夜も更けてきた頃、早寝早起きを座右の銘とする独神は本来ならば就寝時間である。
「あっ……ん」
肩口を口付けられた独神は甲高い声を漏らした。
乞うように手を回すとハンゾウはそれに応える。
「今夜はなんでも聞いてやる。どう攻められたい」
切なげな表情をしていた独神が一時我に返って少し考えた。
「……いつも通りで」
「良いんだな。それで」
「うん」
忠実な忍はその通りにした。
あくまで独神の立場を上とし、自分は奉仕する側。
思うままに抱いた事など一度もない。それに不満はない。
独神が己のものになるだけでなく、身体まで開いて何の不足もなかった。
しかし独神はどうだろうか。
いつも望み通りに抱かれて、不自由はない。
身体を重ねる際のハンゾウは独神の小さな我儘を全て叶えた。
普段我慢をさせている分を解消するように、なんでもだ。
今夜もまた、いつも通り望む頃に秘裂を割り開き、血管が浮き出た反り立つものを押し込めていく。
散々慣らされたお陰で滑らに咥え込んでいった。
「少し力を抜いておけよ」
ハンゾウはゆっくりと腰を動かして中を突いていく。
硬いもので媚肉を押し上げ、男根の味を思い出させてやると次第に中は蜜で溢れ、一層締め付けて精を貪ろうとする。
「あ、ああ……。はんぞ、んっ……」
「良い顏だ」
悦びに蕩ける独神であったが、他に言いたいことがあった。
先程羞恥心に阻まれていた言葉である。
腰を掴むハンゾウの手を掴んで、独神は懇願した。
「お願い。……優しくしないで。もっと……」
ハンゾウはゆるゆると前後運動を弱め、耳を傾けた。
「痛いくらい、愛して」
「命令が遅い」
拗ねた口ぶりでハンゾウは独神の中を勢いよく貫いた。
いつも行為は、焦らしすぎず辱めすぎず、気持ちよく終われるように。
明日に響かせないよう健やかに眠れるようにと配慮してきた。
交わる時でさえハンゾウはいつも冷静で、常に自分たちを俯瞰して管理していた。
しかし今夜求められているものは違う。
足が震えるまで腰を打ちつけ、淫らな体位も幾度となく行った。
傷つけないようにしてきた柔肌も赤くなる程度につねり上げて掴んで時折優しく触れた。
今夜の独神は淫靡で品がなく、かといって劣らない魅力があった。
「俺の主《あるじ》は随分と淫らなことがお好きで」
足の付け根から白い粘液を垂らしてぐったりとする独神は、かあっと赤くなった。
「わざわざ言わなくてもいいでしょ! ……だから言いたくなかったのに」
「最中には言わないでやっただろ」
「この先二度と言わなくていい」
ぴしゃりと言って背中を向けた。
ハンゾウは背中越しから指に指を絡ませ、機嫌が悪くなってしまった主にぼそりと謝った。
「俺は良かったんだがな。主《あるじ》はお気に召さなかったか」
気落ちしたような声で言うと、独神は指を握り直した。
「……悪いなんて、言ってない」
「承知した。次にする時は遠慮はいらないな」
「え。まだ本気じゃないの?」
悪びれもなく言うので、思わず起き上がった。
「一度で俺を理解できると思ったら大間違いだ」
「ハンゾウって底知れないから怖いんだよね」
ハンゾウは独神の身体を支えて寝かせてやり、抱きしめた。
「だとしても、俺は主《あるじ》の命令が絶対であることは揺るがない」
「ほんと……ハンゾウの態度って判りにくいのよ」
裸のままの身体を抱きしめ返した。
「もうちょっと素直になってくれても良いよ?」
「断る」
「私の命令は絶対なんでしょ」
「なら命令として受け取ればいいんだな」
「素直なハンゾウなんてハンゾウじゃないからいい」
ふっと鼻で笑われた。
「……ねえ、次回はいつも通りがいいな。でももうちょっとだけ優しくというか……ドキドキさせて欲しい」
「承知した。たっぷり甘やかしてやる」
耳朶に響く心地よい声に独神の奥がまたきゅっと締まった。
太ももをハンゾウに摺り寄せると、硬質なものがそこにあった。
「……あのー?」
「さっきの話だが、今からでも構わないがどうする?」
「もう一回したい。って普通に言ってくれればいいのに」
独神が足を軽く開くと、それはすぐに入ってきた。
愛液も白濁液が綯い交ぜになっていてすると入り込む。
酷使した後の為か硬さはほどほどで、異物感があまりないので切羽詰まった快楽の波もなかった。
「しばらくこのまま、主を感じていて良いか」
「良いよ」
二人は繋がったまま、口を吸い、肌を撫でた。
くすぐったいくらいの、筆で撫でるような触れ合いは心が充実するのを感じた。
戦乱の中、今、ここで二人でいられることを噛みしめながら、朝まで愛を紡いだ。
(2022/12/23)