七周年小話



きたきたきた!!
あと一日でやってくるよ!!
え?
何かって?
もー……しょーがないから教えてあげる。

8/3はね、上様が独神を始めた日だよ!!

嬉しいでしょ?
ぼくもね、とーーーっても嬉しい!
毎日楽しみで眠れないくらいだよ。

…………でもね、少しだけ心配ごとがあるんだ。
聞いてくれる?

今回は「七周年」でしょ?
前の五周年は「ゴ」のつく英傑が主人公だったんだよ?
てことは、七周年は「ナ」がつくぼくの可能性が高くない?
だから今までで一番嬉しいんだ!

え? 嬉しいのに心配ごとって何って?

それはね。
気づいちゃったんだ。
「ナ」がつく英傑って他にもたくさんいる。って。

てことは、もしかして、もしかしたらだよ?
ぼくじゃない英傑が上様といっぱい仲良くなるかもしれない。
ぼくのこと、あんまり構ってくれないかもしれない。
心配になったぼくは考えたんだ。


「ナ」がつく英傑をみーんな討とうって!!


って言っても、殺すわけじゃないよ。
ほんのちょっぴり、怖がってもらうだけに決まってるじゃない。
当日上様と過ごす時間が減ってくれれば良いんだ。

「ぬわっ!」

────ぽてり。
早速だけど、あそこで目を回したキジムナーが倒れたのは、ぼくの仕業。
お手製の矢(鏃はついていないよ)にタコを括りつけてキジムナーの前にお届けしたの。
ちょっと狙いがずれちゃった時にはひやっとしたけど、なんとかうまくいったよ

知ってた?
キジムナーはタコが苦手なんだ。
いつかあった宴会でタコわさをすすめられて叫んでいたことを覚えていてね。
その時は「ふうん」としか思わなかったけど、こんな時に役に立つとはねえ……。

「大丈夫ですか!?」
「どうしたの!?」

キジムナーに駆け寄るイッスンボウシとアリエに見つからないよう、ぼくは速やかに退避した。
ぼくが射る姿は誰にも見られていないはずだよ。
戦場で射貫く時とは違って、念入りに周囲を確認したからね。
弓を引く前は緊張感で神経が研ぎ澄まされるものだけど、今回のは全然違った。
周囲の雑音が煩く聞こえて、いまいち乗り切れなかった。
ぼくって正確に射ることは得意だけど、暗殺は性に合ってないのかも。

だったらこの機会を鍛錬にしちゃお!
一石二鳥だよね。
まあ、ぼくなら一石あれば四鳥はいけるけどね!


次に狙うのは、イナバ。
丁度本殿にいるのを見つけちゃったんだ。
イナバはヌエと一緒に庭石に座って雑談をしているみたい。
話に合わせて大きな動きをするイナバを狙うのは難しそうだけど、だからこそ腕が鳴るってもんだよね。

強弓は大きい分目立つから位置取りは慎重に。
本殿はひとが多いだけじゃなく、警戒心が強いひとが多いからよりいっそうね。

矢はいつものじゃなくて、鏑矢を使うよ。
イナバは耳が良いから、耳元で鏑の音がすれば暫く倒れると思う。
うん。これで準備はばっちり。

物陰に潜んだぼくは早速息を殺し、イナバを狙った。
弓をしかと支え、両手を広げて弦を目一杯引いて、動きを止める。
動き回る目標を見つめて、そして………………放った。

「ひゅぉおおおおお」←ヌエ
「ぴきゃああああ!!」←イナバ

鏑矢は狙い通りには進まず、二人の間の地面に突き刺さった。
そしてぱたぱたと二人は後ろへ倒れた。

そういえば、ヌエは鏑矢の音が苦手だったっけ。
そのとてつもない叫び声でイナバは気絶しちゃったみたい。
思ってたのとは違ったけど、上手くいったから良いよね!!


