしく歯痒く気持ち良くない。
 もう少し横へ……と独神の腰はこっそりと動くが、シュテンドウジに抱えられていて思う通りにはならなかった。
 真っ赤に熟れた花芽ももどかしそうにしている。
 息だけが荒くなっていく。
 奥を貫かれて痛みを覚えたのに、いっそのこと容赦なく激しくして欲しいと思う。
 高みへ追い上げられる時の朦朧とする意識の中で悦びに塗りたくられることを何よりも求めている。
 シュテンドウジは独神のもどかしさを判っている。
 後孔まで濡れているのだから。

「……お願いします。もっと……」
「何が欲しいんだ」

 耳を舐めた。ぞくりとする。

「下さい……もっと。……ほしいの」
「だぁから、何をだって聞いてやってるだろ」

 しがみ付いていた肩に爪を立てた。
 たった一言で、シュテンドウジは独神の望むものを与えるだろう。
 けれど、独神はまだはしたない自分を受け入れるだけの器はない。
 仕事で英傑を待たせている中で、身体を開いているのでさえ、ずっと気がかりでいるくせに、言い出さない自分に幻滅している。

「ほ、ほんとはぁ、中、どこも気持ち良かったの。いっぱい入れられるの、好き、なの……おねがい」
「卑怯なんだよ。結局言わねェし」

 接吻を落とした。

「今日の所は許してやるよ」

 そう言って、望まれた通りに前後左右に分けて貫いた。
 強く突くことには拘らず、休みなく突くと独神は必死にしがみ付いて独り言をつぶやいていた。

「きもちいい。すき。んふっ、しゅてん、すき。いっぱい。いい。すき。しゅてんすき」

 好きと言われるのも興奮を覚えた。
 もっと言わせたくて、膨らんだ花芽も擦れるように角度を調節すると、一際甲高い声で啼いた。
 抽送を繰り返す間、互いの汗ばんだ肌が擦れ合った。
 顔を見合わせると示し合わせたように舌を絡め合い、互いを必死に求めた。
 身体を繋げたことで、何もかも通じているように思えた。
 下肢に溜まった愉悦が爆ぜる予感がした。
 シュテンドウジはすぐさま子宮口に向かって深く穿った。
 白い劣情が中で迸ると、蠢く襞が一滴残らず搾り取るかのように締め付けた。

 繋がったまま座った二人は抱き合い、しばらくは口を吸いあった。
 息を整える為に離れた後は見つめ合った。
 どちらかが頬を撫でれば、一方は背中を撫でた。
 触っていたい。触られていたい。
 他人といて、こんなにも穏やかな気持ちになれることを、初めて知った。

「なあ」
「うん」
「……やっぱなんでもねェ」
「いいの?」
「うまく言えねェわ」
「判るかも。私もそんな感じだから」

 少し動くと独神の中から情けなくなった陰茎が出てきた。

「いなくなっちゃった」

 独神はさっきまでいた下腹部をまあるく撫でた。

「寂しいね」

 二度の精を受けていながら、弱々しく呟いた。

「おれがいるだろ」

 そう言うと、ぱっと笑った。

「うん。いてくれてありがと」

 眠たそうにしていた独神に寝て良いと言うと「うん」と言って、交じり合っていた時の蒲団に横になった。
 乳房も尻も曝け出したままの、その無防備さが可愛くて、小川のせせらぎを聞いている時のような穏やかな気持ちになった。
 独神への責任感から一時解き放てたことの喜びだ。
 暴れるだけでは終ぞ埋まらなかった喪失感が満たされていく。

 脱がした着物が部屋にくしゃくしゃに転がっているのを見た。
 オンボロ宿には合わない高級な代物。
 身の丈に合わないものを手に入れてしまった。

「……やべーな。討伐のなんか決めるって言ってたじゃねェか」

 劣情の飛び散った身体を拭いて、簡単に着物を着せ、羽織で顔まで覆ってあとは背負う。
 話し合いの相手はミチザネだろう。
 独神が安らいだ気持ちで朝を迎えられるように、口煩い説教と落雷を受けてやらなければ。

かしら、これからもおまえのこと守ってやるからな」

 背中の独神と唇を合わせ、シュテンドウジは本殿へ向かった。






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 [おまけの小話 そのいち]




かしら! 今日は」
「絶対嫌」

 おいマジかよ
 おれあんなに我慢したのにか?
 処女だからって、いきなり口にブツ突っ込んでもねェし、辛いかと思って騎乗位もさせてねェし。
 なんで拒否ばっかすんだよ、かしら

 納得がいかないので、独神(おれの)をつけ回していると、判りやすい尾行に気づいて自分の部屋に入っていた。
 当然、おれも入っていく。

「……シュテンは目立つんだから、私をつけ回すと怪しいでしょ?」

 しつこい、と顔が言っている。
 だがおれは退かない。

「おれが悪いなら謝る。けどかしらが悪いなら謝れ」

 おれの女は眉間を揉んで大きな溜息をついているが、おれにとっては死活問題だ。
 先日、おれはかしらを犯した。当然、同意の上で。
 裸のやり取りは、おれたちの距離をぐんと近づけた、と思う。
 それになにより、独神のかしらが独神のことを忘れていたのが良かった。
 独神を守り重圧に耐え続けているかしらは相当疲弊している。
 だから偶には息抜きが必要だ。
 ……というのは方便で、一度かしらの身体を味わってしまったおれは、もう一度やりたくて仕方がないだけだ。
 他の女ではあの興奮は味わえない。
 かしらでなければならないのだ。
 だから、こうして毎日頭を下げてやっているというのに、毎度返事は冷たく「嫌」だ。
 おかしいだろ? なあ?

