独神と話をしていれば穏やかになるし、仕事で苛立つことがあっても気分が鎮まる。
 同じ時間に生きるには勿体ないくらいの相手だった。
 人柄の良さに惹かれる者が多いのも当然だ。
 アカヒゲが仕事をしている間も、彼女の周囲には人が絶えない。
 大人であるアカヒゲはそれをなんとも思わなかった。
 立派過ぎて身が引き締まる思いだった。

 それが偶々その日は気に障ったのだ。
 自分の劣等感を引っ掻いて、本来なら押し込めておけるはずの感情が表に出てきた。

「……すまん。やっちまった」

 独神の首には真っ赤な鬱血が咲いていた。
 服や髪で隠れるぎりぎりのところにする小賢しさが、余計に自己嫌悪に陥る。

「……結構、ついちゃった?」
「かなり」

 少し考えこんだ独神は、アカヒゲの首に手を回して首筋をちうと吸った。
 これは、と思ったがアカヒゲは微動だにしなかった。元々自分がまいた種である。

「お揃いだね」

 ふわりと笑う独神にアカヒゲはどうしようもなく込み上げて抱きしめた。

「おれは一生頭が上がらないだろうな」
「いつも私の上に乗っているのに?」
「もう好きなだけ手のひらで転がしてくれ」
「じゃあねー……アカヒゲが満足するまで痕つけて」

 淫魔だ。この状況下でそれを言えるのは。
 情けないと思いつつも、アカヒゲは独神の身体に思うままに刻印を残した。

(あんたといると嫉妬も出来ねぇな)

 この時のアカヒゲはすっかり失念していた。
 本殿の風呂は共有で独神も例外ではないと。





(2022/12/23)