次はサナダユキムラにしよう。
なんでって……本殿にいたからだよ。それだけ。
本当だよ。

その前に、ぼくは一度部屋に戻って弓を点検した。
手入れは毎日欠かさずしているけれど一応ね。
念入りに確認したけれど、おかしなところはどこにもなかった。
これなら、猛虎と呼ばれるサナダユキムラを貫ける。

今までの英傑とは違って、サナダユキムラは数多くの戦場を駆け抜けた英傑だ。
ぼくと同じく命のやり取りを繰り返したサナダユキムラなら、ぼくの闇討ちに気づくはず。
それなら”ぼくが本気をだしたところで”取り返しのつかないことにはならないだろう。

ぼくは普段使っている矢を握った。
今度は鏃には何もしない。
正真正銘、戦場仕様だ。
当たれば一撃で死ぬ。

本殿の裏手にある林で、サナダユキムラはじっと佇んでいた。
待ち合わせにしては緊張感がありすぎるし、隠れて鍛錬をしているようにも見えない。
周囲には人影がなく、ここで何が起ころうとも巻き添えをくらうことはないだろう。

問題がないことを確認し終えたぼくは、迷わず弓を引いた。
狙いは額。
ぼくの一射は頭蓋を貫く代物だが、サナダユキムラ相手なら殺す気で狙っても、きっと大丈夫。
万が一なんて、…………絶対にない。

動かない的を狙って、無心に矢を放った。
狙い通りの軌道を進んだ矢がサナダユキムラを襲う。
矢は額に触れる直前、彼は軽く屈んで流れるように矢を躱した。
奥の木に刺さった、ぼくの本気の矢が空しい。

「っ! 曲者か!?」

まずい。
ぼくは急いで逃げた。

「……あっぶねー。昼寝しようとして命拾いしたぁ」

さっきからどうして!!
どうして当たらないの!?

ぼくは相棒の弓を両手で握りしめたまま、サナダユキムラに捕まらないように走った。
弦は決して緩んでいなかった。
弓が曲がっていることもない。
重さもいつも通り。
だったら当たるに決まってる!!

なのに今日、三回弓を引いて、狙い通りに当たった矢は一本もない。
船上の扇を当てたナスノヨイチがこんな失態をするはずがない。
ぼくはどうしたっていうんだ。

身体の小さいぼくは幼少期に刀の鍛錬も行っていたがそれなりにしか身に付かず、物に出来たのが弓だった。
小さい身体では弓など引けないと馬鹿にされたものだが、悔しさをばねに鍛錬を重ねて強弓を扱えるまでになった。
ぼくの背丈で強弓を自在に操れる者は、この八百万界に一人としていないだろう。

ぼくは凄いんだ。

でもそれは、狙い通りに当てられたらの話。
弓は闇雲に振り回しても通用する剣とは違い、正確に目標に当てて初めて意味を成す。
狙いを外す射手に居場所はない。
このままなら、上様の傍にいられなくない。
役に立たない弓使いを置くことを許す主なんて…………上様なら置いてくれるだろうけど、ぼくが嫌だ。
上様の役に立てないぼくを、ぼく自身が認められない。

ぼくは外した理由について、真面目に考えてみた。
すると、一つ思い当たることがあった。
三件ともぼくに殺意がなかった。
戦場では常に殺意を纏って弓を引いていた。
特別な憎悪はなくとも、淡々と一定の殺意をもって人を射抜いた。
だから今回は上手くいかなかったんだ

…………ひどい言い訳だよね。殺意がどうのって。
そんなのなくても当てるのが普通でしょ?
だったらぼくの腕が落ちたってことになるけれど。
それも……認められない。
ぼくは死ぬまで弓使いだ。


次の標的には、上様の元敵を選んだ。
────オダノブナガ。
上様をさらって酷い目にあわせたくせに、あっさりと仲間になった人で、ぼくは好きになれなかった。
偉そうな人には慣れてるけど、上様を傷つける人は嫌い。

オダノブナガは呑気に鷹狩りをしていた。
連れている家臣はモリランマルだけで、アケチミツヒデやノウヒメ、ヒデヨシは討伐に出ていると他の英傑に聞いた。
警戒すべき相手が少ないのはありがたい。
いつもなら何人いても余裕だって言ってるとこなんだけどねー。
今日はそんなこと言ってられないや。

鷹狩りというと本来は多くの勢子、それに鷹匠と鳥見がいて、と大所帯のはずだがいるのはランマルだけに見える。
まさかとは思うがランマルが全てを取り仕切るのかもしれない。
有り得なくもないのが、ランマルの万能さだ。
ぼくにはそういう器用なことは向かない。

そんなことを思っている間にランマルが獲物を追い詰めに行った。
取り巻きがいなくなった今が絶好の好機。

ぼくは淡々と弓を構えてオダノブナガを狙った。
戦場で感じる静かな殺意が身体を支配する。
これは当てられるという、確かな実感があった。
オダノブナガがランマルからの合図を待って鷹を構えている。
鷹は鋭い視線をぼくに向けない。
獣にすら気取られなくなったぼくはふっと右手を離した。
真っ直ぐに飛ぶ矢はオダノブナガの首を狙う。

一瞬、思った。

あれ? こんなことして良いんだっけ?