「……むちゃくちゃ」
「理由を話さねェおまえが悪い」

 独神はぼんやりと虚空を見ながら逡巡し、やがて決心したようだった。

「絶対笑わない?」

 またこれだ。
 こういうのは適当に同意してやれば良いから楽なもんだ。

「おう」

 独神が口の横に手を立てるので、背の高いおれは屈んでやった。
 耳元でかしらが囁く。

「あのね、……胸。先のとこ痛いの。シュテンにいっぱい触られたからかなって思うんだけど」
「……大変申し訳ございません」

 その場で即座に土下座した。
 おれかぁ……。
 かしらの乳首の感度が良いもんだからと、しつこく触ったのが原因だろう。
 項垂れるおれに、もう一度囁いた。

「普通になら触ってくれても良いから。えと、みんなが見てない時だけだよ?」
「今は?」

 独神の私室なので、部屋には誰もいない。
 奥の間に位置するのもあって、周囲にも英傑はいない。
 忍どもも、こんな真昼間の本殿でわざわざつけ回すこともないだろう。

「いない?」

 唇の形だけで聞いてきたので、首を振ってやると、躊躇いがちに胸を突き出した。
 その動作は悪くないが、着物のせいで折角の胸が平坦に見える。
 正面は固いだろうと踏んで、後ろに回って身八つ口から手を入れた。
 弄っていくとお目当てのものが手のひらに当たった。

「潰しすぎてねェか?」
「綺麗に着るためには仕方ないよ」

 帯が綺麗になるようにと布を入れるが、いくつも入れすぎていて、あの時に揉んだ柔らかさはない。

「全部脱がして良いか」
「じゃあおしまいね」

 独神はすっと腕の中をすり抜けた。

「やっぱなし!」
「大声出すと人来るよ。それに、長居したからもう探し始めてる頃」

 おれを置いてさっさと行ってしまう。
 さっきは恥ずかしそうに胸を差し出してきたっていうのに、この差はえぐい。
 仕事人間め。

「なら尻揉んどきゃ良かったじゃねェか」

 下半身は鎮まりそうになかったが、かしらがちゃんとおれのことを好きでいてくれていることに安堵していた。

「夢じゃねェんだなぁ……」





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 [おまけの小話 そのに]



 夜。
 シュテンドウジが独神の部屋へ入ろうとすると直前で忍に止められた。

かしらは就寝中だ。緊急でなければ後にしろ」
「ちょっとだけだ。どけよ」

 サスケを横に押し入ると、触れた部分が氷漬けになっていた。
 シュテンドウジは凍った手に気を込めると、すぐに溶けて水が滴り落ちる。
 互いに目を細め、少しでも動けば相手を攻撃する構えだった。

「なんの騒ぎ」

 奥から出てきたそのひとに、サスケは膝をついて報告した。

「シュテンドウジが寝込みを襲おうとした」

 独神はびくっと震えた。
 シュテンドウジが口を滑らせたのかと恐々としている。
 そんな不安を判っている当の本人は冗談っぽく笑い飛ばした。

「確かに二人きりだと襲っちまうかもなぁ。がははっ!」
「口を慎め。八傑とはいえ、かしらを貶めるなら殺す」

 ぴりぴりとした空気の中、呆れた顔で命じた。

「サスケ、通してあげて。あと少し席を外してくれる?
 急いで話聞いて終わらせるから。その方が時間を無駄にせずに済みそう」
「御意」

 あくまで効率の為。
 そんな建前を武器に、独神はシュテンドウジを部屋に引き入れ、小言を零した。

「シュテン。今、何時だと思っているの? もっと振る舞いには気をつけて。サスケが怪しむのも仕方がないでしょ。
 これがモモチやコタロウなら貴方のこと、何から何まで調べ上げちゃうよ。
 ……ハンゾウだったら、私がとことんお説教されるの……ねえ、お願いだから、」
「しょうがねェだろ。かしらに会いたかったんだから」

