「アマツミカボシ様。お怪我の治療を」
「必要ない。貴様らこそ、さっさと逃げろ。足手まといだ」
葦が一面に生い茂り、原初の炎がそこかしこで揺れるこのクニも、今は天孫どもとの戦場と化した。
「いいえ。我々は貴方様と共にいきます」
「馬鹿な事を」
ここ以外は悉く帰順したと聞く。〝火が立つ〟と言われたここも、多くの灯火が消えていった。最期を看取る暇などなかった。
「貴方様のその手は剣を握る為のものであって、父母のように庇護する為のものではないはずです」
剣を握る掌にじわりと汗が滲む。
「さあ、アマツミカボシ様。我々をどうかお使いください。覚悟はできております」
星神を信仰する者どもは、尊く、気高い心魂を持っていた。
闇夜の中でも一つ一つが眩く光り輝いていた。
それが自分の事のように誇らしい。だから俺も迷わず覚悟を決められる。
俺がすべき事は、この者達の命を護る事ではない。
──願いと、矜持と、尊厳を守る事だ。
例え、この戦いで誰一人として生き残れないと判っていても。
俺は振り返らない。足を止めてはならない。
それが俺を信じた民に対する、神としての施しだ。
俺の剣は決して折れない────。
(20220323)
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【あとがき】
ツイにのせたもの。
私の中のアマツミカボシ像の全てが詰まっている。