我に返るのが遅かった。
ぼくの矢は狙い通り首を射抜いた。

「何奴!?」

オダノブナガはぼくに向かって鷹を放った。
振り向きざまに鷹の頭を矢で貫き、ぼくは命からがら逃げた。

手応えはあった。
でもオダノブナガは倒れなかった。
それはなぜかって、簡単なことだ。

ぼくの矢は最後の最後、当たらなかった。
オダノブナガの服に絡め取られてしまって本体には届かなかったのだ。

……ははは。
きっついなあ。
的に当てられない射手をバカにしてきたけど、自分がなっちゃうなんて。

なんだかなあ。
いっそこのまま消えちゃおうか。
上様に不様なとこ見せるくらいなら、何処かへ行ったと思われる方がマシだ。

「ヨイチ! 探したぞ!!
 ど、どうした……泣いているのか」
「そんなわけないでしょ!!」

ぐしゃぐしゃになった時に限ってぼくに話しかけるなんて、ベンケイのばかばか!
本当に泣けてきちゃったじゃんか。


「なるほど。闇討ちが成功せずか」

射手として終わったぼくの話を意外にも黙って聞いてくれた。
ベンケイのくせに。
いつもウシワカマル様に弄られてるくせに!

「ぼくは射手失格だよ。上様にあわせる顔がない」
「逆だと思うがな」
「どういうこと?」

意味ありげな笑いが嫌な感じ。

「ちょっとー。教えてよ!」

ケチなベンケイは教えてくれない。

「その様子ならヨイチは潔白だな」
「何かあったの?」
「実は今日、本殿で闇討ちがあった。最初はオフナサマ。スクナヒコ。ユキオンナ。
 どれも致命傷には至らなかったが、暫く療養が必要だ」

八百万界一危険で、一番安全と言われる本殿で闇討ちなんて穏やかじゃない。
って、ぼくが言える立場じゃないけど。

でもおかしいのは、本殿の敷地内は上様の警備が多く配置されていて、侵入者が入る余地はない。
警備が薄い所を狙ったとして、どこだろう…………

……あ! 七周年の記念日!!

「浮かれたぼくたちを狙ったんだ。それに意図的なのか判らないけど七の英傑だよ」
「言われれば確かにそうだ。だがヨイチではないのだろう」
「ぼくじゃない。信じられないかもしれないけど」
「あのウシワカマル様の下で働いた縁だ。私は信じよう」

一年に一度の記念日ではいつも以上に人の出入りが激しくなる。
それに乗じて入り込むにしたって、余程の実力者でないとぼくたちの目を欺く事は困難だ。
そんなやつが、上様に近づいている。

「ねえ、上様は大丈夫なの?」
「今はな。侵入者を探す為に全員が動いている。ヨイチも速やかに賊を討て」

今まで見つからずにいるということは、姿を消せる能力か、あるいは変装が得意か。
ベンケイはあっさりぼくを信じたけど、今の本殿は英傑達が疑心暗鬼で警備が正常に機能していないはずだ。

一刻も早く上様の元へ行くために、ぼくは走り出した。
本殿に戻ると人だかりが出来ていて、やはりそこには上様がいた。
悪霊に捕らえられた状態で。

「上様!? なんで!?」
「子供の身代わりに主様が……」

どんな時でも、上様はいつだって上様だ。
他人の為に自分を犠牲に出来るのは立派かもしれないけれど、そうじゃないよ。
ぼくたち英傑をもっと頼って、自分を大事にしてよ。

「ここで悪霊だけ倒せたら……」

ぼくの手首を誰かが握り、真っ直ぐに上げた。

「弓使いならここにいるぞ!」

ベンケイ……!