 独神はにやけそうになる顔を押しとどめた。

「そう言って、どうしようもなくなっちゃったんでしょ」

 ちらっと目線を下げ、何をとは言わなかった。

かしら……」

 シュテンドウジは強く抱きしめ、熱くなった部分を押し当てた。

「判るんだけど、サスケがすぐ帰ってくるよ。無理だよ」
「そう言ってばっかで全然出来ねェだろ」

 独神を得たシュテンドウジは女遊びをすっぱり止めたは良いが、抱ける時がない。
 欲で溢れる時は悲しいかな手淫でどうにかした。
 千擦りのオカズには困らなかった。

「シュテン! こっちこっち! ここなら見つからないでしょ。だから、お胸もこっちも、して良いよ……? うそ。私がね、して欲しいの。手貸して。ここ。クチュっていやらしい音聞こえる? 独神なのに、みんなと話しててもシュテンに愛してもらってること思い出して濡らしちゃったの。だからお願い。ここで、英傑のみんなが頑張ってる横で、シュテンにいっぱい恥ずかしいことしてもらいたいの……あっ、そこっ。乳首すきぃ、こっちも、チュパチュパして良いよ。んっ……あっ……両方されたら、おかしくなっちゃう。気持ち良くて、腰振っちゃうの。中も、あんっ、奥、いっぱい突いて、激しいの、好き。んっ……あぁ……おねがい、中に出して。熱いのいっぱいほしぃの!」

 などの妄想には事欠かない。
 現実の独神がしないことは特に興奮できた。
 裸に装飾の細布を巻いた妄想も出来が良かった。
 豊満な胸や股に食い込む細布が裸よりも淫乱に見えて良い。
 春画で見たように、何匹もの蛸に襲われて、脚を開かされ、乳首や陰核を吸盤で吸われ、身体を多くの足で拘束されているのも趣がある。

 だがそれにも限度がある。
 触れて聞こえて嗅げる本物が一番である。

「ちょっとくらいどうにかなんだろ」
「無理だって。今だって近くで待ってるのに。この会話だって聞かずにいてくれるか怪しいんだよ」

 独神も頭を抱える。
 すっかり陥落してしまったのはこちらも同じで、なんでも叶えたいのだが、こればかりは難しい。

「……いっそサスケに私たちがしてるとこ見せちゃうか」

 錯乱したのかとんでもないことを言い出した。

「声をかけてこないよ。多分知らないふりもしてくれる」

 苦肉の策がそれだった。

「見せる方が興奮するなら構わねェけど、本当に大丈夫か」

 流石に強要はさせたくないシュテンドウジが気遣うと、独神はシュテンドウジに体重を預けた。

「……シュテンとはしたい」

 でも本殿じゃ無理だよ。
 と、消え入りそうな声で言う。
 シュテンドウジは小さくなった独神の頭を撫でた。

「こんくらいは見られても問題ねェだろ?」

 短い時間ではあるが、しゅんと落ち込んでしまった独神を慰めてやった。
 誰が乱入しても良いように、節度ある距離感を保って。

「また明日な」
「おやすみ」

 すぱっと帰っていくシュテンドウジを、独神は見送らず、蒲団に倒れ込んだ。
 これ以上怪しい行動は慎むべきだとの判断だったが、溜息が止まらない。

 独神も同様に、英傑でも八傑でもないシュテンドウジと戯れたいと思っている。
 すぐに胸や尻を触ってくるどうしようもないひとではあるが、気安く触られるのは心地よくあった。
 心を許した相手からの体温は、日中の嫌なものを消してくれる。
 恋人という存在は、温かくて安心出来て良いものだ。
 せっかくそれに気づけたというのに、独神は基本一人だった。
 シュテンドウジは何度も声をかけてくれたが、独神からはなかなか話せない。
 仕事抜きで特定の英傑に話しかけていると、誰かしらから必ず指摘される。
 心に反してそっけない態度をとり続けた。
 こんなことを続けていては、そのうちには愛想をつかされるだろう。
 追い返したくせに、帰ってしまったことが悲しくて泣きそうになる。

 サスケを呼んだ。

「少しの間、警護から外れて欲しいって言ったらどうなる?」
「諦めろ。立場を理解しているのか」
「……気の迷い。なんでもないから」

 おやすみと言って、下がるように指示をした。
 しかし、サスケは命令に反した。

「……俺は厳密に言うと”かしらの部屋”の担当だ。かしらが外の時は別の忍になる」

 それは独神も知っている。
 夜間の警備には本殿の内外に英傑達を転々と配置していて、ある程度の範囲を任せている。
 独神の寝所だけが特別で、ここだけは一部屋につき一人が警護につくことが決まりだ。
 逆に言えば、独神の寝所よりも警護が厳しい場所はない。

「いいか。必ず俺が担当の時だ。終わったら速やかに部屋に戻れ。日も跨ぐな」

 もし独神になにかあれば、全ての責任はサスケにある。
 忍としての信用を失い、今後は本殿の仕事も制限される。
 それを承知の上での提案だった。
 独神も自身の我儘で周囲を不幸に突き落とすと納得して頭を下げた。

「……感謝致します。この御恩は必ずお返しします」

 そうして足早に想い人の所へ向かった。

(逢引きの手伝いをさせられるとはな。今度のかしらは立派な方だと思っていたんだが)

 色恋は人を変える。
 独神も、人、だった。

(それ以上の働きを見せるならば、このくらいは目を瞑ろう)








(20230818)
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【あとがき】

 あーーーーーーーーー。
 シュテとサスケの3Pの話も書きたかったよーーーーーーーーー!!!!!
 どうして「ねぇよ」と思いながら無理やり展開をねじ込むパワープレイが出来ないんだ!!!!!!!!!!!!!!!