「けどぼくはさっき」
「うちのヨイチは波に揺れる船の上の扇を射貫いた達人だ。不足はないだろう」

ぼくの心配をよそに、みんなはぼくに託す気でいる。

「絶対主に当てんじゃねぇぞ!!」
「無理すんな! 主様を殺しちゃ相手の思う壺だぞ」
「ヨイチくん頑張って!」
「援護はする。射ることだけを考えろ!!」

好き勝手言われていると、なんだかあの頃を思い出す。
ウシワカマル様に舟の上の扇を射貫くよう命じられた時の事だ。
波が大きく揺れる中、鬼のウシワカマル様は笑顔で「やれ」と一言。
外せばどうなるか、部下のぼくたちはよおおおく知っていた。

けれどぼくは迷わず弓を構えた。

弓と戦場を駆け抜けてきたぼくは、いつの間にか英傑と呼ばれるようになっていた。
多くの兄弟がいる中でぼくだけがその域に達した自負が、ぼくを前に進ませる。

「こちらで引きつけている。その間に主君を」
「まかせて!」

悪霊は上様の首を握ってぼくらに突きつけていた。
ほんの一捻りで、ぼくらの希望は潰える。
なのにしないというのは、英傑が自ら独神を殺すという構図が欲しくてたまらないのだろう。
……きっとこの悪霊の大将は性格が悪いんだろうなあ。

ぼくが持つ強弓ならば、一矢で悪霊の装甲を貫き絶命することも可能だが、
それがもし、上様に当たったならば、相手が思い描いた通りの絵図になってしまう。

「やめてよ!!! だって一矢で仕留められなかったら、主様が!!!」

一矢当てたとして、敵に少しでも意識があれば上様の首をへし折るだろう。
そうならないためには、一瞬で絶命させなければならない。
重圧で潰れてもおかしくない状況下でありながら、ぼくの心はひどく静かだった。

周りの声が薄れ、視界も狭まっていく。
風向きや強さ、己の体調や筋肉量、的の質感や息遣いの全てが感じられた。
いつものぼくの景色だ。

「ヨイチ!! 今だ!!!」

掛け声の前に右手は弓から離れていた。
真っ直ぐに向かう矢を察した悪霊が当然ながらこれを避けようとする。

でも大丈夫。

矢は風を受け、軌道を少々変えて再び狙いへと向かう。
悪霊に振り回される上様の呻き声で身体が微細に上下する。
丁度息を取り込んで膨らんだ身体が矢の軌道上に乗った。
上様の胴体に深々と矢が刺さる。

ことはなく、ぼくの矢は……えーっともうなんの影響かは判らないや。
でもぼくが見切った通り、悪霊の鎧を貫通した。
心臓のない悪霊は全身の鎧が破壊されると同時に命を失う性質がある。
ぼくの矢が鎧の中心を深々と貫いた事で、全身にひびが入った。
滅びる瞬間、人質に取った上様を握りつぶそうとする。
しかし、ぼくが放ったもう一矢がその手を砕き、死に際の悪あがきを封じた。

宙に投げられた上様は他の英傑に抱き留められ、無事奪還した。
歓声が本殿中に上がった。

「ヨイチがやったぞ!」
「やりゃ出来るって信じてたぞ」
「主さまぁ!」
「上手くいったからいいものを。もしも独神様に当たっていたら」
「だったら良いじゃねぇか」
「他にも悪霊が侵入してないか探すぞ!」

まだ本殿が安全と決まったわけじゃない。
ぼくたちは本殿を何度も見回り、外で戦っていた英傑とも声を掛け合って、それでようやく安堵したのだ。

「お手柄だったね」

今日一番の武功をあげたぼくは、みんなにもみくちゃにされていた。
ちやほやされて最高潮のぼくを、上様はわざわざねぎらってくれた。

「どーお? ぼくがいれば百人力でしょ」

上様はいつもより、いやそれ以上に嬉しそうに笑って見えた。
全てが上手くいったことに、ぼくが一番ほっとしている。

「でも怖くなかった? もし外したら上様に当たってたのに」
「全然。ヨイチなら絶対大丈夫って思ってたもん」

自信に満ちた笑顔にぼくの心がすっかり射抜かれてしまった。

「あ、あの上様。……実はぼく」

ぼくは矢を外した四件のことを話した。
信頼してくれる上様に対する罪悪感で告白せざるを得なかった。
唐突なことにも上様は黙って聞いてくれていた。

「というわけだから。今回のはたまたまなんだ」

ぼくの情けない告白を聞いた上様は噴き出した。
少し、傷ついた。

「たまたまなんかじゃないよ。ヨイチ」

そう言って上様は教えてくれた。

「ヨイチは仲間である皆に当てたくなかっただけ。弓の腕が落ちたわけじゃないよ」
「そんなことないって。オダノブナガなんてあんまり好きじゃないし」
「好きじゃなくても、ノブナガのことを今は仲間だと思ってくれてるんだよね」

そうかなあ……そうは思えないけど。
上様の勘違いじゃないかな。

「もし、本当にヨイチが当てる気でいたら殺す気その場にいたランマルがあなたを放っておかないよ。
 ノウヒメやミツヒデも出てきて、絶対に許されることはない」

言われてみればランマルに追われなかった。
悪霊騒ぎで上様を優先したと思ったけれど、それなら解決した今、ぼくを襲っているはずだ。

「……ノブナガは怒ってるかな。怖そうだし」
「カッカッカッ! 儂に弓を向けるとは面白い! ……って感じじゃないかな」

上様、ノブナガのモノマネ上手。

「でもごめんなさいはしておいた方が良いよ。ノブナガ本人は気にしなくても」

七周年でぼくが注目されてほしい。
そんな子供みたいな理由でぼくは仲間に弓を向けた。
怪我させる気なんて全然ないし、実際当てなかったけど、だから良いってわけじゃ……ないよね。

「そうだね。みんなに謝るよ」
「うん。きっとみんな許してくれ、」

とすっ

上様の後ろの酒樽には矢が突き刺さり、ぼくの頬には血が一筋流れた。

「あれ? ぼく。どうして。上様。みんな許してくれるって」

上様は固くなった表情から一転、満面の笑みを浮かべて逃亡した。

「ごめん! 勘違いだった!!!」
「ちょっと!! 上様!!」

追おうとするぼくの肩を誰かが掴んだ。

「少々、お顔を拝借しますよ。ナスノヨイチさん」

げ。
モリランマル。

「その後は私たちだからね!」

イナバとヌエ。
他にはサナダユキムラは……いないみたい。

「さっきは色々ごめん!! じゃあね!!」

ぼくも上様と同じく逃亡した。
しかし、首の後ろの服が引っ張られた。
掴んだのは誰……違う! 槍でぼくを持ち上げてる!!
しかも柄が赤い……ってことは……。

「拙者は許して良いと思うのだが、他の者はそうではないらしい。
 本来ならば仲間に手をあげた者は相応の処分があることを思えば、ここは甘んじて受けておいた方が良いのではないか?」

サナダユキムラはぼくを持ち上げたまま言う。
屈辱!!

「ごめんなさいってば!! 悪かったよ〜!」
「どうお仕置きしましょうか」
「鏑矢聞かせましょうよ、百本くらい!」
「皮を剥いじゃおう」
「ノブナガ様を象徴する炎で炙るのはどうでしょうか?」
「むりむり! 流石に火炙りはむりーー!!」
「まあまあ。拙者が頃合いを見て裏返せば二度焼けよう」
「焼肉じゃないんだから!!」

一歩間違えば死んでいたというのに、みんなは少し行き過ぎた悪戯として捉えてくれた。
各お仕置きからは逃れられなかったけれど、死なない程度に手加減をしてくれて、なんだかんだ許された。
あまり深く考えたこともなかったけど、ぼくらって、ちゃんと仲間なんだな…………。
ウシワカマル様と戦場にいた頃とは、全然違うや。
ここに来れて、上様の下について本当に良かった。



────八月三日、当日



「……え。今日一日謹慎!? 七周年のお祝いって今日だよね!?」
「まさかあれだけで許されたと思ってたの?」

イナバが口元を抑えてぷぷぷと笑っている。

「このまま”みんな仲良く”って終わりじゃないの!?」
「え~、そんなのないよ~」
「そうですよ。悪戯の後は討たれるものです」

うんうんと頷いたヌエが言う。

「じゃーねー」
「差し入れはしますねー」

二人が出て行って、ぼくは地下牢に一人きりになった。
……あ、あれぇ?
こういう時って、許してもらえるんじゃないの?
ほらぼく上様をちゃんと救ったよ?





「ねえ!!!! ちょっと!!! どうなってるのーーーー!!!!!!???」




(20230803)
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【あとがき】

とうとう七周年かあ。